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月に帰る美女(?) 2


帝だけではない。


この場にいる蓮姫以外の者は全て、ユージーン…いや、かぐや姫と呼ばれる女に心奪われている。


誰も彼も顔を赤く染め、(まばた)きすら忘れたように目の前の美女から視線を逸らせずにいた。


彼等の反応を、ユージーン本人も当然だと受け止めている。


自分にとって一番の武器は高い戦闘力でも魔力でもない。


この美貌(びぼう)だと、彼自身が理解しているからだ。


だからこそ微笑みを崩すことなく自分の…いや、蓮姫の望む言葉を帝へと告げた。


「帝。私は(おお)せの通り内裏(だいり)へと参りました。私の代わりに来た者達をお返し下さいませ」


「そなたは…他者を思いやる、心まで美しい女人(にょにん)のようだ。実に素晴らしい。おい醜女(しこめ)。かぐや姫の望み通り、さっさと()ね」


「……………へ?…っ、あ、は、はい!」


自分の偽物だというのに、女装したユージーンのあまりの美しさに見惚れ、反応が遅れた本物のかぐや姫。


慌てたように我に返ると、ひたすら頭を下げて立ち上がる。


「内裏の門に翁とい…コホン。従者の一人がおります。お二人共、そのままお帰りなさい」


ユージーンは普段通り火狼を「犬」と呼ぼうとしたが咳払いし言い直す。


「あ、ありがとうございます!行くわよ!蓮!」


「は、はい。それでは」


「待つのだ」


かぐや姫と共に立ち上がろうとした蓮姫だったが、彼女の前に帝が立ち塞がる。


今まで微笑みを絶やさなかったユージーンだが、帝の行動にピクリと眉を動かした。


「帝。まだ何か…この者達に御用でしょうか?」


醜女(しこめ)には用など無い。しかし、この女人が内裏を出る事は許さぬ。この者は朕とそなたの子…未来の光の君の乳母(めのと)となるのだからな」


「……………私と帝の子…ですか」


帝の言葉にユージーンは再度微笑んだ。


しかし先程までの微笑みとは違う。


ユージーンは今、帝を馬鹿にしたように見下している。


それすら帝は気づいていないのか、嬉嬉(きき)として語り出した。


「そうだ!そなたと朕の子こそ未来の光の君!朕は約束しよう!そなたの産んだ子を東宮(とうぐう)に!次の帝にすると!この者は光の君を立派に育てる為、必要なのだ!まずは手始めに、この久遠と祝言をあげさせる!帰す訳にはいかぬぞ!」


「み、帝!私は彼女と祝言をあげるなど!まだ承諾しておりません!帝の戯言(ざれごと)です!貴女もお聞き流し下さい!」


何故か帝の言葉にいち早く反応したのは久遠だった。


久遠は必死にかぐや姫…もといユージーンに「誤解です!」「私と彼女は何もありません!」と繰り返し訴える。


その姿は帝の言葉を否定しているというより、必死に自分の身の潔白を証明しようと焦っているようにも見え、蓮姫は首を傾げた。


が、久遠の焦りも帝の身勝手も、ユージーンには関係ない。


「……ふふふ。さようですか。帝のお考えは…よぉくわかりました」


ユージーンはそれだけ告げると、今度は本物のかぐや姫へと声をかける。


「貴女だけでも直ぐにお行きなさい。翁と共に…従者の案内するまま。急いで」


「え?は、はい!わかりました!」


かぐや姫はユージーンの言葉に力強く頷くと、桐壺を出てバタバタと足早に去っていった。


かぐや姫の足早が聞こえなくなったのを確認し、ユージーンは再度、帝へと声をかける。


「帝のお望みはわかりました。しかし…それは出来ません」


「何を言う?朕の妃であり東宮(とうぐう)の母ぞ?大和の女であれば、誰もが欲しがる地位だ。断る理由など、あるはずがない」


帝は本当に断られる意味が分からないのだろう。


自分が待ち望んだかぐや姫が、帝である自分の申し出を断るなど有り得ない、と顔に書いてある。


ユージーンは悲しげに目を()せ(勿論芝居だが)、力なく帝へと告げる。


「帝。私は大和の者ではございません。帝の妃になどなれぬ者。私は…」


ユージーンは一度、チラリと右目で蓮姫を映してから言葉を続けた。



「月の都に住まう者。私は今晩…月へと帰らねばならぬのです」



それだけ告げると、ユージーンは扇で顔全体を隠してしまった。


いきなりの告白に、帝も久遠も…いや他の者達の顔は驚愕に染まる。


全員が言葉を失ったように、ただ呆然としていた。


が、やはり蓮姫だけは違っていた。


(…そ、そこでおとぎ話と繋げるの?かなり強引で無茶があるけど…誰も何も言わないって事は…?)


普通、こんな話を信じる者はいない。


むしろ適当な嘘をついて帝の命令を断った、と厳罰に処されるだろう。


蓮姫が心配そうに帝や久遠へと視線を向けるが、彼等の表情は真剣そのものだった。


帝は珍しくキリッとした目付きで、かぐや姫…ユージーンを見つめる。


「……そうであったか。そなたが三年で成長した事は聞いておる。それが(まこと)なら…月の話も(まこと)であろう。何より、そなたのような美しい女人(にょにん)の言葉だ。疑うべくもない」


それはすなわち、ユージーンの嘘……かぐや姫が月の住人というおとぎ話を、帝が信じた証拠だった。


ユージーンはその言葉を聞くと、扇で顔を隠したまま、ふるふると肩や扇を持つ手を震わせている。


(し、信じた。…まぁ、その方が都合がいいけど。……にしても…ジーン…あれ絶対笑ってるでしょ)


自分の話を馬鹿正直に信じた帝達に顔が見られぬよう、扇でガードしつつユージーンは必死に笑い声を抑えている。


そんなユージーンに呆れる蓮姫。


この場に火狼がいなくて本当に良かった。


彼なら大声で爆笑しているところだ。


だが帝も周りの者も、かぐや姫が月の住人であり、月に帰る運命だと信じ込んでいる。


いつまでも顔を隠して体を震わせる女の姿は、その運命を悲観し泣いているようにも見えた。


それが余計に嘘を真実へと錯覚させていく。


しかし、それが逆効果にも働いてしまった。


「…かぐや姫……泣いておるのか?…そうか。本心では育ててくれた翁と嫗…そしてこの大和を離れたくないのだな。そなたは…自分の運命(さだめ)に苦しんでおる…なんと健気(けなげ)な…。良かろう!そんな運命(さだめ)は朕が振り払ってくれる!」


「は?」


何故かまた勝手に盛り上がる帝に、ユージーンは扇を右目から少しズラすと、素の声が出てしまった。


この帝は、やはり都合の悪い事は何も聞こえないらしく、そのまま言葉を続ける。


「かぐや姫よ!月になど帰る必要は無い!やはり朕の妃となるのだ!それこそが、そなたの本当の幸せなのだから!」


結局話が元に戻ってしまい蓮姫はガクリと肩を落とした。


ユージーンの方は扇に隠れて小さく舌打ちする。


(この野郎…自分に都合良くしか考えらんねぇのか?…なら……徹底的に俺を諦めさせてやるよ)


帝にかぐや姫…もとい美しい自分を諦めさせる方法。


それは…やはり一つしかないと(さと)るユージーン。


そろそろ本気で動こうかと思った時、ある男からの視線に気づく。


それは帝と同じくらい、熱の(こも)った視線だった。


ユージーンは彼の方へ視線を返すと、ニコリと微笑む。


ユージーンに微笑みを向けられた男…久遠は赤い顔を更に染め、バクバクとうるさい自分の胸をギュッと掴んだ。


「…かぐや姫……貴女は…帝の言う通り…月に帰りたくないのですか?」


「………どういう意味でしょう?」


「久遠?何を言う?」


久遠の発言にユージーンは首を傾げ、帝は眉間に(しわ)を寄せた。


探るような目付きで久遠を見つめるユージーン。


一方久遠は、美女に正面から見つめられ、慌てたように顔を背けた。


顔はやはり赤く染まったままだが。


「そ、その……貴女が月に帰りたくないのなら…帝の言う通り…ずっと大和にいれば…良いかと。私も…そんな貴女の…お力になりたい…と」


「まぁ…そうでしたか」


ユージーンはニコニコと微笑みを崩すことなく、久遠への視線を逸らさない。


久遠はチラリと美女を見ると、また慌てたように顔を背けた。


その姿は、初めて恋をした初心(うぶ)な少年のよう。


「っ、…そ、その…美しい…貴女のお手伝いが出来れば…と……わ、私は…その…」


ボソボソと小声で呟く久遠の姿に、蓮姫は口をあんぐりと開け絶句している。


蓮姫が知る久遠は、美しく気高い、自分にも他人にも厳しい天馬将軍。


そんな彼のモジモジする姿を蓮姫は見た事がない。


そして出来ることなら見たくも無かったし、知りたくもなかった。


(て、天馬将軍まで……ジーンの虜に。…だからさっき、私との祝言の話を必死に否定してたのか。それにしても…さっきのが本物のかぐや姫だとか、従者が助けに来るとか、天馬将軍にはしっかり説明はしてたのに。…多分もう何もかも忘れてるな)


蓮姫の予想通り、久遠の頭の中は目の前の美女で()()くされていた。


他のことなど考える余裕もない。


「うふふ。ありがとうございます。貴方はとても単じゅ…いえ、優しいお方ですね」


「こ、光栄です」


思ったまま久遠を『単純』と言いそうになったユージーンだが、その美しい微笑みで隠しつつ言い直す。


やはり久遠にはバレていない。


「久遠よ。そなたも男であったな。これ程美しい女人(にょにん)…心奪われるは当然か。しかし…いかに久遠とはいえ、それ以上はならぬ。かぐや姫は朕の妃だ」


久遠の反応が微笑ましいと思いつつも、しっかりと牽制(けんせい)する帝。


その言葉に、久遠もハッ!としたように表情を元に戻した。


帝はかぐや姫ことユージーンに一歩近づくと、彼が顔半分を隠している扇に触れる。


「そなたは朕のもの。このまま寝所に参ろうではないか。その前に…この扇を退かし、そなたの美しい顔を全て朕に見せるのだ。朕のかぐや姫よ」


帝が扇を退かそうと力をこめた瞬間、ユージーンはヒラリと彼の手を(かわ)した。


そして帝が何かを口にする前に、蓮姫へと近づく。


ユージーンは扇を持っていない方の手を蓮姫に差し出すと、優しく声をかけた。


「大変お待たせ致しました。参りましょう」


「え?」


「ふふ。さぁ、私に身を(ゆだ)ねて下さい」


「え?ちょっ!?」


蓮姫の返事を待たずに、ユージーンはグイグイと彼女の腕を引っ張る。


このまま桐壺や内裏を出るかと蓮姫は思ったが、そのまま月明かりの当たる場所まで行くと、ユージーンは蓮姫を解放した。


ユージーンの行動が理解出来ない蓮姫。


そしてそれは帝も同じ。


「かぐや姫よ?何をしておる?さっさと朕と共に参れ」


「いいえ、帝。先程も申しましたが…私は月に帰らねばなりません。これは私の運命(さだめ)。私には帝の妃になる事も、帝の子を産むことも出来ぬのです」


ユージーンは蓮姫を背に庇うと、今までよりもしっかりとした口調で帝へと言い放つ。


しかし帝の方も引く事はなかった。


「何を言うておる?運命(さだめ)だと?そなたの運命(さだめ)は朕の妃となる事。新しい光の君を産み東宮(とうぐう)の母となることだ。かぐや姫よ。そなたは朕のもの。(はよ)う参れ。今宵はたっぷり可愛がってやるゆえな」


鼻の下を伸ばし、下卑た目をユージーンへ向ける帝。


ユージーンは、やれやれと肩をすくめると、持っていた扇をパチン!と閉じて裾へと仕舞う。


何故か左目は閉じたままにして。


他者の目には、その行動がユージーン…いや、かぐや姫が帝を受け入れたように見えた。


「ふふふ。観念したか。それでいい。朕を受け入れ、朕にその身の全てを(さら)すのだ。かぐや姫よ」


ゆっくりとかぐや姫へと近づく帝。


が、次の瞬間ユージーンは帝や久遠、他の者達が予想すらしなかった行動に出る。


「わかりました。帝がそこまでおっしゃるなら……私は全てをお見せ致しましょう」


それだけ言うと、ユージーンは着ていた着物を上から一枚づつ脱ぎ捨て出した。


「か、かぐや姫!?なんと大胆な!」


「っ、お!おやめ下さい!かぐや姫!おい!女房達!早くかぐや姫をお止めするんだ!」


ユージーンの行動に興奮する帝、そして必死に止めようとする久遠。


慌てて桐壺の中に入ろうとする女房達だが、彼女達は誰一人中には入れなかった。


まるで見えない壁に(はば)まれているように。


それはユージーンが咄嗟に作った簡単な結界だったが、彼等がその真実を知ることはない。


彼等が騒いでいる間も、ユージーンは一枚、また一枚と着物を脱ぎ捨てていった。


そして半分以上脱ぎ捨て、大分軽くなった頃…ユージーンは帯を緩めて、着物の襟に左手を滑り込ませると、そのまま右肩を(あら)わにする。


(さら)された美しい肩や鎖骨を見て、興奮気味に息を呑む帝。


が、ユージーンはそんな帝の顔を嘲笑(あざわら)うように、残った左側の着物を一気にグイッ!と下げた。



着物から現れたのは、膨らみど全く無く、引き締まった胸。



月明かりに照らされ、それは…男の胸だとハッキリとわかる。



「帝。…これでも私を…妃にとおっしゃいますか?」



誰もかれもが絶句する中、ユージーンはにこやかに告げた。



「……お………お…とこ……だと?」


呆然(ぼうぜん)とする頭で、必死に声を(しぼ)り出した帝。


やっとの思いで発言した言葉は、とても簡単な問い。


むしろ聞かなくとも、既に答えがわかりきっているものだが、ユージーンは満面の笑みで帝へと返答した。


「はい。私は正真正銘、男です」


「な…なん…と……」


帝はショックのあまり、その場にガクリと膝をつき(うつむ)いてしまう。


「…どおりで……やたら背が高いと。……まさか……絶世の美女が……男だったとは…」


今更になって目の前の美女…もとい美男のおかしな点をあげる帝。


むしろ気づいていながら、何故今の今まで疑問に思わなかったのか。


しかし、今更気づいたところで遅い。


またショックを受けているのは帝だけではなかった。


遠目に見ていた女房や武官達も言葉を失い、ユージーン…特に彼の胸を凝視している。



そしてそれは…久遠も同じ。



彼は口をあんぐりと開け、先程まで心奪われていた美女…もとい胸元をはだけさせたユージーンを見たまま固まっている。


彼は先程まで真っ赤に染まっていた顔を今度は真っ青にし、そのまま項垂(うなだ)れてブツブツと何かを呟いていた。


「…………男?………俺は…………また?」


それはとても小声だった為、蓮姫や他の者の耳には届かなかった。


仮に聞こえたところで、その言葉の意味を知る者はいない。


しかし久遠の受けた心の傷が深い事は、とりあえず彼の様子を見れば一目瞭然だ。


「………ユリウス様といい………俺は……どうして………いつもいつも………っ、」


ブツブツと落ち込んだ様子で何かを呟き続ける久遠だったが、いきなりガバッ!と勢いよく頭を上げた。


そしてそのまま、ユージーンの後方にいる蓮姫を何故か(うら)みのこもった目で睨みつける。


それに気づいたユージーンが、直ぐに蓮姫を久遠の視線から(かば)う。


だが、蓮姫の方はしっかりと自分が睨まていた事に気づいてしまった。


(…て、天馬将軍が物凄く睨んでくる。これも私のせい………かな?でもそうなるか。ジーンは私の従者だし…そもそも今回の事を計画したのは私だし)


久遠に睨まれた事で反省する蓮姫。


が、久遠が現在ここまで怒っている原因は蓮姫だけではない。


彼自身が一番の原因であり、そしてそれにはユリウスが関わっている事など…蓮姫は()(よし)もなかった。


久遠とて自分の行動が八つ当たりなのは重々承知している。


それでも、蓮姫とユリウスが懇意(こんい)にしているのを知っているからこそ、余計な考えが頭から離れなかったのだ。


いつまでも自分の後方…蓮姫を睨む久遠に、ユージーンも苛立ちが募っていく。


そしてお返しとばかりに、今度はユージーンが久遠を鋭い視線で睨みつけた。


怒気と殺気を強く込めて。


ユージーンからの殺気を正面から受けた久遠。


流石の天馬将軍といえど悪寒で体がビクンッ!と震え、冷や汗が流れる。


そんな彼の様子に満足したのか、ユージーンは再び微笑むとはだけていた着物を正しつつ、俯いたまま微動だにしない帝へと声をかけた。


「帝。ご覧の通り、私には帝の妃となる事も、当然お子を産む事も出来ぬのです。だって…私は男ですから」


ニコニコと笑顔を絶やさぬまま、帝へ残酷な真実を告げるユージーン。


帝は一瞬、耳だけをピクリと動かしたが、それ以上動くことはせずに黙ってユージーンの言葉を聞いている。


「男である以上、帝のお望みを叶える事は出来ません。なので…どうか私の事はお諦め下さい」


ユージーンは着ていた着物だけを正し、床に落ちている数枚はそのまま放置している。


そして再び扇を顔半分…正確には左目を隠すように顔へかざした。


「それでは帝。…私達はそろそろお(いとま)を」


「いいや」


このまま何事もなく、蓮姫と共に去ろうとしたユージーンだったが、帝の低い声がそれを否定する。


帝はゆっくりと…そしてフラフラと立ち上がりながら、ユージーンへ言い放つ。


「そなたは帰さぬ。決して帰さぬぞ。かぐや姫と呼ばれし男子(おのこ)よ」


ユラユラと不気味に揺れる帝に、ユージーンも警戒する。


扇を持っていない方の手で蓮姫を背に庇うと、一歩後ろへ下がった。


(チッ。さすがにこのまま帰してはくんねぇか。どうせ『帝を(たばか)った罪で死罪にする!』とか言い出すんだろ?)


ユージーンは帝が「男でありながら女と(あざむ)いた!」「帝である朕を(だま)した!」と激昂するだろうと思った。


それはユージーンだけではなく、この場にいる全員が感じていたこと。


帝は怒りに任せて、この美しい男を罰するだろうと。


だが……その予想は見事裏切られた。


(そうなる前に、さっさと姫様を連れてここから)


「言ったはずだ!そなたは朕のもの!男であろうと関係ない!朕はそなたを!そなたの美しさに心奪われたのだ!そなた以上に美しい者などおらぬ!朕のものとなれ!美しき男子(おのこ)よ!」


「(逃げ)…………………あ?」


「…え?」


「…は?」


あまりにも予想外過ぎた帝の発言に、ユージーンも心の声が漏れ、そのまま間の抜けた声へと繋がる。


そしてそれは蓮姫や久遠も同じだった。


さっきまで全員の注目を浴びていたのはユージーンだったが、今の発言でそれは帝へと集まる。


『もはや帝はヤケクソにでもなったのか?』と蓮姫は思ったが、ユージーンを見る帝の目はやけに(つや)っぽい。


そしてやはり頬が赤く染まっている。


「これ程美しい者…誰が手放すものか。子が産めぬのは実に残念だが…それでも構わぬ。朕は……美しいそなたが欲しい」


うっとりとした視線で自分を見つめる帝に、ユージーンの全身には悪寒が走り鳥肌が立った。

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