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別離と邂逅 6


その言葉が決定打となった。


目の前にいる女は『アーロン』という名を…それが目の前の銀髪の男の名だと知っている。


それは蓮姫にも…いや、この時代を生きる者には誰にも教えていない、ユージーンの本名だった。


その名を知るのは…先代女王と…かつて彼が共に過ごした仲間だけ。


よく見ると目の前の彼女は…自分が知っている姿とは何処か…雰囲気が違う。


片眼鏡をかけ、昔とは違い短髪。


そして腕は長袖と手袋で見えないが、スカートから伸びる右足はツギハギだらけでそれぞれ色が違う。


左足には(うろこ)があり人の足とは思えない風貌(ふうぼう)


それでも…桃色の髪と濃い水色の瞳は間違いなく、ユージーンの知るローズマリーと同じ。


「どう…して?どうして…お前が…ぅぐっ」


起き上がろうとしたユージーンだが、体の痛みのせいで直ぐにまたベッドにバフッ!と体が沈む。


そんな彼に布団を掛け直しながら彼女…ローズマリーは心配そうに声をかけた。


「まだ寝てて。禁じられた呪術をかけられたんだ。そうじゃなくても、普通なら死んでるはずの重症なのに」


「禁…じられた…呪術…だと?…それに…ここは一体?」


「そう。滅んだはずの自己犠牲呪文の一つ。ここはミスリル。私の家の私のベッド……ごめん。万能薬は丁度切らしてて…三日もあれば作れる。だから今は休んで」


「万能薬を…作れる?なんで…お前が……いや…そんな事より…俺を助けたのが…お前なら…聞きたいことが…ある。ここには…俺だけか?俺の他に誰か…いなかったか?」


ユージーンは期待を込めて尋ねる。


自分がこれだけのダメージを受けているのは、反乱軍の男による自爆の衝撃を直接受けたから。


それでも…呪術という言葉と、あの時の男の言葉を思い返せば、仲間達も無事ではない可能性は容易(ようい)に想像出来る。


蓮姫は無事なのか?


自分の傍にいるのか?


いてほしい。


どうか無事で…自分の傍に。


懇願するような目を向けて尋ねるユージーンに、ローズマリーはチラリと扉の方へ視線を送る。


ユージーンはその些細な仕草を見逃さなかった。


「…いるんだな。…ぅ…ぅう…ぐっ」


「だから寝ててってば!」


「寝て…られる…かよぉっ!」


ユージーンは蓮姫を想う一心でベッドから起き上がり、よろよろと立ち上がろうとする。


そんな彼をローズマリーは支えながら、悲しげに告げた。


「ちょっと!?無理したら本当に死んじゃう!だから寝てて!お願いだからっ!」


「はぁ…はぁ……死なねぇよ。…俺は…死ねないんだ」


「…何を…言って?」


「はぁ…ぐっ…ロージー…頼む。肩貸してくれ。顔を見たら…直ぐに戻る」


自分の服を強く掴み、懇願(こんがん)するユージーンに、ローズマリーは悩む素振りを見せる。


しかし結局は彼の頼みを聞くことにした。


「わかった。多分、探してる奴は隣の部屋にいる。そいつもさっき、目を覚ましたけど…今はお互いの為に、長い話は控えて」


「っ!?…あぁ。約束するさ」


ユージーンはローズマリーに支えられながら、なんとか歩き出す。


その時、人間の体とは思えない硬い感触に眉をひそめるが、今はそれを追求するより蓮姫の無事を確認するのが先だとユージーンは口を閉じた。


視線を下げ自分の体を見ると、ミイラ男のように体中包帯が巻かれている。


所々、血が滲んでいるソレは彼の傷が塞がっていない証拠。


ローズマリーも悲しげにその傷を見つめた。


「向こうの奴も…重症だけど、あんたほどじゃないわ。そいつも目を覚まして直ぐ『他に誰かいなかったか?』って言ってた。倒れてたのも近かったし…もしかしてアーロンの仲間か知り合いかもって思って…連れて来て正解だったわね」


「そうか。…無事…なんだよな?」


「あんたに比べたらね。…扉を開けるよ」


「頼む」


ユージーンは扉の向こうにいるのが蓮姫だと、信じ込んでいた。


信じたかったからこそ…思い込んでいた。


ゆっくりと開かれる扉を見つめるユージーン。


扉の向こう…隣の部屋のベッドが目に入る。


そしてそこに横たわる人物の姿を見て…ユージーンは目を見開く。


そして深く…失望した。


その人物もユージーンを見ると、同じようにユージーンを見つめ返す。


「…っ、旦那?…もう一人って…旦那だったのかよ」


ベッドに寝ていたのは蓮姫ではなく、火狼だった。


ユージーンは俯くと、ワナワナと全身を震わせる。


「アーロン?体が痛むの?」


ユージーンを支えていたローズマリーは彼の変化に気づき、心配そうに声をかける。


しかしそんな彼女の言葉も、今のユージーンには聞こえない。


ユージーンの体が震えるのは痛みからではなく…怒りからだった。


俯いていた顔を勢いよく上げると、ユージーンはそのままローズマリーを突き飛ばす。


そして寝ている火狼の元へと駆け出した。


普通なら歩けるはずのない傷と痛みだというのに、それすら怒りのあまり感じないユージーン。


ユージーンはベッドの脇まで行くと、手を伸ばして火狼の胸ぐらを掴み彼に向かって怒鳴る。


「…なん…でっ!なんでてめぇなんだ!?姫様は!?姫様は何処だ!?」


「ぐっ!開口一番…それかよ!てめぇ!」


火狼も怒りのままユージーンの胸ぐら…胸の部分の包帯を掴み返す。


失望していたのはユージーンだけではなく、火狼もだった。


普段のおちゃらけた口調も『旦那』という呼び方も出来ない程、火狼の頭も怒りで支配されている。


ローズマリーは感動の再会をするとばかり思っていた男二人の豹変にただ困惑し、倒れたまま彼等を見つめるしか出来なかった。


そんなローズマリーの存在など忘れて、ユージーンと火狼は怒鳴り合う。


「クソッ!犬が無事で姫様がいねぇだと!?ふざけんなっ!」


「そっくりそのまま返してやんよ!なんで残火じゃなくて、てめぇなんだ!死なねぇんだろ!?だったらどっかに失せろ!」


「ふざけんなっ!てめぇが消えろ!代わりに姫様連れて来いっ!」


「てめぇが消えろよクソ野郎!んで代わりに残火連れて来いや!」


「なんだとてめぇ!」


「ぁあ!?やんのか!コラァ!」


今にもお互い手が出そうな程に怒り狂っている。


このままだと本当に乱闘になりかねない。


ローズマリーは慌てて立ち上がると(びん)が立ち並ぶ近くの棚へ走り、指でその列をなぞる。


そして目的の白い粉が入った(びん)を見つけると、それを取り出し彼等の背後へ駆け寄った。


ローズマリーは自分の口元を袖で覆うと(びん)(ふた)を開け、彼等に中身を全てぶちまける。


「あ!?何すんだ!ロージー!」


「ペッペッ!なんだよコレ!?粉?」


いきなり訳の分からない粉を浴びた二人は、その拍子にお互い掴んでいた手を離す。


そして浴びせられた白い粉を吸い込んだ。


全身が白い粉まみれになり困惑する火狼とユージーン。


だが直ぐに…さすがというか、二人は自分の体の異変に気づく。


「……な…だ?…きゅ…に…ねむ………」


火狼は言葉を最後まで発することなく、ベッドに沈んでいった。


それを目の前で見ていたユージーンは、自分の体の異変と合わせ、粉の正体を知る。


「……これ…は…(ねむ)り…(ごな)………ろ…じ…………」


そばにいる女に問いかけながら、ユージーンも上を向いて床に倒れ込む。


二人の男から聞こえるのは寝息。


ローズマリーは近くにいたユージーンを、足でツンツンとつつく。


反応の無いユージーンに口を覆ったまま、安堵(あんど)のため息を漏らした。


「はぁ……一時はどうなるかと思ったけど……とりあえずこれで、当分は目を覚まさない」


彼等が深い眠りについた事に安心したローズマリーだが、今度は視線を火狼へと移す。


「アーロンとこの男…知り合いには間違いない。……でもさっきの雰囲気は………まさか敵?」


二人の言動や行動から、ローズマリーは火狼をユージーンの敵だと予想した。


あくまでも予想に過ぎないが…先程の状況を見た後では二人の仲がいいとは思えない。


ローズマリーは火狼を見下すように睨みつけると、忌々しげに吐き捨てた。


「こんな男…助けるんじゃなかった。今からでも…遅くない。寝てる間にトドメを…」


ローズマリーは口元を覆っていない方の手を火狼に伸ばす。


だが、手が火狼に届く寸前、この部屋に新たな来訪者が現れた。



「マリー?入るよ…うわ、粉凄い」


それはローズマリーを、ユージーンとは別の愛称で呼ぶ男。


彼は扉に手をかけてはいるが、部屋の惨状(さんじょう)を見て中には入ってこない。


ローズマリーが口元を覆っているのを見て、彼もまた同じようにハンカチで口を覆った。


その男はローズマリーと同じく、このミスリルに住む……いや、王都から追いやられた男。


ローズマリーは背後から聞こえた声に反応し、火狼に伸ばした手を引っ込める。


そしてゆっくりと男の方へと振り向いた。


「藍玉。どうしてここへ?」


「どうして?って…酷いな。会いに来たんだよ。愛しい君にね」


ローズマリーに笑顔を向ける男。



彼は…女王の実子であり未来を見る事の出来る能力者……藍玉。



口元をハンカチで覆っているのに、ニコニコと笑顔を浮かべているのがわかる藍玉に、ローズマリーは冷ややかな目を送る。


「いい加減諦めたら?」


「諦める?無理無理。何年片思いしてると思ってるの?それに僕は、母上に似て執念(しゅうねん)深いんだ。僕は君を諦めたりしない。ご愁傷さま」


「…………はぁ…暇ならこの男。私の部屋に運ぶの手伝って」


もはや何度目かもわからない藍玉の告白に再びため息を漏らすと、ローズマリーはユージーンを指さし告げる。


話が通じないなら、せめて手伝わせようと。


「男を部屋に運ぶ?君の頼みなら何でも聞いてあげたいけど…」


「なら聞いて。何も聞かずに言うこと聞いて」


「人使い荒いね。でも僕に頼むなんて…そか。お弟子さんは今いないんだっけ」


「あんたの予言通り、星牙ならまだ帰って来ない。無駄話はいいから運んで」


「ふふ。はーい」


藍玉がハンカチを頭の後ろで結ぶのを見て、ローズマリーはベッドから離れて窓を全開にする。


眠らせたい者は眠らせた。


しかし、いつまでも部屋に眠り粉を充満させておく訳にもいかないからだ。


近くにあった本を使って部屋の空気を外に向けて仰ぐ。


「眠り粉を全部使ったの?無茶するね」


「結果オーライだからいいの」


「はいはい。さて…運ぶのはこの彼かな?」


藍玉はユージーンへと近づくと、その顔を上から見下ろし……驚いた。


「…………っ、この人…」


「…綺麗な男でしょ」


ユージーンの顔をまじまじと見る藍玉に、ローズマリーは苦笑しながら答える。


確かにユージーンは見る者全てを虜にしそうな顔をしている。


しかし藍玉が驚いたのは、そこではない。


藍玉は見た事があるのだ。


かつて自分が見た未来の映像で……蓮姫の隣に立つ彼の姿を。


そして視線はユージーンから外さずに、窓辺にいるローズマリーへと声をかけた。


「マリーは彼を知ってるの?」


「………昔馴染みの男なのよ」


「昔馴染みって………いや、今はいいや。そっちの彼は…」


藍玉は今度、ベッドに顔を伏せて寝ている火狼を上に向けて寝かせ直す。


彼の顔も藍玉は知っていた。


「………なるほどね。ねぇ、マリー。他には誰かいないの?」


「???こいつらと同じこと聞くのね。でも…答えはノーよ。この二人しか倒れてなかった。そっちのベッドの男は助けなきゃ良かったって後悔してるところ。そいつは後で息の根を」


「ダメだよ。彼も助けて。二人は仲間なんだ。絶対にどちらも助けないと」


「仲間?藍玉何を言って?」


藍玉の言葉に不思議がるローズマリー。


つい先程、喧嘩をしていた二人を目の当たりにしたローズマリーには意味がわからない。


それ以上に意味がわからないのは…この二人を仲間同士と言う藍玉。


そんなローズマリーに再び笑顔を向けて、藍玉は彼女に告げる。


「彼等はね、僕の大切な友人の大切な仲間なんだ。だから助けて」


「藍玉がそんな事を頼むなんて…他人を気にかけるなんて珍しい。何者なの?そいつ」


「僕も詳しくは知らないよ。でもさっきの言い方だと…こっちの銀髪の彼は君にとっても大事な人なんでしょ?」


「っ、それは…」


「いいよ。無理に聞きたいとは思わない。でも僕にも聞かないでほしいな。僕も彼等についてはよく知らないし…僕が知っている情報を、僕から説明するのは間違ってる。彼等が回復したらきちんと、彼等の口から聞いた方がいい」


「………わかった」


ローズマリーは藍玉の言葉に頷くと、窓から離れ藍玉…ユージーンへと近づく。


「二人とも助ける。でもその為に必要な、万能薬の材料が足りないの。頼める?」


「うん、いいよ。僕も王都に…可愛い末弟達に会いに行こうと思ってたところだし。ついでに調達してくる。さて、マリーは足元を持ってね」


そう言うと二人は、ユージーンの体を持ち上げて隣の部屋へと運んでいった。


ユージーンをベッドに運び終えると、藍玉はローズマリーへと振り返る。


「それじゃあ、行ってくるね。夜には戻って来るから」


「うん。頼むわよ藍玉。行ってらっしゃい」


ローズマリーの言葉に藍玉は歩きながら後ろ手を振ると、そのまま部屋を、家を出た。


そして家からしばらく歩くと、ピタリとその足を止め、自分の影に向けて声をかける。


「シャドウ…いるね?」


「はっ…お呼びですか?藍玉様」


藍玉の言葉に答えるよう、影から人が現れる。


その人物は褐色(かっしょく)の肌に尖った耳、黒い髪と黒い瞳をした男。


黒いマントに身を包み、マントの中も黒い服に黒い靴という…全身黒づくめの男だった。


唯一、黒くないのは口元を覆っている水色のマフラーのみ。


怪しい人物だが、藍玉は彼に対し臆することなく……むしろ格上の存在として声をかける。


「話は聞いてたでしょ?マリーが助けたあの二人は弐の姫の従者なんだ」


「…はい。まさか弐の姫に仕える者が二人もいるとは…正直驚いております」


「驚くよね。僕も驚いた。でもね…僕が見た未来……もう過去かもしれないけど。確かに二人は弐の姫の側にいて、彼女を守っていた。あ、小さくて大きな黒い猫もいたよ」


「ち、小さくて…大きい…ですか?」


「うん。小さくなったり大きくなったりしてた。多分魔獣だね」


藍玉は目を閉じて過去に見た映像を思い出していた。


それは蓮姫と共に、巨大な化け物や反乱軍と戦う彼等の姿。


蓮姫と行動していたのは間違いない。


だからこそ…疑問が一つ浮かんだ。


「弐の姫が側にいないのが気になってる。僕はこれから王都に行って、ユリウス達に聞いてみるよ。ユリウスならきっと(さぐ)る事が出来るからね。シャドウは一応、弐の姫がこのミスリルにいないか徹底的に調べてほしい」


「かしこまりました。この忌み嫌われたダークエルフの力…藍玉様のお力になれるのでしたら、喜んで」


「こら。自分を卑下してばかりはダメ、っていつも言ってるでしょう」


「も、申し訳ございません。しかし…自分がダークエルフなのは…間違いなく」


困惑しながら答える男…シャドウに、藍玉もやれやれと肩を落とす。


シャドウは優秀な藍玉の従者だが、その出自故に自分を卑下しがちだ。


だからこそ、意地悪ともとれる言葉を藍玉は口にする。


「僕が能力者なのも間違いないね。そんな僕が怖い?嫌い?」


「そんなっ!?藍玉様を恐れ嫌うなど!ありえませんっ!」


「うん。そうだね。君が僕を嫌わないのは知ってるよ。僕が君を嫌わないのと同じだから」


「………藍玉様」


能力者という理由とその能力を誤解された故に、人々から忌み嫌われ、恐れられた藍玉。


だからこそ、藍玉は出自や能力だけで誰かを嫌う事はない。


ダークエルフという出自のみで嫌われたシャドウを嫌う理由など、藍玉には無いのだ。


「まぁ、君が僕を裏切る未来なんて見えないからだけど。もしそんな未来があっても…僕はシャドウを嫌わないよ」


「っ!?藍玉様を裏切るくらいなら!死を選びますっ!」


「うん。そう答えるって知ってた。ちょっと意地悪しただけ。さて…僕は行くよ。もし弐の姫が見つかったら、マリーの所に連れて行って」


「かしこまりました。行ってらっしゃいませ、藍玉様」


深く頭を下げるシャドウに頷くと、藍玉は空間転移を使いその場から消えた。





藍玉は王都に着くと、直ぐに母…女王のいる城へと向かう。


女王にミスリルの地へ送られた藍玉は、王都に来た際は必ず女王に挨拶…報告をしなくてはならない。


あくまでも形式でしかないが、女王の実子としてその決まりを破る訳にもいかないからだ。


道中、藍玉を知る兵士や貴族達がガタガタと震えたり、慌てて彼に跪いた。


遠くの方では藍玉を指差したり、ヒソヒソと何かを話す使用人達もいる。


そんな事はいつもの事だと、藍玉は構いもせずに謁見の間へと向かった。


その時…ふとある光景が頭の中に浮かぶ。


(ん?…なんだろこの景色?)


海の見える丘。


そこには小さな墓石があり、その前に倒れる少女。


少し離れた所には三つ編みの人物も倒れている。


少女はともかく、三つ編みの人物の方は酷い怪我をしていた。


見た覚えのない景色と二人に、それは未来の光景だと藍玉は気づく。


藍玉の能力は未来を見る能力。


しかし自分の意思で未来が見える訳ではなく、見たい未来が必ず見える訳でもない。


(この二人…僕の未来に関係あるの?…それとも……別の誰かに?あれ?近づいてる)


脳裏の光景は段々と少女に近づき、彼女をまるで抱き上げたように映る。


そして三つ編みの人物はシャドウが背負っていた。


(つまり…この二人を僕が助けるってこと?…いつだろう?とりあえず二人に会ったら、海の見える丘を手当り次第探してみようかな)


などと考えているうちに謁見の間へと到着していた。


扉の番をしている兵士は慌てて中に入り、女王へと藍玉の来訪を告げに行く。


そして直ぐに扉は大きく開かれた。


奥には玉座に腰掛ける女王…母親と、その宰相であるサフィールの姿。


藍玉はそのまま玉座へと足を進めると、女王の前で跪く。


「ご機嫌麗しゅう、母上」


「久しいな藍玉。蓮姫がこの王都を出た時以来か?何故今になってこの王都に?ついに母へ結婚の報告にでも来たのか?」


「母上は意地悪ですね。わかって言ってるんですから。僕はそんな所がよく似てしまいました。どうしてくれるんです?」


「藍玉様…陛下に対し、そのような」


「サフィール殿は黙ってて。僕は母上と話をしてるんだから。君は今後、一言も口を挟まない。いいね」


藍玉の言葉を臣下として(たしな)めようとするサフィールだが、藍玉に睨まれ直ぐに口を紡ぐ。


藍玉に逆らう者などいない。


彼の未来を見る能力は予言として他者に伝えられる。


しかしそれは予言ではなく『言葉が真実となる能力』と誤解されているのだから。


「これ藍玉。サフィをあまり(いじ)めるでない」


「申し訳ございません母上。さて、今回僕が王都に来たのは、末弟達に会いに来たからです。あ、ついでにマリーの買い物も」

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