閑話~ユリウスと藍玉~
「………あ~~~……ヒマ…」
【罪人の間】に幽閉されて………もう何日だ?
暗闇だけが続く異空間。
噂には聞いていたが、こんなにも暇だったとは……正直想定外だ。
光もなく、自分の姿も良く見えない。
腹も減らないし、眠くもならない。
トイレに行きたいとも思わないのは有難いけど……。
母上が気を利かせて、ちょくちょく顔を見せに来てくれなければ、とっくにおかしくなってるな。
まぁ、ソレを目的に造られたんだけどな、此処。
「チェーザレはともかく……蓮姫はどうしてるだろう?」
今日………多分今日だよな?……母上から、レオナルド殿が随分と蓮姫を気に入っていると聞いたから、悪いようにはされてないだろうけど。
それでも………心配だ。
「……………ん?…誰だ?」
ふいに誰かの気配を感じた。
母上ではないな。
最後に来た時から、そんなに時間は経っていない。
その人物は、段々と近付き…………っ!?
…嘘だろ?
「久しぶり、ユリウス」
「………お久しぶりです……兄上」
なんで
なんで藍玉兄上が此処にいる!?
チェーザレや母上でもなく、なんで兄上なんだ?
どうやって此処に………いや、この人に対しては無意味な問か。
この人は……俺以上に危険な能力者なんだから。
「ふ~ん。思ったより元気そうだね。普通こんな所に押し込まれたら、精神の一つや二つ崩壊してもおかしくないんだけどな」
「見た通り、ピンピンしてますよ」
「そのようだね。母上は本当に末子が可愛いらしい」
俺が未だに自分を保てるのは、母上が定期的に此処へ訪れてくれるからだ。
それこそ誰も来なかったら、とっくに精神が崩壊してただろう。
「兄上はどうやって此処へ?」
「あれ?ソレを僕に聞く?」
あ、間違って無意味な質問になってしまった。
兄上も、その無意味さに気づいたのか、キョトンとしている。
此処へは、仮に女王の許しがあっても、一人で入る事は許されない。
むしろ能力者である兄上は、絶対に許しなど出る筈無い。
しかし、ソレが出来るのが……兄上の能力の恐ろしい処だ。
「見張りをしてる母上のヴァルや兵士達に『君達は僕を通してくれる。他言もしない。もししたら命は無い』って言っただけだよ」
「…………ですよね~」
兄上の能力は『言った言葉が真実になる能力』だ。
ソレは周知の事実で、母上や反乱軍、それこそ天災よりも恐れられている。
その能力故に、俺達のように塔へと軟禁するだけじゃ足りず、遠方の誰も寄り付かない山奥に飛ばされたんだから。
見張りの奴等も、どうせ抗うだけ無駄だと、さっさと通したんだろう。
「すみません。間違えました。どうして此処へ?です」
「チェーザレからの要請でね。中々厄介な事になってるみたいだけど……暇だから協力してあげるよ」
「俺を此処から出してくれるんですか?」
「ソレはまだ先。母上には近いうちに出すようには言っておいたけど……まぁ、あと半月は此処にいてよ」
「は、半月!?」
半月も………って今、どれくらい経ってるのか知らないけど……なんでそんな先なんだ!?
「君達の大事な弐の姫の為…って言ったら理解してくれるよね」
「蓮姫の……為?」
全身で疑問を問いかけるが、兄上は答える気が無いらしく、ただニヤニヤと笑っている。
こんな風に笑ってる時は……どんだけ聞いても、何も言ってくれないんだよな……この人。
「ハァ~………わかりましたよ。しかし……予想以上に此処は苦痛なんで、半月で勘弁して下さいね。……一生縁の無い、リュンクス兄上が羨ましい」
「あの『哀れ者』が?君は面白い事を言うね」
「生まれつき脳に障害のある方ですが、能力者じゃない。…まさか、あの人を羨ましいと思う日が来るなんて」
「ふ~ん。……まぁ、いいや。君が無事なのもわかったし、僕は戻るよ」
「兄上……チェーザレの申し出は…」
「探れるだけ探ってみるよ。弐の姫を閉じ込めた人間……君も予想ついてるんでしょ?」
予想どころか確定だろう。
蓮姫は、あの男を見ただけで、全身が拒絶して呼吸困難にまで陥った。
「お願いします。俺は勿論、チェーザレも今は下手に動けません」
「……………君達がそんなに執着するなんて…弐の姫って、どんな娘なの?」
「普っ通の女の子ですよ。あ、怒りっぽいですけど」
「君が相手なら仕方ないんじゃないの?それ」
「それチェーザレにも言われました」
チェーザレと蓮姫に怒鳴られた日々が、懐かしいな~。
あれ?こんな事を思ってる俺って、もしかしてM?
「蓮姫……ね。なんで蓮の姫?」
「月光蓮の似合いそうな女性だからですよ」
「月光蓮……あぁ。そゆこと。でも、君達がいくら大事にしても……あの子は近い将来、君達から離れていくよ」
「………………兄上……ソレは」
「ホント……厄介な能力だよね。僕のコレ」
兄上は、そのまま手をヒラヒラと振りながら、出ていった。
兄上が能力を使っているか否か、ソレは兄上にしかわからない。
今の言葉………もし……能力を使っていたら……。
「蓮姫…………君は……」