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この恋に終止符を 10


一愛の誓いが届いたのか…蓮姫は一愛と同じように夢幻郷から遠く離れた、ここミスリルで空を見上げる。


まるで誰かの声が聞こえたかのような錯覚(さっかく)を覚えて。


「……………」


「姫様?どうかしましたか?」


ユージーンに呼ばれ、蓮姫は視線を空からユージーンへと移す。


「…今………ううん。なんでもない」


しかし結局は目を伏せて首を振り、今のはただの気のせい、空耳(そらみみ)だと自分の中で解決した。


「にゃ~?」


「ノア。大丈夫だよ。待たせてごめんね」


いつの間にか蓮姫の足元に()()ってきたノアール。


蓮姫がしゃがみこんで軽く撫でてやると、ノアールはゴロゴロと気持ちよさそうな声を出した。


ノアールが満足したのを確認すると、蓮姫はまた立ち上がる。


そしてユージーンへと視線を戻し、しっかりと彼の目を見つめた。


「そろそろ出発しよう。皆の支度(したく)は?」


「出来てますよ。…噂をすれば」


ユージーンが後ろを振り向くと、後方にあるローズマリーの家から家主のローズマリーと藍玉、そして蓮姫の従者達が出て来た。


火狼、未月、残火はそれぞれが新しい装束(しょうぞく)を身にまとい、武器や装具も身につけている。


そしてそれは、蓮姫とユージーンも同じだった。


「姫さん、お待たせ~。結構悩んだけどさ、俺もやっぱ剣貰うことにしたぜ。あんがとね、大賢者さん」


「別にいいわ。武器なんて全部、ここに来た魔道士や旅人が落としたり、死んでもう使わなくなった物ばかりだもの」


「そんでもさ。タダで貰えんならありがたいって」


ローズマリーに礼を告げる火狼の(よそお)いは、今まで着ていた朱雀の黒装束(くろしょうぞく)と形があまり変わっていない。


しかし色が黒から鮮やかな赤に変わり、上着の(すそ)には大きくオレンジで炎が描かれていた。


腰には大賢者であるローズマリーからもらった剣がさしてある。


「あ、勿論俺の新衣装も気に入ったぜ。姫さんもあんがとね。やっぱ俺ってば赤や炎が似合っちゃうよね~」


「初めてだから心配だったけど、狼が気に入ってくれて良かった」


「めっちゃ気に入っとるよ。サンキュサンキュ~」


何故火狼が新衣装について蓮姫に礼を言うのか?


それは彼等達の新衣装は、蓮姫が想造力で作った物だから。


それはつい昨日、ローズマリーが蓮姫達の衣装について指摘した後のこと。


『ねぇ、魔法で作られた服…魔法衣(まほうい)って聞いた事ない?』


ローズマリーの問いかけ…いや、初めて聞く単語に当然蓮姫は首を横に振った。


ローズマリーは蓮姫の反応に若干呆れつつも、魔力を服として具現化する魔法を蓮姫に伝授した。


本来なら高度な魔法であり使える魔道士も限られる。


魔法商店(マジックショップ)などでも売っているが、その場合かなり高値で売られている代物。


誰でも使えるような物ではないが、想造力を扱える蓮姫には簡単にそれを創り出す事が可能だったのだ。


それも仲間全員の分を。


ちなみに、五人分の魔法衣作成は魔力の消費が激しかったが、そこはローズマリーが回復薬をいくつもくれて、直ぐに魔力が戻った。


「ロージー。魔法衣の作り方、教えてくれてありがとう」


「どういたしまして。魔法衣は布や皮で作られた服と違って魔法で作られてる。だから簡単に傷もつかないし、燃えたりもしない。丈夫な服よ。薄着でも魔法で体を守るから暖かいし、その逆に夏場は涼しくもなる。旅を続けるなら、それくらいの強度が無くちゃね。それにしても…スカートとあまり変わらないわね、それ」


「あはは。やっぱり短い方が動きやすくて。それに魔法衣なら長くても短くても関係ないんでしょ?ならいっそ、好きな格好しようかなって」


呆れるローズマリーの言葉に、蓮姫はまた笑いながら話す。


蓮姫の新衣装は白のノースリーブに黒く短いジャケットを上に羽織っている。


今まで履いていたスカートはショートパンツへと変わっていた。


最初はスキニーパンツを作ったのだが、長らくスカートだった為か急に長いパンツを履くと違和感があったのだ。


ちなみにユージーンはショートパンツが嫌いらしく、今朝になって『ショートパンツ?よりによって邪道に行きますか?いっそスカートのままでよくありません?』と散々言われた。


しかしユージーンの好みに合わせる気など蓮姫には更々無いので、このままショートパンツとブーツで貫くことにした。


「あんたがそれでいいなら、いいけどね。…そうだ。コレをあんた達に渡しておくわ」


そう言うと、ローズマリーは巾着袋を蓮姫の従者達に一つづつ手渡していく。


最後にローズマリーから巾着を受け取った蓮姫は、不思議そうに巾着を触る。


「中を見てもいい?」


「いいわよ」


ローズマリーに確認し、巾着を開き中身を確認する蓮姫。


巾着の中にはカンパンのような物がいくつも入っていた。


「これって…カンパンみたいだけど?」


「カンパンだからね」


サラッと告げるローズマリーに全員が首を傾げる中、火狼が誰よりも先に口を開く。


「おいおい。大賢者さん。武器はありがたいけどさ、カンパンなんてショボイって。まぁ食料くれんのは嬉しいけどよ」


「ショボくないわよ。それは私が改良したカンパンで、ちょっと特殊なの。一個食べれば一時間は満腹でいられるわ。旅での食料は基本、その場で用意する物。でも直ぐに食料が手に入る訳でもない。そんな時の保険として持ってなさい」


ローズマリーの説明に取り敢えずは全員が納得し、それぞれポケットや服の中に片付ける。


蓮姫だけは今の説明に聞き覚えがあり、ジッと巾着を見つめていた。


(一個で一時間は満腹?これって…もしかして未来の私が持ってたヤツ?そうか。ロージーから貰ってたんだ)


未来の自分の行動を思い出し、蓮姫もまた大事そうに巾着をしまった。


蓮姫は知っている。


このカンパンは、いつか使う時が来る。


必ず来るのだ。


その時の為にも蓮姫はコレを無駄遣いせず、常に持っていようと決めた。


「姉上?どうかされました?」


「…母さん?」


黙り込んでいた蓮姫を心配したのか、残火と未月は不安げな表情で蓮姫へと近づく。


蓮姫は二人に向かって微笑むと、順番に残火と未月の頭を撫でてやった。


「なんでもないよ。貰った物は大事にしないとな、って思っただけ。心配してくれてありがとう残火。未月も」


蓮姫に撫でられると残火は嬉しそうに笑い、未月も気持ちよさそうに目を細めた。


まるで先程のノアールと同じような反応に、蓮姫もまた口元に笑みを浮かべる。


「そういえば、二人は新しい服どう?何か気になる点があれば直すけど」


蓮姫の言葉に残火と未月はお互い顔を見合わせる。


そして蓮姫へと視線を戻すと残火はニッコリとした笑みを、未月も珍しく嬉しそうな笑みを蓮姫へ向けた。


「ちょっと女の子らしくて可愛いですが…とっても気に入りました!姉上ありがとうございます!」


「俺も…気に入った」


残火の衣装は火狼と変わらず、上は朱雀の黒装束と同じ着物の形。


しかし色は可愛らしいピンクへ変わり、下は同じくピンクのミニスカートと白いニーハイになっていた。


残火の(あざ)を隠していた包帯は取られ、代わりに黒いタートルネックを着物の下に着ている。


右の太腿(ふともも)にはベルトが巻かれ、そこには三本の棒が装着されていた。


変わらないのは黒い帯と靴くらいだ。


一方、未月の方は白いフード付きのマントを羽織っている。


実は未月…服装に興味など無さそうに見えて、フードは譲らなかった。


それは反乱軍時代、上の人間から『潜入捜査の際には顔を隠すのが必須。どのような任務にも直ぐにつけるよう、万全の準備を常にしておけ』と言われていたから、らしい。


どのような理由であれ、珍しく自分の意見を主張する未月に、蓮姫は快く頷いた。


ちなみにマントの中は濃い紫の上着と黒いズボン。


そして左手にはローズマリーから貰った銀色の腕輪が付けられていた。


この腕輪はただの装飾品ではなく、ローズマリーによる特別製の代物。


「二人共気に入ってくれて良かった。残火は可愛い女の子だから、服も可愛くしてみたんだ」


「っ!!姉上!ありがとうございます!」


蓮姫に『可愛い』と言われ、残火は照れたように頬を染めて喜ぶ。


「どういたしまして。未月。その腕にあるのが、ロージーから貰ったマジックアイテム?」


「…うん。…これ…魔力を込めれば…弓になる」


そう言うと、未月は蓮姫に向けて左腕を伸ばす。


すると腕輪から上下に魔力の塊が伸び、弓の形として具現化された。


「これ…俺の武器。…いつでも矢で戦える」


「凄いね…。未月はマジックアローを使えるって前に言ってたし、期待してるよ。でも、無理はしないでね」


「あぁ!姉上!私も!私も武器を貰ったんですよ!」


残火は右太腿に手を伸ばすと三つの棒を取り出す。


その棒はそれぞれ繋がっており、残火が一振りすると一本の長い棒になった。


「どうです?私の武器!三節棍(さんせつこん)です!」


胸を張り自慢げに告げる残火に、蓮姫は微笑み、ローズマリーは呆れたように笑う。


「なんであなたがそんなに誇らしげにするのよ。それ作ったの私でしょう」


「ロージー、本当にありがとう。でも残火、重くない?」


「全っ然です!とっても軽いんですよコレ。大賢者、コレ本当にミスリルなの?」


「本当の本当にミスリルよ。鋼鉄(こうてつ)より丈夫で強靭(きょうじん)。本来ならもっと重い物だけど、魔力のある者なら、その魔力に反応して軽く感じるように改良してあるわ。あなたみたいな女の子でも簡単に扱えるはずよ」


ローズマリーの説明にフムフムと聞き入り、納得する残火と蓮姫…ついでに火狼。


以前…あの悪夢のカラオケ大会に参加した港町で、蓮姫達一行は武器も購入する予定だった。


色々あって有り金のほとんどを無くし、結局は何も購入出来なかったが…。


しかし今になって、蓮姫の仲間は全員武器を手に入れる事が出来た。


火狼は長剣、残火は三節棍(さんせつこん)、未月は弓矢を。


そして誰よりも率先して蓮姫を守り、戦う男にも…武器は用意されている。


いや、今まさに用意されようとしている。


ユージーンは藍玉へ視線をチラリと向けると、その武器について尋ねた。


「おい藍玉。俺の武器はまだ見つからないのか」


「焦らないでよ。今シャドウが地中の魔力を探索してる。シャドウは優秀だからね。必ず見つけてくれるよ」


「ちっ。そもそもロージー。なんで土の中に剣を埋めたんだ」


「しょうがないでしょ。それが一番誰にも見つからないと思ったんだから」


「確かに…今、まさに、見つかってないな」


イライラとした様子で今度はローズマリーを睨みつけるユージーン。


彼もまた仲間同様、新衣装に身を包んでいる。


黒いロングコートを羽織り、インナーは白の長袖、ズボンとブーツは黒。


その格好は蓮姫と似ており近いものだった。


ユージーンは蓮姫の…弐の姫のヴァルとして、わざと蓮姫と近い衣装を蓮姫に頼んでいた。


余談だが、衣装が完成した時に火狼から「わぁお、ペアルック~?」と茶化された為、蓮姫は火狼を軽く蹴り、自分とユージーンの服を作り直そうか本気で悩んだ。


「ふにゃ~」


「ノア?どうしたの?」


「うにゃっ!にゃにゃっ!にゃあっ!」


何故かノアールは蓮姫の足元に擦り寄り、仲間達を見ては、蓮姫に向かって何かを訴えるように鳴いている。


蓮姫も仲間達とノアールを見比べ、ある事を予想する。


「もしかして…ノアも何か欲しい?」


「うにゃっ!」


蓮姫の予想は正解だったらしく、ノアールは嬉しそうに鳴くとその場にちょこんと行儀よく座った。


「そっか。じゃあ…」


蓮姫はしゃがみこむと、ノアールの体を撫でる。


最初は服にしようかと思った蓮姫だったが…相手は猫。


服よりも猫らしい物を作ろうと思い、蓮姫はノアールの首元に手をかざす。


するとノアールの首に、銀の鈴のついた真っ赤な首輪が現れた。


「これでどうかな?」


「うにゃっ!」


どうやら気にいったらしくノアールはピョンピョンと飛び跳ね、何度も嬉しそうに鳴く。


これでノアールを含め、全員の新たな装いが完成した。


残るはユージーンの武器のみ。


ユージーンが再度、藍玉に催促しようとしたその時…藍玉の影からシャドウが現れた。


「お待たせ致しました、藍玉様。ローズマリー様。お探しの剣はこれでしょうか?」


そう言うと、シャドウは持っていた(さび)だらけの剣を主二人に見せる。


それは、本当に何処(どこ)彼処(かしこ)(さび)だらけで、使えそうもない。


それでも、ローズマリーはその錆だらけの剣を受け取り、ユージーンへ近寄る。


ユージーンの目はローズマリーではなく、彼女の持つ剣へ釘付けになっていた。


それは間違いなくユージーン…アーロンの家に代々受け継がれてきた剣。


ローズマリーはユージーンの目の前まで来ると、彼に向けて剣を差し出す。


「【魔剣(まけん)エクスカリバー】…あんたに返すわ。アーロン」


「あぁ。間違いなく、俺の剣だ」


ユージーンはローズマリーから剣を受け取ると、太陽にそれを(かざ)し、懐かしむようにそれを見つめた。


それはかつて、ユージーンが共に戦った…共に過ごしたもう一つの相棒。


(さび)だらけだろうが、仮に真っ二つに折れていようが、ユージーンにとっては大切な…とても大切な物。


愛でるように剣を撫でるユージーンだが、蓮姫はその剣の名前に聞き覚えがあり、ポツリとそれを呟く。


「エクスカリバー…?」


「はい。姫様も想造世界で聞いたことがあるのでは?」


「うん。聞いた事くらいはある。詳しくは知らないけど…伝説の剣とか…聖剣(せいけん)とか呼ばれてた気がする」


「姫様のおっしゃる通り、この剣は元々【聖剣(せいけん)エクスカリバー】と呼ばれていました。しかし俺が魔王になった事で、魔剣と呼ばれるようになったんです。しかしこう(さび)だらけじゃ使えませんね。姫様…お願いしてもいいですか?」


そう言うと、ユージーンは両手でエクスカリバーを持ち、蓮姫に差し出すような形で彼女へ向ける。


「わかった」


ユージーンの意図を理解した蓮姫は、エクスカリバーに手をかざし、想造力を発動させた。


「エクスカリバー…本来の姿に戻って…」


蓮姫の想造力により、エクスカリバーは(あわ)い光を放つ。


そして光が消えると、(さび)は綺麗に消え去り、美しい剣が現れた。


刃の部分は太陽の光を受けキラキラと輝き、柄の部分には黒い竜の彫刻が(ほどこ)されている。


「ありがとうございます、姫様」


ユージーンは本来の姿を取り戻したエクスカリバーを眺め微笑むと、蓮姫へ頭を下げた。


珍しく素直に、それも嬉しそうにしているユージーンを見て、蓮姫もまた笑顔を浮かべる。


それは残火や未月、ローズマリーも同じで、この場には和やかな空気が流れていた。


しかし一人だけ、火狼はエクスカリバーとユージーンを興味深そうに眺めている。


その興味は好奇心となり、火狼の中ではある仮説となって、形となった。


「…800年前の魔王で…魔剣を使う。…それに加えて銀髪に綺麗な顔。…なぁなぁ。ずっと思ってたんだけどさ。もしかして旦那って、ビュ」


「それ以上言ったらマジでぶん殴る」


「あ~~~…その反応は間違ってねぇな。なるほどね~。旦那があの有名な…ふ~ん。納得」


ユージーンは火狼が言いかけた言葉に直ぐに反応した。


それは肯定でも否定でもない。


だが、ユージーンの反応は火狼の予想通りのものだったようで、火狼は一人ニヤけながらウンウンと頷いていた。


そんな二人のやりとりを見て、ローズマリーと藍玉は苦笑し、残りは不思議そうに首を傾げる。


「何が納得なの?狼」


「あぁ。気にしないで、姫さん。ただ…そうね~。旦那ってばマジで有名で強い魔王だったんだな、ってわかったのよ。そんな凄い奴が味方なんて、心強いね。まったく」


「???そう…なの?まぁいいけど…」


にしし、と笑う火狼に不機嫌そうに顔をしかめているユージーン。


こういう時この二人は決して口を割らない。


しつこく聞こうとしても、はぐらかして終わりだろう。


蓮姫はそれを理解すると、早々に今の話について追求するのをやめ、ローズマリーと藍玉、そしてシャドウの方を向く。


「三人には色々とお世話になりました。本当にありがとう。それじゃあ…私達、そろそろ行くね」


「本当にアーロンの空間転移(くうかんてんい)で、呪怨転移(じゅおんてんい)で飛ばされる前の場所…ブラウナードの手前まで戻るの?」


「うん。旅を続けるなら、ちゃんとそこからやり直したいんだ。ブラウナードもどんな国か気になるし」


「………わかったわ。気をつけてね」


「ありがとう、ロージー。これでお別れだけど…元気でね」


そう言うと、蓮姫は笑顔でローズマリーに向けて右手を差し出す。


ローズマリーもまた笑顔で蓮姫の右手を自分の右手で握り返した。


「人のことより自分の心配しなさいよ。あんたは弐の姫なんだからね。蓮…気をつけて」


「うん」


「それと…先に謝っとくわ。ごめんなさい。苦労をかけると思うけど、悪い子じゃないの。根は真面目でいい奴だから…頼んだわよ」


「………え?」


「意味は分からなくていいわ。そのうちわかると思う。ただ覚えておいて」


何故か楽しそうに笑い、意味不明な事を告げるローズマリーに、蓮姫はとりあえず頷く。


最初はユージーン…アーロンのことかと思ったが…どうやら違うらしい。


「弐の姫。僕とは握手をしてくれないの?」


「あっ!ごめん、藍玉!藍玉も本当にありがとう!せっかく会えたのに…もうお別れだけど、元気でね。話を聞いてくれて、ありがとう」


藍玉に(うなが)され、蓮姫は慌ててローズマリーの隣にいる藍玉へと左手を差し出す。


藍玉もまた左手でそれを握り返した。


「話なんていつでも聞くよ。君とはまた会える。必ずね。その日を楽しみにしてるよ、弐の姫。」


「うん。藍玉がそう言うなら間違いないね。またね、藍玉。あ、シャドウさんも!お世話になりました。お元気で」


「自分のような者にまでお気遣い下さり、ありがとうございます。弐の姫様」


蓮姫は世話になった三人に笑顔を向けると、握手していた手を離す。


そして後ろを振り返り、仲間達へと向き直った。


ユージーンも火狼も、残火も未月もノアールも、笑顔で蓮姫を見つめ返す。


「いつでもいいぜ、姫さん」


「姉上!私は準備も覚悟も出来ております!」


「…母さん。…俺もう…母さんから離れない」


「うにゃんっ!」


「参りましょう、姫様」


それぞれが蓮姫に声をかける。


これからも一緒に旅を続けよう、と。


蓮姫もまた彼等へ笑顔を向けるが、一瞬だけ一愛の姿が脳裏に浮かんだ。


ズキリと胸が痛むのを感じながら、蓮姫はそっと目を閉じる。


(ごめんね…一愛。あなたを愛してる。でも…私はあなたを…あなたとの恋を選べない。私は…)


蓮姫はゆっくりと目を開く。


目の前には蓮姫に笑顔を向ける仲間達の姿。


(…皆と一緒に旅を続ける)


「よし!行こう皆!旅を続けよう!」


仲間達は蓮姫の言葉に大きく頷くと、彼女を囲うように傍に集まる。


「姫様、失礼します」


ユージーンは蓮姫を抱き寄せると、仲間達にも声をかける。


「お前らも俺に捕まれ。肩でも服でもいい」


それぞれがユージーンの肩や手、服に捕まり、ノアールはピョン!と蓮姫の胸に飛び込んだ。


ノアールをしっかりと抱きかかえ、蓮姫はユージーンへと頷く。


「よし。ジーン、お願い」


「はい。では…あの森に戻りましょう」


ユージーンがそう告げた直後、蓮姫一行はその場から消えてしまった。


残されたローズマリーはため息をつく。


「私には挨拶も無し、か。本当に酷い男…ううん。嫌な男。それにしても…あの話は本当なの?藍玉」


「本当だよ。彼は弐の姫と会う。それも近いうちに、必ずね」


「そう。まぁ…あの子がどうしようと、あの子の人生。蓮と一緒ならそれも修行になるでしょ。あの子も蓮も…きっと次に会う時はもっと成長してる。…楽しみだわ」


楽しそうに微笑むローズマリーと藍玉。



二人の話す通り、ある人物がこの後…蓮姫達と邂逅(かいこう)することとなる。


その未来はすぐそこまで迫っていた。

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