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13 ①




「え~とぉ?つまり?姫さんやあのお嬢様がおかしかったのは、ぜ~んぶ陛下のお仕業(しわざ)だったってこと?」


「そうなるな。あのブスらしい陰険(いんけん)で悪質な嫌がらせだ」


蓮姫とユージーンが火狼達との合流場所につき、今までの経緯を説明する。


火狼は蓮姫の言葉に納得とも困惑ともとれる表情で…頭を悩ませていた。


「う~ん……俺イマイチわかんねぇんだけど…お嬢様や姫さんおかしくさせて、その上姫さんの婚約者であるあの(ぼっ)ちゃんに怪我させることが姫さんへの罰だった?旦那、説明プリーズ」


「お前の脳みそイカレてんのか?さっき姫様が説明しただろ」


「だからイマイチわかんねぇって俺言ったじゃん!姫さん助けてよ~。また旦那が俺の事いじめるぅ~」


男達のやりとりを他所(よそ)に蓮姫は愛猫であるノアールを抱きかかえ撫でていた。


ノアールは蓮姫が元の蓮姫に戻ったのがわかっているのか、いつも以上に蓮姫の胸に顔を埋めてゴロゴロと喉を鳴らしている。


「狼。この人…まだ起きないの?本当に大丈夫?」


蓮姫の言う『この人』とは、あの反乱軍の13と呼ばれていた青年だった。


火狼達との合流場所、それはあの洞窟の近くの森。


13は昨晩、ここまで案内された直後火狼によって気絶させられ今に至る。


息はしているが火狼の騒がしい声にも起きず、ただ横たわり眠る彼を心配する蓮姫に火狼は軽く答えた。


「ん~?あぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと深~く眠ってもらってるだけで心配いらねぇよ。起こそうと思えばいつでも俺が起こすし。そんな事より説明お願いってば~」


「はぁ…わかった。まず陛下はソフィにある魔術をかけた。私の思考を乱し、精神を弱体させる類のものを。そうでしょ、ジーン」


蓮姫に問われユージーンも頷きながら答える。


「そうです。あのブスがかけた魔術は他者を通して精神を()さぶり、弱さを(さら)すものでした。最初はレオナルド様にかけられてると俺はふんだんですが…わざわざソフィア嬢を使ったのは…まぁ…姫様がソフィア嬢に()い目というか…あまり良くない感情を少なからず抱いていたからですね。その良くない感情が姫様の心を満たすようにしたんでしょう」


「うわぁお。表面上仲良くして裏じゃドロドロってか?女って怖ぇ」


「狼、説明やめる?」


軽口をたたく火狼をギロリと睨みつける蓮姫。


蓮姫の腕の中でノアールも逆毛を立てて火狼を威嚇(いかく)していた。


「す、すいません。続きお願いしゃーす」


冷や汗をかく火狼にため息をつくと、蓮姫はノアールを撫でながら続きを口にする。


「私は…ソフィが可愛くて妹みたいに思ってた。でも同時に…レオに大切にされてるソフィを(うと)ましくも思ってた。ソフィに対する嫉妬が…私の中の黒い気持ちが…ソフィを傷つけようとした」


「ソフィア嬢を傷つければ姫様も傷つく。姫様の性格を知っているから最悪の結末にいくようにあのブスは仕向けたんだ。俺が未然に防いだけどな」


それは蓮姫がソフィアを階段から突き落とそうとした時のこと。


その瞬間を思い出し、蓮姫はギリと歯を食いしばる。


ユージーンがとっさに現れ蓮姫を止めなければ、ソフィアは今頃どうなっていたか。


「…………ソフィは…私と二人になった時『逃げよう』と言ってた。『全てを投げ出して逃げろ』って。あの時も……様子がおかしかった。ソフィも私も」


「それも陛下の魔術ってわけ?旦那


「あぁ。ソフィア嬢の中に潜んでいたブスの意識は姫様と二人になった時を選んで現れたんだろ。俺やお前がいたら直ぐに姫様を正気に戻そうとするからな」


「刺客に襲われそうになった時に泣いて(おび)えていたのはソフィの本心?」


「えぇ。ソフィア嬢の中の感情の高まりが無意識にあのブスの意識を抑えていたんでしょう。そう考えると……高度な魔術をかけた訳ではないようです」


刺客に襲われていた時、ソフィアの様子は二転三転と変わっていた。


刺客に脅えたかと思えば、蓮姫と二人になると淡々と蓮姫に問いかけ、また刺客が現れれば泣き叫ぶ。


それはつまり、恐怖や絶望といったソフィアの感情が激しくなり、そのため女王の魔力が抑えられたということ。


女王がかけたのは簡単な魔術だったから。


高度な魔術ならこうはならない。


相手がどのような状態でも完全に制服する事が出来るからだ。


「最初はあのお嬢様使って姫さんをたぶらかしたって事?なんで?姫さんを重圧から解放してやろうっていう優しさ?」


「お前な…わかって言ってるだろ。んな優しさなんざある訳ねぇ。姫様を弐の姫という重責(じゅうせき)から解き放つ……当たらずも遠からずだが…そうなれば姫様は、俺や姫様を慕う全ての人間の想いを全て裏切る事になる。結果、姫様は王位継承権を完全に剥奪(はくだつ)されて元の世界に帰るまで幽閉だ」


「陛下は……私から全てを奪おうとした。そして弐の姫とはやはり弱く愚かな存在だと世間に知らしめようとしたのかもしれない。……でも…それも本心とは違った。私はそんな気がする」


蓮姫の言葉にユージーンも火狼も首を傾げる。


どういう意味なのか?と。


「姫様?」


「姫さん?どゆこと?」


ユージーンと火狼に問われ蓮姫はゆっくりと目を閉じ、一呼吸おくと言葉を続けた。


「陛下はわざと私にわかるような魔術をソフィにかけた……そんな気がする。最後だってわざわざ陛下らしくソフィが振舞ってたし……よく考えたら…おかしくなってたソフィは陛下らしい発言もしてた」


「え~~~……それこそなんでわざわざ?わかっちゃったら罰にならなくね?」


「仮に姫様や俺達が始めから気づいていたとしても……相手は女王。未然に全てを防げたとは限らないな。女王相手だってわかってりゃ簡単に手は出せない。それもわかってたんだろうよ、あのドブス」


そう告げるユージーンからはありありと女王への嫌悪感が表情に現れていた。


確かに、相手が女王ならば逆らう事は反逆行為として捉えられることもある。


「でも……陛下が私を本当に反逆者にして王位継承権を剥奪(はくだつ)したいなら、もっと簡単に…それこそ勅命(ちょくめい)を出せばいい。そうしなかったのは…何か意味があったのかも」


「あのブスの考えなんてわかりたくないですし、わかろうとも思いませんよ、俺は」


「まぁまぁ、旦那。おさえて、おさえて。で?姫さん、意味って何なん?」


火狼の問いに蓮姫は首を横に振りながら答える。


「それは……わからない。牽制(けんせい)をこめたのか、私を見極めるためか……それとも私達が考えられない…深い意味が他にあったのか…」


「ただ単にキメラを殺された怨みと惚れた男を奪われた怨みだと思いますよ、俺は」


ため息をつきながら「もうあのブスの話やめません?」と告げるユージーンだが、その女王に惚れられた男が言う台詞(セリフ)ではないだろう。


だがユージーンは他に気になる事があったのも事実。


そしてそれは蓮姫や火狼も同じく気になっていた事でもあった。


火狼はパン!と手を打つと(かろ)やかに話をまとめる。


「はいよ!つまり今回の姫さんがおかしくなったのも、あのお嬢様がおかしくなったのも、あのお(ぼっ)ちゃまが怪我したのも全ては陛下の御心(みこころ)のままだった。姫さんを精神的に揺さぶり傷つける事が、陛下から姫さんへの罰たった、と。簡単にまとめるとこんな感じ?」


「最初から何度もそう言ってんだろうが、クソ犬」


「犬やめてってば!……んじゃあそろそろ本題に入るぜ。姫さんオーケー?」


「いつでもいい。お願い」


「りょ~か~い」


蓮姫に促された火狼は横たわる13の元へ行くとその前にしゃがみこむ。


そして朱雀の魔術を使う時のように右手で(いん)を結び胸元に当てた。


「我が身に継がれし紅蓮の炎よ。(おおとり)咆哮(ほうこう)が如く、眠りし者を目覚めさせよ」


短い詠唱が終わると火狼の体を赤い光が包み込み、その光は(いん)を結んだ右手に集まる。


そして火狼がその手を13の体に近づけた次の瞬間。


「……………っ!?……ぅ…なんだ…今のは?……魔力?」


13が目を覚まし、体をゆっくりと起こす。


ユージーンは13が目覚める直前に、蓮姫を(かば)うように前へ立った。


そしてノアールも蓮姫の腕から飛び降り、13へと威嚇(いかく)する。


だが蓮姫を守るはずのもう一人…火狼は気の抜けるような声で13に普通に話しかけた。


「よぉ、おはようさん。しっかり目が覚めて良かったぜ」


「…今の…お前の力か。…お前……俺より…強い」


「うわぁお。理解が早くて助かるねぇ。ちなみに俺よりも奥にいる二人の方が遥かに強いかんな。下手な真似しゃダメだぜ~」


火狼は緊張感の欠片も無く13へと…いや、蓮姫の命を狙う反乱軍の残党へと笑顔で語りかけた。


13の方はやはり表情も変わらず殺気も出ていない。


「…奥の…二人?……弐の姫?…なんで?…首領が…殺すって…言ってた」


「残念だが姫様は無事だ。お前のありがたい助力…道案内のおかげでな」


ユージーンは警戒を解くこと無く13へと声をかけた。


その言葉に13は首を傾げる。


「…俺の…おかげ?…俺は…弐の姫殺す。…それが」


「任務だってんだろ?わかってる、わかってるって~。でもさ、お前以外の奴等はほぼ死んだんだわ。凍ってたけどギリ息のあった奴等も後から来た玉華の兵士に連行されたしね」


「…死んだ?…連行?……首領は?」


「お前等の首領は死んだ。玉華領主の手にかかってな」


火狼とは逆に、むしろ冷淡に淡々と真実を突きつけるユージーン。


その言葉に13の目には困惑の色が映る。


「…首領…死んだ?……俺の任務は?…俺の任務…もう……無い?」


その言葉に今度は蓮姫が困惑した。


13は仲間や首領の死を悲しんでいた訳ではない。


自分が果たすべき任務が無い、という事実に困惑しているだけだ…という事に。


(うつむ)き、ただぼんやりと下を眺めるだけの13。


だがユージーンは構わず彼に言葉を突きつける。


「そうだ。お前の任務はもう何も無い。お前等の首領が死んだからな。お前に命令する奴はもういない」


「…任務…無い。…俺…どうすればいい?」


13は懇願(こんがん)するような()をユージーンへと向けた。


しかしユージーンはそれに答えてやるような優しい男ではない。


そもそも13は蓮姫を殺そうとした反乱軍だ。


ユージーンが優しさや情けをかける事などする訳がない。


「んな事は自分で考えろ。その頭は飾りか。言っとくが、姫様を殺そうとするなら俺もノアも、ついでにこの犬も黙ってねぇからな」


「俺はついでかよ!?…まぁいいけど…そゆことだんな。わかった?反乱軍の青年君。下手な真似しちゃダメだぜ」


ユージーンの言葉に心外だ、と突っ込む火狼。


しかし直ぐにいつもの飄々とした態度と口調で13へと声をかけた。


普段通りの火狼の様子からはユージーンと違い、13を警戒するような素振りは感じられない。


ユージーンがそれをあえて(とが)めなかったのは、火狼は普段から嘘をつき言葉とは逆の行動に出るから。


こうして普通に話しかけていても13が変な素振りをすれば、直ぐに反応し行動にうつすとわかっているからだ。


「んで?任務は無い。お仲間はみ~んなやられちった。お前さん、これからどうすんよ?」


「…どうする?…俺は…どうすればいい?……わからない」


火狼がユージーンと同じ問いを13へとかけるが、13の答えも先程と同じ。


その姿は蓮姫の目に、自分を殺そうとしたとは思えない程に心もとなく、親に捨てられどうすればいいかわからない子供のように映った。


途方(とほう)に暮れる13の姿に蓮姫の胸にはある想いが浮かぶ。


そして彼女はユージーンの肩に手を置くと、一歩前へと足を踏み出した。


「姫様。不用意に近づいてはいけません」


「大丈夫。彼からはもう何も感じない」


「何も…というか元々殺気すら感じない得体の知れないガキですよ。危険です。下がってください」


「ジーン、大丈夫。彼はもう…私に危害を加えない。私はそう思う」


それはただの勘だった。


しかし蓮姫は確信していた。


この青年をこのままにしても、もう何も出来ないのだと。


それはユージーンも感じてはいたが、だからと言って蓮姫を安易に反乱軍へと近づける事は出来ない。


「姫様。もう一度言いますよ。このガキ……いえ、この反乱軍の残党は危険です」


「大丈夫。ジーンもノアも狼もいるから。大丈夫」


ユージーンが告げた言葉に蓮姫は微笑んで答え、更に一歩踏み出した。


蓮姫に引く気がないのは充分理解しているユージーン。


仕方なく一歩下がり蓮姫に道をあけた。


蓮姫は「ありがとう」とユージーンに告げると13へと足を進める。


そんな蓮姫達の様子を見ていた13だが、やはりその表情からは何も読み取れない。


本当に自分が何をすべきか、何をしたいのか、わからないようだ。


「……弐の姫…俺を殺す?」


「私は貴方を殺したりなんかしない。貴方の……仲間は私が殺したけど…貴方を殺したりしない」


「…俺を…殺さない?…なんで?」


蓮姫の言葉に首を傾げる13。


蓮姫はしゃがみ込み13と視線を合わせながら言葉を続けた。


「貴方のおかげで私は助かったから。それに…大勢の反乱軍やその首領を倒した今、無意味に争ったりしたくない」


「………弐の姫の言ってること…わからない。…弐の姫…わからない。…首領言ってた。…女王も姫も…俺達が殺す…殺さなきゃ…いけない相手。…でもそれは…女王と姫も…同じだって」


「私達が…同じ?どういう意味?」


「…首領…言ってた。女王は…この世界にいちゃいけない。…でも…女王の世界に…俺達はいちゃいけない。…だから…殺し合わなきゃいけない。…女王と姫が死ぬか…俺達が滅ぶしか…道は無い。…そう言ってた」


13の言葉に蓮姫は眉をひそめる。


そして真剣な眼差しで13へと問い詰めた。


「………お願い。詳しく教えて」

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