序章 2
彼女が屋敷へと連れ込まれ、もうどれほど経った事だろう。
彼女にはもう時間の感覚もなくなってきている。
あの青年から繰り返される一方的な行為は連日続いた。
初めの頃は絶望しながらも、逃げ出そうという気力も体力もあった。
しかし脱出を計った彼女が窓や扉に傷をつけてまい、ソレを見た青年は彼女へ手枷をつけ、更には先日言っていたように使用人を屋敷へと置いた。
それは使用人というよりは見張り。
体を洗ったり食事の用意をするメイドのような役割の女達も、扉の前で武器を構えている男達も、彼女には何一つ言葉を発しない。
彼等は彼女が何を問いかけても答えず、淡々と仕事をするだけ。
部屋の中は自由に過ごせるが、手枷には鎖がついており窓辺までは行けない。
テレビは勿論、本も無い、話す相手もいない。
唯一自分と話をする男は、毎夜自分の体を弄ぶ。
彼女は服を着る事もせずに、ただシーツにくるまる日々が続いた。
その体には鬱血の跡が…薄いものもあれば濃いものまで…数え切れないほどある。
ソレを自分の目が捉えるだけで涙が流れる。
あまりにも外界から、今までの生活から、自分の価値観から外れた暮らしに彼女は逃げる事も諦め、ただ泣いて日々を過ごした。
これが死ぬまで続くのか?という自分の想像に恐怖で体が震える。
そんな時は必ず、目を伏せ深い眠りについた。
彼女はいつからか……真っ暗な空間へと入り込む夢を見るようになった。
それも自分の意思で、逃げたい、と思った時には必ず夢へと入り込めるように。
彼女はまだ知らない。
自分は姫ではない、といった彼女。
しかしその夢こそが、彼女が姫たる証拠であり、姫にしか扱えない能力の一端であること。
また、自分1人だと思っていた夢の中には自分以外にも、もう1人別の人間が存在し、泣いている自分を見つめていた事に。
今日もいつものように暗い夢へと逃げようとした。
しかしそれは、ある男の来訪により中断される。
ガチャ
「ひっ!!?」
現れた男に、彼女は全身で拒絶しながらベッドの上で後ずさる。
「ただいま。俺の姫。いい子にしていましたか?」
優しく愛おしく声をかける男……自分を閉じ込め凌辱した張本人に、彼女は目に涙をためてガタガタと震えだした。
「あ……ぁあ…あ…」
「………貴女は本当に美しい。その脅える顔も…乱れた髪も…一糸纏わぬ姿に映える毎晩つけた痕すら美しい」
ウットリと恍惚した表情で見つめる青年。
ただ話すその仕草、それすらも彼女には恐怖でしかない。
段々と自分がいるベッドへと近づく彼の姿。
逃げ出したくとも、繋がれた鎖がそれを許さない。
「こ……来な…で」
彼女の声がまるで聞こえていない、自分を恐れる瞳などまるで見えないかのように、青年は構わずベッドへと上がり彼女を抱きとめて赤く擦れた手首を優しく撫でる。
「あぁ…手首がこんなに赤く擦れている。また暴れたんですね?貴女の力じゃその手枷は外せませんと何度も言ったのに。……もう諦めて」
「嫌っ!!もう!もうやめて!!!」
彼の言葉を聞きたくない、とでもいうように彼女は全力で青年の腕の中で暴れた。
しかし心身ともに疲弊した女と、男の力の差は歴然。
彼女の抵抗など意味を成さず、男はいつもと同じように彼女を組み敷いた。
「俺の与える快楽を受けれて下さい」
「嫌だ!!離してっ!誰か!誰か!!助けてぇ!!!」
「愛してる。だから……俺を愛して下さい。…俺の姫」
あぁ
なんで
こんなことに
誰か
助けて