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閑話~エメラインと死王~ 7






「………………んぅ…………ん?…………ふぁ……」



ここは……私のベッド………私の部屋?


私ったら……随分(ずいぶん)と懐かしい夢を見ていたのね。


一昨日、ユージーンさんに彼との出会いを、思い出を話したせいかしら?


彼…とても驚いていた………いいえ、なんとも言えない顔をしていたわね。


私そんなにおかしい事を言ったかしら?


時計は……2時………まだ夜中の2時なのね。


でも目が覚めちゃったわ。


ちょっと……あの日みたいに夜風に当たろうかしら。


上着を羽織ってバルコニーに出ると、夜空には満天の星。


…………綺麗だわ。



「やぁ。久しぶりだね、エメル」



ふいに聞こえた懐かしい声。


私が聞き間違えるはずはない。


その声はシュガーちゃんとそっくりだけれど、やはり違う……息子より更に愛しい声。


声の方へ振り向くと、そこにはあの日のように宙に浮かぶ………愛しい彼の姿。


「っ!!?ソルト!」


「うん。僕だよ。さっきも言ったけど久しぶり……で、いいのかな?」


「ふふ。そうね。あれから20年、()っているもの」


「なんだ。まだそんなもんか。でも20年って……人間には長いんだね。だって君……老けたもん。前より確かに弱くなってる。()けたね。(おとろ)えた」


なんとも失礼極まりない彼の発言。


でも…なんと言われようと構わない。


彼は約束通り……会いに来てくれたのだから。


ただただ愛おしさばかりが、(あふ)れんばかりに湧いてくる。


「あらあら、仕方ないわ。だって私は人間だもの」


「そうだね。君は……君達は人間なんだ。でも……弱くはなったけど、まだ戦えるみたいだね。前より楽しめないかもだけど……いいよ。君とも遊んであげる」


そう言う彼の声も、笑顔も何処か柔らかい。


今の私にとって、それは死刑宣告を受けているのと同じなのに………彼の言葉がとても嬉しい。


まだ私と遊ぼうとしてくれる彼の気持ちが……嬉しくて、たまらなく愛おしい。


「うふっ。ありがとう。でもシュガーちゃん……貴方の息子も強いわ。シュガーちゃんは私達の期待通り、強い子に育ったもの」


「そうみたいだね。ちょっと遠くから気配感じたけど……うん。あれなら間違いなく楽しめるよ。ちゃんと約束守ってくれてありがとう」


「貴方との約束だもの。それに……シュガーちゃんは貴方そっくりなのよ。見た目も中身もね。きっと貴方は満足するわ。シュガーちゃんも強いお父様と遊ぶのを、ずっとずっと楽しみにしているの」


「さすが僕の分身……ううん。僕と君の息子だね」


「えぇ」


シュガーちゃんは間違いなく私と彼の息子。


分身だとか、正規(せいき)の妊娠じゃないとか………そんなものはどうでもいい。


愛おしく可愛らしい…私達の息子……それだけが全てであり事実なのだから。


きっと二人は最高の殺し合いを…遊びをする。


それが母として、彼の子を産んだ女として何よりの喜びであり誇らしい。


「あ、でもシュガー…だっけ?そっちはもうちょいおあずけかな」


「あらどうして?このままシュガーちゃんに会って遊べばいいのに」


「今の僕は別の子に用があるんだ。心配しなくても、ちゃんとシュガーとは遊ぶし、その後に君とも遊んであげる。まぁどっちが先でもいいんだけど……今僕が一番遊びたいのは他の子なんだ」


「まぁ。それは………妬けるわね。貴方の心は今、一体誰に囚われているというの?」


愛しい彼の心を()める存在に、私の心にはフツフツと嫉妬心が湧き上がる。


でもそれと同じくらいの興味も湧いてしまった。


彼がここまで心囚われる相手がいるなんて………一体誰なのかしら?


「ここに銀髪の子がいるよね。弐の姫と一緒にいた子。その子に用があるんだ」


「ユージーンさんに?……確かに…彼は強いわね」


私はユージーンさんと戦っていないし、闘技場で見た彼は手を抜いて戦っていた。


でも私にもわかる。


彼が、私やシュガーちゃん以上の強者だという事が。


強者はその身にまとう空気が、弱者やそこそこ強いだけの者とは違うけれど……彼のそれは他とは圧倒的…異次元とすら言えるレベル。


強者揃いな蓮姫ちゃんの従者の中では勿論だけれど、世界的にも彼の強さはきっとずば抜けているはずだわ。


そう言えば……ユージーンさんもソルトと面識があったようだし…ソルトが興味を持つのも無理ないわね。


でもソルト………一足遅かったわ。


ソルトは期待を込めた眼差し……キラキラと子供ように目を輝かせて私を見てくる。


ふふ…………本当に可愛い人。


……人ではないけれど。


「で、彼は何処にいるの?」


「ユージーンさんなら、ここにはいないわ」


「は?」


「蓮姫ちゃん……弐の姫と仲間達と一緒にお出掛けしてるの。今日の朝、ギルディストを出たわ」


「え?…………………あ、ホントだ。全然気配感じないや。君や息子の気配ばかり探してたから気づかなかった。な~んだ…もうギルディストを出ちゃったのか~。あ~あ、つまんないつまんない、つまんないな~」


ソルトも気配を探って、ユージーンさんのモノがギルディストに無いのがわかったようね。


ふふ………残念でした。


私とシュガーちゃんを(ないがし)ろにするからよ。


「うふふ。そんなに不貞腐(ふてくさ)れないで。言ったでしょう。『お出掛けしてる』って。何日か後にはまたギルディストに戻ってくるのよ」


「そうなの?それならいいけど……あ、今から追い掛けて遊ぼうかな?」


「それはダァメ。蓮姫ちゃん達は、ただのお出掛けじゃくて、私のお願いでギルディストを出たのよ。だから邪魔をしないで。お願い」


「えぇ~。邪魔だし嫌いだから弐の姫も殺したいのに」


「それはもっとダァメ。私は蓮姫ちゃんが大好きになったの。いくらソルトでも蓮姫ちゃんの邪魔は、それに蓮姫ちゃんを殺すのも許さないわよ。………今はね」


「むぅ~……わかったよ。君には僕の息子を産んで、強く育ててもらった借りがあるしね。それに、今は…って事は、そのお出掛けは大事な用なんでしょ?それが終わるまで待っててあげる。でも気になるし………ちょっと様子だけ見に行こうかな。手は出さないよ。見るだけ。それならいいでしょ?」


……良くは…ないのよね。


本当は今すぐにでもシュガーちゃんと遊んでほしいし、私とも遊んでほしい……愛し合ってほしいもの。


でも………そんな期待を込めた眼差しで見つめられたら……断れないわね。


「はぁ……仕方のない人。いいわ。ただし、本当に見るだけよ。絶対に手は出しちゃダメ。約束出来る?」


「約束するよ!で、何処に行ったの?」



「蓮姫ちゃん達は今…………海にいるわ」



私の言葉にキョトンとするソルト……なんて可愛いのかしら。


「海?え?泳ぎにでも行ったの?でも大事な用なら……リヴァイアサンやクラーケン退治?」


「どちらも外れよ。でも……退治という点は()しいかもしれないわね」


「えぇ~?なんで海?意味わかんない」


そうね。


貴方には意味がわからないかもしれない。


きっと理由を聞いても『くだらない』と言うでしょうね。


でもね………今の蓮姫ちゃんと私には必要な事なの。




可愛い蓮姫ちゃん……貴方はもう海の上かしら?


この美しい夜空を、私のように眺めている?



そして…………あの人にはもう会えたのかしら?



ふふ………可愛い可愛い蓮姫ちゃん……貴方はあの人を……どうするかしらね?


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