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13 ②


女王がこの世界にいてはいけない存在というのは、彼等が想造世界から来た女王を毛嫌(けぎら)いしているから。


蓮姫は…そしてこの世界の人間は、反乱軍についてそう聞かされている。


女王の世界に反乱軍がいてはいけない…とは、彼等が女王を(はい)そうとする思想の持ち主だから。


女王の世界を否定する反乱軍は世界に否定され、またそれも彼等がそう望んでいるのだと解釈できる。


しかし蓮姫には、いまの13の言葉にそれ以上の…いや、もっと深い何かを感じた。


「…くわしく?…俺…わからない。…でも首領…いつも言ってた。俺達の…存在する意味…女王と姫を殺して…この世界を……元に戻す」


「世界を元に戻す?」


「…ん?…違った?……あるべき姿を取り戻す…だっけ?……俺…意味わからない。…でも…首領も他の奴も…言ってた」


「この世界を…あるべき姿に?」


13の言葉をオウム返しで聞き返す蓮姫。


13本人も首領達が言っていた言葉の意味を知らないのであれば、彼にこれ以上追求しても何も答えは出ないだろう。


そう(さと)った蓮姫は振り返り、別の者へと声をかける。


「ジーン、狼。今の…どう思う?」


「どう?と言われましてもねぇ。多分その通りだと思いますよ。女王がこの世界の人間ではないから気に入らない。姫も同じ。だから殺してしまえ、とね」


「俺も旦那とおんなじ意見だわ。とどのつまり、反乱軍は想造世界の人間が気に食わないってだけっしょ。でもさ…陛下や姫さん達を殺しちまったら…王位は誰が継ぐんだか。まさか……反乱軍の誰かとか?」


「そうなりゃ確実に戦争だ。それもかなりデカい…この世界全てを巻き込んだ戦争になるだろうな」


女王を殺した者が王になる。


言葉にすれば簡単だが、実際はそうはならないだろう。


女王を(はい)した反乱軍が王になろうとすれば、女王のヴァルや軍、女王派の人間が黙ってはいない。


それどころか、中立の立場の国ですら立ち上がる。


女王という圧倒的な力を持った存在が居なくなれば、ありとあらゆる国が、人間が、欲望のままにその王座を狙い、戦争が起こるだろう。


「どうして……反乱軍はそんなにも女王を否定するんだろう」


ポツリと零れた蓮姫の純粋な疑問。


ユージーンは、はぁ…とため息をつきながら再び口を出す開く。


「そんなの…ブスの考え以上に興味無いです。肝心(かんじん)なのは……反乱軍はこの世界にまだ存在している。それもかなりの数が。姫様が反乱軍の一部を倒した事は…恐らく残りの反乱軍達の耳に()ぐ届くでしょう」


「簡単に言ってっけどさ…それって…ヤバくない?」


ユージーンの言葉に火狼は眉を下げながら珍しく不安を口にする。


蓮姫は口元に手を当てて少し考える素振りをした後、ユージーンを見据えた。


「………つまり…今回のこと以上に反乱軍に狙われるってこと?」


「その通りです。姫様が噂通りの、ただの無力で無能な弐の姫ではなく、武装した大勢の反乱軍を殺せる危険な力の持ち主だとわかれば…今まで以上に倒すべき標的として狙われる事になるでしょう」


「マジかよ~。姫さん大丈夫なん?」


心配そうに告げる火狼だが、ユージーンの拳骨(げんこつ)がその頭に落ちる。


「っ!!?~~~()ぇっ!なにすんの!?」


「なに他人事(ひとごと)みたいに言ってんだ。てめぇも姫様の従者なら全力で姫様を守れクソ犬」


「殴る前に言って!?」


予想しなかったユージーンの拳骨(げんこつ)がかなり痛かったのか、頭を(さす)りながら涙目で訴える火狼。


そんな二人を見ながら蓮姫は何処かホッとした。


自分が女王の魔術でおかしくなった時も、そして今も変わらない二人の姿。


彼等は何があっても自分の傍で変わらず接してくれる。


そんな当たり前で変わらない風景がとても安心すると、蓮姫は自然と笑みを浮かべた。


「ちょっとちょっと!姫さんまで笑わないでくんない!?(ちょう)(いて)ぇんだからね!マジで!!」


「ふふっ。ごめんごめん」


「まだ笑うし~」


微笑みながら謝る蓮姫に火狼は頬を膨らませた。


そんな彼の仕草が余計に蓮姫を笑顔にさせる。


ユージーンは笑う蓮姫に安心しながらも火狼に向き直り辛辣(しんらつ)な言葉を告げた。


「気持ち(わり)ぃな。(ひど)い顔が更に(ひど)くなってんぞ」


(ひど)くないですぅ!俺は結構美形な方ですぅ!……旦那に比べたら…そりゃ(おと)りますけどねぇ~」


「当然だろ。俺以上にいい男なんざいるか、バカ犬」


「バカじゃないもん!犬じゃないもん!!」


ぎゃんぎゃんと、それはもう犬のように()える火狼。


()えられても何処(どこ)吹く風のユージーン。


そんな二人を見ながら微笑み、ノアールを再び腕に抱いて撫でる蓮姫。


そんな風景を13は不思議そうに見つめた。


「………なんで?…弐の姫笑う?」


ポツリと呟かれた言葉。


しかしソレはしっかりと蓮姫達の耳へと届いた。


蓮姫は「う~ん」と考える素振りをしながら空を(あお)ぐ。


そして13に向き直ると微笑みながら答えた。


「なんで…か。それは私にもわからない」


「…わからない?…わからないのに…弐の姫…笑う?」


「うん。本当は笑ってる場合じゃない。陛下からは牽制(けんせい)されたし、反乱軍にはこれからも狙われるし……幸先(さいさき)悪すぎる状況だから」


苦笑しながら告げる蓮姫。


だが、苦笑とはいえやはり口元には笑みを絶やさない。


「…それなのに……笑う?…なんで?…理由は?」


「きっと…笑う事にも泣く事にも…理由なんていらない時がある。ただ…笑いたいから笑う。泣きたいから泣く。そういう時ってあるんだよ」


「…わからない。俺…弐の姫が…わからない」


蓮姫の言葉に余計混乱したのか、(うつむ)く13。


蓮姫はノアールを再度地面にそっと放つと、13へと足を進める。


「…ねぇ。君は…これからどうする?」


「………わからない。…俺……弐の姫…殺すのが任務」


「まだ私を殺したい?仲間の敵討(かたきう)ちとして」


「…敵討(かたきう)ち?…違う。…任務だから…俺は弐の姫を…」


13が言い終わる前に、ユージーンは蓮姫の隣に立ちその言葉を(さえぎ)った。


「姫様を殺すのに理由も無いってか。言っておくがな…そんな真似(まね)しようもんなら、俺が全力で防ぐぞ」


「俺も俺も~。姫さんお守りすんのが我等の役目ってね~」


火狼もおどけたように告げるが、言葉とは裏腹にその瞳は真剣そのもの。


ユージーンも火狼も、もし13がおかしな素振りを見せたら、直ぐにでも攻撃できるよう体勢を整えていた。


肝心の13が殺気すら出さないのが、唯一の気がかりだったが。


しかし自分達が手を下さずとも、もっと簡単な方法があるとユージーンは気づいていた。


ユージーンは13に歩み寄ると、片膝をつき彼の目を見据える。


「姫様を殺すのが任務だってのは何度も聞いた。だから俺も何度でも言ってやる。反乱軍の仲間はもういない。お前の任務なんか、もう無いんだよ」


「……………俺…もう…任務……無い」


「そうだ。任務が無いなら生きる意味も無いだろう?違うか?」


「っ!?ちょっと!ジーン!!」


ユージーンの言葉にギョっとする蓮姫。


慌てて従者を(たしな)めようとするが、それは火狼によって止められる。


「まぁまぁ、姫さん。ちょっと成り行き見てようって」


「狼!?あんたまで何言って!」


騒ぐ蓮姫だが、13にはそんな彼女の声は耳に入らず、ただユージーンの言葉のみが脳内を駆け巡った。


「………違わない。…俺…生きる意味…無い」


ユージーンの言葉をオウム返しで答える13。


ユージーンは自分の考えが正しかったと悟り、13を残酷(ざんこく)末路(まつろ)へと誘導する。


「生きる意味が無い。それならお前はどうする?」


「……俺…どうすればいい?」


「んなもん簡単だ。お前のやるべき事…知りたいか?」


「っ、…知り…たい。俺…どうすればいい?」


(うつ)ろだった瞳に輝きを宿す13。


ユージーンはニヤリと悪く…しかし美しい笑みを浮かべながら、冷酷(れいこく)に13へと告げた。



「今すぐ死ねばいいんだよ。自分で命を絶てばいい。そうすりゃ楽になれる。それが今、お前が出来る最大最高の任務だ」



それはまるで悪魔の(ささや)き。


しかしその(ささや)きを受けた張本人、13の蒼い瞳は歓喜(かんき)の色を宿していた。


「…死ぬ……それが…俺の任務」


表情は変わらないが…呟く声には確かに喜色が込められている。


13にとってその言葉を発した者が、殺そうとした弐の姫の従者であろうと、赤の他人であろうと、それこそ反乱軍の一員であろうと関係無かった。


やっと貰えた任務に心から喜んでいる。


「そうだ。それがお前の任務だ」


「……俺の…任務。…わかった」


ユージーンの言葉に頷くと、13は(さや)に収まっていた剣を抜き、自分の首筋にあてた。


その様子に蓮姫は息を呑む。


彼が本気だと、このままその剣を引き、ユージーンの言葉通り自らの命を絶とうとしているとわかったから。


「……俺の任務……遂行する」


13が剣に力を込め引こうとしたその時…。


「っ!!」


「姫様っ!?」


「っ?…弐の姫?」


蓮姫が火狼を振り切り、13の剣を強く握りしめ彼の自殺行為を阻止した。


何が起こったのか、13は思考がついて行かず蓮姫の両手からポタポタと赤い雫が落ちる様子をただ見つめる。


「姫様!何をしてるんですか!?」


「っ、ジーン。お前こそ……何してる。彼に…何をさせようした!」


剣は握ったまま、蓮姫はユージーンを睨みつけ怒鳴った。


そのあまりの剣幕にユージーンも(ひる)む。


ユージーンは蓮姫の怒りに対して、ある程度の事は予測していた。


蓮姫の性格上、自分が13を殺そうと…いや死なせようとする事に黙っているはずが無い。


だがまさか、蓮姫本人が止めに入るとは思ってなかった。


それも素手で13の剣を握りしめ、両手に怪我をしてまで。


いや、蓮姫が止めに入る事態は頭の隅にあったのだが、火狼が止めていたので彼を振り切れるとは思わず、安心しきっていた。


「姫様……お怒りは分かりますが…まずは手当を」


「ジーン。余計な事を喋るくらいなら…その口を閉じろ」


「………姫様」


今の蓮姫の心にはユージーンに対して深い嫌悪感(けんおかん)が満ち満ちていた。


ユージーンが今、何を言っても蓮姫には逆効果だ。


ユージーンは捨てられた仔犬の様な目で蓮姫を見つめる。


彼女の為に行おうとした行為は、彼女を怒らせ、結果彼女を傷つけかねなかった。


そしてそれは蓮姫もわかっている。


だが自分を思う(ゆえ)に非道な行為を躊躇(ちゅうちょ)なく実行しようとする彼に、優しい言葉をかけることが今の蓮姫には出来なかった。


ユージーンに放った言葉は自分にも返ってくる。


怒りに満ちた今の自分の頭ではユージーンに酷い事しか言えないだろう、と。


しばし見つめ合う蓮姫とユージーン。


そして何処かお互いの気持ちが通じたのか、同時に視線を()らした。


蓮姫は13を同情の(こも)った黒い瞳で見つめ、ユージーンは火狼を殺気の(こも)った紅い瞳で睨みつけるといった形で。


「あ、あの~?もしかしなくても…怒って……ますよね~?」


「……………」


ハハ、と引きつった顔で乾いた笑いを発する火狼に、ユージーンはズカズカと近づく。


そしてグイ!と力の限り火狼の胸ぐらを掴むと、無言で睨みつけた。


「…だ、旦那?」


「………………」


「な、何か言ってよ!………あぁ~~~!もう!わかったよ!悪かった!俺が悪かったって!!」


「……てめぇ…なんで姫様を止めなかったんだ」


地を()うような低い声で(ささや)かれ、火狼の全身は鳥肌が立ち冷や汗が止まらない。


「そ、それは……さぁ……えっと………ねぇ~」


困ったように笑いながらとぼける火狼に、ユージーンは胸ぐらを掴んだ手を更にグイ!と高く上げた。


「ぐぇっ!?ちょ、だん、ぎぶ…」


「てめぇから殺してやろうか、クソ犬が」


「ちょ、ちょっと、あの、ま、待って」


容赦なく首を締め付けるユージーンの腕をバンバンと叩く火狼。


それでもユージーンは腕の力を(ゆる)めようとはしない。


むしろ力を更に込めた。


「ちょ、ほんと、し、しぬ」


「………チッ」


段々と小声になる火狼の様子にユージーンは舌打ちすると、やっとその手を離し火狼を解放した。


「うぇっ!ゲホッ!ゲホッ!!」


激しく咳き込む火狼には目もくれず、ユージーンは蓮姫と13の方へと目を向けた。


そこには13の腕ごと剣をゆっくりと下げる蓮姫の姿。


「……弐の姫…なんで?…俺の任務…邪魔する?」


「言われたらその通りにするの?任務だと言われたら…何でも?おかしいとは思わないの?」


「………???弐の姫?…何言ってるか…わからない。……任務の為に存在する……それが俺」


13は本当に意味がわかっていないようだった。


そんな様子に、蓮姫の心はチクリと痛む。


だが彼女の胸には痛みだけではなく、別の思惑(おもわく)も芽生えていた。

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