表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/433

帝 7


「久遠?どうしたのだ?何をヒソヒソと話しておる」


「…申し訳ございません、帝。久々の再会に動揺しておりまして。彼女は……間違いなくロゼリアで会った女性です」


どうやら久遠は、蓮姫の芝居に合わせる事に決めたようだ。


帝を見据(みす)えて、あんなにも拒否していた嘘をつく彼の様子に、蓮姫は安堵のため息を漏らす。


「そうか。やはりそなたら、知り合いだったのだな。実に()い。()いぞ、そなたら」


何がいいのか、帝は楽しそうにウンウンと頷いている。


満面の笑みを浮かべるの帝。


久遠はやはり嘘をつくのが不本意極まりなかったのか、眉間に(しわ)を寄せている。


そして…蓮姫を嫉妬のこもった目で睨みつける、かぐや姫。


かぐや姫が自分を射殺しそうな眼光で睨みつけてくる理由は、蓮姫が誰よりも理解している。


(あぁ~…ごめんなさい、かぐや姫。これしか方法思いつかなくて…後でちゃんと説明しますから)


蓮姫はかぐや姫に向かって、申し訳なさそうに軽く頭を下げる。


だが、かぐや姫の方はプイッとそっぽを向いてしまった。


確実に怒っている。


かぐや姫の態度に罪悪感がつのる蓮姫だったが、この場が上手く収まったと一応は安心していた。


だが、更なる混乱を招く言葉を帝は楽しそうに告げる。


「朕からの褒美に、そなたも満足したようだな。いやはや…こんなにも事が上手く進むとは…やはり朕は天に愛された帝、ということか」


「え?…褒美?………っ、まさか帝!?」


確かに先程、帝は蓮姫への褒美を持ってくると言った。


しかし蓮姫は帝から何も貰っていないし、何かを見せられた訳でもない。


ここを離れる際に帝は『褒美を持ってくる』ではなく『連れて来る』と言っていた。


帝が連れてきたのは、この久遠のみ。


そこまで考えると、蓮姫は帝の言いたい事を理解した。


帝もまた蓮姫の顔を見て彼女の勘の良さに感心し、言葉を続ける。


「そうとも。由緒正しき(ゆずりは)の次男にして、王都では女性陛下より将軍を(たまわ)った男。(ほまれ)高い血筋の生まれにして、それに相応(ふさわ)しき役職。強く清い心を持ち、女性陛下とその民を守る。何よりこの美しい容姿。かつての光の君を除いて…こやつ以上に優れた男を朕は知らぬ。そなたへの褒美は…この久遠だ」


「な!?ま、待」


「ちょっと待ってーー!!!」


蓮姫が「待って下さい!」と抗議の声を上げるより早く、かぐや姫は必死の形相と声で帝へと叫んだ。


久遠に恋するかぐや姫からすれば、とんでもない内容だ。


まぁ、蓮姫や久遠にとっても、とんでもない内容なのだが…。


そんな当事者達を置き去りにし、関係ないかぐや姫が一番その事実に驚き、拒否を見せる。


「み、帝!お待ち下さい!何故久遠様を蓮…様に!?」


醜女(しこめ)。そなたには関係なかろう。…あぁ安心せよ。いつかそなたにも『醜女(しこめ)でも構わぬ』という男を与えてやるゆえ」


「与える!?じゃあ!く、久遠様と……蓮は…」


真っ青になり、この世の終わりのような顔で蓮姫と久遠を見るかぐや姫。


何かを言いたいようだが、もはや言葉は声として出てこない。


軽く放心しているかぐや姫を放って、帝は久遠へと声をかけた。


「久遠。そなた達、(ゆずりは)は元々大和の民。そして朕の民なのだ。それ(ゆえ)にそなた達一族は大和を出てからも、大和との婚姻を重視しておるではないか。ならばいっそ大和に戻れ。いつも言っておろう?朕は特にそなたを気に入っておる。大和で朕の為に力を尽くすのだ」


「お言葉ですが帝…私は天馬将軍。女王陛下をお守りする軍の幹部、五将軍の一人なのです。そう易々と大和に戻る事など出来ません。何より女王陛下の許しも出ないでしょう」


「そなたはいつも簡単に朕の頼みを断るの。ずっと朕は考えていたのだ。どうすれば、そなたが大和に(とど)まるかを。そんな時…この女に出会った」


言葉の途中で帝は蓮姫へと視線を映す。


今度は蓮姫に言葉をかけた。


「そなたのように金にも権力にも(なび)かず、脅しにも屈しない女。そんな女に与えるに相応(ふさわ)しい褒美…それはそなたと同じくらい、強く清い心を持つ…美しい男。久遠が相手ならば文句など出るはずもない」


帝は楽しそうに、フフフ…と笑う。


ニヤニヤと蓮姫と久遠を見るその目は、実に満足気だ。


帝はコホンと咳払いすると、久遠へ自分の思いを告げた。


「久遠。そなたはこの女と祝言をあげ大和の民に戻れ。女王陛下は色恋に関して寛容と聞く。喜んでそなたを大和に戻すだろう。妻と共に我が息子…未来の光の君を強く育てるのだ」


驚き…いや呆れる久遠の顔など目に入っていないのか、帝は笑顔のまま次に蓮姫へと顔を向けた。


「女。そなたは(つつし)んで朕からの褒美…久遠を受けよ。朕に深く感謝し、その想いの元、かぐや姫と光の君に誠心誠意仕えるのだ」


蓮姫の方は、帝の言葉に呆れるでも驚くでもなく…むしろ両方だろう…そのまま口を開けて絶句している。


帝に対して何も返事をしない二人だが、帝はそれを了解と取ったのか一人で勝手に喋り続けた。


「ふふふ。絶世の美女と噂されるかぐや姫は今夜手に入る。未来の光の君を育てる清き乳母(めのと)も、強く美しい久遠も朕の手元。欲しかった者が一日の間に何人も手に入るとは!なんと素晴らしい!大和建国以来の記念すべき日だ!直ぐに宴を開かねばな!ふふふ!ははははは!!」


勝手に盛り上がり、勝手に笑い続け、帝はこの場を離れていった。


残された蓮姫と久遠…そしてかぐや姫。


誰も一言も発さずに、部屋はシン…と静まり返る。


そんな静寂を破ったのは、不機嫌さをそのまま表現したようなため息だった。


「………はぁ…いい加減、離してくれないか?」


「っ、す、すみません」


久遠に指摘され、(いま)だ彼に抱きついたままだった蓮姫は慌てて彼から離れる。


「えと…ありがとうございます、天馬将軍。おかげで助かりました」


「君を助けるのは当然だ。君は弐の」


「私はロゼリア貴族の姫、蓮ですよ。天馬将軍」


この部屋に居るのは自分達二人ではない。


放心状態に近いが…かぐや姫もまだそばにいる。


蓮姫はかぐや姫にチラリと目線を送り、久遠に余計な事はまだ言わないでほしいと伝える。


今度はちゃんと伝わったらしく、久遠はまた深くため息をついた。


「そうだったな。…なら別の話をしよう。何故君がこの大和…それも内裏に?」


「それについては簡単に説明しますね。なので、天馬将軍がどうして大和にいるかも教えて下さい」


「いいだろう。だが俺の理由こそ至極簡単で自然なものだ。恐らく…君と違ってな」


「……はは…恐らく…おっしゃる通りです」


助けてくれたとはいえ、やはり久遠への苦手意識が抜けない蓮姫。


そんな久遠の言葉をなぞらえながら、蓮姫は苦笑しつつ答えた。






「つまり、天馬将軍は去年と同じく、お祖母様のお見舞いのため大和に来られたんですね」


「…………そうだ。……しかし…君はなんという…」


お互いがこの大和にいる理由を説明している間…正確には蓮姫の説明を聞いている間、久遠の表情は段々と険しくなっていった。


蓮姫もそれに気づいていたが、彼に嘘を言うつもりはなく正直に答える。


結果、久遠の機嫌は更に悪く、眉間の(しわ)は更に深くなっていったが。


「あはは…呆れて……ますよね?」


「あぁ、そうだ。君は変わったかと思ったが…やはり変わっていないようだな。姫としての自覚が無さすぎる」


「本当に…天馬将軍はいつも正論をおっしゃいますね」


「君が愚かな行為を繰り返すからだろう」


苦笑する蓮姫に冷たく言い放つ久遠。


それは軽蔑している訳でも見下している訳でもないが、間違いなく呆れていた。


「とはいえ…先程の話は本当か?」


「?…どの話のことですか?」


「従者が助けに来る…いや、君に従者がいる…という話だ」


久遠の言いたい事の意味がわかり、蓮姫は笑顔でそれに答える。


「本当です。従者は三人と一匹。うち一人が……目的の従者です」


「目的の従者とは………っ!?まさかヴァ」


「天馬将軍。お気持ちはわかりますが…あまり大きな声を出さないで下さい」


ついでに余計な事も言うな、と目で念を押す蓮姫。


久遠は蓮姫の言葉に驚きを隠さず、むしろ信じられないとその綺麗な顔に書いてある。


蓮姫が王都を出た理由。


それは自分のヴァルを探すため。


つまり目的の従者とはヴァルのことであり、ユージーンの事を指している。


しかし、蓮姫の話がいかに真実だろうと、久遠には信じられなかった。


弐の姫にヴァルがいるなど…信じられなかった。


やっと出た言葉は蓮姫の言葉を疑うもの。


「………本当か?」


「そんな嘘はつきません」


「……悪かった。君の言葉を…信じよう。だが本当に君の…その従者が助けに来ても帝は納得しないぞ」


「大丈夫です。口がうまい男なので。彼なら帝を()()せる事も出来ると思いますよ」


「随分と信頼しているな」


「はい。だって彼は…従者の中でも、私にとって唯一の者ですから」


蓮姫の従者は既に数名いる。


だが、ヴァルという従者はユージーンだけだ。


蓮姫にとってユージーンとは、掛け替えなき唯一無二の存在。


だからこそ、蓮姫は更に久遠へと念を押す。


「今回の事態は私とその従者にお任せ下さい。天馬将軍のお手をわずらわせる事はありません」


「見くびってもらっては困る。君が呼ぶように俺は天馬将軍。五将軍の一人だ。もし事態が悪化し、騒ぎが大きくなれば…沈静化させるは将軍の務め。その時は…俺も動く」


久遠の言葉はぶっきらぼうだったが、つまり『蓮姫達で上手く事が進まなかった時は助けてくれる』という意味だろう。


「感謝致します。天馬将軍」


「あぁ。…君の従者の…御手並み拝見、といこう」


「大丈夫です。彼なら将軍の期待に応えられるでしょう。さて、かぐや姫。私達はそれまでここで……かぐや姫?」


「……………」


久遠との会話が一段落し、蓮姫はかぐや姫へと向き直る。


だがかぐや姫はブスッとした顔で蓮姫を睨みつけていた。


「かぐや姫?どうしました?」


「………はぁ?どうしましたぁ?本気で言ってんの?この裏切り者」


「う、裏切り者?」


吐き捨てるように告げたかぐや姫の言葉、そして彼女の視線に困惑する蓮姫。


しかし次の瞬間、蓮姫はバッ!と久遠を振り返った。


無表情な久遠と不機嫌なかぐや姫の顔を交互に見ながら、蓮姫の顔は段々と青くなっていく。


彼女は咄嗟(とっさ)だったとはいえ、自分が仕出かした無神経な態度に今更ながら思い出す。


そして、かぐや姫が不機嫌な理由も、自分を裏切り者呼ばわりする理由も理解する。


それを裏付けるように、かぐや姫は自分から口を開いた。


「私が久遠様を好きなの知ってるクセに。久遠様に抱きついて、二人で仲良く喋ったりしてさ。見せつけるとか…最悪だよね」


「ち、違うんです!かぐや姫、これには事情があって!」


「へぇ~。事情があれば友達の恋心を踏みにじっていいんだ?当てつけとか正当化されちゃうんだ?凄いね、あんたの頭の中」


「かぐや姫…私と天馬将軍は何も…」


「はぁ?自分で知り合いだって言ったじゃん?どうせ、あんたも久遠様を好きだったんでしょ。抱きついたくらいだもんね」


「それはありえません!」


「…君も失礼な人だな」


かぐや姫の言葉に全力で否定する蓮姫に、さすがの久遠もつっこみを入れてしまった。


「かぐや姫。お願いします。私の話を聞いてくれませんか?友達として誓います。私と天馬将軍は何もありません」


「あんたなんかもう友達じゃないわよ。女の友情はハムより薄いってホントよね。あ~ヤダヤダ。こんな女とちょっとでも友達だった自分がバカみたい」


蓮姫の話に全く聞く耳を持たないかぐや姫。


蓮姫はなんとか誤解を解こうとするが、それを久遠が手で制した。


「…天馬将軍?」


「これ以上、君は口を開かない方がいい。逆効果だ」


「久遠様!?私より蓮の味方をするっての!?酷い!」


久遠はまたため息をつくと、今度はかぐや姫へと近づき何度となく蓮姫へと向けていたあの目…軽蔑を込めた目でかぐや姫を見つめ…一言呟いた。


「君は…(みにく)いな」


「天馬将軍!」


「っ!!?知ってますよ!そんなことっ!何よ!どうせ久遠様も他の人と同じだわ!私なんてデブでブスの(みにく)い女だって言うんでしょ!」


久遠を止めようとする蓮姫だが、かぐや姫は顔を真っ赤にし、目に涙をためながら爆発したように久遠へと怒鳴る。


「ずっと好きだったのに!久遠様なら私を好きになってくれると思ってたのに!こんなのあんまりだわ!(ひど)すぎる!久遠様だって私と蓮なら蓮の方がいいんでしょ!!久遠様だって蓮と同じじゃない!裏切り者っ!!」


「……何か勘違いしていないか?君の容姿など関係ない。俺は…真実を見ず、自分に都合の良い解釈しかしない。君の心が(みにく)いと言ったんだ」


その言葉に、興奮していたかぐや姫は「え?」と我に返る。


自分を見つめるかぐや姫に、久遠はやはり遠慮ない言葉を投げた。


「君が俺に懸想(けしょう)しているのはわかった。だがそれを理由に、君は真実ではなく自分に都合のいい方にばかり物事(ものごと)を考えている」


「つ、都合のいいって何!?私は被害者なのよ!私が一番傷ついてるのに!」


久遠の言葉にやはり納得がいかなかったのか、かぐや姫は我に返ると同時に頭に血が上る。


そのまま彼へと言い返したが、久遠はかぐや姫に臆することは一切なく、淡々と言葉を続けた。


「俺と…彼女の話を聞いていれば、二人の間には何も無い事など直ぐに理解出来る。それなのに…君は真実とかけ離れた勝手な妄想を君の中で真実にした。彼女を裏切り者にすることで、自分を被害者にしたんだ。自分を正当化させるために、俺や彼女を悪者にした」


「せ、正当化ですって?」


「自分こそが可愛い。自分を傷つける者、自分にとって邪魔な者は悪だ。だから俺達は裏切り者で加害者。可愛い自分は被害者。君は被害者ぶれば自分こそ正しくなると思い込んでいる」


「わ、私は…被害者ぶってるんじゃ…。だって…蓮と久遠様が悪いんじゃない。なによ…二人が悪いのに…なんで…なんで私が…悪いみたいに言われなきゃ…いけないのよぉ」


なんとか言い返そうとするかぐや姫だが、言葉の途中から泣き出してしまう。


涙を流しながら、ヒクヒクと顔を上下させるかぐや姫に、久遠はトドメの一言を告げた。


「都合が悪くなれば泣く、か。やはり君は…君の心は心底醜いな。俺は君のような人間を軽蔑する」


「う、うわぁぁぁん!!」


ついにかぐや姫は床に突っ伏してしまい、大声をあげて泣き出してしまった。


「酷い!」「私は悪くないもん!」と繰り返しながら泣くかぐや姫の姿を、久遠は宣言通り汚物を見るような目で見下す。


一方、蓮姫の方はかぐや姫に駆け寄るでも、久遠に物申すこともしなかった。


蓮姫はただ呆然と固まっている。


久遠がかぐや姫に放った一言が、蓮姫にも深く突き刺さっていたからだ。




「私は…被害者…ぶってた…?自分を…正当化…………………を…悪者にして…」




ブツブツと小さく呟いている蓮姫の声が耳に届き、久遠は彼女の変化に気づく。


「どうした?」


「……え?…あ、いや。なんでもない…です」


「そうか?…いや、なんでもなくはないだろう。俺の言葉は…確かに配慮のないものだった。君には…すまないと思っている」


「っ、私…に?」


久遠の言葉に蓮姫はビクッ!と体を震わせる。


まさか久遠に…この男に自分の心が見透かされているのでは?と。


だが久遠が口にしたのは、蓮姫の今の心情とは関係ないものだった。


「君の立場や境遇を知っていながら…俺は偏見(へんけん)でばかり君に接していたからな。それは俺だけではない。君のような存在を悪とし、自分達を正当化する。…まさにこの世界の人間そのものだ。(みにく)いのは…俺を含めた、この世界の人間全てなのかもしれない」


「…天馬将軍」


過去の自分の態度や、蓮姫を冷遇(れいぐう)していた者達を思い出し歯をくいしばる久遠。


弐の姫という偏見(へんけん)だけで蓮姫を評価していた者は多く、今後も多く現れるだろう。


久遠も本当は気づいている。


弐の姫というだけで評価する程、蓮姫は矮小(わいしょう)な存在ではないと。


本当にヴァルと呼べる従者がいるのなら…蓮姫は女王となる…人の上に立てる素質があるかもしれない。


そしてそれは…自分の仕える壱の姫よりも…。


「俺は君を(かろ)んじていた。全ては君を偏見(へんけん)の目でしか見ていなかったからだ。俺は…君を知ろうとすらしなかった。会えば小言しか言わぬ男など、君も嫌っていただろう」


「いえ、その……嫌ってはいません。正直少し…少しですよ?苦手でしたけど…それはいつも、私が自覚の無い行動をしていたからですし」


「否定はしないな。過去に君を叱責(しっせき)した事も謝るつもりはない」


「そ、そうですか」


謝りたいのか、謝るつもりがないのか、わからない男だ。


しおらしい態度は既になく、キリッとした表情で蓮姫を見つめる。


「そろそろ俺も帝の元へ戻ろう。再度聞く。君の…例の従者は、本当にこの場を上手く切り抜けられるんだな?」


「はい。必ず」


「………わかった。ならば俺も君を信じよう。君達を信じ、全て任る。…それでは」


久遠は蓮姫に一礼すると、帝の元へと戻って行った。


残された蓮姫はかぐや姫に寄り添い、彼女の背をポンポンと撫でる。


始めは蓮姫の手を払い除けていたかぐや姫だが、蓮姫はめげずに背を撫で続けた。


するとかぐや姫は、ガバッと蓮姫へ飛び込み、彼女の胸に顔を埋めて泣き続けた。




時は既に夕刻。


帝が翁に出したタイムリミットは、月が真上に上るまで。


蓮姫の迎え…そして帝の望みが叶うまで…もう少し。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ