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月に帰る美女(?) 8


このままでは、たとえ朝になっても決着はつかないだろう。


どうしたものか…悩む蓮姫だったが、それはある人物の意外すぎる言葉によって収束する。


「いいんじゃないですか。俺は賛成ですよ、姫様」


「ジーン?」


「え?いいの!?」


「ちょっと何言ってんの!?旦那らしくねぇっしょ!?止めてよ!」


ユージーンの言葉に驚きを隠せない三人。


残火は驚きつつも喜んでいるが、蓮姫と火狼は違う。


先程、火狼が言った通り、今のはユージーンらしくない発言だったからだ。


むしろ普段なら、仮に蓮姫や火狼が残火を仲間に迎えようとしても、絶対に反対している。


火狼と未月、そしてノアールを仲間にした時もそうだった。


最終的に全員が蓮姫の従者とはなったが…ユージーンは毎回必ず、反対してきた。


それなのに…何故、今回に限って賛成しているのか?


「狼も言ったけど…ジーンらしくない。どうして残火さんが仲間になること、ジーンは賛成なの?理由があるんでしょ」


「実は前々から、女の従者が一人欲しいとは思ってたんですよ。いつだったか姫様にも言ったでしょう。仮に大衆浴場の女湯で姫様が襲われたら、駆けつけるのに時間がかかるって」


「その例え…ホントどうなんだろ?」


「ねぇよ!そんな時!そう思うんなら大衆浴場に行かなきゃいいっしょ!?宿屋のシャワーでいいじゃん!はい!これで解決ー!」


ユージーンの意見に首を傾げるだけの蓮姫とは違い、火狼は真っ向から否定する。


火狼は何がなんでも、残火を朱雀の里へと帰したい。


そんな火狼の態度にユージーンも若干引いている。


「お前な…必死か」


「必死にもなるよ!残火じゃ戦えないし!そもそも戦わせたくないの!俺は!旦那だって足でまといはいらないだろ!?」


「本当に足でまといならいらねぇし、邪魔なんだが…」


ユージーンはチラリと、視線を火狼から残火へ移す。


「な、なによ?」


「依頼はした事なくても…朱雀なら護身術くらい使えるんだろ?お前、何が得意だ?」


「え、えと…簡単な体術や…棒術と槍術は習った。薙刀(なぎなた)とかも一応使える」


長物(ながもの)は使えるんだな?なら問題無いだろ。実戦経験はこれから積めばいいしな」


ユージーンに警戒していた残火だが、自分を仲間に加えようとする言葉や姿勢に段々と笑顔になり、目をキラキラと輝かせる。


どうやら本気で、ユージーンは残火を蓮姫の従者に加える気のようだ。


そんなユージーンの態度に火狼は勿論、(あるじ)である蓮姫も納得がいかない。


「ジーン。本当にどうしたの?」


「さっき説明したじゃありませんか」


「さっきの話じゃ納得出来ない。もう一度言うけど…ジーンらしくない」


「……そうですね。あんまり言いたくなかったんですけど…護衛の役割以上に、女の従者が欲しいと思ったんです。姫様の為に」


「え?」


「どういう意味だよ、旦那」


聞き返す蓮姫と火狼に苦笑すると、ユージーンは説明しだした。


「異性より同姓の方が、何事も話しやすい。雑談であれ相談であれ。男である俺達じゃ、女の姫様に対して気づけない事もあります。姫様だって女同士だからこそ、話せる事もあるでしょう?勿論、俺は変わらず姫様をお守りし続けます。でも…そんな俺に出来ない事を補える従者が欲しいんですよ」


ユージーンはまたチラリと残火を見る。


今の話に当てはまるのが、他ならぬ残火だとでも言いたげに。


残火を一瞬その目に映したユージーンだが、直ぐにまた蓮姫へと視線を戻した。


「俺達にも言えない事を相談出来るような…姫様の心を支えるような…そんな存在が必要です。幸いこのガキ…残火の姫様への忠誠心は本物ですからね。そこは魔術を解かれた俺が保証しますよ」


「それで…残火さんを仲間に?」


「えぇ。この俺じゃ足りない部分がある…なんて姫様に言いたくなかったんですが…これで満足しましたか?」


自嘲気味に笑うユージーンに、蓮姫は言葉に詰まる。


いつもそうだ。


このユージーンの行動、言動はいつも、蓮姫というただ一人の主の為。


(ジーンが珍しく…しおらしい。言いたくない事…無理に言わせちゃったのかな。でも今のが本当なら…ジーンは私の事を考えて…残火さんを仲間に)


ユージーンに対して反省している蓮姫も、彼と同じように残火をチラリと見た。


(残火さんを危険な目に合わせたくない。…だけど無理矢理帰したって…また戻って来るかも。自分で言ってたし…それはそれで危ないか)


その視線に気づいた残火は、再び蓮姫へと深く頭を下げる。


「お願い致します!どうか従者として共に行く事をお許し下さい!私は!私は弐の姫様のお力になりたい!弐の姫様の為に生きたいんです!!」


必死に懇願する残火の姿に、蓮姫も心を決めた。



「残火さん………分かった。弐の姫として、私は貴女を受け入れます」



「っ!ありがとうございます!弐の姫様!!」


「っ!?ちょっと待ってよ!姫さん!」


蓮姫の言葉に喜ぶ残火だが、火狼はやはり納得がいかず蓮姫へと抗議する。


「残火はまだ子供だぜ!姫さん女や子供には優しいじゃんか!頼むから!考え直してくれって!」


「狼が残火さんを危険な目に合わせたくないのも、守りたいのもわかる。でも、彼女の意見を無視して港に送っても、また大和まで戻ってくるかもしれない。一人でね。その方が危ないと思う」


「そ、そりゃそうだけどさ!」


「大丈夫。残火さんの事は、私が責任持つって言ったでしょ。残火さんは私が守る。それとジーン、未月、ノア。皆も残火さんを守ってね。同じ仲間として」


蓮姫の言葉にユージーンは笑顔で頷き、ノアールも元気よく『にゃっ!』と鳴いた。


ただ、話についてこれていなかったのか、未月は首を傾げている。


「…こいつ…守る?…それが…母さんの願い?」


「うん。この先も皆で一緒にいられるようにね。だから未月にも、残火さんを守ってほしい。従者同士、仲良くしてほしいな」


「…仲…良く?…わからない。…けど…母さんの望みなら…俺叶える。…俺…そいつ守る」


「ありがとう、未月」


未月に微笑むと、蓮姫は残火へと手を伸ばした。


「改めて残火さん。これからよろしくね」


「どうぞ『残火』とお呼び捨て下さい!弐の姫様!」


差し出された手を両手で握りしめ、残火は嬉しそうに叫ぶ。


残火が仲間に加わる事で、話はまとまったように思えた。


しかし…火狼は納得などせず、むしろ怒りが込み上げていた。


それは蓮姫に対してでも残火に対してでもない。


「…旦那。ちょっとこっち来て」


「あ?なんだ?俺はお前に用なんざ」


「いいから来てってば!」


火狼は乱暴にユージーンの腕を引っ張ると、蓮姫達から距離をとる。



蓮姫達から適度に離れると、火狼は顔だけユージーンへと向けて彼を睨みつける。


そして蓮姫達には聞こえない程度の声量で問いかけた。


「一体…どういうつもりだよ?」


「何がだ?残火を仲間にする理由なら、もう説明しただろ」


「気安くアイツの名前呼ばないでくれる」


眼光をさらに(するど)くする火狼だが、(にら)まれた方のユージーンは驚く事も(ひる)むこともせず、薄く笑みを浮かべる。


そんなユージーンの態度に火狼は確信した。


ユージーンが残火を迎え入れたのは先程の理由だけではない、と。


未だ(つか)まれたままだった腕を解放するように、ユージーンは火狼の手を払い除ける。


「いい加減離せ。それと…もう俺達は仲間だ。名前呼ばねぇ方が不自然だろ」


「マジで旦那らしくねぇな。姫さんの為に女の従者が必要なのはわかる。でも…残火の必要は無い。残火の力量はとっくに見抜いてんだろ」


「あぁ。アイツ…マジで弱いな。まぁ一般人よりは戦えるだろうが…その程度だろ」


「やっぱわかってんじゃん。残火じゃ姫さんの足でまといだぜ」


火狼はユージーンの後方…残火をその瞳に映す。


かつて愛した女性の忘れ形見。


自分が必ず守ると約束した。


火狼の残火への視線に気づいたユージーンは、フッと笑みを深くする。


「そうだな。戦力としては期待してねぇ」


「姫さんの相談役にも向かねぇだろ。残火はまだ子供だ。むしろ姫さんの方が世話焼いてくれるだろうさ。つまり…どれもこれも、残火が仲間になる理由にはならねぇ」


「そうだな。だが…あのガキにしか出来ねぇ事もある。他ならぬあのガキ…お前の大事な残火だから…俺は姫様の傍に置いときたいんだよ」


「それってどういう………っ!!?」


その言葉で…火狼は気づいた。


むしろ気づきたくなかったし、知りたくもなかった本当の理由。


ユージーンも最初から火狼には…いや、火狼にだけは話す…もしくは気づかせるつもりだった。


残火を自分達の仲間として…蓮姫の従者として迎え入れる本当の理由。


ユージーンの真意を。



「………残火は……人質か?…俺への?」



(しぼ)()すように問いかけた火狼の言葉に、ユージーンは笑みを崩す事無く返す。


「人聞きの悪い事を言うな。ただ…保険は必要だろ」


それは肯定。


ユージーンの言葉に頭に血が上った火狼は、乱暴にユージーンの胸ぐらを掴む。


だが、まだ少し残っている理性が怒鳴り散らすのを止めた。


ここで大声を出せば蓮姫達に気づかれる。


必死に怒鳴るのを堪えているが、それでも怒りは収まらず、荒い息遣いのままユージーンへ鋭い眼光を放つ。


それはもはや怒気ではなく…殺気だった。


「…俺がっ…信用ねぇのはわかってる!それでも…悪いのはあくまで俺だ!残火は関係ないだろっ!」


「関係なくないだろ。残火がどれだけお前にとって大きな存在か…お前自身が俺達に教えたんだからな」


「っ、こんなやり方…姫さんは黙ってないぜ」


「あぁ。だが考えてみろ。お前が姫様に喋るのと…俺が残火を殺すの…どっちが早いと思ってんだ?」


「っ、…あんたって……ホント…胸くそ悪い…最低野郎だぜ」


普段の『旦那』呼びではなく、ユージーンを『あんた』呼ばわりする火狼。


今までユージーンに対して多少の敬意を持っていた火狼。


だが今この瞬間、火狼はユージーンに対して殺意しか湧かない。


そんな火狼の反応がわかりきっていたユージーンは、自分に向けられる眼光にも殺気にも一切怯まずに言葉を返した。


「お前が下手な真似しなきゃ、俺も残火には何もしねぇよ」


「その言葉を信用しろっての?俺を信用してない男相手に?」


「言っただろ?『俺の中でお前の評価は最低だ』ってな。(うら)むんなら非道な俺でも、無謀(むぼう)な残火でもなく…原因を作った自分自身を恨むんだな」


ユージーンの無茶苦茶で勝手な理論に、火狼はギリギリと歯をくいしばる。


本当は今すぐにこの男を殺したい。


ユージーンを殺して、残火を連れ、朱雀の里へと帰りたかった。


しかしそれは出来ない。


それにユージーンの言う事も…あながち間違いではない。


残火が里を飛び出したのも、ユージーンがこんな行動に出たのも……原因は自分にある。


火狼は『チッ!』と舌打ちすると、荒々しくユージーンの胸ぐらから手を離した。


そして襟元(えりもと)を正すユージーンの方を見ずに、俯いたまま呟く。


「俺にとって…残火は大切な存在だ。旦那が姫さんを大事にしてるみたいにね。だからさ…俺を信用してよ。俺は残火を危険な目に合わせたくないし…姫さんの事も…本当に好きだから傍にいるんだ」


絞り出されたような呟き。


それは火狼の本心か…いつものように嘘か。


はたまた嘘と本心…どちらも混ざっているのか。


ユージーンにはわからない。


今の言葉の中にある、たった一つの真実以外は。


「それは…今後のお前次第だろ。…しかし…」


ユージーンは蓮姫と楽しく話し込んでいる残火へと目を向けた


「槍に薙刀…ね。暗殺に向かない武器ばかり習わせてる時点で、本気で仕事させる気は無かったんだな」


「…まぁね。それが朱火さん…残火の母親との約束だから。残火に仕事はさせない。危険な目に合わせない、ってね。でも朱雀直系に変わりないから、武芸は習わせなきゃいけない。苦肉の策さ」


「戦わせたくないのに…戦わせなきゃならねぇ。…その気持ちはわかるけどな」


ユージーンは視線を火狼へと戻す。


火狼もまたユージーンを見つめ返した。


「安心しろ。お前が裏切らなきゃ…姫様の言いつけ通り、俺も残火を守ってやる」


「………ふっ…そうね~。俺も信用されるように、これからも姫さんを守るぜ~。残火の為にもね」


笑顔で言葉を交わす二人だが、お互い相手の心情は分かっている。


たった一人の自分の大切な女を守る為……相手にとって大切な女を守る。


あくまで大事なのは自分の女であり、相手の女は二の次だ。



ユージーンと火狼は上辺だけの笑顔を浮かべると、形だけの握手を交わした。



ユージーンと火狼が不穏(ふおん)な空気を出している間、蓮姫は残火と談笑していた。


「じゃあ仲間になったことだし、お言葉に甘えて、これからは残火って呼ばせてもらうね」


「はいっ!弐の姫様!」


嬉しそうに大きな声で返事をする残火。


もし残火に尻尾が生えていたら、ブンブンと全力で振っていただろう。


むしろ蓮姫の目には、大きく振られる尻尾が見えるようだ。


嬉しそうに蓮姫に懐く残火の姿は、火狼以上に犬を連想させる。


(なんか…小動物みたい。可愛いな)


ソフィアの時もそうだったが、年下の女の子に慕われるのは嬉しい蓮姫。


それが美少女なら尚更だ。


蓮姫に認められて喜ぶ残火。


そんな残火を見て微笑む蓮姫。


ニコニコと笑みを交わす女子二人の隣で、未月がポツリと呟く。


「…弐の姫…呼んじゃダメ」


「は?なんでよ?三つ編み男」


「残火、彼は未月。同じ従者同士だし、名前で呼んで」


「わかりました!弐の姫様!」


「…だから…それダメ」


「だから、何がダメだってのよ?」


蓮姫に対してと未月に対してでは、明らかに態度が変わる残火。


そんな残火に苦笑しつつも、蓮姫は未月の言葉を補足する。


「その呼び方だと、私が弐の姫って直ぐにバレちゃうから。未月にも前に説明したよね。だからでしょ」


「…うん。だから俺…母さん…って呼ぶ」


「は?あんたの言う『母さん』って弐の姫様の事だったの?そっちの方がよっぽどおかしいじゃない!なんでよりによって…母親なの?今すぐ呼び方変えなさいよ。迷惑でしょ」


「……迷…惑?…母さん…俺…迷惑なのか?」


残火の指摘を受け、蓮姫へと問いかける未月。


相変わらず表情は(とぼ)しいが、その声には悲しみや困惑が込められていた。


蓮姫は未月に微笑むと、いつものように頭を撫でてやる。


「迷惑じゃないよ。好きに呼んでって言ったのは私だし。それにね、最初はビックリしたけど…今はもう未月に『母さん』って呼ばれるのは慣れたよ。そう呼ばれるのも好きになったし…それ以外だと逆に変な感じしちゃう。これからも変えないでいいからね」


「…うん。…母さんは…母さん。…俺…母さんって…呼びたい」


「うん。それでいいよ」


蓮姫の優しい声や微笑みを受け、頭を撫でられる未月。


彼は蓮姫の手を(はら)()ける事は絶対にしない。


未月が一番、心が安らぐ相手とその行為だから。


「…やっぱり…母さんは…優しくて…あったかい」


「ふふ…良かった。残火、未月の『母さん』呼び、私は迷惑じゃないよ。だからこのままでいいの」


「…弐の姫様が…そうおっしゃるなら…」


あまり納得していない残火だったが、蓮姫に文句を言う訳にもいかず、渋々と頷いた。


「さて…貴女も呼び方を改めてもらえると嬉しいな。仲間になったのに『弐の姫』って呼ばれるの…なんだか距離を感じちゃうから」


「そう…ですか。………っ、わかりました!姫姉様(ひめねえさま)!」


「ひ、姫姉様(ひめねえさま)?」


残火の新しい呼び方に、蓮姫は自然とその言葉をオウム返ししてしまう。


呼んだ残火の方は妙案(みょうあん)だとでも言いたげに、キラキラと目を輝かせていた。


きっと褒められると思っているのだろう。


「はい!私は今後、弐の姫様を実の姉の(ごと)くお慕いして参ります。私の事も、どうぞ妹のように扱い、何なりとご命令下さいませ!」


(命令って…それじゃ姉妹というか…普通に主従関係だよね?)


一人っ子の蓮姫は、兄弟姉妹の関係は何となくしかわからない。


しかし残火の言う通りなら、やはり主従関係の方がしっくりくるだろう。


それにしても…残火の今の言葉…蓮姫には引っかかる部分があった。


(こういう場合って『父のように』とか『母のように』って聞くけど…残火はあえて『姉のように』なんだね)


それは蓮姫の年や大和での行動よりも、残火の中にある母親像が主な原因。


彼女にとって母とは忌まわしいだけの存在だろうから『母のように慕う』という言葉こそ残火は理解できないだろう。


(まぁ…大和で姉妹のフリはしてきたし…歳も近いから姉の方が自然かな。…にしても)


姫姉様(ひめねえさま)…か」


「お嫌…でしたか?」


「嫌って言うか…なんか風の谷感が…」


「風の谷…ですか?すみません。私は竜の谷くらいしか…知らなくて」


「あ、ううん。むしろ知らなくていいんだよ。こっちの話」


「???」


通じる訳がない話をまたしてしまい、蓮姫は慌てたように首を振った。


しかし、蓮姫がその呼び方を受け入れられないのは、もう一つ理由があった。


「残火。何でもいいって言ったのに悪いんだけど…他の呼び方がいいかな。姉様(ねえさま)呼び以外」


蓮姫が『姉様(ねえさま)』と呼ばれるのを拒む一番の理由。


それは蓮姫を『お姉様』と呼んで慕う存在…ソフィアだった。


(お姉様呼びは…ソフィだけの特権だし。残火も可愛いけど…ソフィだって…やっぱり可愛い妹だから)


「ダメ…かな?残火」


「いえ………っ、では!姉上(あねうえ)とお呼びしますね!」


「あ、お姉ちゃんからは離れないだね」


何がなんでも、残火は蓮姫を姉として扱いたいらしい。


そんな彼女の決意の硬さに、蓮姫もプッと吹き出した。


「ふふ、いいよ。『姉上』で。姉様呼びじゃないし、未月だって『母さん』だもんね」


「っ!いいんですね!では!これからもよろしくお願い致します!姉上!!」


「うん。よろしくね、残火」


「にゃう~ん」


「ふふ、ノアもよろしくだって」


蓮姫はノアールを抱き上げて軽く撫でると、片手を残火へと差し出す。


差し出された蓮姫の手を両手で握りしめる残火。


蓮姫にはまた、大きく振られる尻尾が見えた気がした。

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