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閑話~麗華と蒼牙~




真夜中。


俺は彼女との逢瀬の為に、城内の庭園にある東屋へと向かう。


もう30年以上前から続けている、二人だけの逢瀬。


俺が王都を離れる前の晩は……彼女は東屋で一人、俺を待っている。


生い茂る真紅の薔薇のアーチを潜ると、彼女の姿が見えた。


初めて会った時から、彼女の姿は変わらない。


この薔薇のように、美しく咲き誇る美貌。


だが……薔薇とは違い、その美しさは枯れる事がない。


変わるのは……年老いていくのは…俺一人。




「いつまで其処に居るつもりじゃ?」


凛とした声が、深夜の静寂の中に響く。


俺は声をかけられ彼女の………陛下のそばへと、止まっていた足を進めた。


「…………………陛下。供もつけず、このような刻限に庭園に居るのは」


「危険だとでも?心配は無用じゃ。そなたが妾を護るであろう?」


「………この命に変えましても」


その言葉は、紛れもなく本心。


彼女は満足そうに、微笑む。


「明日、レムスノアへ向かうのだな」


「はい。反乱軍を討伐し、陛下の憂いを晴らしに参ります。しばし側を離れる事、お許し下さい」


「ふふっ。妾の為に妾の側を離れる……そなたらしい」


逢瀬と言っても、俺と陛下は何をするでもなかった。


他人が思うような、男女の関わりは一切ない。


こうやってただ、二人だけで他愛もない言葉を交わすだけ。


彼女は腰掛けていた椅子から立ち上がると、俺の側へと寄る。


手を伸ばして、俺の少し伸びている髭を撫でた。


俺は何をするでもなく、ただ彼女の好きなようにさせる。


「…………髭など生やしおって。そなたは老けたな」


「………陛下は美しいままです。初めて会った時から……ずっと」


あの時の衝撃は、今でもハッキリと覚えている。



初めて会ったのは、32年前。



当時、血気盛んで生意気な若造だった俺は、陛下の美しさに衝撃を受けた。




この世には、こんなにも美しい女性がいるのかと。




恋人に結婚の約束をしたばかりだったというのに。


陛下も藍玉様を身篭っておられたというのに。


俺の胸は、少女のように高鳴った。



「そういえば…先程、藍玉(らんぎょく)が来たぞ」


「っ!?藍玉様が?……何故?」


「ユリウスの事を聞きつけたらしくての。『近々、母上はユリウスを、お許しになりますよ』と、のうのうと言ってのけたわ」


「………それでは。ユリウス様は」


「アレに言われては、そうするしかあるまい」


クスクスと笑う陛下を見て、自分が思っていた以上に安心した。


チェーザレ様も蓮姫様も、お喜びになる。


「おや?妾の側に居ながら、他の事を考える余裕があるとは……そなたも酷い男だな」


「い、いえっ!わ、私はっ!!」


「…プッ!ハハハッ!わかっておる。蓮姫の事であろう?そなたはほんに、からかい甲斐がある!」


この人のこういう処は、本当に昔から変わらない。


「そなたは蓮姫に、ユリウスやチェーザレと同じ様に接してくれる。女王として、感謝しておるぞ。…そういえば、そなたの息子……次男は蓮姫と同じ年であったな」


「………はい」


「次男はそなたに、一番良く似ていると聞いたぞ。そなたの息子達……会ってみたいものじゃ」


陛下の言葉に、俺は故郷に残している妻と息子達の姿を思い浮かべた。


俺は妻の小夜(さよ)も、息子達も深く愛している。


家族の事を考えない日はない。


それでも


俺は陛下を、生涯かけて御守りすると誓った。


「陛下、風が出て参りました。お身体が冷えてしまう前に、早くお戻り下さい」


「わかっておる。サフィも迎えに来た事だしの」


庭園の奥を見ると、外套を持ったサフィール殿が立っている。


それは逢瀬の終わりを意味していた。


「ではな、蒼牙。そなたの事だから、心配はいらぬだろうが……朗報を待っておるぞ」


「御意」


陛下がサフィール殿と庭園を出る姿を見届けると、俺も庭園を後にした。






「…………ハァ……陛下、いつまでこのような事を、続けるおつもりですか?」


「決まっておろう?妾が女王でなくなる、その日までじゃ」


「そんなに御執心なら、ヴァルにするなり、情夫にするなり、いくらでも方法がありましょう?相手に家庭があろうが、陛下には関係ないのですから」


「わかっておらぬな、サフィ。妾が愛しているのは、今のままの蒼牙。妾に、国に忠実で、民へと尽くし……小夜や息子達を愛している。だからこそ愛おしいのじゃ。まだ蒼牙が若い兵士だった頃から……ずっと…な」


「………………少々妬けますね」


「安心おし。妾はそなたも愛しておる。心からな」


「………仕方のない方ですね。陛下は。…許して差し上げますよ」


「ふふ。妾はほんに幸せじゃ」


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