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閑話~ユリウスとチェーザレ~ 1




「久遠殿は大和に行ったらしいよ」


「……………」


テーブルを挟んだ向かいから、何か突拍子もない言葉が聞こえた。


またこの兄は……急に何を言い出す?


今はお互い、読書とお茶に集中してると思ったんだが……。


「あれ?お兄様の言葉聞こえてる?もしも~し」


「……聞こえている。だから…顔の前で手を振るな」


どうして声が聞こえているかの確認に、手元の本と私の顔の間に手を入れて振る必要があるのか。


わざわざ身を乗り出してまで…。


放って読書を続けようと思っていたが…これでは本など読めるはずもない。


私が読書を諦めて本を閉じると、ユリウスも微笑んで椅子に座り直した。


「良かった。君に無視されると辛い。だってここには俺と君しかいないから」


別に無視しようとした訳じゃない。


あまりに突拍子もない事を言い出したから、少々困惑しただけだ。


ユリウスの事だから、本気で無視されてるとは思っていないだろう。


「急に久遠殿の話をするからな。驚いただけだ。そもそも何故知っている?」


「俺は昨日、街に出掛けただろ?買い物に。その時、聞いた話を思い出したんだ。だから言うの忘れてたな、って」


「久遠殿が大和に行かれるのは、いつもの事だ」


「うん。知ってる。彼はお祖母様のお見舞いに、よく大和に行ってるらしいからね。でもさ…今の時期に行ったということは……。ねぇ、チェーザレ。俺の言いたいこと…とっくに気づいてるだろ?」


あぁ、とっくに気づいている。


ユリウスは久遠殿の話をしたい訳ではない。


久遠殿が今の時期に大和へ行ったのなら…。


「蓮姫と会っている可能性がある、ということか」


「そうゆうこと」


あの時……玉華から戻った蒼牙殿がこの塔を訪れた時に聞いた。


蓮姫は玉華を出た後、海を渡り大和へ向かったと。


だが……玉華からは天馬に乗った、とも聞いている。


天馬の翼なら、玉華から大和になど一日程で着くはずだ。


「ユリウス。お前の不安はわかる。しかし、久遠殿が大和に着いた頃、まだ蓮姫が滞在していたかはわからない。普通に何事もなければ、日数的に通り過ぎた後…という方が可能性としては高いだろう」


「うん。俺もそう思う。でもさ…万が一、二人が会ってたら?心配じゃない?久遠殿は蓮姫にいい印象を持ってないだろ。というか…久遠殿は蓮姫の事、好きじゃないし」


ため息をつきながら、やれやれと首を振るユリウス。


この兄は………どの口でほざく?


呆れてため息をつきたいのは、こちらの方だ。


「お前……久遠殿が蓮姫を嫌う一番の原因。それは、自分だとわかって言ってるだろ」


「てへっ」


「私と同じ顔でウィンクをするな。舌を出すな。気持ち悪い」


「酷いな~。チェーザレも」


「私も?」


私も酷いとは…?


他に誰が酷いというのか?


まさか……。


「そう。チェーザレはいつも俺に厳しい。そして久遠殿。彼もまた俺に厳しいし、冷たいし、徹底的に嫌ってるし…はぁ、酷いなぁ」


「お前が久遠殿にした事の方が、遥かに、それも何倍も酷いだろ」


「てへっ」


「だからソレをやめろ」


冗談抜きでその仕草は気持ち悪い。


何が悲しくて、自分と同じ顔をした兄のぶりっ子仕草を、それも至近距離で見なくてはならないんだ。


ため息ばかり出てくるな。


幸せが逃げる前に幸せの補充でもしよう。


お茶のおかわりは………。


「ユリウス、昨日頼んだ茶葉と砂糖は何処だ?」


「ん?茶葉ならいつもの棚に置いたし、砂糖は……あ!」


「どうした?まさか…買い忘れたなど言わないよな?」


他の何を買い忘れても構わないが……糖分だけは許さん。


いっそ茶葉を忘れてた方がマシだ。


それならミルクや水に砂糖を入れればいいだけだからな。


「違う違う!ちゃんと買ってきたよ!君こそ俺と同じ顔で、そんな怖い顔をしないでくれ」


「ならさっさと出せ」


「そうなんだけど…ちょっと待っててくれ」


ユリウスは椅子から飛び出すと、掛けてある変装用コートのポケットを漁り出した。


私達は外に出る時は必ず、変装用のコートと帽子を身につける。


外出と言っても、昨日のように簡単な買い物だ。


必要物資や食料は城から定期的に普及がある。


それに間に合わない時だけ、自分達の足で買い物に行く。


街の人間で知っている者もいるが…私達と関わりたくないし、客には変わりないので、彼等も無言で商品を渡してくれる。


しかしユリウスの奴…なんなんだ?


「え~と……あ、あったよ。はい、薔薇(バラ)ジャム」


「薔薇ジャムというと…あれか?いつか蓮姫が話していた」


私は蓮姫がこの塔で過ごしていた頃を思い出す。


それはきっと、ユリウスも同じだろう。


『私、基本はストレートかレモンだけで、あんまり甘い紅茶は飲まないんだけど…薔薇ジャムを入れた紅茶は好きだったな』


そう言っていた蓮姫だったが、この塔にいる間、彼女がソレを飲んだ事は無かった。


私達は薔薇ジャムを買っていなかったし、蓮姫にソレを聞いたのも彼女がここを離れる数日前だったから。


「街で見掛けてね。思わず買っちゃったよ。おかわりはコレを入れてみないかい?」


「そうだな。蓮姫の好む味がどんなものか…彼女が帰って来る前に知っておくのも、悪くない」


私はユリウスから薔薇ジャムを受け取ると、ポットで新しいお湯を沸かす。


「ふふ。そういえばさ…初めて久遠殿に会ったのも、買い物に行った時だったね」


その発言に、私の体はピクリと反応した。


ゆっくりと後ろを振り返ると、ユリウスがニコニコと笑みを浮かべている。


そんな兄の姿に、私はたまらず、再びため息をついてしまった。


「だからチェーザレ、幸せ逃げるよ?」


「久遠殿を不幸のどん底に落とした人間が何を言う」


「まっ!お兄様に向かってなんて事を!」


「私はあの時ほど、お前を悪趣味だと思った事はない。久遠殿が哀れ過ぎる」


当事者ではないが……私も二人の過去は知っている。


ユリウスが御丁寧に私の夢に入り、全てを見せなければ私も全容は知らなかった。


むしろ知らない方が良かったな。


あの件で少々、この兄を軽蔑もしている。




あれは…今から10年ほど前のこと。



私達の塔に、母上がある決定を伝えに来られた時から始まる。


「母上!本当ですか!本当に俺達は!塔の外へ!街へ出掛けても良いのですか!?」


当時、食料や消耗品…私達にとって必要な物は城からの支給のみだった。


「ほほ。本当じゃ。愛しい我が子に母は嘘など言わぬ」


「ありがとうございます母上!チェーザレ!塔から出られるんだ!」


「はしゃぎすぎだ、ユリウス。母上、ありがとうございます。ですが…本当によろしいのですか?」


「よい。前々から貴族や軍には話をつけておったが、やっと納得させたのじゃ。見張りをつけ、能力を使わず短時間ならば塔から出ても良い、とな。そなた達には生まれた頃より、ずっと窮屈(きゅうくつ)な思いをさせてきた。………すまぬの」


そう言って母上は悲しげに呟いた。


後から知った事だが、母上は私達が外に出れるよう何年も…それこそ私達が塔に入れられた頃からずっと貴族や軍を説得し続けていたらしい。


世界の…民の望みとはいえ、愛する我が子を塔に隔離(かくり)した事に…母上はずっと苦しんでこられた。


私もユリウスも、母上を憎んだ事は一度もない。


能力者が忌み嫌われるこの世界に、私達が能力者として生まれたのは…変えようのない事実。


どう足掻(あが)いても抜け出せないと、子供の頃から理解していたからだ。


それでも…私達が能力者でも、離れていても、母上は私達を愛してくれた。


何より……私達は一人じゃなかった。


いつも隣に……同じ運命を背負う片割れがいたから。


「母上には本当に感謝しております」


「俺もですよ、母上。…で、俺達はもう出掛けてもいいんですか!?」


「だから、はしゃぐなと」


「ほほ。よいよい。ユリウスの気持ちが(はや)るのも無理はないことじゃ。もうすぐ蒼牙がここに来る。蒼牙と共になら今日にでも出て構わぬぞ。じゃがの…そなた達には一応コレを身にまとってもらう」


母上の言葉を合図に、後ろに控えていたメイドや軍人が服やらカツラやらをテーブルに置いた。


母上が外出の許可を出した時点で、彼等がそれを持っていた意図に、私もユリウスも気づいていた。


「俺達に変装しろ、という事ですね」


「その通りじゃ、ユリウス。そなた達の事は、この王都の者なら誰でも知っておる。姿までは知らぬが…万が一という事もあるのでな。それと、外に出る時は偽名を使うのじゃ。ユリウスはジュリアスと。チェーザレはシーザーとな」


「母上…それは…」


母上は偽名とおっしゃられたが…偽名にすらなってなかった。


その偽名と私達の名前。


読み方は違えど、つづりは全く同じだ。


恐らく私は怪訝な表情をしていたのだろう。


私の顔を見て母上は微笑まれた。


「ジュリアス・シーザーは想造世界の偉人。そなた達の名の由来でもある。紙に書くわけでなし、意外とバレぬと思うぞ。わかりやすい方が、そなた達も呼びやすいじゃろうて」


「陛下。そろそろ戻りませんと」


「おや?もうそんな時間か。愛しい我が子との逢瀬(おうせ)すらままならぬものよ。ではな。妾の可愛いジュリアスとシーザー。あまりハメを外すでないぞ」


そうして母上はメイド達と共に城へと戻って行った。


残された私達は…いや、ユリウスは楽しそうに変装用の服を漁りだした。


「へ~…色々あるよ。チェーザレ…じゃなかった。シーザーは何にする?」


「なんでもいい。お前とお揃いでなければな」


それはユリウスへの嫌味ではなく、双子だと直ぐにバレる変装では意味が無いと思ったからだ。


ユリウスにもソレは伝わり……むしろ伝わらぬ方が良かったかもしれん。


今考えれば……お揃いの服の方が遥かにマシだった。


そうなれば……あの時、ユリウスがあの服を選ばなければ…。


「それもそうだね。………あ!俺はコレにするよ。これならバレにくいだろうし」


嬉嬉としてユリウスが持ち上げた衣類を見て、私は一瞬固まってしまった。


「……………スカート?」


「うん。スカート」


「お前…まさか女装するつもりか?」


「うん。母上も言っていただろう。万が一にもバレない為の変装だって。だからこそ女装。胸にも詰め物して、カツラは…この金の巻き毛にしよう。リボンも付けようかな?あ、名前もジュリアスじゃなくて、女の子っぽくジュリアって呼んで」


そう言ってウィンクをする片割れに、気持ち悪さと呆れが込み上げたのはよく覚えている。


しかしユリウスは一度言い出すとソレを曲げない頑固な面もある。


私はそれ以上何も言わず、ユリウスの女装も止めなかった。



止めなかった自分を……後で深く反省するハメになるとは……この時の私は知る由もなかった。



あの後、一時間程して私達の準備が終わった頃に蒼牙殿が来られた。


蒼牙殿もユリウスの格好に驚いていたが、変装の意味を強く熱弁したユリウスに蒼牙殿も結局は折れた。


そして私達は初めて塔を出て……初めて感じる外の空気に…子供ながら興奮していた。


私は外に出られただけで満足だった。


しかし…ユリウスは違った。


外に出た事では満足出来ず…むしろ、監視の元という事が不満を駆り立てた。


ユリウスは相手の頭の中に干渉出来る能力者。


それを使って…私にテレパシーを送ってきた。


滅多に使わないソレを使う程に…ユリウスの欲望は抑えきれなかったんだ。


(チェーザレ……折角外に出られたんだ。俺はもっと街を見て周りたい。蒼牙殿とはいえ、こんなに監視されてるんじゃ…息が詰まる。つまらない)


それは子供じみたワガママ。


そしてユリウスは…一度決めたらソレを曲げない頑固者。


いや、ユリウスだけのせいには出来ないな。


私とて……自分の現状に少なからず不満を持っていた。


だから……ユリウスに協力する事にしたんだ。


監視は蒼牙殿と、まだ若く私達を畏怖の目で見つめる部下が一人。


私達はユリウスの口車で二手に別れる事になった。


隙のない蒼牙殿は私の方に……そしてユリウスの方はその若い軍人がついた。


相手が蒼牙殿ならいざ知らず…大人一人振り切るなど、素早い子供には簡単だった。


ユリウスは思惑(おもわく)通り監視役を上手く()くと、そのまま無邪気に街中を走り回った。


(やった!これで邪魔者はいない!俺は自由だ!塔を出て!街を走ってる!一人で!……一人で…)


最初は自由を満喫していたユリウスだったが、次第にその足取りは重くなった。


(……今度はチェーザレと一緒がいいな。同じ手は使えないから…別の手を考えないと)


ユリウスの記憶を全て見せられたせいで、ありがたい事に兄の気持ちも全て伝わった。


まぁ……私も同じ立場なら、同じ事を考えただろう。



そしてこの後……ユリウスは三流小説並のベタな展開に遭遇する事となった。



ユリウスは走るのをやめて、キョロキョロと街を見渡しながら歩いていた。


そんなユリウスに近づく…怪しい男。


「可愛いお嬢ちゃん、迷子かい?そうだ!おじちゃんがママの所に連れてってやろう。そうしよう」


鼻の下を伸ばし下卑(げび)た笑いをする中年男。


王都は治安の良い土地だ。


しかしどんなに治安が良くても、腐った人間は一人や二人いるもの。


そんな中年男相手にユリウスも警戒した。


「………え?いや…迷子じゃ」


「そうかそうか!やっぱり迷子か!ならおじちゃんと一緒に行こうね!ほらっ!」


「ちょっ!?痛い!離してっ!」


ユリウスの言葉などまるで無視し、男はユリウスの腕を掴むとグイグイと路地裏に連れて行こうとした。


苛立ちながらも、身の危険を感じたユリウスが能力を使おうとしたその時………彼が現れた。


「いでぇっ!?」


彼は中年男の頭に飛び蹴りを喰らわせると、男が(ひる)んだ隙にユリウスの手をとって走り出した。


「逃げるぞ!」


「え?き、君は」


「助かりたいなら早くしろ!」


「は、はい!」


ユリウスは自分の方を見ずに叫ぶ少年と手を繋ぎ直すと、少年と一緒に全力で駆け出した。


「おい!待ちやがれ!このクソガキ共!」


後ろで男が叫んでいたが、二人は振り返る事などせずその場を離れた。


しばらく走った後、二人は別の路地裏へと辿り着く。


息を切らしながら、少年はユリウスの方を見ずに語り出した。


「はぁ、はぁ、はぁ…こ、ここまで、来たら、大丈夫だろう」


「はぁ、はぁ…あ、ありがとう。助かったよ」


「はぁ……まったく。装いからして、君も良家の娘だろう。供の一人もつけずにフラフラ出歩くなど。不用心にも程が……っ!!?」


話している最中、やっとユリウスの方を見て……少年は固まった。


口は開いたままだが、目は瞬きを繰り返す。


そして頬が段々と赤く染まっていった。


「…???あの…どうかした?」


「っ!?あ、いや、そ、その…」


急にモジモジしだした少年だったが、一度深く深呼吸をすると、姿勢を正し声を張り上げて叫んだ。


「お、俺の名は!(ゆずりは)久遠(くおん)!」


「杠?あの有名な(ゆずりは)家?」


「っ、そうだ!俺は由緒正しき(ゆずりは)家の次男!文武両道で神童(しんどう)と噂されている!いずれは五将軍の一人、いや!元帥になる事も夢ではないと!皆が期待する将来有望な男だ!」


「ぷっ。ふふ…はははっ!ソレ自分で言っちゃうんだ?君、面白いね」


あまりにも傲慢(ごうまん)で貴族の子供らしい自己紹介にユリウスは笑ってしまった。


少年…いや、幼い久遠殿は笑われているというのに怒る事もせず、ただユリウスを見つめていた。


いや……見惚れていたんだ。


「笑った顔も…美しいな」


「え?…………あぁ…ありがとうございます」


(そういう事か。…なるほどね)


美しい…と言われて、ユリウスは自分の格好を思い出した。


そして頬を赤く染める久遠殿に……彼が何故そんな顔をしているのか、理解したんだ。


ユリウスはスカートの裾を持つと、久遠殿へと頭を下げた。


まるで本物の貴族令嬢のように。


「改めまして。危ない所を助けて頂き、誠に感謝致します。久遠殿」


「あ、あぁ。気にするな。女人を助ける事は、男として当然だ!君のように…美しい女人なら…尚更」


「おほほ。お褒め頂き光栄ですわ」


「そ、そういえば!君の名を…まだ伺っていない!」


「あら?これは失礼致しました。私の名は…ジュリア、と申します」


「ジュリア………美しい名前だ。…君に似合う」


「おほほはほ。久遠殿は本当に褒め上手ですのね」


頬を赤らめたままトロンとした表情……それが全てを物語っていた。



まだ幼い久遠殿はユリウスに……女装した我が兄に見惚れ…恋をしてしまったのだ、と。



この辺りから……ユリウスは完璧に面白がっていたな。


身分や正体を明かす訳にはいかないので……正しい対処法ではあった。


ここまでなら。


「ジュリア。君の家も貴族か?そうでなくとも…良家なのだろう?」


久遠殿がそう聞いたのは、ユリウスが身につけている服や装飾品が、どれも高価な物ばかりだったからだ。


「わ、私の家は…その~…」


どう答えるべきか…いや、どう誤魔化すべきか悩むユリウスの耳に、これまた都合よく監視役だった若者の声が届いた。


「ジュリア様ぁ!どちらに行かれたのですか!?ジュリア様ぁ!」


自分を呼ぶ声に、ユリウスは久遠殿に見えないよう男らしくガッツポーズをしていた。


「はっ!供の者が呼んでおります!申し訳ありません。私はもう行かなくては!」


大根役者のように棒読みで話すと、ユリウスはそのまま早足に去ろうとした。


しかし久遠殿はそんなユリウスの手を掴んで、必死な顔を向けた。


「ま、待ってくれ!ジュリア…また……会えないだろうか?俺は君と…もっと仲良くなりたいんだ。…ダメ…だろうか?」


悲しげに寄せられた眉に揺らぐ瞳。


それは無理な頼みだった。


ユリウスは断るか…もしくは無言で立ち去るべきだった。


それなのに……ユリウスがとった行動は…一番誤った対処法。


「えぇ。また会いましょう。私も久遠殿ともっと仲良くなりたいですわ。ではまた明日…この時間に…この場所で」


自分を女だと信じ…自分を恋い慕う年下の少年に……期待を持たせ、再び会う約束をして別れた。


この場で終われば…久遠殿にとっても美しい思い出で済んだというのに…。

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