月に帰る美女(?) 5
とりあえず礼を尽くす相手には礼を尽くさねば、と考えた蓮姫は、木霊と同じように頭を下げ自己紹介をする。
相手は自分の事を知っているようだが、それでも自分から名乗らないのは失礼だろうと。
「ご、ご丁寧に…ありがとうございます。弐の姫の蓮姫です」
「はい。弐の姫様のお噂はかねがね…あぁ、誤解なさらないで下さい。歪んだ人間の噂とは違い、木々の噂は真実を語ります。我々、精霊一族は弐の姫様を軽んじる事も、蔑ろにする事もありません」
「あ、ありがとうございます」
笑顔を絶やさず、自分に対して好意的な言葉を紡ぐ木霊に蓮姫は礼を告げるが、本心では目の前の女を警戒していた。
その理由は木霊が翁に告げた言葉の中にあった。
蓮姫と木霊が見つめあっていると、ユージーンが動く。
蓮姫を背に庇うように二人の間に入ると、彼女の疑問を代弁するように木霊へと問いかけた。
「あの魔術は、お前の仕業だな?」
「はい、その通りです。この美しい竹林を人間の血で汚したくありませんでしたので。強制的にあの者達を動けなく致しました。ご安心下さい。彼等は圧迫や骨折の苦痛、そして死への恐怖で気絶しただけです」
ユージーンの問いにサラリと、そしてニコやかに答える木霊。
笑顔を絶やさぬ木霊だが、その言葉の内容は優しげな微笑みとは真逆のもの。
そんな木霊を鼻で笑うように、ユージーンは言葉を続けた。
「苦痛はともかく…恐怖とやらはお前が意図的に植え付けたんだろ?精霊は幻術が得意だ。気絶する程の恐怖を与えるなんて造作もない」
「ふふふ。お察しの通りです」
「呑気に笑ってる所悪いが…何故俺達…いや、姫様を助けた?」
「昼間も言いましたでしょう?私は貴方が恐ろしい、敵に回したくはない、と。弐の姫様をお助けするのは、貴方という存在が十分な理由となります」
「そうか。ならさっさと魔術を解け。奴等には聞きたい事がある」
「それが貴方のお望みなら喜んで。しかし私には、竹を成長させる事は一瞬で出来ても、枯らせるには時間がかかります。そもそも…皆様にはそのような時間はございません」
ユージーンの提案に木霊は首を振ると、全員に聞こえるように説明をする。
「 町の木々から伝言です。帝の追っ手が内裏を出たと。この竹林に来るのも時間の問題。皆様は急いで大和を離れなくては。その為に…この竹林に来られたのでしょう?私の力を借りる為に」
「ジーン…どういうこと?」
木霊の言葉に誰よりも早く反応したのは蓮姫だった。
そもそも何故集合場所はこの竹林だだったのか?
「姫様と内裏から逃げる時に使った空間転移。アレは木霊も使えます。今の俺は来た道を戻る事しか出来ませんが、大和に古くから存在するこの木霊なら大和の何処へでも転移出来る。つまり無駄なく大和の端まで進み、抜け出せます。それが一番安全で一番の近道と判断しました。姫様にとっても、かぐや姫達にとっても」
「懸命なご判断だと思います。私も皆様にお力添えする事、異論はございません。弐の姫様方は私の本体のある北東に、かぐや姫達は大和の入口でもある西南へと送りましょう。そのまま真っ直ぐ進めば追っ手を振り切れるはず。大和の外までは、いくら帝と言えど追っては来ないでしょう」
蓮姫の正体や帝に連れていかれた事も知っていたように、木霊は大和で起こる出来事を把握しているようだ。
それ故に迅速に動き、蓮姫達を逃がす段取りまで説明してきた。
蓮姫の本心は、助けてもらったとはいえ得体の知れない木の精霊を深くは信用出来ない。
自分達はまだいい。
蓮姫本人も想造力を使えるし、彼女の従者は強者揃いだ。
しかし…かぐや姫達は本当に大丈夫か?と。
あれだけ拒絶されたというのに、蓮姫は翁やかぐや姫達を気にかけていた。
そんな蓮姫の不安を感じた木霊は、彼女を安心させようと説明する。
「ご心配いりません、弐の姫様。私は人間…特に翁のような人間は嫌いですが、同族であるかぐや姫や、嫗のように真実を見る人間を傷つける事は決して致しません」
「え?同族?」
かぐや姫の正体をまだ知らなかった蓮姫が首を傾げるが、木霊は答える事なく、かぐや姫達へと声をかけた。
「聞いての通りです。貴方がたはこのまま大和を出て、新天地で暮らしなさい」
「か、勝手な事を言わないで下され!木霊様!」
今までなんとか黙っていた翁だったが、再び頭に血が上ると、そのまま木霊へ怒鳴りつける。
「何故わしらが大和を出なくてはならないんじゃ!大和はわしらが生まれ育った故郷!この歳で広い屋敷に財産も手に入れたんじゃ!それを捨てる事など出来はせんっ!」
「それが本音ですか?貴方はやはり…下劣な人間でしたね。いえ、金銀を与えた為に変わったというのなら…それは私の責任かもしれませんが」
「ええい!なんと言われようと!わしは決して大和を出ぬぞ!…そうじゃ!弐の姫を帝に差し出せばいいんじゃ!そうすれば大和を出ずに済む!それどころか今度こそわしらは出世できる!木霊様!倉持の皇子のように、早う弐の姫達を捕らえて下され!そもそも悪いのは全部弐の姫なんじゃあ!」
あまりにも勝手で自己中心過ぎる発言をする翁。
翁の頭はパニックになり、もはや物事の判断も出来なくなっている。
優しかった翁にこんな発言をさせたのは、他ならぬ自分のせいだと理解している蓮姫。
悲しげな顔をする蓮姫を見て、従者達、そして残火まで怒りに顔を歪めた。
だが彼等よりも早く、ある人物が行動する。
その人物は翁に近づくと、そのまま右手でバキッ!と音を立てて翁の顔面を殴りつけた。
翁は歯が折れ、口から血を流しながらその場に倒れる。
何が起こったのか理解出来ず、目を白黒させる翁。
そして他の者も呆気にとられたように翁を殴った人物を見つめた。
翁の妻……嫗を。
嫗はニコニコと笑顔を浮かべながら翁を見つめ…いや見下ろしている。
「まったく…いい加減にして下さい、あなた。あなたがその気なら…仕方ありません。私は決めました。このままあなたと別れて、私はかぐや姫と共に大和を出ます。離縁致しましょう」
「な、何を言っておる!?お前!気でも触れたのか!?正気に戻るんじゃ!」
「気が触れたのはあなたの方でしょう。まったく…皆様、お見苦しいものをお見せ致しました」
深く頭を下げる嫗に、ポカンとしていた一同も我に返る。
最初に嫗に声をかけたのは、彼女の娘であるかぐや姫だった。
「お、嫗?何してんの?」
「ほほ。姫や。見てわかるでしょう?命の恩人を侮辱する愚かな夫に鉄槌を下し、離縁を言い渡しただけですよ」
拳を握ったままニコニコと朗らかで老婆らしい笑みを浮かべる嫗の姿は、何処か恐ろしい。
もはや蓮姫が嫗に抱いていた『のほほんとしたお婆さん』のイメージは完璧に消えた。
そんな嫗は蓮姫へと深く頭を下げる。
「数々の御無礼、お許し下さい。弐の姫様」
「嫗…謝るのは私の方です。私は…皆さんを騙していました」
「弐の姫様が謝る事などありません。貴女様は私の可愛い娘、そして元夫を助けて下さいました。私は貴女様に…弐の姫様に心より御礼申し上げます」
嫗に『元夫』呼ばわりされた翁の顔からサー…と血の気が引き真っ青になる。
しかし今度は顔を真っ赤にさせポロポロと泣き出してしまった。
そんな翁をオロオロしながら見つめる梅吉と、若干引いているかぐや姫。
グスグスと夫…いや元夫がすすり泣く声を聞きながらも、嫗はそれに反応する事なく言葉を続けた。
「弐の姫様はどうぞ、私達の事などお気になさらず旅をお急ぎ下さいませ。私達は大丈夫です。生きてさえいれば、なんとでもなるものですよ」
「しかし…私のせいで、皆さんは着の身着のまま大和を出る事に…」
路銀の無い旅の辛さや不安は、蓮姫もよく知っている。
しかし嫗はその言葉に小さく笑った。
「ほほほ。ご心配には及びません。路銀でしたら……しかと持ってきておりますよ。ほら」
そう言うと嫗は握ったままだった拳を開く。
皺だらけの手の中には……小さな金塊が入っていた。
「え?…金?」
「ユージーン殿から『逃げる支度をするように』と言われておりましたので、袖の中にいくつか金銀や玉を入れて参りました。それに私やかぐや姫の着物は上等な絹。当面の心配はいりません」
金の心配はいらない、と嫗は伝えたかったのだろうが…小さいとはいえ金塊を握りしめたまま翁を殴った事を知り、若干顔が引き攣る蓮姫。
それは翁へ向けた嫗の怒りが、それだけ大きかった事がわかる。
『良かった』と答えていいものか悩む蓮姫だったが、そんな彼女に木霊は真剣な口調で話しかけた。
「弐の姫様。本当に時間がございません。そろそろ参りませんと」
「あ、はい。…皆さん…本当にお世話になりました」
蓮姫がかぐや姫達へ頭を下げると、従者達も渋々頭を下げる。
本当なら嫗以外に頭など下げたくなかったが、主だけにやらせる訳にはいかない。
嫗は微笑みながら蓮姫と同じように頭を下げる。
そして頭を下げたまま後ろにいるかぐや姫に声をかけた。
「姫や。これが今生の別れやもしれません。姫からも弐の姫様に御礼を申し上げなさい。友になったのでしょう?」
「…………………」
嫗の言葉にかぐや姫は蓮姫を見るが、直ぐにまたプイッと顔をそむけた。
そしてそのまま…小さく呟く。
「………蓮は…私のこと…騙してた友達だもん」
かぐや姫の言葉にイラつくユージーン達だが、嫗と蓮姫は微笑んでいた。
「…かぐや姫…ありがとうございます」
「っ、蓮っ!今生の別れじゃないからね!次に会った時覚えてなさいよ!あんたには文句も説教も!言いたい事たっくさんあるんだから!!」
「はい。それでは皆さん…お元気で」
「よろしいですか?では先ず、皆様からお送り致します」
蓮姫が別れの挨拶を告げると木霊は、蓮姫達へ近づく。
もう自分達は遠くへ飛ばされるのだと悟った蓮姫は、声を大にして嫗に呼びかけた。
「嫗!翁は皆さんをとても大切にしている優しい人です!別れないで下さい!」
蓮姫が嫗へ叫んだ直後、蓮姫一行と木霊は一瞬でその場から消えてしまった。
残されたかぐや姫は、呆れたようにため息をつく。
「…はぁ…まったく…最後まで人の心配して…どんだけお人好しなのよ」
「ほほ。弐の姫様は本当にお優しい方でしたね。私は…長い人生で姫にも恵まれ、弐の姫様にも出会えた。それはやはり……あなたのおかげなのかもしれませんね?」
嫗はニコニコと翁へと振り向く。
翁は泣き続けたせいか、皺だらけの顔を余計にしわくちゃにさせていた。
「お、お前…わしを捨てんでくれ。お前と姫に捨てられたら…わしは……わしはぁ…」
「ふぅ…仕方ありませんね。あなたは一人では何も出来ないんですもの。『別れないで下さい』と優しいお言葉に免じて、離縁はしないであげますよ」
「ほ、本当かっ!!よ、良かった…。くそ…わしがこんな目にあうのも…全部弐の姫のせいじゃ…」
「あなた?やっぱり離縁致しましょうか?」
この期に及んでまだ弐の姫を目の敵にする翁に、嫗は再び恐ろしい笑顔を向けた。
ヒッ!と小さく悲鳴を上げると、翁は土下座しペコペコと何度も頭を下げる。
そんな主人達のやりとりを見て、おずおずと梅吉は言葉をかけた。
「き、北の方様。あんまり御館様さ責めねぇで下せぇ。弐の姫に関わったら不幸さなる。皆が言ってる事だ。御館様は悪くねぇ。それに弐の姫のせいで…おら達はこんな目にあっちまっただ。やっぱ…悪いのは弐の姫だ」
翁に毒されているのか、梅吉もやはり全てを蓮姫のせいにする。
だがそんな梅吉を、かぐや姫は叱責した。
「梅吉っ!」
「は、はいっ!かぐや様っ!」
「蓮の事を悪く言うのは梅吉でも許さないから!翁だって許さないわよ!蓮の事を悪く言っていいのは…友達の私だけなんだからっ!」
かぐや姫は力の限り、梅吉と翁に向けて怒鳴る。
そんな娘に嫗は優しい微笑みを向けた。
「か、かぐや様ぁ…」
「姫や…そんなに怒らんでくれ…」
「怒られたくないなら、二度と蓮の悪口言わないで!」
かぐや姫が翁と梅吉に念を押していると、再び木霊が彼女達の前に姿を現した。
「待たせましたね。次は貴方がたの番です。急ぎましょう」
「分かった。ねぇ、木霊…私」
「話は後です。本当に早くこの場を離れなくては」
かぐや姫が木霊に何かを告げようとしたが、木霊はその言葉を遮り強制的にかぐや姫達を送ろうとする。
竹林から消える一瞬…木霊は自らの魔術で生やした竹の塊を見つめていたが……それは誰にも気づかれなかった。
木霊から送られる視線の気配に気づいた張本人…その場にいた姿の見えない……ある人物を除いて。
木霊の空間転移によってかぐや姫達は、ある山の麓へと飛ばされた。
その山は蓮姫達が大和に入る前、大和の都を一望していた山であり、麓の位置は大和側とは反対。
木霊は西を指さし、かぐや姫達へ告げる。
「ここから西に進みなさい。貴方々の道中は周りの木が守りますので、危険はありません。一日程歩けば栄えた港町へ着きます。老体には大変でしょうが…そこまで行けば安心して暮らせるでしょう」
翁は不本意極まりない顔をしていたが、また何か文句を言えば女性陣の怒りを買うと悟り、そのまま口をへの字にして黙っていた。
そんな翁の代わりに嫗が木霊へと礼を告げる。
「何から何まで…ありがとうございます、木霊様」
「嫗。貴女は物事を正しく判断出来る…いえ、真実を見る目をお持ちのようですね。貴女が妻ならば、翁にコレを預けたのは正解だったのでしょうか」
木霊が言う『コレ』とはかぐや姫の事。
そしてそれはかぐや姫も分かっている。
自分の正体もかぐや姫は知っていた。
だからこそ、かぐや姫は木霊に伝えなくてはならない言葉があった。
「木霊」
「貴女が私をそう呼ぶのはおかしいでしょう。貴女も私と同じ木霊なのですから」
「知ってる。私が人間じゃない事も…木霊が…本当は本体のある土地を守る精霊だって事も…」
「その通りです。本来なら貴女は…私と共に大和に留まるべき存在。でも貴女は…育ての親や下男と離れたくはないのでしょう?」
「………うん」
頷くかぐや姫を見て、木霊はわざとらしくため息をついた。
しかしそれは呆れている訳でも、困っている訳でもない。
木霊は微笑んでいた。
「正直ですね。私も本当は貴女を返して頂くはずでした。竹林に戻り、私と共に木霊としての役目を果たしてもらう為。ですが…良くも悪くも…貴女は人間らしく育った」
「わ、悪いっての?」
「どうでしょうね?私には分かりかねます。私は人間に育てられた事も、人間にそこまでの執着もありませんから。貴女を人間に預けたのも…長く不変な木霊の在り方に変化をもたらしたかった…それだけのこと」
「じゃ、じゃあ!いいのよね!?私はこのまま!翁と嫗と梅吉とお松と……あ!!お松!お松を忘れてた!!?」
飼い猫の存在を思い出し、慌てふためくかぐや姫に木霊は吹き出してしまう。
「ふふっ、はははっ!木霊が猫の心配をするとは。本当に人間のようですこと。これでは木々の守りなどまだまだ任せられませんね。安心なさい。貴女の猫も館からは逃げています。後で他の木霊や精霊を使って猫を届けさせましょう」
「あ、ありがとう!!」
喜ぶかぐや姫を見て、嫗も翁も梅吉も自然と笑顔を浮かべる。
色々あったが…家族は離れる事なく、今後も共に暮らせるのだと。
しかし木霊は真剣な表情で、かぐや姫へと告げた。
「かぐや姫。貴女は木霊。いくら人間らしい風貌であろうと、心が人間に近づこうと…それは何があろうと変わらぬ事実」
「わ、分かってるわよ」
「本当に分かっていますか?木霊である貴女が、今後も人間と共に暮らすという意味が。翁や嫗は勿論、その梅吉やこれから出来る友人が死んでも…貴女は存在し続けなければならない。いつか自分一人が残される運命。それを受け入れられるのですか?」
「…………」
木霊からの指摘を受け、かぐや姫は言葉に詰まる。
一人残される未来を想像し、かぐや姫はゾッとした。
しかしかぐや姫の代わりに、彼女の家族が木霊へと答える。
「心配には及びません。姫はまだまだ子供ですからね。母としてしっかりと、この子を育て上げるまでは私も死にはしませんよ」
「そうじゃな。わしも可愛い姫を残して、さっさと死ぬ訳には参りませんて」
「お、おら!かぐや様に一生お仕えするんだ!少しでも長生きさして!ずっとずっと!かぐや様のお世話さするんだ!おらは!かぐや様を一人になんてしねぇ!」
その言葉にかぐや姫の小さな目に、涙が溢れてきた。
「…嫗…翁………梅吉。…グスッ…木霊!何を言われようと!私は家族と一緒に暮らす!いつか一人になる未来が待っているとしても…私は今を!家族と一緒に暮らす今を選ぶ!」
「それが貴女の答えですか。わかりました。私は貴女をこのまま見送りましょう。どうぞ皆さん…お元気で」
木霊の別れの言葉に、かぐや姫達は一度深く頭を下げると、夜道を歩き出した。
大和への執着はもはや無いのか、彼女達は振り返る事無く歩き続ける。
そんな人間達を見て、木霊は笑みを浮かべた。
「ふふふ…いくら木霊が宿っているとはいえ、他の木々と違い竹の寿命とは長くないのですが。まぁ…アレの覚悟も、その家族の絆も知れたので良しとしましょう。さようなら、かぐや姫。お幸せに。………さて」
木霊は同族であるかぐや姫の幸せを願うと、再び上級魔術…空間転移を発動させる。
一瞬で竹林へと戻った木霊を出迎えたのは、一人の男だった。
その男は両目に傷があり、何も映していない目で木霊を睨みつける。
木霊はそんな男に警戒する事も怯える事もなく、語りかけた。
「お待たせ致しました。どうやら空間転移を使いすぎて、貴方にかけた幻術や結界が解けてしまったようですね」
「木霊っ!弐の姫を何処へやった!?」
「弐の姫でしたら既に大和の外です」
「貴様っ!!若様を裏切るつもりかっ!?」
「裏切るとは心外ですね。私は若様の部下である貴方をお助けしたのですよ。むしろ…若様を裏切るというのなら…若様が私と交わした誓いを破ろうとした貴方の方ではありませんか?」
殺気立ち怒り狂う男に対して、木霊は淡々と言葉をかけた。