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黄金の瞳 4


だがそんな事、この場で誰一人として気づいていない。


反乱軍の初老(しょろう)の男……イアンはニヤニヤと笑みを浮かべながら、ユージーン同様(どうよう)この現状を理解していた。


「いやはや。恐ろしくも(いや)しい弐の姫様は想造力をろくに扱えず、お守りは貴様のみ。対する我等はこの人数に加え…天は我等の味方。結末は見えた。早々に勝負はつきそうだ」


「そうだな。俺も見えるよ。俺の手でお前らは全滅。姫様は無事生き残るっていう結末がな」


「強がりを吐くのは(あせ)っている証拠だぞ、弐の姫の従者よ。それとも…本当にこの現状が理解出来ていないのか?(あわ)れを通り越して滑稽(こっけい)だ。その髪色さえしていなければ、笑うついでに仲間にしてやったものを」


笑みを絶やしてはいないが、目は全く笑っていないこの男。


こんな時まで何故それ程までに自分の髪にこだわるのか、ユージーンは理解に苦しむ。


「なんでそう人様(ひとさま)の髪に文句あんだよ?髪で文句言うのは姫様で間に合ってんだ。他当(ほかあ)たれ」


「なら……さっさとその髪の色を元に戻せ。弐の姫の従者が銀髪だと聞いた時から……我等の殺意は貴様にも向いているのだ」


「なに?」


「そうだな。貴様の言う通り、天が我等の味方というのは間違いやもしれん。天が味方して下さるは我等が(あるじ)にして正統なる若様。だからこそ……天は貴様のような()(もの)(いか)り、我等に貴様を(ほふ)る機会を与えて下さったのだ。若様と我が一族を侮辱(ぶじょく)する貴様をな」


ギロリと殺意を強く込めてユージーンを睨みつけるイアン。


だが悠長(ゆうちょう)に会話しているこの時間を、誰よりも苛立たしく思っているのは別の男だった。


「おい!何を呑気(のんき)に話してる!?弐の姫を殺すにはソイツが邪魔だ!さっさと殺すぞ!」


「そうだな。ならば……弐の姫を殺す栄誉(えいよ)は、お前に(ゆず)ってやろう」


「っ、(ゆず)る…だと!?何を偉そうに!」


上から目線で話すイアンに対して怒りをあらわにするツルギ。


ツルギにとっては反乱軍もまた彼の家族の仇だ。


姫と女王を殺す為に一時的に手を組んだだけ。


そんな相手に命令されるのは…我慢がならない。


「いいか!俺は弐の姫を殺す為にお前等と手を組んだだけだ!お前等に(くだ)った訳じゃない!そこを()き違えるな!」


「やれやれ。そう目くじらを立てるな。分かっている。だがお前が言うように我等が手を組んだのは事実。ならば我等と手を組み正解だったと、一族へ……若様へと証明してもらおう。安心しろ。このふざけた(やから)は我等が八つ裂きにしてくれる。お前は憎き弐の姫を殺す事だけに集中すれば良い」


「っ、貴様に言われるまでもないっ!弐の姫は俺が殺す!壱の姫も女王もな!」


「ふっ。その意気だ。お前は弐の姫を、我等はあのふざけた男を殺す」


結局はツルギもイアンも、他の反乱軍とて目的は同じ。


しかしツルギ以上に、イアンの手下達は長の言葉に納得がいかず、(まゆ)をひそめていた。


その内の一人がイアンに背後に寄り、小さな声でその真意を(たず)ねる。


(おさ)。恐れながら、あのような(やから)手柄(てがら)を譲るのは如何(いかが)かと。弐の姫を殺す役目は(おさ)が果たされるべきです。そうすれば、若様から深き信頼も得られるのではありませんか?」


「なに、(かま)わんさ。無力な小娘など誰でも殺せる。奴が弐の姫を殺せば、引き入れた私の判断が正しかったと証明されるのだ。それもまた我等の『はぐれ者』の汚名返上にも繋がる 。何より……」


イアンは再びユージーンを…彼の髪を睨むように見つめた。


「あのふざけた(やから)を…俺は許せぬ。八つ裂きにした後、あの髪を全て(むし)り取り、己の(おろ)かな行動を(つぐな)わせてやる」


(おさ)のお(いか)りはごもっとも。あのようなふざけた真似(まね)……我等も一族として許せるモノではありません」


「そうであろう。ならば弐の姫…小娘は奴に任せよ。我等の怒りはあの輩に向けるのだ。それもまた一族への…若様への忠義へと繋がる」


イアンの言葉に、他の反乱軍達も大きく(うなず)いた。


ツルギが蓮姫を殺したいのは、ツルギが彼女を仇だと言っているから。


何故そのような事になったのかは知らないが、仇と思っているなら殺意を向けられるのは分かる。


反乱軍達が弐の姫である蓮姫を殺したいのも分かる。


だが……反乱軍達がここまでに自分に執着(しゅうちゃく)する理由が、ユージーンは分からなかった。


ヒントは自分の髪の色……ユージーンが銀髪であるという事だけ。


(俺のこの髪が…そんなに気に触るのか?銀髪だから俺が憎い?まさか反乱軍は……銀髪を持つ者がどういう奴か知って?……だとしたら…俺にこだわる可能性は二つだな)


銀色の髪を生まれながらに持つ人間は、彼の家系以外にありえない。


ユージーンの家系など反乱軍は知るはずもない。


かつての仲間ローズマリーや精霊である木霊(こだま)といった一部の例外を(のぞ)いて、ユージーンが何者かなど誰も知らないのだ。


つまり…ユージーンの正体は反乱軍達にバレていない。


(俺の家系を憎んでいるか……もしくは…逆に俺の家系やら先祖を崇拝(すうはい)してるか、だ)


どちらも憶測(おくそく)であり、明確な答えにはなっていない。


それでも……今この時、反乱軍が弐の姫である蓮姫以上に、自分へ殺意を向けているのは事実。


(こいつらは俺を殺す事に集中する。なら…あの包帯(ほうたい)クソ(おとこ)は…)


ユージーンがチラリと包帯クソ男ことツルギへ視線を移した瞬間。


「弐の姫ぇ!!」


ツルギはユージーンに飛びかかった時のように、一瞬で蓮姫へと距離を詰める。


「っ!?」


「姫様っ!」


再び蓮姫を(かば)い、ツルギへと剣を構えるユージーンだったが、今度は先程のようにはいかなかった。


ツルギから数秒遅れて、何人もの反乱軍達もまたユージーンへと襲いかかる。


エクスカリバーで数人分の剣を一気に受け止めるユージーンだったが、その(すき)にツルギはユージーンから標的を蓮姫へ変えた。


身動きの取れないユージーンの横を難なく通り抜け、その剣を躊躇(ちゅうちょ)なく蓮姫へ振り下ろす。


「っ!?」


咄嗟(とっさ)に結界を張りツルギの剣を防いだ蓮姫だったが、やはり直ぐに結界は消えてしまう。


蓮姫は結界が消える寸前、オリハルコンの短剣を抜き、ツルギへと構えた。


「死ねっ!弐の姫っ!貴様など!生きてる価値は無い!」


「くっ!」


何とか短剣でツルギの攻撃を防ごうとする蓮姫だが、力の差は歴然(れきぜん)


瞬間的に短剣と自身に想造力を込め、ツルギからの一撃一撃を防ぐのがやっとだ。


ユージーンも蓮姫を助けに行きたいが、ソレを反乱軍達が許さない。


「氷柱の弾丸【アイシクルショット】!」


「ぐぁっ!」


剣と魔法で反乱軍と応戦するユージーンだったが、蓮姫の事で気がそがれ集中出来ぬユージーンと、ユージーンを殺す事だけに集中している反乱軍では、本来の実力差が意味を成さない。


格下相手にユージーンは苦戦を強いられる事となっていた。


「クソっ!邪魔だ退けっ!」


反乱軍数人からの剣を受け止めながらも、ユージーンは後方にいる蓮姫とツルギへ視線を向ける。


そこには汗を流し、肩で息を繰り返す疲弊(ひへい)した蓮姫の姿。


普段より何故か想造力発動に体力と魔力を多く消費してしまうこの神殿で、想造力を繰り返し発動し続けた蓮姫の体は悲鳴をあげていた。


そして…そんな彼女に剣を振り上げながら飛びかかるツルギ。


「姫様っ!?」


「俺の妹達の死!その汚い命で償え!弐の姫ぇえええ!」


「っ!」


蓮姫が何とか想造力を()(しぼ)り結界を張ろうとした……その時だった。


何処からともなく魔法の矢【マジックアロー】が放たれ、ツルギの剣へと当たる。


ツルギの剣はバシィッ!と大きな音を立てて弾かれ、体勢を崩したツルギは蓮姫から離れる事で体制を整えた。


「っ!?クソっ!今度は何だ!?」


あと一歩の所で憎い弐の姫を殺せるはずだったツルギは、(うな)るように叫ぶ。


魔法の矢【マジックアロー】が放たれた方向は……今この時…誰もいないはずの部屋の(すみ)だった。


蓮姫もツルギも、ユージーンも反乱軍達も…全員が視線をそちらに向ける。


その場にいたのは……。



未月(みつき)っ!?」


「母さんっ!」


蓮姫を母と(した)う彼女の従者であり、元反乱軍の青年…未月だった。

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