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海底神殿 3


「なんだ?やけに(にぎ)やかだな」


「あ、ごめん、キラ。うるさかったかな?」


現れたこの船の船長キラに蓮姫は(あわ)てて謝罪するが、キラの方は微笑みながら首を横に振る。


「いいや。君達はホントに仲が良いな、と思っただけさ。『仲良きことは美しきかな』って昔の人も言ってるし。何より……可愛い女の子達が話しているのを、うるさいなんて俺は思わないよ。もっとその可愛らしい声を、俺に聞かせてほしいな」


そう話すキラの笑みは本当に美しく、色気まで放たれており、蓮姫も、そして残火も頬を赤らめた。


キラはユージーンにも匹敵(ひってき)するほどに美しい。


そして口…ついでに性格も悪いユージーンとは違い、女子に優しいフェミニストだ。


そんな美しく優しいキラに口説かれて、照れるな……というのが無理な話だろう。


実際、真に受けて恋に落ちた女が彼等のアジト『シャングリラ』には山ほどいたのだから。


が、そんなキラの頭に(しわ)だらけの拳骨(げんこつ)が落ちる。


ゴンッ!!


「痛っ!!?だからじいさん!ポカポカ殴るなっての!」


あの船医の老人に殴られ、キラは頭を抑えつつ子供のように頬を膨らませた。


キラからはさっきまでの色気もフェミニスト感もなくなり、まるで祖父と孫のじゃれあいのような光景。


本気で女子を口説くのもキラの素だろうが、こっちもこっちでキラの素なのだろう。


「お前さんはなんでそう見境なく女を口説くんじゃ!ほれ!そろそろ潜る準備するから早よ来い!」


「はいはい。では……(うるわ)しき姫君達。また後で」


船医に(うなが)されると、キラは蓮姫に向けてウィンクを放ち、その場から離れた。


「…結局……あいつ何しに来たん?姫さんと残火口説きにきただけ?二人とも本気になっちゃダメよ。女に優しい男こそ要注意だかんね」


「ふふっ、大丈夫。もうアレはキラにとって挨拶(あいさつ)みたいなものでしょ?確かにキラは綺麗だし、カッコイイし、強いし、カリスマ性もあって優しいけど……そういう対象にはならないかな」


「姫様が海賊王に惚れる心配が無いのなら何よりです。奴のアレは本音でしょうが、本気とは違いますからね」


「あれ?ジーンも気づいてたの?」


「俺もって……姫様も気づいていたんですか?」


ユージーンは自分、そして昨日話した火狼しか知らないキラの秘密を蓮姫も気づいている、と思い驚いた表情を浮かべる。


だが蓮姫から出たのは、彼が予想していたものとは違う言葉だった。


「うん。昨日ちょっと聞いたんだ。キラには婚約者?将来を約束した未来のお嫁さん?的な人がいるって。そういえば……結局昨日はその人に会えなかったし、キラに話も聞けなかったな。聞いていい話か分からないけど」


「…………あぁ。なるほど。そういう意味ですか。だから海賊王も姫様もお互い対象外、と?」


「うん。ていうか『そういう意味』って何よ?」


「いえ。深い意味は無いので、お気にならさず」


蓮姫の問いに、何故か満面の笑みで答えるユージーン。


この言葉には何か裏がある…そしてソレを自分に黙っている……というのは、もう長い付き合いになりつつあるので蓮姫も気づいている。


しかし彼の主である蓮姫が何を言っても聞いても、ユージーンは答えようとしないのも分かっているので、あえて蓮姫はこの話を深掘りするのはやめた。


その時丁度、あのガイが蓮姫達の元へとやってくる。


「よぉ、弐の姫の嬢ちゃん達。そろそろ海底神殿の真上に着くからな。潜水するぜ」


「あ、もう着いたんですか?……そういえば…この船って帆船(はんせん)なのに、昨日は海の中から出てきましたよね?潜水も出来るのは…やっぱり魔法ですか?」


「おう。とは言ってもな……ソレが出来るのはうちで船長だけだ。潜水する時は船長が結界、俺達は船の操作が仕事。俺等の中にも魔力ある奴はいるが、船長レベルに魔力強い奴なんざそうそういねぇし。そっちにはゴロゴロいるみてぇだけどな」


「あ!す、すみません!私達もキラを手伝いますね!」


「んな気ぃ使うなよ、嬢ちゃん。船長の結界なら……お、ほら。始まったぞ」


ガイの言葉に蓮姫が頭上へ視線を向けると、水色の(まく)が現れ徐々に船全体を包んでいく。


恐らくコレが、キラによる潜水用の結界なのだろう。


「うし。準備OKだな。野郎共!潜水しろぉ!!」


「「「アイアイサー!!」」」


船員達の雄叫(おたけ)びが上がると、船はどんどん沈んでいき、あっという間に海の中へと潜ってしまった。


海中を見るのが初めてなのか、残火と星牙は周りの景色や頭上でキラめく水面をはしゃぎながら見つめる。


未月はいつも通り静かで無表情だが、彼にしては珍しくキョロキョロと辺りへ視線を移し海中を見ていた。


「うわぁ~。海の中って綺麗ですね」


「今だけだぜ。そのうち太陽の光が届かなくて真っ暗になっちまう。ビビって逃げ出すなよ?」


「ふふっ。逃げませんよ。約束は守ります。キラや皆さんが探している宝。……見つかるといいですね。勿論、私達も協力します」


「あんがとよ。……しかし…あの銀髪美人、なんかこっち睨んでねぇか?」


「あ、あはははは。多分私のせいなんで……ガイさんは気にしないで下さい。あの……出来る限り、邪魔にならないように、無茶しないように、私も協力はしますので。はい」


「あぁ………なるほどな。嬢ちゃんも船長と同じで、他人の為に無茶するタイプか。あの銀髪も苦労してんな。よく分かるぜ。俺もガキの頃から……どんだけキラに振り回されてきたか」


はぁ~~~、と深いため息を吐くこのガイは、本当に色々とキラ関連で苦労してきたのだろう。


「子供の頃からずっとキラと一緒なんですか?じゃあガイさん……キラが将来を約束した人って知ってます?」


「っ!!?な、なんで嬢ちゃんがソレ知ってんだ!?」


蓮姫の発言に驚いたガイは、目を見開いたまま蓮姫へと問い詰める。


太陽の光が届かなくなって辺りが暗くなり、ガイの表情も先程より分かりづらかったが……彼が焦っているのは蓮姫にも伝わった。


「え、えと……船医のおじいちゃんが教えてくれて。…あの……お相手がどんな女の人か、気になっちゃってたんですけど…や、やっぱり失礼でしたね。すみません」


正直に全て話し……ついでに頭まで下げて謝罪する蓮姫に、何故かガイはホッとしたように息を吐いた。


「あぁ。そういうことか。ホント年寄りってのは、おしゃべりで困るぜ。悪いが嬢ちゃん…詮索(せんさく)しないでくれると助かる」


「で、ですよね。すみません」


「まぁ……嬢ちゃんには世話になるしな。俺もちょっとだけ教えとくか。その話はマジだ。ソイツも船長も……互いにガチで惚れてる。一緒になる日を毎日……こうしてる今も…夢見て、待ち望んでんだ。絶対に結婚する、ってな。……今じゃなくても…いつか……必ず」


「……ガイ…さん?」


キラとキラの婚約者について語るガイは……普段の(いか)つい顔とは違い、とても柔らかく…だが何処か切ないような、泣きそうな笑みを浮かべていた。


あまりのガイの変化に心配した蓮姫が声を掛けたその時、星牙の興奮した叫びが船中に響く。


「見えたーーー!アレだろ!?あの建物だろっ!?」


「ちょっと何処!?何処よ!?真っ暗で見えないじゃない!」


「……残火……あっち。…この指の先……見て」


騒ぐお子様達の声に、蓮姫の意識もそちらに向かう。


未月が指さした先の海底には……確かに巨大な神殿があった。



「あれが……海底神殿…」


蓮姫は巨大な建物を見つめながら呟く。


まだまだ神殿との距離は遠く海底は真っ暗だが……それでも、蓮姫達はその巨大な存在感と不気味さに圧倒(あっとう)されていた。


「すっげ~。マジであんじゃん。いいねいいね~!神秘的で不気味でさ。あんだけ(すげ)ぇ神殿なら、姫さんしか破れねぇ結界も、隠されたお宝ってのもガチネタ感満載だぜ」


「そういえば……今更だけど、どうやって神殿に入るんだろ?船でそのまま……は、流石に無理だよね?小型の潜水艇でも出すのかな?」


「ん?俺等はこのまま歩いて…じゃなくて泳いで?ともかく普通に入れるよ」


「え?このまま?水の中だし……海底だから水圧とかヤバいんじゃ?」


「そこはダイジョブダイジョブよ~。今の俺等は全員魔法衣着てるしね。魔法衣(まほうい)なら例え火の中水の中入っても平気。コレ姫さんの魔力で作ったヤツだし、普通に売ってるヤツより安全性バリ(たか)。で、海賊達の方も平気っしょ。今回のは海賊王からの提案だし、そもそもあいつらここに一度来てるしね」


「そうなんだ。今更だけど……ホント、ロージーに魔法衣の作り方教えてもらってて良かった」


「んだね。だから何も問題なし。…つーことでぇ……姫さ~ん、旦那~。やっぱ俺等もお宝探ししな~い?」


「しない」


火狼の提案を即答で却下するユージーン。


そんな呆れ顔と呆れ声なユージーンの視線も、海底神殿に釘付けだった。


しかし彼の心情はワクワクと胸踊る仲間達との興奮とは違う。


(…あの形状……壁や柱に刻まれてる古代文字。……間違いない。(いにしえ)の王族が栄えていた頃の物だ。遥か大昔に造られた…宝を守る海底の神殿。どんな危険があるか…俺にも予測がつかねぇ。……クソっ。家にあった古い文献(ぶんけん)……先祖や竜王族以外のヤツも、もっと見とくんだったな)


これまでの蓮姫達の旅の中で、ユージーンの古い知識が役立つ事は何度かあった。


だが今回ばかりはそうもいかないだろう。


なにせ『海底に建てられた太古の神殿』の情報も知識も、ユージーンの中には無いのだから。


元々ユージーンの実家にあった歴史的に価値のある古い文献(ぶんけん)も、彼は興味のある物しか読んでいない。


そして興味の無いものを読んでいたとしても、彼の性格上から内容はあまり覚えていなかっただろう。


軽く過去の自分に対して後悔するユージーンだったが……この神殿では彼が……この船の中では彼だけが知る知識が、この神殿の中にあるなど…今のユージーンは想像もしなかった。


神殿を神妙な目で見つめ続ける者、目の前の神殿にはしゃぐ者と、様々な反応を見せる蓮姫一行。


そうしている間に、海賊船は神殿の真正面まで降りてきていた。


船が海底に到着し完全に停止すると、キラと海賊団は全員、蓮姫達の元へ集まる。


「無事目的地には到着した。船はここに停めておく。じいさん(ふく)め数人は残って船を守れ。それ以外は全員、蓮ちゃんの仲間も一緒に神殿へ入るぞ」


「「「ヤッターーー!!」」」


キラの言葉に嬉々として喜びの叫びを上げるのは火狼、残火、星牙の宝探しをしたいメンバー。


蓮姫は一応という形でキラへと確認する。


「私達も神殿の中に入っていいの?」


「勿論。俺達も一度来たとはいえ門の前まで…結界の外までだ。中の構造も、どんな危険が待ち構えているかも全く分からないから、戦力は多いに越した事は無い。何より……ここまで来たら、どんな宝か蓮ちゃん達も気になるだろ?」


「うん」


「ハハッ!正直な女の子は好きだよ。何より、蓮ちゃんも残火ちゃんも俺が守ると約束した。船に置いてったりなんかしない。傍でしっかり守る」


「ありがとうキラ。私もしっかり、役目を果たして約束を守るね」


「こちらこそありがとう、蓮ちゃん。それでは弐の姫様と従者の方々。そして野郎共……」


キラは全員へしっかりと視線を送った後、ニヤリと微笑み神殿に向け甲板を一歩踏み出す。



「行くぞ!」


「「「「アイアイサー!!」」」」


蓮姫達もまた海賊団と同じようキラの言葉に応えると、全員がキラと共に駆け出した。


彼等は船べりに片足を掛けると、そのまま勢いよくジャンプし、船を包む結界から飛び出す。


どうやらこの潜水用の結界、船を水圧から守る強固なものだが、出入りは自由に出来るらしい。


飛び出した海賊達と蓮姫一行はキラを先頭に、真っ直ぐ神殿の入り口へと泳いでいく。


そして全員が、海底神殿の入り口……巨大な門の数メートル手前で止まった。


これ以上進めないのは、見えない壁が行く手を(はば)んでいるから。


つまりコレが……海底神殿を守り、何人(なんびと)をも神殿に入れない為の結界。


キラはその見えない壁に片手で触れながら、蓮姫へと声を掛ける。


「コレが例の結界だ。コレがあるから、俺達は神殿の中に入れない」


「っ!!?あ、う、うん!これね!私が壊す結界!これね!」


「???蓮ちゃん?どうしたんだ?」


「な、なんでもないよ!」


(海の中なのに……普通に喋れてる。これも魔法衣の影響?誰もビックリしてないし……この世界の常識なのかな?)


海中で普通に会話出来る事に驚きつつも、これもまたこの世界ならではの…自分のように別世界の人間だけが知らない常識なのか…と考えた蓮姫。


が、蓮姫以上に世間知らずなこの世界の住人も、この場には一人いた。


「うぉっ!!海賊王!海の中で喋れるのか!?って!俺も喋れてる!?なんで!?え!?なんで!?」


「ファング~?お前、どんだけ無知なのよ?取り敢えず今は、お口にチャックな。姫さん達が大事なお話してるかんね」


火狼が呆れつつも口の前でジェスチャーをすると、星牙はコクコクと頷きながら素直に口を両手で抑えた。


静かになった所で、海賊王キラがこの場を仕切り直す。


「……蓮ちゃん、頼む。これだけの結界……破れるのは強大な魔力を持ち、想造力を自在に操れる君しかいない」


「うん。じゃあ……始めます。一応、キラも皆さんも私から少し離れてて下さい」


「いや、俺は蓮ちゃんの傍にいるよ。何があっても君は俺が守る、って約束したからね」


万一の危険を考えて仲間と海賊を遠ざけようとした蓮姫だったが、むしろキラは蓮姫へと少し近づく。


そして海賊王とは反対側の隣を、ユージーンが陣取った。


「俺と海賊王…それと犬以外は全員離れてろ。結界が壊れた後……何が起こるか分からないからな」


「んだね。じゃあ俺は姫さんの後ろを守るぜ。お子様達も海賊さん達もちょっと離れてね~。そうそう。もうちょい離れて…………うし!そんなもんだろ。姫さん!始めてくれ!」


「分かった」


火狼の言葉に頷くと、蓮姫は両手で見えない壁……結界へと触れる。


意識を集中し、結界を壊す事だけに神経を注ぐ蓮姫だったが………何かがおかしい。


(………なんだろう?……かなり魔力を込めてるのに……全然手応えがない?………どうして?)


想造力とは姫や女王の想像を創造する能力であり、成せない事の方が少ない。


数多(あまた)の命を組み合わせたキメラを一つづつ元に戻したり、死者を(よみがえ)らせる事はたとえ想造力でも不可能。


蓮姫とて身をもって知っている。


だが……結界の破壊は想造力を使えば造作もなく、蓮姫も簡単に出来る。


今は夢幻郷の時のように魔法が使えない訳でもない。


結界の破壊は必ず出来る。


そう考えた蓮姫は……玉華で初めて呪詛を解いた時のように、強引な手段に出た。


(どんな結界だろうと…それが結界なら……想造力で必ず壊せる。今までだって…あの時だって結局は想造力で出来た。なら……まだ力が足りないんだ!)


蓮姫は掌にグッと力を入れると全身全霊の力…魔力の全てを込めて、結界の破壊にソレを注ぐ。


すると結界はピシピシ…と徐々にひび割れしていき……ついにはバンッ!と砕けて消滅した。




その瞬間………今の蓮姫達とは遠く離れた…神殿のとある一室。


そこに重なった二つの影のうち一つが……ピクッ…と動いた。

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