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【弐の姫】~異世界に嫌われる姫にされた少女は最強の従者と共に女王を目指す~  作者: 月哉
間章【未月と残火、迷い子と出会う】
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蓮姫達が大和を出てから半日。


太陽が真上に上がった頃…一行の前には大きな村が見えた。


「お、前方に村発見じゃん。姫さん、旦那。時間もいいしアソコで昼飯にしようぜ」


「お昼ご飯か。……食ベたいけど…」


明るく話す火狼とは逆に、蓮姫は不安げにため息を漏らす。


路銀は港町を出てから、減ってもいなければ増えてもいない。


「我々は今、金欠ですからね。しかし…五人分の食事と一泊分の宿代くらいなら…ギリギリなんとかなりますよ。無理でも交渉してみます」


「今なんとかなっても、今後のことを考えたら」


「姉上!なんか…村の入口で叫んでる者がいます」


ユージーンと蓮姫の会話を(さえぎ)る残火。


言われた通り村の方を見ると、確かに入口の大きな門の手前で叫んでいる者がいた。


「おーい!旅人さん達ー!村に入るなら急げー!聞いてんのかー!?もうすぐ入れなくなるぞー!急げってばー!!」


村の入口で叫ぶ男性…恐らくはあの村の村人だろう。


必死に両手を振り、時々息切れもしているが、息を整えると再び叫び出す。


何故そこまで必死になるのか?


そして一番不思議なのは、彼が叫んでいる言葉の内容。


「村に入れなくなる?どういう事だろう?」


皆目見当(かいもくけんとう)もつきませんが…慌てて村に駆け込む者が何人もいますので、事実かもしれませんね」


ユージーンの言う通り、全力疾走して門をくぐる者が何人か見える。


村人なのか、蓮姫達と同じ旅人かはわからない。


しかし逆に村から出る者は一人もいなかった。


あの叫んでいる村人の言葉は事実かもしれない。


かといって…何もわからぬまま入っていいものかどうか、蓮姫は決めかねている。


「どうしよう」


「入ろうぜ姫さん。村に入れないんなら飯は自給自足になるし…夜だって野宿しなきゃなんねぇだろ。ここは入った方が無難だぜ」


「ちょっと。なに焔が決めてんのよ。決めるのは姉上なんだから。姉上が村に入らないなら私達は従うべき。あんたは黙ってて」


火狼の言葉に一々反応する残火。


火狼への態度はいつものことだが、更に蓮姫へ心酔している部分が追加されている。


そして火狼は、そんな自分を嫌い蓮姫を慕う残火を簡単に扱う事が出来た。


「でもさ残火ちゃん。このままだと俺達…いや姫さんは確実に野宿。のんびり休む事は出来ねぇ。つまりお前は、姫さんをベッドじゃなくて地面に寝かせてぇってこと?」


「っ!?姉上っ!さぁ!早くあの村へと参りましょう!」


「え!?ちょ、ちょっと残火!?」


火狼の言葉がきっかけとなり、残火は蓮姫の腕を引いて村へと走り出した。


他の者も蓮姫達を追いかけ走り出す。


「随分と小娘の扱いに慣れてるな」


「まぁね。残火ちゃんわかりやすいし、扱いやすいから。でも村に行くのは旦那も賛成っしょ?」


「まぁな。俺も腹減ったし…同じ襲われるでも、野外より室内の方が姫様を守りやすい」


走りながら会話しているうちに、全員が村の入口へと到着する。


蓮姫達を見た村人は一安心したように、笑顔を浮かべた。


「良かった。さぁ早く早く!中に入るんだ!そろそろ本気で結界が張られちまう」


「結界?」


「詳しい事は中で話すよ。さぁ入った入った!」


村人は蓮姫達をグイグイと中へ押しやる。


そして全員が完全に門をくぐった直後、村人は門を振り返った。


「そろそろ昼……正午だ。結界は…………あ!ほら!あんた達見てくれ!」


村人の言葉に蓮姫達が門を見ると、その奥の地面が光だした。


そしてその光は広範囲……まるで光の壁が地面からせり上がってくるように見える。


門の前だけではない


光の壁は四方八方から上がっていき、ついにはドーム状の光の壁となり村全体を包み込んでしまった。


キラキラと光が揺らめく美しい光景に、蓮姫は言葉を失う。


ユージーンは納得したように言葉をもらした。


「これは…確かに結界ですね。それもかなり……強力な」


「お?兄さん魔導士かい?そうさ。この村には年に一度だけ、この結界が現れる。結界が出たらもう入る事も出る事も出来ねぇんだ。いやぁ、あんたら間に合って良かったね」


「え!?外に出れないんですか!?」


村人の言葉にギョッとする蓮姫。


もしやまた、アビリタの時のようになるのではという不安が頭の中をよぎる。


だが村人はそんな蓮姫の心配を笑い飛ばした。


「はははっ!大丈夫だ嬢ちゃん!この結界は一日だけなんだよ!今日の夜は祭だからな!村人全員が一丸(いちがん)となって祭を盛り上げる!それに加えて旅人も一緒に参加してもらうのさ。心配しなくても明日のこの時間、正午になれば結界は自然と消えちまう」


「え?俺らも祭に参加出来んの?そりゃ嬉しいけど…俺らってば貧乏なんよね~。めっちゃ参加したいけど~」


わざとらしく、落ち込むフリをする火狼だが、村人はやはり笑って答えた。


「そこも心配すんな!言ったろ?今日は祭だってな。年に一度の無礼講(ぶれいこう)!今日に限っては、村人旅人全員がタダ飯タダ酒し放題よ。宿代も今日だけはとらねぇんだ。その代わり、旅人さん達には祭の準備を手伝ってもらってる」


「そうなんですか?それなら…お手伝いさせて頂きますね」


「そうしてくれ!あ、宿屋はこの通りを真っ直ぐ行きゃある。詳しい事は宿屋のもんに聞いてくれ!俺は(やぐら)の準備しねぇと!じゃあな旅人さん達!楽しんでってくれ!」


それだけ伝えると村人はさっさと行ってしまった。


残された蓮姫達は、ひとまず言われた通り宿屋へと向かう事にした。


ユージーンだけは…この結界に何か思う所があるらしく、探るような目で結界を見つめる。


(この結界………強すぎる。並大抵の魔導士じゃ……人間じゃ無理だ。だとしたらこの結界を作ったのは……まさか。……待てよ。…仮にそうだとして…なんでこんな辺鄙(へんぴ)な村に…?)


ユージーンは色々と考えを巡らせるが、それはあくまで仮説でしかない。


余計な混乱を招かない為にも、彼は自分の考えを口にする事をやめた。


(…敵意も……強い魔力も感じない。…考えすぎか。人間の村に奴等が結界を張る理由がない)




言われた通り真っ直ぐ進み宿屋についた蓮姫達は、何事(なにごと)もなくチェックインをすませる。


部屋は丁度一人部屋が一つと二人部屋が二つ空いており、本当に何事も問題は無かった。


問題が出たのは…その後。


「はぁ!?何言ってんのよ!?しんっじらんない!反対!絶対反対!大反対っ!!」


宿屋の者から鍵を受け取ったユージーンは、それぞれに部屋割りを伝えようとした。


が、ユージーンから放たれた最初の一言に対して、残火が過剰(かじょう)に反応する。


ユージーンは冷ややかな目を残火に向け、同じく冷ややかな声で告げた。


「お前の意見は求めてねぇよ」


「意見求める事でも無いでしょ!?」


「そうだな。コレは決定事項だ。意見求める事じゃねぇ」


サラリと告げるユージーンに、残火は爆発しそうな程に叫ぶ。


「だからっ!なんで姉上と同室が私じゃなくてあんたなのよ!?頭おかしいんじゃない!?普通女同士が一緒の部屋でしょうが!」


「俺以上に姫様の護衛がお前に務まるとでも思ってんのか?」


「護衛とか以前の問題を言ってんの!」


「まぁまぁまぁまぁ。残火ちゃんも旦那も落ち着けって。で、残りの部屋割りは…俺と残火で一部屋、こいつが一部屋でいいかね?」


「いい訳ないだろうが!このクソ犬!」


「へぶっ!?」


ユージーンと残火を(なだ)めようとした火狼だったが、後半の言葉にキレた残火から顔面に右ストレートを撃ち込まれる。


顔を抑えて悶絶(もんぜつ)する火狼に、今まで口を挟まなかった蓮姫も引いていた。


「狼……従兄妹(いとこ)とはいえ、成人した男と年頃の女の子が同室は…おかしいでしょ」


「いてて。姫さんまで酷いぜ。確かに俺は女好きさ!胸張って言える!でも残火にだけは手を出さねぇし、絶対に変な気も起きねぇ!こればかりは嘘じゃねえよ!断言出来る!むしろそっちのが胸張って言える!!」


「おし。もういっぺん殴らせろ」


残火がもう一度拳を構えると、火狼はわざとらしく怯える素振りをし、他の者は呆れていた。


しかし…ここは今までのように蓮姫の結界で隔離(かくり)された部屋でもなく、自分達だけの森林の中でもない。


当然ここには他の人間…そしてこの喧嘩に迷惑している者もいた。


「あんた達っ!ロビーで騒がないどくれ!他の客に迷惑だろ!どんな関係か知らないけど…喧嘩すんならとっとと部屋に引っ込んどくれ!」


ロビーの受付にいた中年女性に怒鳴られ、未月以外は気まずそうに視線を泳がせる。


その女性の言い分はもっともであり、ロビーにいた他の客人達は蓮姫達をチラチラと見たり、何やらヒソヒソと(ささや)く者もいた。


蓮姫は客や宿屋の女に深々と頭を下げて謝ると、従者達を引き連れて部屋のある二階へと足を進めた。


部屋に着くまでの間にもボソボソと残火とユージーン、火狼はお互い嫌味を言い合っていたが、蓮姫から凍えるように冷たい視線を向けられ一斉に黙り込む。


そして目的の部屋の前に着くと、蓮姫は全員に向かって言い放った。


「ここは私とジーンの部屋。隣は狼と未月。向かいの一人部屋は残火。部屋割りはコレで決定。異論もコレが原因の喧嘩も認めません」


残火と火狼はその案に抗議しようとするが、今度は蓮姫から全く目が笑っていない笑顔を向けられ「異論も喧嘩も認めません」と再度告げられると、渋々頷いた。


丁度その時、先程ロビーで会った女性と同じ服を着た若い女が二階へと上がってきた。


「あ、お客さん達~!お昼まだなんでしょ?コレ!おにぎりとお漬物!あとお茶持ってきましたよ」


「ありがとうございます。先程はうるさくしてしまい、申し訳ありませんでした」


「いいっていいって!旅人さんが揉めるのなんてよくあるし!ご飯はこの部屋に置くね。昼は質素で悪いけど…その代わり夜はたっくさん、ご馳走(ちそう)出るから!それで勘弁して下さいな。 ね、お客さん」


その女性の言葉や格好を見る限り、彼女はこの宿屋の従業員のようだ。


その女性はコロコロと笑うと、客人である蓮姫相手に砕けた口調で話す。


蓮姫もそれを咎めることは無く、女性と共に部屋の中へと入った。


従者達も蓮姫に続き部屋へと入る。


ユージーンと火狼は一応この従業員の女性に警戒しているが、それは無用だと早々に気づいた。


そんな従者達とは逆に、蓮姫は警戒などせず女性と会話を続ける。


「ご馳走も出るんですね。今日は何のお祭なんですか?…収穫祭とか?」


「いえいえ、違いますよ。この村だけの特別な祭なんです」


女性はお盆からお茶や、おにぎりが十個乗ったお皿をテーブルに移し終わると、笑顔を蓮姫に向けて答える。



「今日は御子様(おこさま)を迎える日。御子様(おこさま)の為のお祭りなんですよ」



「お子…様?え…子供?」


ニコッと笑顔を向ける女性だが、蓮姫はその言葉の意味が分からず困惑する。


不思議がる蓮姫を見て、女性も自分の発言には説明が足らないと気づいた。


「え~と……そのお子様じゃなくて…。でも子供で……あのね…この村は『コサゲ村』って言います。名前の由来はですね、この村では昔」


「お(さき)ー!何してるんだい!今日は(よね)婆ちゃんにも大事な日だろ!早く帰って婆ちゃんとこ行ってやんなー!」


従者員の女性が祭の説明を始めようとした矢先、下から聞こえた声(先程ロビーで怒鳴った中年女性の声)が聞こえる。


それを聞き従業員の女性…お咲は慌て出した。


「いっけない!私ったら!ごめん、お客さん達!私はこれで失礼します!!皿はそのままで大丈夫ですから!」


お咲はペコペコと頭を下げると、蓮姫からの返事も待たずに部屋を飛び出してしまった。


「……行っちゃった…。お子様に…コサゲ…。……もしかして…あんまりいい意味のお祭じゃない?」


「さて、どうでしょうね。とりあえず…目的の昼飯も来たことですし、食べませんか?」


「賛成賛成!俺め~っちゃ腹減ってたし!昨夜から何も食べてないもんね!ありがたく頂こうぜ、姫さん」


一抹(いちまつ)の不安を抱く蓮姫とは逆に、ユージーンと火狼は食事にしか興味がないようだ。


蓮姫も当然、空腹の為とりあえずは椅子に腰掛け出されたご飯に手を伸ばす。


ちなみに二人部屋なので椅子は二つしかなく、女子二人が座り、男達は立ったままおにぎりを頬張った。


「ねぇ、ジーンはこの村知ってるの?」


「国ならともかく…さすがの俺も村や街、全てを把握してる訳ではありません。もしかしたら昔…来た可能性も無くはないんですが…こんな辺鄙(へんぴ)な村は何処にでもあるので。余程強烈な印象がなくては、一々覚えてませんよ」


「はんっ!若いのにもうボケてんの?姉上、やっぱりこんなボケた男は同室にしない方がいいですよ」


「残火。その話はもう終わったでしょう。それにジーンは見た目ほど若くないんだよ」


「え?まさか…こう見えて三十…いえ…四十代とか?ぷっ…こんな顔してておっさんとか。ウケる」


いつもの仕返しとばかり鼻で笑う残火。


ユージーンは正面からその笑みを受け、こめかみに青筋を浮かべる。


「顔関係ねぇだろ。世界中のイケメン三十代または四十代に謝れ、このガキンチョ。言っとくが俺は更に上だ。お前らとは桁が違う」


「桁が違う?…何言ってんの?」


「俺は800年以上生きてんだよ」


「は?姉上、こいつまたふざけて……」


同意を求めるように蓮姫を見る残火だが、蓮姫は普段通り微笑むだけ。


あの火狼でさえこの発言を茶化していない。


未月は相変わらず無表情でおにぎりを咀嚼していたが、視線はユージーンから外さない。


まるで…驚いているような…興味があるような…そんな目だ。


この場でユージーンの事を深く知らないのは、未月と残火だけ。


残火は一度黙り込むと、再びゆっくりとユージーンへ向き、問いかけた。



「あんた……何者なの?」



ユージーンは新しいおにぎりに手を伸ばすと、隠すことなく正体を明かした。


「魔王と呼ばれた人間の男だ。ついでに800年前から不死身。以上」


その言葉…特に『魔王』という発言に、蓮姫以外の者はポカンとした表情で固まる。


ユージーンが不死身であり、先代女王の時代から生きている事を知る火狼も、その単語は初耳だった。


床でおにぎりを食べていたノアール(蓮姫から半分貰った)でさえ、ユージーンを見上げたまま固まってしまっている。


一番最初に反応が戻ったのは残火だった。


「………は?…魔王?魔王って今じゃ三人しかいないはずでしょ?」


「そういえば、今まであんまり触れたことなかったけど…ジーンって魔王だったんだよね。悪魔も知ってたし…改めてこの世界って…魔王も悪魔も存在するのか」


更に問いかけてきた残火には何も答えないユージーン。


むしろ誰に向けた訳でもない蓮姫の呟きに、彼は反応した。


「存在していますよ。死霊(しりょう)に悪魔族にゾンビ…は、ある魔王の傘下(さんか)ですが。とりあえず、それら魔王が従えている知能の高い魔獣達を総称(そうしょう)して『魔族』と言います。王都では勉強しませんでした?」


「勉強は………した事ない。ユリウス達にも聞いてないし」


王都での勉強を思い返す蓮姫だが、やはり『魔王』『魔族』といった単語は王都では聞いていない。


蓮姫がこの世界で初めて『魔王』という単語を聞いたのは、ユージーンと出会った時だった。


ユージーンは米粒のついた指を舐めながら「ふむ…」と一人納得する。


「双子に関しては…気長にゆっくりと、世界について学ばせる気だったのかもしれませんね。魔王の事を学ぶ前に、姫様は彼等の元を離れることになった。公爵邸の家庭教師どもは…恐らく弐の姫なので最初からしっかりと教える気も無かったのかもしれません」


ユージーンの言葉は予想でしかない。


だが、その説明には蓮姫も納得した。


ユリウスやチェーザレが蓮姫に隠し事をするとは思えないし、公爵邸の家庭教師からは『反乱軍』という単語すら聞かなかったのだから。


そして魔王や魔族という存在に対して蓮姫が…いや多くの想造世界の人間が持つイメージ。


全てがそうとは限らないが…代表的なものは一つだろう。


「…ねぇ、魔王や魔族ってやっぱり…世界を滅ぼそう…とかしてるの?」


「過去にはそういう事もあったようですけど、今じゃこの世界に存在する数多(あまた)の種族の一つですよ」


そう言って再度おにぎりに手を伸ばすユージーンだったが、火狼はその先にあるおにぎりを横取りして二人の話に入る。


それは火狼からユージーンへ、残火を無視された事に対するささやかな仕返しでもあった。


「そうそう。女王陛下達と和平条約結んでるから大丈夫大丈夫。今じゃ魔王達の間でも争いなんて無いらしいよ。あと旦那。おにぎり十個だったんだから一人二個だぜ」


「チッ。…姫様、さっき残火も言ったように、今の魔王は三人。つまりは()(どもえ)状態。三勢力というものはギリギリの均衡(きんこう)で成り立ってる場合が多いんです。魔王達も無駄に争いは起こしません」


ユージーンは蓮姫に向かって指を三本立てて告げる。


蓮姫は魔王達がどんな者か、どれ程の力量を持っているか知らない。


だが三つ巴という言葉を聞けば、下手な争いを起こさない、という点は納得出来た。


仮に魔王の一人が争いを起こそうとすれば他の二人に牽制(けんせい)、もしくは倒される可能性がある。


運良く一人倒しても、弱った所に別のもう一人から攻撃される危険性もある。


女王と和平条約まで結んでいるのなら、魔王達が争いを起こさないのは理解、そして納得出来るだろう。


(…そんなの関係ない…本物の化け物が一人いますけどね…)


ユージーンはため息をつくと、ゲンナリした表情をして心の中でのみ呟いた。


蓮姫に説明をしようとは思ったが…奴の事はなるべく口にしたくない。


それでも…その化け物を思い出し、再びため息をつきたくなるユージーン。


(ただの人間には興味無い奴だけど…厄介な面を持ってるし。…奴にだけは俺の呪い…隠し通さないとな)


そんなユージーンの態度とは別に…蓮姫にはもう一つ、不思議に感じた部分がある。


それはユージーンや火狼の説明ではなく、最初の残火の言葉。


「そもそも魔王が三人って……それは三人『しか』じゃなくて、むしろ三人『も』じゃないの?」


蓮姫が持つ魔王のイメージ。


それは漫画やゲームで、主人公である勇者に最後倒されるラスボス的存在。


ラスボス級の敵が何人もいれば…勇者も困るだろう。


(そんなラスボス級の奴を従者にしてるんだけどね、私は)


頭の中で自分につっこみを入れる蓮姫。


そんな蓮姫の発言に火狼は、ケラケラと笑いながら手を振った。


「いやいやいや~。姫さんソレは違うんだわ。俺達も伝承とかでしか知らないんだけどね。その昔、魔王ってのはピンからキリまで…それこそ何十人もいた時代があったらしいんよ。でも今は減るに減って三人。だから、三人『しか』で合ってんの」


「…魔王が………何十人も?どんな世界よ」


「こんな世界ですよ」


火狼の発言に若干引いた蓮姫。


しかし軽口で返したのはユージーンだった。


ユージーンの軽口にはイラついた蓮姫だが、あえて触れずにお茶を飲むと一言呟く。


「魔王か…やっぱり強いんだろうな」


「強いですよ。俺がいい例です。まぁ自慢じゃありませんが、俺は実力的に…歴代No.2の魔王ですね」


自信満々に、それこそドヤ顔で告げるユージーン。


それを見て苦笑する火狼。


あからさまに嫌そうな顔を向ける残火。


やはり無反応なまま、おにぎりを食べている未月。


そして今や、ご飯を食べ終わって床で寝ているノアール。


それぞれ別々の反応だが、蓮姫はそのどれとも違う反応をした。


「No.2…?珍しい。ジーンが自分より上の存在を認めてるなんて」


失礼極まりない発言かもしれないが、ユージーンが自分の強さに絶対の自信を持っている事は、蓮姫が一番よく知っている。


「プッ!はははっ!姫さんってば正直者ね~。でもそれも仕方ないと思うぜ。NO.1は勿論アレだろ?『竜魔王(りゅうまおう)』。孤高の魔王とか最強の魔王とか…あとそのままドラゴンロードとか呼ばれてた。一番有名だし、伝承とかも残ってるしね」


「竜魔王?」


(なにその牛魔王の親戚みたいな魔王?まさか今度は…西遊記の話に遭遇することになるんじゃ?)


先日のかぐや姫の事もあり、変な不安や疑問を抱く蓮姫だが、それは火狼とユージーンの説明によって解消された。


「竜魔王ってのは、そのまま竜の魔王…むしろ魔王になった竜だね。竜はこの世界で最強の種族。だから最強の魔王。…あ、俺等が使ってる小型の飛竜は竜族の遠~い親戚で子孫みたいなもん。大元(おおもと)は一緒でも今は違うんよ。竜族と別モンだから飛竜はノーカンね」


「それだけではありませんよ。竜魔王が最強の魔王と呼ばれた所以(ゆえん)。それは部下を持たず、たった一人で敵を殲滅(せんめつ)する力を持っていたから、らしいです。その力は他の魔王や魔族、自分を討伐に来た人間、そして同胞(どうほう)である同じ竜族を瞬殺する程だったとか」


二人の話が事実なら、竜魔王が最強と呼ばれるのも頷ける。


伝承になるのも、ユージーンが強さを認めるのも無理はない。


「ジーンは会った事あるの?その竜魔王に」


「いえ。竜魔王が現れたのは三代女王…あの傾城の時代より一つ前の時代です。だいたい…1500年くらい前ですかね?それと竜魔王は俺が生まれる前、既に姿を消していました。だから面識はありませんよ」


ユージーンから返ってきた言葉は、蓮姫の予想とは違ったもの。


それでも……興味を引く部分があった。


「姿を消す?死んだんじゃなくて?」


「えぇ。昔、他の魔王に聞いた事があるんです。『竜魔王は死んだ訳ではなく、ある日突然姿を消したんだ』と。でも安心して下さい。どんなに最強でも魔王でも、竜魔王が竜である事に変わりありません。竜族の寿命は千年ほど。さすがにもう死んでるでしょう」

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