⑥
場面は再び残火達へと戻る。
残火の悲痛な叫びを受けた花は、キョトンとした顔で残火を見返した。
「…捨てられた?」
「そうよ!花ちゃんは…花ちゃんは母親に捨てられたの!こんな所で待ってても!迎えになんか来ない!」
酷い事を言っているのは残火もわかっている。
それでも止められない。
涙が出そうなのを必死にこらえながら、自分の感じた辛い真実を花に話し続ける。
「探しに行っても見つからないはずよ!きっと村の連中全員がグルなんだ!自分達の都合で子供を生贄にしてるくせに、今日は楽しい祭りだ!?ふざけんなっ!」
「…お姉ちゃん?」
何故か泣きそうな顔をして怒鳴る残火に、花は心配そうに声をかける。
それがかえって、残火の心を酷く締め付けた。
「っ、どうしてこんな可愛い子を…自分の子供を簡単に捨てられるの!?この村の人間は皆!花ちゃんの母親も!みんなみんな最低で最悪な奴等だ!殺してやりたいっ!!」
「…ダメ」
ふと今まで黙っていた未月が声を発する。
残火はそんな未月を睨みつけた。
「なんであんたがダメとか言うのよ!関係ないでしょ!?」
「うん。…俺…関係ない。…でも…残火も関係ない」
「っ!?なんですって!?」
「…母親は…優しくて…あったかいもの。だから…殺しちゃダメ」
「っ!!?ふざっけんな!!」
残火は力の限り未月の右頬を殴りつけた。
しかし非力な残火の拳など、未月にはダメージにすらならない。
未月は避ける事もせず、頬に拳を受けたまま残火に告げる。
「…残火が…花の母親と…村人殺すなら…俺止める」
「だから!なんであんたが止めるのよ!?」
今度は未月の胸ぐらを掴む、彼の顔をグイッと自分に寄せる残火。
本来その行為は背の高い者から起こされたり、身長差の近い者達で行われる。
だが未月より背の低い残火のせいで、未月は屈むような姿勢になっていた。
なんとも間抜け…おかしい光景だが残火は未月を睨み続け、未月もまた残火から目を逸らさない。
「俺…母親殺されるの…嫌。だから…止める」
「だから!なんでだっつの!?あんたの親殺す訳じゃないでしょ!」
「…うん。…俺の親…殺せない。…俺の親…もう死んでる」
「……え?」
ふいに告げられた言葉に、残火は自然と未月を掴んでいた手を離してしまった。
今まで二人のやりとりをオロオロしながら見ていた花も、恐る恐る未月に尋ねる。
「お兄ちゃん…親いないの?母ちゃんも、父ちゃんも?」
「うん。…二人とも…死んだ。…俺が…生まれて直ぐ。…そう言われた」
「生まれて直ぐって…あんた…親の顔、知らないの?声も?どんな人だったかも?」
「…知らない。俺…親の事…何も知らない」
無感情に告げられるその言葉に、先程まで怒り狂っていた残火は火が消えたように大人しくなる。
残火は今の言葉で、未月に同情していた。
それは花も同じだった。
「母ちゃんがいないなんて…お兄ちゃん、かわいそう」
「かわいそう?…わからない」
「え?だって母ちゃんがいなくてさみしいでしょ?」
「…寂しい?…考えた事…無い」
やはり無感情に告げる未月。
本当に彼は『寂しい』とも、自分が『かわいそう』とも思った事はない。
生まれた時から…物心ついた頃には既に親はいない。
反乱軍の一族は確かに未月を育ててくれた。
それは戦力が少しでも欲しいから、身寄りのない子供を世話しただけ。
試練に一人でも多くの子供が必要だっただけ。
世話と言っても、食事などの面倒をみたくらい。
試練に生き残った未月をオースティンは育てたが…彼にとって未月は、駒の一つに過ぎなかった。
未月に愛情をかけた者はいないし、未月もかけられた覚えはない。
彼に優しくしてくれたのも、普通に接してくれたのも…あの若様だけだ。
残火は無感情に淡々と答える未月に対し、罪悪感が生まれる。
「親がいないなんて…知らなかった。…ごめん、未月」
「…残火?…なんで謝る?」
「そうよね。それも、わかんないわよね」
残火は苦笑してから、花と未月に語り出した。
「私の親はね…どっちも最低な人間。父親は母親に酷い事をして殺されたし…母親はそんな父親を恨んで…私の事まで恨んだ。理由はあったけど…勝手に産んだクセに…勝手に恨んで…拒んで…勝手に死んでいってさ。だから私は…親が嫌いなの。両親が憎い。心の底からね」
「残火?」
「お姉ちゃんも…母ちゃんが嫌いなの?寂しかったの?」
「まぁね。寂しかったし…悲しかった。でも!私には親代わりの人がいたの!私の伯父上様!…あ~…未月はわかるだろうけど…焔の父上様ね。あいつとは比べ物にならないくらい、優しくて!強くて!立派な方!」
伯父の話をしだすと、残火の目はキラキラと輝き出した。
少し頬を染めて語るその顔は、まるで大好きな人を思い出しているかのよう。
「姪の私を…本当の娘のように想って、育てて下さった。素晴らしい方だった。だから私は…母親に嫌われても…母親を嫌いになっても、伯父上様がいたから幸せだった。親なんかいなくても、私は幸せだった。伯父上様が死んで悲しかったけど…でも!今の私には姉上がいる!優しくて…強くて…あったかい姉上が!ふふ…だから私は今も幸せよ!」
今度は蓮姫を思い出したのだろう。
嬉しそうに笑う残火に、未月の顔も柔らかくなり笑顔を浮かべた。
「うん。…母さん…優しくて…あったかくて…大事。…俺も……幸せ」
「っ!」
初めて向けられた未月の笑顔に、残火の胸はドキッ!と高鳴った。
この男は…こんな風に笑うのか、と。
うるさい鼓動を誤魔化すように、残火は胸を抑えて未月から顔を背けた。
「お兄ちゃん?母ちゃん、やっぱりいるの?」
「…母親じゃない。…母さんは…俺の…大切な人」
「え~?わかんない。ねぇ、お姉ちゃん、どういう意味?あれ?お姉ちゃん?」
ずっと後ろを向いたままの残火に気づいた花。
そして未月も不思議そうに声をかけた。
「…残火…どうした?」
「な、なななななんでもない!なんでもないからっ!別にあんたの顔が綺麗とか思ってないから!笑った顔を見てドキドキなんて!してない!してないからぁっ!!」
何故かパニックになり、自分で全て喋ってしまう残火。
コレを聞いてしまえば、ほとんどの人間は残火の言葉の意味や顔を赤くした理由に見当はつく。
が、未月は言葉の意味を深く考えない。
不思議や疑問を抱いても、言われた通りの言葉を素直に受け入れる。
「???…そうか」
「そ、そそそそそうよ!もう!こっち見んな!バカ!このバカ!」
「…俺…バカじゃない」
「あはははは!お兄ちゃんとお姉ちゃん!とっても仲良しだね!」
子供の花ですら、このやり取りを見て笑ってしまった。
楽しげに笑う花だったが、一度空を見上げてからチラリと社の方を見る。
そして近くに群生した赤い勿忘草の元へ歩くと、その場にしゃがみこんで話し始めた。
「あたいの母ちゃんも…いい母ちゃんだよ。あったかくてやさしくて。いつも父ちゃんから、あたいを守ってくれたもん」
「お父さんから…守る?」
気になる言葉をそのまま繰り返す残火。
花は残火達の方を向かず、そのまま勿忘草を見つめて話し続けた。
「うん。父ちゃんはね、あたいがキライだったんだ。兄ちゃん達にはやさしい父ちゃんだったけど、あたいにだけは違ったんだ。『女のお前なんかやくたたずのごくつぶし』って言って、いつもなぐったもん」
自分の頬をさする花。
脳裏にはかつて殴った男…自分の父親の姿が浮かぶ。
90年も前の事で、もう顔も声も朧げだが…自分を殴っていた事は忘れない。
「母ちゃんは父ちゃんを止めたり、あたいをかばって代わりになぐられてた。父ちゃんはそんな母ちゃんにも『女なんかうみやがって』ってどなって…母ちゃんはあたいに『ごめんね』ってあやまってた。…泣いてた」
花が目を閉じると、母の泣き顔が瞼の裏に浮かぶ。
父の顔は思い出せないのに、不思議と母の顔は鮮明に覚えていた。
愛されなかった事と、愛された事の違いだろうか。
いや、花は気づいている。
自分を殴り続け『いらない』と言い続けた父。
そんな父を自分は愛した事は無い。
そして自分を常に庇い、代わりに殴られ、自分の為に泣いてくれた母。
そんな母を愛していた、と。
愛さなかった事と愛した…いや、愛している事の違いだと。
「あの日…死神様が初めて村に来た日。父ちゃんはよろこんでた」
『花を差し出せ!そうすれば食い扶持が減る上に、村が助かって全員に感謝される!もし嘘だったとしても女のガキが減るんだ!願ったり叶ったりじゃねぇか!』
『っ!?あんた!本気で言ってるのかい!?』
『おお!本気だとも!こんないい話は無い!お前だって自分の飯をこいつに分けなくて良くなるんだ!俺もこいつやお前を殴って無駄な体力使わなくていいしな!いい事づくめじゃないか!』
『そんな!花は…花もっ!あんたの子じゃないかぁっ!!』
『女のガキなんざいるか!家には働いてくれる息子が三人もいる!食うだけのこいつなんていらねぇよ!お前女房のクセに…いらねぇガキを産んだクセにまだ俺に歯向かうのかっ!!』
「…そう言って父ちゃんは、母ちゃんをいっぱいなぐった。うごけなくなった母ちゃんに…父ちゃんは言ったよ」
『明日こいつを山に置いて来なきゃ、俺が二人まとめて殺してやるからな!』
凄まじい形相で怒鳴り散らす夫を、花の母親は痛みで朦朧とする意識のまま見た。
夫の顔を見て…それは脅しなどではなく本気だと悟ったのだ。
いっそ娘と二人…村からも、この夫からも逃げてしまおうか?
しかし村から出た事もない女と小さな女の子。
二人だけで村を出たところで…生きていける保証はない。
痛む体をなんとか動かし、隣の部屋で寝ている子供達の元へ行くと、下の息子が妹を守るように抱きしめて眠っていた。
実はあまりの父親の怒鳴り声に子供達も全員起きていたが…恐ろしくて寝たフリをしていただけ。
母はそれに気づかず…寝ている我が子達を…特に下の息子を見ていた。
この子はいつも父に隠れて妹にご飯を分けたり、優しく接している。
兄達と一緒に農作業を手伝ってはいるが…花と一つしか違わず、この子もまだ幼い。
そんな息子を置いて逃げる事は…母として出来ない。
そして母は…血が出るほど唇を強く噛み締め…苦渋の決断を自分に下した。
次の日。
母は痣だらけの体で娘の手を引き、死神に言われた山へと向かった。
そして社に辿り着くと、しゃがみこんで娘へと必死に笑顔を向ける。
『花…母ちゃんは……ちょっと行く所があるから。…ここで…待ってておくれ』
『母ちゃん?』
『…必ず……迎えに…来るからっ!だからっ!ここから!動いちゃダメだよ!』
母親は泣き叫ぶように花へと告げる。
幼い花も母親の様子がいつもと違い、おかしい事に気づいていた。
自分がここに…母親に捨てられる事もわかっていた。
それでも…今まで見た、どの泣き顔よりも悲しげに、辛そうに歪む母の顔を見て『うん』と頷くしか出来なかった。
『…花……花っ!!』
母親は最後に娘をキツく抱きしめる。
本当は離したくない。
この子を訳の分からない『死神様』などに捧げたくない。
でも自分には……これしか出来ない。
『…花………っ、さよなら…』
母親は小さく呟くと、娘の体を離し、振り返ることなくそのまま山を降りて行った。
未月はいつも通りだが、残火ですら一言も発さずに花の話を黙って聞いている。
残火はやはり花の親に対して怒っていたが、手を強く握りしめる事で怒鳴りたくなるのを我慢した。
花は赤い勿忘草を一つ手折ると、それを撫でる。
「あたいね…ホントは全部わかってるんだ。母ちゃんが…どうしてここに、あたいを連れて来たのか。母ちゃんが今、何処にいるのか。どうして…いつまで経っても迎えに来てくれないのか」
そう静かに呟く花だったが、何故か風もないのに彼女の髪や服がザワザワと怪しげに動き出した。
未月は今までと違う雰囲気を出す花に気づくと、その蒼い目を細め警戒する。
花はゆっくりとした動作で立ち上がると、そのままの速度で残火達の方を振り向きつつ、微笑んで静かな口調のまま告げた。
「あたいは母ちゃんに捨てられた。あたいは一人ぼっち。だから…お姉ちゃんかお兄ちゃん…あたいといっしょに」
「じゃあ花ちゃんも一緒に行きましょうよ!!」
花の言葉を遮り…残火は大きな声で花へ告げる。
空気を読まず、花の雰囲気にすら全く気づいていない様子の残火に、花と未月は目を丸くして残火を見つめた。
二人に見つめられながらも残火は『ナイスアイディア!』とでも言いたげに満面の笑みをして言葉を続ける。
「花ちゃん!こんな村も親も!いっそ全部捨てちゃいましょ!それで私達と一緒に姉上にお仕えするの!大丈夫!姉上は優しい方だから!きっと花ちゃんの事情を知ったら受け入れてくれるわよ!」
残火は満面の笑みを花に向け『さぁ!』と両手まで広げている。
コレは冗談でも慰めでもない。
本気の言葉…残火の本心だった。
「花ちゃん!おいでよ!」
予想だにしなかった誘いに花も目をパチパチとさせ、瞬きを繰り返す。
未月は残火から花へと視線を移した。
先程の不審な様子や怪しい雰囲気は既になく、今までの花に戻っている。
不思議な雰囲気を持つ子供だが…やはり危険性は感じない。
そんな花に未月も警戒を解き、何故か残火の真似をして両手を広げた。
「…花…おいで」
「ね!花ちゃん、私達と一緒に行こう!」
そう言って自分を誘う二人の姿に、花はポカンとして固まる。
花はかつて…村と無関係の少年を一人、死神様の元へ連れて行った。
その少年は妹を守る為に花と一緒に行く………いや、逝くことを選んだ。
しかし少年が花と共に行く事を選んだのは、妹の為だけではなかった。
妹と似ている花の境遇を知り、彼は花に同情したのだ。
少年は妹への愛、そして花への哀れみで、妹と別れ花と一緒に行く事を選んだ。
今回も花は…母ではなく、気に入った誰かを死神様の元へ連れて行こうと思っていた。
死神様が喜ぶ為に…母が自分を忘れず、まだ生き続けてくれるように。
それなのに…この二人は『自分と一緒に行く』ではなく…『自分を一緒に連れて行く』と言う。
「プッ、ハハッ…アハハハハッ!」
「花ちゃん?急に笑ってどうしたの?未月が面白かった?」
「…俺?…面白いのか?」
「面白いというか…おかしいでしょ。てか、一々聞かないでよ」
いきなり腹をかかえて笑い出した花に、残火も未月も不思議がる。
残火は自分に原因があるとは露にも思わず、未月が原因で花が笑ったのだと思った。
無表情な男が両手を広げて『おいで』と言っている光景は、ある意味おかしいが。
そんな二人のやり取りに花はまた笑う。
「アハハッ!ご、ごめんね!お姉ちゃんもお兄ちゃんも!凄くいい人だから!笑っちゃった!」
「えぇ~…そこで笑っちゃったの?」
「アハッ!ごめんね、お姉ちゃん!あのね…お姉ちゃんもお兄ちゃんも…本当にいい人だから…うん。二人を連れて行くのはやめる」
一通り笑うと花はまたニッコリとした笑顔で残火と未月に告げる。
「あたいもね…そろそろ本当に行かなきゃ。母ちゃんの事…ずっとずっと待たせてたし…さいごに会えたのが、お姉ちゃんとお兄ちゃんで良かった」
「花ちゃん?最後って…どういう意味?」
「…花…俺達と…来ないのか?」
「うん。お姉ちゃんもお兄ちゃんも好きだけど…やっぱり、あたいが一緒にいたいのは…一人だけだから」
意味深に告げる花を問い詰めようと、残火が口を開いたその時。
遠くから自分達を呼ぶ、仲間の声が聞こえた。
「残火ー!未月ー!!何処にいるのー!?」
「残火ー!おーい!隠れてないで出て来ーい!」
「未月っ!聞こえているなら返事をしろー!」
必死に二人を呼ぶ蓮姫、残火しか呼ばない火狼。
そして火狼が残火を呼ぶならと、未月の名しか叫ばないユージーン。
残火と未月は声のする後方…来た道を振り返る。
そして残火は三人に聞こえる程の大声で叫んだ。
「姉上ーっ!!私はここにいまーっす!!頂上にある社の前です!!隣には未月もいまーす!!」
「…残火…うるさい」
直ぐ隣で叫ばれた未月は、耳を塞ぐと珍しく不満げな顔で文句を言う。
そんな未月に不満げどころか、不満しかない顔で残火は更に大声を出した。
「うるさくないわよっ!ちゃんと姉上に来て頂いて花ちゃんを……あ、あれ?」
後ろにいるはずの花を指さした残火。
しかしそこには…誰もいない。
「…花?…おかしい。…花の気配…感じない」
「っ!?気配感じないって!花ちゃん!?花ちゃん!何処に行ったの!?」
慌てふためく残火と、なんとか花の気配を感じ取ろうと辺りを見回す未月。
そんな二人の脳内に…たった今いなくなった少女の声が響く。
『お姉ちゃん。お兄ちゃん。あたいと遊んでくれて…あたいをさそってくれて、ありがとう』
「花ちゃん?」
「…花?」
『…元気でね。バイバイ』
それは花からの…別れの言葉。
その後、直ぐに蓮姫達が二人の元へ辿り着いた。
残火や未月は何度も花に呼びかけたが、返答どころか花の声すら全く聞こえなくなった。
残火と未月と別れた頃…花はある場所へ向かっていた。
花の姿は透けており、まるで魂だけの存在のように空を飛んでいる。
そして彼女は…90年越しに帰って来た。
自分が一番愛している…そして、自分を一番愛している者の元へ。
家の中に入ると、奥の間に寝ている老婆が一人。
老婆は人の気配を感じたのか、ゆっくりと扉の方へと寝返りをうった。
「……誰か…いるのかい?」
「…母ちゃん」
「っ!?は、花?……花…なのかい?」
「うん!母ちゃん、むかえに来たよ。一緒に行こう」
「…あぁ!…花っ……花ぁ!!」
老婆は…いや、老婆の体から飛び出た若い女の魂は、花の魂を抱きしめた。
「ごめんよ!ごめんよ花!お前を『御子様』にしちまって!お前を捨てちまって!こんな母ちゃんを恨んでるだろ!母ちゃんが憎いだろ!こんな母ちゃんで…酷い母ちゃんでごめんよぉ!」
「…ううん。あたいこそ…おそくなってごめん。でも…これからは…ずっといっしょ。大好き…母ちゃん」
「っ、花……ありがとう。母ちゃんも花が…大好きだよ。…そうだね。一緒にいよう。これからはもう…母ちゃんは花を離さないよ。二度と…離すもんかっ!」
90年振りに会えた親子の魂は、強くお互いを抱きしめ合いながら、ゆっくりと天へ上って行った。