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かぐや姫 4


「あのお松って猫なら…姫さんの猫と一緒に…じゃれてましたよ。…えと…姫さんの部屋で」


正直に、だが言いづらそうに答える火狼。


かぐや姫は自分から聞いたというのに、なんの反応もしない。


いや、御簾(みす)の奥からはミシミシという何かを握りしめる音が小さく響く。


恐らくだが、かぐや姫が扇を力いっぱい握りしめているのだろう。


そして御簾(みす)から放たれる怒気は火狼ではなく、やはり蓮姫へと向けられる。


さすがに居心地の悪さと身の危険……むしろかぐや姫の身の危険を察した蓮姫。


このままだとかぐや姫に、ユージーンが勝手な行動や余計な一言を意図的に発する可能性もあるからだ。


「で、では…かぐや姫。私達はそろそろ失礼を」


「はぁ!?……あ、いえ…そう(あせ)らなくても良いではありませんか、蓮様。ゆっくりなさって下さいな。それとも……わたくしと一緒に居たくない理由でもお有りですか?」


かぐや姫の言葉にユージーンも火狼も心の中でのみ『大ありだ』とつっこむ。


しかし声に出さないだけで…御簾からは見えないだろうが、彼等の顔はハッキリと本心を語っていた。


蓮姫だって、あまりの居心地の悪さに退室したいというのが本心だ。


しかしそんな事を馬鹿正直に話せるはずもなく…。


かぐや姫の言葉を否定しようとした蓮姫だが、それよりも早く勝手な憶測をかぐや姫から突きつけられる。


「あぁ、それとも……蓮様はこのような女と関わる時間よりも…その殿方達と過ごす時間の方が余程大切だとでも?皆様は主と従者以上の…特別な間柄(あいだがら)なのでしょうか?」


「いえ!!そのようなことは決してありません!」


慌てて、しかし力強く否定する蓮姫。


何故そうなるのか?


だが今の言葉で蓮姫は何故自分が嫌われているのか理解した。


「あらそうでしたの?そのように美しい殿方ばかり集めていらっしゃるんですもの。てっきりそういう関係なのだとばかり。わたくしったら邪推(じゃすい)をしてしまいましたわ。ほほほほほ」


高笑いをするかぐや姫。


今の言葉でユージーンの堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒が切れた。


「…いい加減にして下さい。これ以上姫様を侮辱(ぶじょく)なさるのなら…たとえお世話になっている方のお嬢様でも…我々は容赦致しませんよ」


「…侮辱(ぶじょく)だなんて。誤解ですわ、ユージーン殿」


「誤解?そうでしょうか?先程から貴女の発言にはトゲしかありません」


「まぁ!わたくしがいつ無礼をしたというのです?ユージーン殿のような美しい殿方に責められるなど…わたくしは悲しいですわぁ」


悲しい、と言いながらもその声は力強く、むしろ挑発しているように感じる。


蓮姫はユージーンを一瞬怒鳴ろうかと口を開くが、直ぐにそれを閉じた。


蓮姫とて彼が自分を想って発言している事を理解している。


そして一度、深く息を吐き出すと再び口を開いた。


「ジーン。私は大丈夫だからやめて」


普段の口調でやんわりとユージーンを止めようとした。


しかしユージーンは蓮姫に微笑むだけで何も言わない。


つまり「やめるつもりは無い」ということだ。


そしてそんなユージーンに感化されたのか、火狼まで正座していた足を崩して顔をしかめる。


「姫さん。旦那が怒るのも無理ないって。俺だって姫さん馬鹿にされんのは面白くねぇもん」


「………狼」


「んで、お前はどうなんよ?」


火狼が声をかけたのは未月。


未月は火狼を見た後、御簾を見据え、ゆっくりと口を開く。


「…さっきから…母さんに…敵意が向けられてる。…母さんの敵なら……命令があるなら……俺は」


「待って未月!命令はしないから。私は大丈夫だから」


蓮姫の制止に未月は蓮姫へと視線を移した。


「…母さん……大丈夫?」


「うん。大丈夫。だから何もしないで。お願い、未月」


「……わかった。…母さんが…何もするな…って言うなら…俺…何もしない」


「…ありがとう」


蓮姫の命令に従順さを見せる未月。


「まぁ~!皆様はホンットに仲がおよろしいんですのねっ!」


今までのやり取りを見ていた…いや、見せつけられたかぐや姫は語尾を荒らげながら告げる。


褒めるつもりなどサラサラなく、彼女のイライラもピークのようだ。


しかしイラついているのはかぐや姫だけではない。


ユージーンはニッコリと嫌味も込めた笑みを御簾へと向けた。


「えぇ。我等が主である姫様は、いつでも従者を想いやって下さいます。姫様は嘘偽り無い真心を他者に向けられる方。なので我等も、姫様を心からお慕いしておりますよ」


「まぁ!素晴らしいことっ!」


何処かヤケクソに聞こえる口調のかぐや姫。


そんなかぐや姫を鼻で笑うように、ユージーンはある一言を放つ。


「姫様は貴女にも真心を向けられています。嘘偽り無い、ね。貴女も本性を表して、いっそ言いたい事をハッキリおっしゃったらいかがです?」


ユージーンの挑発に御簾の奥の姿は小さく震えている。


恐らく怒りで。


「よぉくわかりましたわ。えぇ、よぉぉぉぉくね。人が下手に出て丁寧に話しているというのに…わたくしの本音を望まれたのはそちらですからね。わたくしも言いたいことをハッキリと申し上げます」


かぐや姫はバシン!と力強く扇を手に押し当てると、それを更に強く握りしめた。


何故握りしめているのがわかるかというと、扇がミシミシと音を立てているから。


蓮姫は不穏な音を聞きながら冷や汗を流す。


「わたくしは…いえ、(わたし)は蓮様が嫌い」


「でしょうねぇ。そんなこと、とっくに全員気づいてましたけど?」


ユージーンは鼻で笑い、なおもかぐや姫を挑発する。


かぐや姫は蓮姫を嫌いと言ったが、ユージーンはそんなかぐや姫の事が嫌いだ。


ユージーンの挑発に、かぐや姫は何かが切れたかのように喋り出した。


「っ!ムカつくのよっ!!そりゃあんたの態度もムカつくけど!あんたみたいな美形従えてんのが腹立ってしゃーないのよ!!ちょっと綺麗だからっていい男ばっかり集めて!そいつらにチヤホヤされちゃってさ!」


爆発したように怒鳴るかぐや姫。


蓮姫本人もかぐや姫の態度で理由は予測していたが、ここまでハッキリと言われると面食らってしまった。


ユージーンは眉一つ動かさないが、火狼と残火は身勝手なかぐや姫の発言に若干引いている。


未月だけは言葉の意味がわからずにキョトンとしていた。


一度ぶちまけてしまうと、かぐや姫は止まらず、なおも蓮姫へと声を荒らげる。


「だいたいねぇ!いい男を何人もはべらせてる女なんて、同じ女からしたら腹立つ存在でしかないっての!」


ビシッ!と蓮姫を扇で指す、かぐや姫。


「しかも性格悪けりゃまだ見下せるってのに!なんなの!?さっきから聞いてりゃそこの姫様は従者庇って!気遣ってさ!これじゃ私の方が格下の悪者みたいじゃない!」


ぜぇぜぇと呼吸を荒くしながら、一気にまくし立てるかぐや姫。


ここまでストレートに嫉妬をぶちまけられ、蓮姫としても怒っていいのか、悲しんでいいのか。


むしろ若干だが蓮姫を褒めているともとれる発言もあった為、ただ困り果てるしかない。


そんな蓮姫の様子に、御簾越しとはいえかぐや姫は気づく。


「っ!なに黙ってんのさっ!こんだけ言われてんのよっ!なんか言い返しなさいよっ!」


「い、言い返せと言われても…」


何を言い返せばいいのか?


むしろ何を言ってもかぐや姫の逆鱗(げきりん)に触れる事はわかりきっている。


だからといって、このまま黙っていてもかぐや姫を更に苛立たせる事もわかっている。


どうしたものか?


蓮姫が悩んでいると、庭に面した通路から激しい鳴き声が聞こえる。


その声を発しているのは何なのか?


主である二人は直ぐに気づいた。


「え?…ノア?」


「…お松?」


蓮姫達が同時に鳴き声の方を振り向くと、そこには喧嘩している二匹の猫の姿があった。


いや、喧嘩…というよりも、御簾に向かって威嚇(いかく)するノアールと、それに(おび)えながらも応戦しようとするお松の姿が。


恐らく人の言葉のわかるノアールがかぐや姫に対して怒り、それを怖いと思いながらも、お松はなんとか止めようとしている…といったところだろう。


「ノア!喧嘩しちゃダメじゃない!こっちおいで!」


蓮姫はノアールを止めようとしたが、かぐや姫は違った。


「いいわ!お松!いっそそんな仔猫!やっつけちゃいなさい!」


「かぐや姫!?」


かぐや姫は腹いせに自分の愛猫で蓮姫の愛猫を懲らしめよう、という魂胆らしい。


しかしかぐや姫は気づいていないが、ノアールは普通の仔猫ではなく魔獣サタナガットの子供。


当然それに気づいていたお松は、(うな)るノアールを見て更に(おび)える。


結局お松はノアールから逃げ出し御簾へと飛び移った。


ノアールは逃がすつもりはないらしく、お松を追っかけ自らも御簾に飛びかかる。


「ちょっ!?お松っ!何してんのよっ!?」


かぐや姫の声に更に暴れるお松とノアール。


暴れる二匹のせいで御簾はバサバサと激しく揺さぶられる。


「ノア!ダメっ!こっちにおいでったら!」


蓮姫が慌てて御簾の目の前まで駆け寄るが、二匹は暴れるのを止めない。


「ちょっと!どきなさいよ!この馬鹿猫ー!」


かぐや姫の絶叫が部屋に響いたその時。



ついに御簾は破れ、二匹と一緒に床へと落ちる。


かぐや姫は顔を下に向けながらも、その顔を見られないように扇で庇っていた。


「かぐや姫っ!?大丈夫ですかっ!?」


「はぁ!?大丈夫なわけないで…へぶっ!?」


蓮姫がかぐや姫へと声をかけた直後、お松はかぐや姫の扇目掛けて突進してきた。


それを追いかけたノアールもかぐや姫の髪に飛び乗る。


が、ノアールはズルっ!と髪に足を滑らせてそのまま床へと落ちた。



かぐや姫の髪だったモノと一緒に。




御簾が落ち、扇が飛ばされ…そして何故か髪まで外れたかぐや姫。


髪が落ちたかぐや姫は、慌てて頭を両手で抑える。


慌て過ぎた為に正面…つまり蓮姫達の方へと顔を向けて。


それにより今まで隠されていたかぐや姫の姿が、この場にいる全員に(さら)された。



かぐや姫の姿。



それは白磁(はくじ)のような白い肌。


黒真珠のように小さな瞳。


林檎のように真っ赤に染まった頬。


手で隠しきれない部分が部屋の灯りに照らされ輝く、月のように真ん丸な頭。


そして


十二単がパツパツになるほど、全体的にふくよかで真ん丸な体型。


かぐや姫の姿を見た蓮姫達も、()しくも全てを(さら)す事になったかぐや姫本人も……微動だにせず、また一言も発さない


それは一瞬にも、長い時間にも感じた静寂(せいじゃく)


かぐや姫の髪…おそらくカツラから抜け出したノアールが『うにゃっ!』とひと鳴きすると、その場にいた全員は我に返る。


するとユージーンと火狼はプルプルと体を震わせた。


何かを我慢しているように。


「………くっ」


「……ぷっ…ぷくくっ」


だがそんな我慢は長く続かず、一度吹き出してしまうと一気に二人揃って笑い出した。


「くっ……くく…ははっ!あははははははっ!」


「あはっ!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」


「…………なんで…笑う?」


突如、部屋中に響き渡る程の馬鹿笑いをする二人に、未月は本当に意味が分からなかった。


しかしユージーンはかぐや姫に指をさしながら、火狼は転げ回りながら馬鹿笑いを止めない。


「ははははっ!つ、月って……月のような姫って…そういう意味かっ…くくっ、ははっ!確かに満月っ」


「てか、ぷぷっ…む、むしろ…ははっ…おかめじゃんっ!は、腹痛ぇっ!ぎゃははははっ!」


残火は顔をそむけながら、先程の二人と同じように震えていた。


声が出なくとも笑っている…いや、爆笑しているのは蓮姫でも気づく。


チラリと蓮姫がかぐや姫へと視線だけ向けると、かぐや姫は顔を真っ赤にさせていた。


羞恥と怒りで。


蓮姫は一度ため息をつくと、真顔のままユージーンと火狼に近づき、全力で拳骨をくらわせた。






そして現在に至る。



蓮姫による怒りの鉄槌(てっつい)を脳天にくらったユージーンと火狼。


今度は痛みに体を震わせている。


蓮姫の行動に残火も未月も、そしてかぐや姫までもポカンと三人を眺めた。


「ひ、姫さん…痛い。…そのか弱い体のどこに…こんな馬鹿力があんのよ?」


「…こ…今回は…蹴りじゃないんですね…姫様」


「そんなに足がお望みなら…(かかと)落とししてみようか?やったこと無いけど、とりあえず足を振り下ろせばいいんでしょ?」


「「遠慮します」」


蓮姫から感じる気迫から本気だと悟った二人は、口を揃えて断った。


その様子に蓮姫は片手を頭に置くと、呆れたようにまたため息を漏らした。


「まったく…あんた達は。さっさと正座しなさい」


「「…はい」」


ユージーンと火狼が姿勢を正すのを確認すると、蓮姫もかぐや姫に向かって改めて正座し直す。


そして深々と頭を下げた。


「私の従者達が大変な無礼を働きました。二人にはまた後でキツく言っておきます。全ては私が(いた)らぬ(あるじ)であるため。お叱りは全て私がお受けします。本当に申し訳ございませんでした」


蓮姫がかぐや姫へと謝罪すると、渋々ながらユージーン達も頭を下げる。


今までの流れの意味が本当にわかっていない未月も、そして正直あまり関係の無い残火もつられて頭を下げた。


「………は?…あ…え?」


かぐや姫は突然自分に向けられた蓮姫の謝罪に困惑する。


今の今までの蓮姫の態度、従者達に向けていた素の態度、自分に対して頭を下げる態度があまりに違い過ぎて。


しかししばらく困惑した彼女も、ふと我に返った。


「あ、あんた。なんで笑わないわけ?」


かぐや姫の姿が(さら)されてから、蓮姫…そして未月は笑っていない。


それがかぐや姫には不思議だった。


そんなかぐや姫に蓮姫は頭を下げたまま答える。


「かぐや姫を笑う理由など、私には何一つありません」


「はぁ!?何それ!?自分は美人だからって余裕なの!?どうせ心の中じゃ『このデブでブスのハゲ』とか思ってんでしょ!」


かぐや姫は再び顔を真っ赤に染めながら怒鳴る。


しかし蓮姫はゆっくりと頭を上げると、静かに口を開いた。


「仮に私が本当に美人だとしても……大切な方から想われなければ…そんなもの意味がありません」


蓮姫の脳裏には無意識にレオナルドの姿が浮かび、その胸はチクリと痛む。


そんは蓮姫の心情など知るはずもないかぐや姫がブスっとした態度で問う。


「…あんた…何が言いたいわけ?」


「……翁も媼も、かぐや姫の事を『目に入れても痛くない』『大和一の姫』だとおっしゃっていました。それに梅吉さんも…かぐや姫を本当に大切にしています」


「…………」


蓮姫の言葉に、かぐや姫は毒気を抜かれたように静かになる。


そして蓮姫はニッコリと微笑むと更に言葉を続けた。


「あんなに素晴らしい方々に慕われているかぐや姫を、どうして私なんかが笑えるでしょうか。素敵な方々に慕われるのは魅力がある証拠。そして皆さんから、かぐや姫のお話を私はたくさん聞きました。だからこそ私は、かぐや姫が魅力的な女性だと思います」


「………あんた…本気で言ってんの?」


「はい」


蓮姫の言葉に嘘は無いか?


その真意を探ろうとかぐや姫は蓮姫を見つめる。


蓮姫もその視線を受け、逸らすことなく笑顔のままかぐや姫を見つめた。


「…はぁ…あんたって…私以上に変なお姫様」


「ふふっ。私の周りには変な従者ばかり集まりますから…多分合ってますね」


「あぁ。類は友を呼ぶってやつね」


今度は蓮姫に笑みを向けるかぐや姫。


「あぁ~。私ばっか怒って…本当に馬鹿みたい。あ、言っておくけどね!昔からこうだった訳じゃないから!去年までは本当に可愛い!滅茶苦茶可愛い!そりゃもう美少女だったんだからね、私!翁や媼や梅吉が…あんまり私にお菓子やら米やら与えるから…それに一応姫だから外なんて出ないし…一日中部屋の中でゴロゴロして…そしたらブクブク太っちゃってさ」


「ふふ。愛されてるんですね」


「…ふっ。まぁね。誰かさんと違って、私は周りに恵まれてるから」


「羨ましいかぎりです」


「ふふん。でしょ?」


微笑みを交わす蓮姫とかぐや姫。


すると今度は彼女達が吹き出し、声を上げて笑った。


「はははっ!あんたも苦労してんねぇ!」


「ふふっ。まぁ、それなりに」


豪快に笑うかぐや姫からは、つい先程まで向けられていた嫌悪などまるで感じない。


蓮姫もそれを感じ、ニコニコと微笑んだ。


そんな二人を見て従者達はただポカンとする。


何故こんなにもニコニコと笑い合えるのだろうか?と、不思議に感じながら。


火狼は隣にいるユージーンに小声で尋ねる。


「ちょっと、ちょっと。これ…どういう状況よ?」


「知るか。俺が聞きてぇよ」


「これも女同士の腹の探り合いってヤツ?…にしちゃ…なんか(なご)やかじゃん?」


「だから知らねぇっつの。まぁ…姫様だからな。本気であのデブスハゲを魅力的、とか言ってる可能性がある」


「えぇ~。それを受け入れるかぐや姫もどうよ?」


コソコソと蓮姫に聞こえないように内緒話…というか半分悪口をするユージーンと火狼。


そんな彼等に気づいた蓮姫は、再度かぐや姫へと頭を下げた。


「かぐや姫。そろそろ夜も遅いので、私達はお(いとま)します」


「えぇ!?そんな急に帰りたがらないでよ!せっかく仲良くなれそうって時に!」


随分と勝手な言い草をするかぐや姫だが、蓮姫は微笑みを崩すこと無く言葉を続けた。


「誠に図々しいとは思いますが…私達はまだこのお館に滞在させて頂く予定です。なので、かぐや姫さえよろしければ、また明日お邪魔させて頂いてもよろしいですか?」


「…なんだ…そうなの。わかった。じゃあ、おやすみ。明日は必ず来てよね」


「はい。必ずお邪魔しますね」


「そうして。あ、その失礼な美形男二人は寄越さないで。腹立つから。どうしてもってんなら…三つ編みの男は同席してもいいよ」


「ふふ。わかりました。それでは、失礼します」


蓮姫が一礼し、立ち上がったのを合図に従者達も渋々頭を下げて蓮姫と共に部屋を出ようとした。


その時。


「あ!待って!……その………色々嫌味言って…ごめん」


「ふふ…はい。では、また明日。ノア!おいで!」


蓮姫が名を呼ぶと、未だにお松を威嚇(いかく)していたノアールは、嬉しそうに蓮姫へと駆け寄りその胸目掛けて飛び移った。


しっかりとノアールを抱きとめると、蓮姫はお松をチラリと見る。


ノアールに(おび)えてはいるが、どうやら怪我はさせていないようだ。


安心しながらも、自分の為にかぐや姫の部屋で暴れたノアールを優しく撫でる。


ノアールのした事は褒められる事ではないが、それは全て蓮姫を想うゆえの行動だと蓮姫も理解していたから。


ふとかぐや姫の方を見ると、カツラをつけ直し、お松をヨシヨシと愛しげに撫でていた。


そんなかぐや姫の姿を満足気に眺めると、蓮姫は従者を引き連れ、自分達の部屋へと戻って行った。

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