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閑話~ユリウスとチェーザレ~ 2


久遠殿と別れたユリウスは急いで監視役の元に戻った。


ユリウスを見た彼は露骨(ろこつ)に嫌な顔をして「全て母上様に御報告させて頂きます」と言ってきた。


蒼牙殿はともかく、他の人間は私達の護衛や監視などしたくもない。


私達と…関わりたくもない。


そう思っている事は私達もわかっていた。


ユリウスの行動を母上に報告すれば、私達はもう外には出してもらえなくなる。


そうすれば自分は晴れてお役御免だ、と甘い考えを抱いていたのだろう。


しかし、相手が悪かった。


彼が相手にしているのは私チェーザレではなく、兄ユリウスだったのだから。


ユリウスはその言葉を聞き、怯むどころか笑っていた。


「そっか~。じゃあ私も母上に報告しなくちゃ。誰かさんが監視役を(おろそ)かにしたせいで迷子になって、変な大人に(から)まれたって。あぁ大丈夫。ある良家の人に助けてもらったから、何もされてない。でもさ…その人が助けてくれなきゃ…私は今頃どうなってたかな?」


「ま、迷子になったのはユリ…ジュリア様が私から離れたからです!そもそも(から)まれたなど…デタラメを言わないで下さい!」


「デタラメ?それも疑うんだ?言ったでしょう。良家の人が助けてくれたって。その人に頼めばきっと全て証言してくれる。そうだ。私の言葉を疑った事も母上に伝えるからね。私達を深く愛する母上がそれを聞いたら…貴方どうなるかなぁ?」


ユリウスは自分の仕出かした事を棚に上げ、母上を利用し彼を(おど)した。


世界の(おさ)たる女王陛下…その愛する息子の言葉は一軍人の彼にとって大きな衝撃を与えた。


こういう自分の事しか考えていない大人の扱いを、ユリウスはよく分かっていたからな。


彼はユリウスの予想通りの言葉を紡いだ。


「ど、どうか…母上様には御内密に!将軍にもどうか!バレたら私は軍に…いえ、王都にすら居られなくなります!どうか御勘弁を!」


「ふふん。いいよ。黙っててあげる。その代わり…私に協力してもらうからね」


「きょ、協力…ですか?」


「うん。君にも悪い話じゃないよ。協力してくれれば、君にとって得になる報告を母上にしてあげる。そうしたら…君は出世出来るかもね?」


「っ!?な、なんでもおっしゃって下さい!ジュリア様に御協力致します!いえ!協力させて下さい!私からお願い致します!」


こうしてユリウスは今後も簡単に街へ外出し、また自由に動ける為の駒を手に入れた。


何食わぬ顔でユリウスは私達と合流し、監視から抜け出した事実も隠していた。


それどころか監視役に「何も不備はございませんでした。これなら外出は毎日でも問題ありません。私が護衛させて頂きます」とまで言わせた。


塔に来た頃とまるで違う彼の態度に、私も蒼牙殿も疑問に感じたが…結局は追求しなかった。


私としては外に出れるのはありがたいし、蒼牙殿も部下が弟子に好意を持ってくれるのは喜ばしいと感じたのだろう。


その日の外出は表向(おもてむ)き、何事も問題なく終わった。


母上にもその報告はいったようで、私達は次の日も、同じ監視役の元で外出した。


前日と変わらぬ女装姿のユリウスに、私は兄が変な趣味に目覚めたのかと本気で心配したものだ。


「ねぇ君……そういえば名前は?」


「はっ!マーカス中尉であります!」


「オーケー中尉。俺…私達は友人と会って来るわね。その間、中尉も自由にしてていいわ。夕方に…そうね。あの噴水広場に集まりましょう」


「お、お待ち下さい!それでは護衛の意味が!」


「あらぁ?中尉は私のお願い…聞けないのかしら?」


聞けないに決まってるだろう。


何を勝手な事言っている。


そもそも友人とはなんだ?


と、私がユリウスに抗議するより早く、中尉は慌てたように敬礼し口を開いた。


「っ!?ジュリア様のお望みのままに!」


「ふふ~。ありがとっ。じゃあ行きましょう、シーザー」


「お、おい!ジュリア!?」


ユリウスは上機嫌なまま私の腕を引っ張り、あの路地裏へと向かった。


そこには久遠殿がソワソワと私達…いや、女装したユリウスことジュリアを待っていた。


この時の私はまだ久遠殿を知らず彼を警戒していたが、ユリウスはニコニコと久遠殿に近付いて行った。


「久遠殿~!」


「っ!?ジュリア!………と、誰だ?」


「ふふ。お待たせしてしまったかしら」


「い、いや。俺も今来たところだ!問題ない」


恐らくソレは嘘だと私もユリウスも気づいたが、わざわざソレを突っ込む程、私達は無粋(ぶすい)ではない。


しかし久遠殿の方はジロジロと私の方を睨むように見つめ、無粋(ぶすい)な行動に出た。


「俺は杠久遠だ。女王陛下より信頼の厚い杠家の者。で、君は何処の家の者だ?そもそも……ジュリアの何なんだ?」


無粋過ぎる自己紹介に、無礼過ぎる質問。


何故どう見ても自分より年下の少年に、そんな事を言われなければならないんだ?


多少苛ついた私だったが、ユリウスは私達の間に入り二人の手を握った。


「シーザー。久遠殿と私は昨日から友人になったの。私の友人はシーザーの友人。でしょ?久遠殿。彼はシーザー。私の弟ですわ。二人とも、仲良くして下さいな」


そのままユリウスは私と久遠殿の手を引き、私達は握手を交わした。


「っ!ジュリアの弟だったのか!?確かに…顔が似ているな。ジュリアの弟なら俺の弟も同じだ。ジュリアの為にも仲良くしよう。よろしく頼む、シーザー」


「…はい。よろしくお願いします。久遠殿」


今までの睨むような目付きが一瞬で変わった久遠殿に、私は『そういう事か』と納得した。


納得と同時に…我が兄の悪趣味にまた頭が痛くなったが。


しかし、偉そうな口調とは裏腹に屈託(くったく)のない笑顔を向ける久遠殿の顔と…初めて出来た友人という存在に私も自然と笑みを浮かべていた。


その日から私達は、毎日塔の外に出ては久遠殿と過ごした。


久遠殿は子供の頃から堅物の面を持ち、真面目な人間だった。


しかし私達が『事情があり家の事は詳しく話せない』と伝えれば、それ以上追求する事もなかった。


むしろその言葉で、久遠殿は一層私達に優しくなったし、そんな彼と遊べて私達も楽しかった。



そう……あの日から毎日が楽しかった。



しかし………楽しい日々など…いつまでも続かない。



誰かの弱味を握り、誰かを騙しているなら…尚更だった。



私達が毎日外出するようになって、ひと月程たった頃。


私達が…いや、ユリウスが(だま)していた二人が同じ日に(しび)れを切らした。


先に行動に出たのは久遠殿だった。


いつも通り私達は久遠殿と遊んでいたが、彼はユリウス…ジュリアの手を握りしめて、こう言った。


「ジュリア。俺は君との将来を本気で考えている。事情があるのは分かっているが…そろそろ……その…(いえ)の方に挨拶させてはもらえないだろうか?」


いつものように顔を赤く染めて告げる久遠殿に、私はため息が出そうになるのを我慢していた。


久遠殿の態度や性格を考えれば、いずれこういう事を言い出す可能性は十分にあったからな。


ユリウスはもっと失礼な事を考えていたが。


(あ~あ。ついに言っちゃった。まだ出会ってひと月くらいなのに。久遠殿も(こら)(しょう)のない。さて…どうしようかな…)


「ジュリア…?どうした?」


「久遠殿のお気持ちはわかりましたわ。でもそれは…家の者に確認してみませんと…なんとも」


「そ、それもそうか。…分かった。だが覚えておいてくれ。俺は君の為なら…どんな障害も乗り越えられる。君の望みなら…なんだって叶えてやる」


「ありがとうございます。ふふ…なんだかわたくし…甘い物が食べたくなってきましたわ」


「っ!か、買ってくる!少し待っていてくれ!」


有言実行とでも言いたげに久遠殿は走り出した。


素直というか…馬鹿というか……恋する少年は単純そのものだと私は呆れた。


しかしそれ以上に…兄に呆れ果てていた。


「どうする気だ?」


「うふふ。どうしましょうね?」


「やめろ。気持ち悪い」


「あら!お姉様になんてことをっ!可愛い弟に反抗期が来てしまいましたわ!?」


「…………はぁ。もういい。お前と話すと頭が痛くなる。私は久遠殿を追いかける。多分近くのアイス屋かクレープ屋にでもいるだろ」


久遠殿は律義な方だから私の分もきっと買ってくれる。


しかし少年が一人で三人分のクレープ、もしくはアイスを持つのは少々危険だ。


何より…私は自分で食べる甘味は自分で選び、直ぐに食べたい。


「はいはーい。行ってらっしゃ~い」


ユリウスは近くのベンチに腰掛けると、そのまま私達の帰りを待つ事にした。


(さて…久遠殿は俺…ジュリアに本気みたいだ。とりあえず、今みたいに適当にあしらえば当分は何とかなる…かな?訳ありの家だって信じ込ませてるし…でもソレに関しては嘘じゃないけどね。でも…俺は男だから…久遠殿の気持ちには応えられないし)


一人考え込むユリウスだったが、そんな自分に近づく人物がいる事にも気づいていた。


気づいていて…その人物が声をかけてきても、あえて無視していた。


「………ジュリア様」


(久遠殿にも正直に言わないとだよな~。『君は俺と結婚出来ない。だって俺は男だから!』…なんて言ったら…さすがに怒るよな)


「っ?ジュリア様!」


(でも…さすがにこのまま騙すのもな。久遠殿にも失礼だし……何より俺の良心が痛む。前から正直に話そうとは思ってるけど…なかなかタイミングが)


「っ!?ユリウス様っ!」


いつまでも自分の声を無視するユリウスに(しび)れを切らした人物…マーカス中尉はユリウスの本名を使い、怒鳴るように呼びかけた。


幸い街ゆく人々は少なく、大きな声には驚いても、叫ばれたその名前に反応しなかった。


しかしその発言には流石のユリウスも無視が出来なくなり……そもそも無視するユリウスが悪いんだが。


「中尉。私はジュリアですわ。そんな名前で呼ぶなど…無礼ではありませんか?」


「聞こえているのなら返事をして下さい!」


「それはごめんなさいね。でも、どうして中尉がここに?心配せずとも、私もシーザーも夕方には噴水広場に戻りますわ。いつも通りにね」


「っ!!?いい加減にして下さい!」


「は?なんの事でしょう?」


中尉は怒りでワナワナと震え、その拳を強く握り締めていた。


なんの事か?と聞きながら、ユリウスだって中尉の言いたい事はわかっていた。


「こう毎日毎日外出されて!その(たび)に私は軍の仕事を抜けて護衛しているのです!分かりますか!?ひと月もの間!毎日ですよ!」


「これも中尉の仕事ではありませんか?」


「仕事!?毎日街に出て!昼から夕方まで無駄にブラブラと一人時間を潰す事がですか!?子供のお()りですらない!そんな俺の姿を見た同僚もいます!なんとか金を握らせて口止めしましたが…このままでは将軍に話がいくのも時間の問題です!」


(ソレは…少し困るな。蒼牙殿に話がバレれば、きっと蒼牙殿が護衛に当たる事になる。でも飛龍大将軍という立場なら…今のように毎日は無理だ。それに蒼牙殿なら俺達から離れる愚行(ぐこう)は絶対しない。自由に出来る時間が確実に減る。なら…上手く話して別の駒を用意してもらうか)


「わかりました。私の方で将軍や母上には話をしておきましょう。代わりの人物を見つけるので、中尉はお役御免とします。今までご苦労様でした」


「っ!なら!例の件も母上様にお伝えして下さい!私の位を佐官…いえ!将官まで上げると!約束覚えていらっしゃいますね!?」


(はぁ?何言ってるんだ?中尉風情が。大尉ならともかく、佐官や将官に格上げ?そんなに昇格できる訳ないだろ。さっきだって、子供のお()り以下の仕事って自分で言ってたクセに)


「ジュリア様!お約束!致しましたよね!」


中尉は必死の形相をユリウスに近づけるが、ユリウスは鬱陶(うっとう)しそうに顔を背け、正論を言った。


「軍人の昇格には誰もが納得する理由が必要です。長い年月の間、誠実に職務を全うし続けたとか、立派な戦果を上げたとか、華々しく誇り高い殉職(じゅんしょく)だとか。中尉の場合…そのどれにも当てはまりませんわ」


「っ!?や、約束が違うではありませんか!?」


「約束?確かに私は『中尉にとって得となる報告を母上にする』と約束はしましたが……出世出来るかどうかを決めるのは、あくまで母上です。思い出して下さいな。私は『出世出来るかも?』としか言っておりませんわ」


「っ!!?…だ…騙したのですね」


「人聞きの悪い事を。貴方が勝手に、私の言葉を都合良く解釈したのではありませんか。…それに…」


ユリウスはニンマリと笑顔を浮かべると、中尉に寄り添いそっと耳打ちした。



「こんな子供に騙される大人がバカなんだろ?」



この一言は…本当に余計だった。


何故ユリウスはこうも…わざわざ相手を挑発し、火に油を注ぐ行為をしたがるのか?


「~~~っ!!忌み子風情がっ!馬鹿にした俺の!大人の怖さを教えてやるっ!!」


怒り狂った中尉は、相手が女王の実子という事すら忘れ、ユリウスの胸ぐらを掴みそのままユリウスを殴り飛ばした。


大人…それも鍛えている軍人の男に、飛ばされる程の力で殴られたユリウス。


ユリウスは口の中を切り、口内に染み渡る気持ち悪い鉄の味に眉をひそめた。


(このバカ中尉。頭に血が上って自暴自棄になってるな。俺の正体を知らずとも…街中で軍人が女の子を殴ればどうなるか…出世どころか今の地位すら危うくなる。自分で自分の首を絞めてる事もわからないのか?)


中尉は確かに(おろ)かな行動に出た。


しかし、そうさせたのは他ならぬユリウスだ。


被害者は中尉に殴られたユリウスではなく、ユリウスを殴る程の怒りに囚われた中尉の方だろう。


まぁ…街ゆく人々にそんなもの、わかるはずがない。


中尉は仕事として私達の護衛をしていた。


つまり中尉の姿は…何処の誰が見ても直ぐにわかる、軍服姿。


「きゃあっ!?ぐ、軍人が!女の子を殴ったわ!」


「本当だ!それにあの子…貴族じゃないか?貴族の女の子を軍人が殴ったぞ!」


「おい!急いでそいつを捕まえろ!他の軍人を呼ぶんだ!」


軍人が女の子を殴った、という光景を見て事実を知らない街の人々。


男達は複数で中尉を捕まえ、女達は街の警護をしている他の軍人を呼びに行った。


「離せっ!離せぇ!俺じゃないっ!悪いのはそのガキだ!そいつは忌み子なんだ!そのガキが全て悪いんだぁ!」


「はぁっ!?何言ってんだアンタ!忌み子は男の双子だろ!?それに女王陛下が塔に閉じ込めてんだ!街にいるかよ!」


「頭おかしいぜコイツ!おい嬢ちゃん!さっさと逃げるんだ!こいつは俺達が突き出してやる!」


私達を毛嫌いしている街の人間でも、何も関係ない女の子には優しかった。


それがどうしようもない、(むな)しさとして胸に満ちてきた。


ユリウスの記憶を見ただけの私ですら…そうだった。


ユリウス本人は………ただ歯を食いしばり(うつむ)いていた。


その間に街を警護していた軍人達(丁度近くを巡回していたらしい)が、街の人々の呼びかけで集まって来た。


彼らは直ぐに暴れる中尉を連行すると、野次馬(やじうま)達の人払いをしてくれた。


その中の一人…他の軍人に指示を出していた人物がユリウスへと近づいた。


「失礼致します。貴方は…ユリウス様ですね?」


「……そうだよ」


「やはりそうでしたか。お初にお目にかかります。私は女王陛下より大佐の地位を(たまわ)りました。名を」


「能書きはいいよ。俺をどうする気?」


「………ユリウス様とチェーザレ様。お二人を陛下の元へお連れ致します。…問題を起こされたら直ぐに城へ連行…いえ、お連れするよう軍全体に命令が下されておりましたので」


その命令は母上ではなく貴族達により下されたもの。


母上の前では私達の外出を表向き認めたものの…何かあったら、直ぐにまた塔へ閉じ込められるように。


用意周到な貴族らしい行動だが…ユリウスが問題を起こしたのも事実。


ユリウスはため息をつくだけで、その場から動かなかった。


軍への抵抗ではなく、何もかも面倒になり、ユリウスも軽い自暴自棄に(おちい)っていたから。


そんな時、私は……久遠殿は戻ってきてしまった。


「ジュリアっ!?なんだ!何故軍人がこんなにもいる!?何故ジュリアを囲んでいるんだ!?」


「…これは…まさか?」


事態を把握しようとする私だったが、ふいに右腕をグイッ!と引かれた。


地面に落ちたアイスになど気にもとめず、その軍人は淡々と口を動かした。


「あちらと同じ顔…貴方様がチェーザレ様ですね?御同行願います」


「は!?おい!この手を離せ!無礼者!」


「シーザーっ!?おい!貴様何をしているっ!?」


必死に軍人を振りほどこうと足掻く私。


久遠殿も軍人の手を離そうと引っ張るが…子供の力では、そんなもの無意味だった。


私達の存在に気づいたユリウスも、素に戻り私の名を叫んだ。


「チェーザレ!?久遠殿!?」


「さぁユリウス様。覚悟をお決め下さい」


グイッ!


大佐はユリウスの腕を引き、力任せに立たせる。


その時………ユリウスのカツラが地面に落ちてしまった。


当然それは…久遠殿の目にも映った。


「っ!?…ジュリア?……何故髪が…カツラ?…一体…どういう?」


その場で(ほう)けている久遠殿に、私の腕を引いていた軍人が声をかけた。


「君は?」


「お、俺は杠久遠。杠家の」


「杠家の方ですね。それならば話が早い。この方々の事は他言してはなりません。これは女王陛下の勅命でもあります。破れば…由緒正しき杠の家が、今の代で終わる事もありえます。ご理解を」


「っ!!?陛下の!?何故!?」


そうして私を見つめる久遠殿だったが…そこで軍人が告げた私の名を思い出して固まる。


「っ、…先程彼を…シーザーをチェーザレと呼んだか?ジュリアもシーザーを…………ジュリアと…シーザー…」


軍人の言葉に驚いていた久遠殿だったが、やはり彼は(さと)かった。


それで全てを悟ったのだから。


「…顔が同じ…双子。ジュリアとシーザー…その(つづ)りは………っ!?」


呆然とする久遠殿。


私達に騙されていたと知り、恋していた少女が男だったと気づき……絶望したあの顔は…今でも忘れない。


「久遠殿っ!おい待ってくれ!彼と話をさせてくれ!これは命令だ!」


「ユリウス様。その命令は聞けません。ご自分の立場を、どうかご理解下さい」


「俺の立場だと!?そんな事はわかりきっている!俺は女王陛下の実子!能力者だ!この軍人風情!俺の命令が聞けないのか!?」


「ユリウスやめろ!これ以上醜態(しゅうたい)(さら)すな!私達の行いは母上にも影響する!母上の子という誇りを失うな!冷静になれっ!」


「っ、…すまない。チェーザレ」


私の言葉で、ユリウスは一応頭を冷やした。


だが…ユリウスとは逆に…アタマが沸き上がる程の怒りに震える者もいた。


「やはり…そうなのか。ははっ…コレが忌み子か。なるほど。良く分かった。勉強させてもらいましたよ……ユリウス様」


「久遠殿!待ってくれ!話を聞いてくれ!」


「ご安心を。貴方様の悪趣味は誰にも話しません。おぞましくて…口にしたくもない。それでは…俺は失礼させて頂きます。二度と会う事はないでしょう」


久遠殿は吐き捨てるように告げると、そのまま去ってしまった。


久遠殿の家が杠という事もあり、軍人達は彼を引き止める必要もなかった。


私達は…ユリウスは自己嫌悪に陥りながら、軍人達と城へと向かった。

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