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反乱軍襲撃 2


-同時刻-


店外では、カインが数人の男に身体を抑えられていた。


「クソッ!!お前等離せって言ってんだろっ!!」


「カインっ!見りゃ分かんだろ!!もう無理だ!リックもあの弐の姫も!」


「んなもん分かんねぇだろぉが!!離せぇっ!」


「もう入り口どころか一階の殆どが燃えてんだぞ!どうやって入るんだよっ!さっさと逃げんだ」


「ふざけんなっ!!女が一人で子供助けに行ったってのに!ノコノコ逃げれる訳ねぇだろ!!」


「リック!リックーーー!!」


カインは店を見上げながら泣き叫ぶエリックの母親を見ると、力の限り男達を振り切り駆け出した。


-瞬間-


ガシャン!!


その場に居た者が一斉に音の方……頭上を見上げる。


「蓮っ!!?」


蓮姫が二階の窓を突き破り、側にあった木へと飛び移ろうとしていた。

バサバサバサッ!



両手が塞がっていた為、そのまま下へと落ちるが生い茂る木の葉がクッションとなり大きな衝撃は抑えられる。


地面に着く直前、蓮姫はエリックを守る様に体をひねり背中から落ちた。


ドサッ!!


「蓮っ!!大丈夫かっ!?オイッ!」


「カイン!ゲホッ!足を怪我してるの!煙もたくさん吸ってる!!早くお医者さんに見せてあげて!!」


カインは蓮姫に対して言ったのだが、蓮姫はエリックのシーツを外しながら話す。


「……蓮………お前」


カインは蓮姫の姿をまじまじと見る。


鮮血がドクドクと流れ痛々しい程に焼け焦げた右肩。


背中は何かがぶつかったのだろう、それよりも大きな傷が破れたシャツから見える。


エリックを衝撃から守る為とはいえ、この傷で背中から落ちたのだ。


「……れ……ねちゃ……かぃ…ん…?」


「リック!!もう大丈夫だから!あとちょっと!お医者さんが来るまで頑張って!!」


「リック!よく頑張ったな!あと少しの辛抱だ」


力無く喋るエリックに蓮姫とカインは、頭を撫でたり手を握ったりして声を掛ける。


二人の声を聞きエリックは嬉しそうに笑った。


「……よ…か…た。…な……か……な…り…した…だ………ふた……とも……」


「…仲……直り?」


「リック……。あぁ!仲直りしたんだ!元気になったら、また三人で飯食ったり遊んだりするぞ!」


「…へへ……うれ……しぃ…や」


カインの言葉にエリックは本当に嬉しそうに、安心したように笑う。


「……れ……ねちゃ……やっぱ………いぃ…ひと…だよ。…たすけ……く…た」


「リック!もう喋らないで!」


「…や……ぱ…………お…れ……れ……ね……ちゃ……だぃ……す……」


エリックの言葉が最後まで続く事は無かった。


蓮姫が握っていた手から力が抜け、首がコトリと横へ倒れる。


「……リ…ク……リック…?」


蓮姫の問い掛けにエリックが返事をする事は無い。


もう


二度と。



「リック!リック!!いやぁああぁぁ!!」



蓮姫が力の限り、強く握り締めたエリックの顔はとても安心しきっており、寝ているようにしか見えない。


しかし、エリックはもう目覚めることは無い。




「……リック?エリック?」


力無くエリックの母親が二人とエリックに近づく。


「おば……ちゃ」


「エリック!!」


彼女は倒れそうな足取りとは裏腹に、強引に、力づくで蓮姫の腕からエリックを奪い取った。


その衝撃で蓮姫は地面へと倒れ込む。


「エリック!エリック!!なんで!!なんで死んじまうんだよ!!エリック!」


狂ったように我が子を抱き締めながら泣き叫ぶ母親の姿を見て、蓮姫とカインは自分達の無力さを知る。


「…………おば…ちゃん」


蓮姫が声を掛けると、エリックの母親はピタリと泣くのをやめた。


そして蓮姫の方を振り向く。


その顔は鬼のように険しく、蓮姫を睨みつけていた。


怒りでわなわなと全身が震えている。


「…あんたの……せいだ!!…この疫病神!!」


「………え?」


「あんたなんか居るから!!弐の姫なんか居るから!!反乱軍が襲ってきて!!街も燃やされたんだ!!」


エリックの母親はエリックの遺体を地面に横たえると、乱暴に蓮姫に掴みかかった。


「あんたが!!あんたが死ねば良かったんだっ!なのに!!なんでうちの子が死ななきゃなんないんだいっ!!返しとくれっ!!あたしの子を返しとくれよっ!!」


「やめろよっ!おばちゃんっ! 」


カインがエリックの母親を蓮姫から引き離す。


それでも母親は、蓮姫を責めるのをやめなかった。


それだけではない。


「そうだぜ…弐の姫のせいだ…」


「全部弐の姫が悪いんだっ!!」


「この疫病神っ!さっさと反乱軍に捕まっちまえ!!」


エリックの母親に助長され、その場に居た者達も蓮姫を責め建てた。


あの時のように……。


「このっ!!人殺しっ!!」


一人の男が蓮姫に石を投げると、続くように他の者達も石を投げつける。


石は音を立てて蓮姫に当たり、その場所からは血が流れる。


「っ!!オイッ!いい加減にしろよっ!!蓮はリックを助けに行ったんだぞっ!!」


カインが必死に止めるが、それでも蓮姫への罵声や石が止まることは無い。


その騒ぎを聞きつけたのは……


「弐の姫だとっ!!オイッ!弐の姫がここにいるぞ!!」


街を襲っていた反乱軍だった。


「クソッ!!蓮!!逃げんだよ!!オイッ!」


カインが呼びかけても、腕を引いても蓮姫には全く反応が無い。


「ここに居るよ!!弐の姫はここに居るよっ!!反乱軍でも何でもいい!この女を片付けとくれっ!!」


エリックの母親を始め、街の人間は蓮姫の居場所を反乱軍に知らせるように大声で叫んだ。


この街の惨劇(さんげき)は反乱軍が起こしたものだというのに、今や彼等の恨みや怒りは全て弐の姫へと向けられていた。


「弐の姫の息の根を止めろっ!!」


「クソッ!!蓮っ!!グハッ!!」


蓮姫を逃がそうとしたカインだったが、後ろから反乱軍の襲撃にあう。


「…邪魔をするな……目的は…弐の姫」


現れたフードを深く被った男がカインを見下す。


その手には剣が握られているが、切った訳ではなく殴っただけのようだ。


次いで奥より馬に乗った男が現れる。


「何故弐の姫がこのような場に?だが好都合だ」


フードの男以外の数人の反乱軍達は、その男に頭を下げた。


どうやらこの男が首領らしい。


「こうも上手くいくとは。女王の息の根を止める前に、先に片付けるか」


「ゲホッ!オイッ!やめろっ!!」


「あの飛龍大将軍を遠ざけた今なら、簡単に事が運ぶな。弐の姫。あなたに恨みは無いが、この世界の平穏と秩序を取り戻す為だ。死んで頂く」


その男は馬から降りるとスラリと腰の剣を抜いた。


「やめろぉおおおぉぉ!!」


カインの叫びなど無視して、蓮姫の首に向けて剣が振り下ろされる。


ガキィィン!


「っ!!」


「誰を殺すだと?」


その剣を止めたのは


「蒼牙のおっさん!!」


「飛龍…大将軍!何故王都に!?」


「知れたこと。弐の姫様、そして陛下をお守りする為だ!」


蒼牙は相手の剣を弾くと、蓮姫の前へと立つ。


カインもゆっくりだが立ち上がり、蒼牙へと歩み寄った。


フードの男はカインに何もせず、蒼牙を見つめる。


「この男……強い」


「あぁ。女王の直属の軍では最強だ」


「…こいつも…殺す?」


「お前でも骨を折るぞ。13」


「首領!!討伐体が!レムスノアより戻りこちらへ!」


慌てたように駆けつけた反乱軍の兵士の言葉を聞き、首領は再度馬へと(またが)る。


「…どうする?」


「飛龍大将軍がいるならば話は別だ。引くぞ」


「……わかった」


「撤退だーーー!!」


反乱軍は攻めていたのが嘘のように、一斉に退却していく。


「逃すかっ!!」


「飛龍大将軍っ!!」


反乱軍の退却と同時に、久遠率いる軍隊が到着した。


「久遠殿。陛下と壱の姫様は?」


「御二人共避難なさいました。警護にも数百付いております」


「久遠殿。街の鎮火と弐の姫様を頼む。半分は残り民の避難を!残りの半分は俺について来い!!奴らを逃がすな!!」


「「「おぉーーー!!」」」


蒼牙の号令で一斉に兵士達が動き出す。


久遠は蓮姫とカインの方を振り向き、その姿を見て驚愕した。


「弐の姫っ!?酷い怪我だ!反乱軍にやられたのか!?」


「……違ぇよ」


答えない蓮姫の変わりに、カインが久遠へと返答する。


「カイン=セネット?どういう事だ?」


「うるせぇよ。ホントに……お前等はいつだって遅ぇんだっ!!」


カインは久遠の胸倉を掴む。


「街が燃えてんのに!今まで何してやがった!どうせ貴族の避難だろうがなっ……お前等軍人は何を守ったってんだよっ!!」


「っ!!」


「ここに来たのも!蓮が来たから、弐の姫が来たから慌てて追いかけただけだろっ!!」


久遠は何も言えなかった。


カインの言葉が事実なのは自分が良く知っている。


「お前等が!お前等がもっと早くに来てりゃ!!リックは…っ!蓮だってこんな思いしなくて済んだんだよっ!!」


カインは乱暴に久遠から腕を離すと、蓮姫を抱き上げた。


「せめてしっかりと、安全な場所に誘導くらいしやがれ」


「…わかっている………すまない」


久遠は一言告げると、部下に蓮姫とカインを任せ、自分は他の者達の誘導へとあたった。


「蓮。ごめんな。ホントに………ごめんな」


カインに抱えられた蓮姫は答えない。


石を投げられても、殺されかけても、助けられても。


すぐ側で二人が口論をしていても、彼女は微動だにしなかった。


カインからレオナルドに引き渡されても、ソレは変わらない。


彼女の頭にはずっと、エリックの母親に言われた言葉が繰り返されていた。







(……私のせいで…リックは死んだの?……私が……リックを…………殺したの?)

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