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玉華の長い夜・突入 2




「なんと!?弐の姫様が!」


「ユージーン殿!それは(まこと)か!?」


ユージーンから話を聞いた大牙と蒼牙は、同様に驚く。


いや、むしろ王都での蓮姫を知る蒼牙は、大牙よりもその驚きは大きかった。


「あの弐の姫様が……王都での弐の姫様からは…とても想像すらできん」


「ですが真実です。領主様、飛龍元帥。我々は今より姫様を救出に参ります」


「四人、いや三人だけで反乱軍の元へ行くなど…危険すぎる!!」


ユージーンの提案に蒼牙は頭を振りながら答える。


最初に四人と言いながら一人減ったのは、13は蓮姫救出の人数に入らないからだ。


この時ばかりは大牙も父親と意見が重なる。


「弐の姫様だけではない。お主達も我が玉華の客人なのだ。客人だけを敵地に送るなど……武人として有るまじきこと」


「恐れながら領主様、そして元帥。敵地への潜入でしたら、少数精鋭が無難でしょう。確かに敵が何人いるかはわかりません。しかし大勢を率いて突入した場合、姫様やソフィア様が危険に(さら)される可能性もございます」


ユージーンの言葉を聞いた二人は、言葉に()まる。


戦とは人数が多い方が有利と思われがちだが、そうとも限らない。


敵よりも少数でありながら、勝利を勝ち取った戦の話も少なくないだろう。


確かに玉華から大勢の兵士を連れて蓮姫を救出に向かう事も出来る。


しかし大軍を前にした反乱軍が、即座(そくざ)に蓮姫を手にかける可能性も捨てきれない。


ましてや向こうに捕まっているのは蓮姫だけではない。


人質が二人…それも無力で幼い少女達もいるのだ。


「我等だけならば反乱軍は油断するでしょう。敵はこちらの力量を知りませんからね」


そう言うとチラリ、とユージーンは火狼へと目配せする。


反乱軍は予想もしないだろう。


弐の姫を助けに来た者達が、魔王と呼ばれた男、朱雀の現頭領、サタナガットだとは。


その油断をつけば、確実に相手を殲滅出来るほど力を持っているとは誰も思うまい。


知っているのは当人達のみだ。


自信しかないユージーン達の姿を見て蒼牙は目を閉じしばし考える。


そして目を開けて彼の出した答えは……。


「………いや。やはり承諾(しょうだく)はできん。何より、弐の姫様のお命がかかっておるのだからな」


「……元帥と同じ考えなのは(しゃく)ですが…やはり玉華領主として、お(ぬし)達だけの出発を許可は出来ん」


大牙も苦々しい表情で父親の意見に同意する。


だが、駄目だと言われたからと引き下がる男どもではない。


ユージーンは満面の笑みを二人に向ける。


「領主様達のお考えはわかりました。それならば勝手に出ていかせて頂きます。我々は先を急ぎますので」


「そうだな。時間が惜しい。今ばかりは貴様の言う通りだ」


「なっ!ユージーン殿っ!?レオナルド様!?」


「元帥に領主様。悪いけどこっちには猫がいるんで。巨大化させて強行突破って手もありますよ~。旦那が大人しいうちに行かせてもらわねぇと、ガチ戦闘になる可能性も捨てきれねぇ」


「…戦闘……戦うのか?」


火狼の言葉に反応する13は腰にさした剣の柄を握りながら答える。


ノアールもいつでも巨大化していいようにユージーン達を見上げていた。


蒼牙は現場をグルリと見回すと、深く息を吐く。


「話はまだ終わっていない。ユージーン殿、私も共に行く」


「元帥?」


「王都から連れてきた兵士達は玉華の警護に当たらせるつもりだ。一人増えるだけならば、お(ぬし)達の提案とあまり変わるまい」


蒼牙の提案に眉を寄せるユージーン。


自分の言葉に驚きを隠せなかった蒼牙と大牙とは違い、それほど変化が無いのは今の言葉もユージーンは予想していたものの一つだったから。


「よろしいのですか?反乱軍の標的は元帥や彩一族の方々。共に行くことは」


「みなまで言われるな。陛下より元帥の地位を授かった身。命の危機など日常茶飯事だ」


「ひゅ~。流石は名門彩一族の現当主で女王陛下直属、王都軍の元帥だね~。旦那とは別の意味でカッコイイっすわ」


「お前ちょっと黙ってろ。わかりました元帥。感謝致します」


火狼の軽口にしっかりと反応しながらも、ユージーンは蒼牙へと頭を下げた。


飛龍元帥がいれば反乱軍の攻撃はそこに集中し、蓮姫達を助けやすくなる。


自分の狙い通り事が進んだことに、ユージーンは口角が上がらないよう(こら)えた。


「では、領主様行ってまいります」


「待て、ユージーン殿」


「……はい」


(あらた)めて告げた出立の挨拶を止められても、ユージーンは柔らかな笑みを崩さない。


むしろ自分からは何も話さず、大牙に次の言葉を促している。


次に彼が口にする言葉をユージーンには予測出来たからだ。


それもまたユージーンの思惑通りに。


「私も共に参る。当然、兵士達は同行させん。彼等には……元帥の兵も含め半分を街の警護に、もう半分は後方部隊として我等の後を追うように指示するつもりだ」


「兵士達は時間差で送るという事ですか」


「そうだ。それが玉華領主である者が出せる…最終判断と受けよ」


大牙の提案にユージーンは縦に頷く。


正直、少数精鋭が好ましいとは言ったが、援軍が無いに越した事はない。


「大牙よ。お前は後方部隊として残り指揮を」


「元帥。長く玉華を離れていた貴方にはわかりませんでしょうが、私ほどでなくとも優秀な指揮官は他にもおります」


息子の安全を願う父の言葉に、大牙は睨みながら嫌味で返す。


全てではないが、ユージーンの予想通りに事が進んだ。


この親子の性格と関係が、こういう結論を出すだろうと。


蒼牙は己の立場や使命感から、弐の姫救出に自分もと名乗り出る。


そして大牙は弐の姫を助けなければ、という使命感よりも父親への対抗心で共に行こうとするだろう、と。


これでユージーンも火狼も反乱軍の相手より、蓮姫を助ける方に力を尽くせるというものだ。


「では皆様、参りましょう。13、案内を………どうした?」


振り向いたユージーンが見たのは、自分の両手を眺めている13の姿。


時おり手のひらを返したりするものの、ただひたすらにジー…と見つめるだけの姿は、何処か幼さを伺わせる。


何も反応しない13に全員が首を傾げる中、火狼が彼に近寄り声をかけた。


「お~い。どしたよ?」


「……………手」


「手?お前の手がどうしたん?」


火狼にも見せるように、両手を前に突き出す13。


その手は何の変哲もない、普通の青年の手のひらだ。


「………俺の手。…なんともない」


「は?いや、俺らにもわかる言葉で言ってよ」


「………なんともない。…治ってる」


「治ってるって…なに?お前さん怪我してたの?」


「あぁ、そういうことか」


唯一、ユージーンは13の言いたい言葉がわかった。


13は蓮姫の結界を無理に壊そうとして、逆に電流が流れ込み両手が焦げてしまっていたはず。


その上すぐに、ユージーン魔術によって凍傷も負っていた。


なのに彼の手はそんな形跡は何処にも無い。


13は傷一つない綺麗な手をしていた。


「手の傷は姫様が治したんだろう。お前を殺すと見せかけた時にな」


「…弐の姫が……治した?…なんで?」


その13の問いには答えず、ユージーンは彼の頭にポンと手を置いて優しく微笑んだ。


そんな自分の行動にユージーン本人も驚いている。


自分の目の前にいるのは、ついさっき蓮姫を殺そうとした人物だというのに…何故、と。


蓮姫が13の手を治したのは、仮にも殺そうとした事への謝罪も込められていた。


勿論、彼の怪我を治したいという彼女の優しさもある。


だがそれもわざわざ告げずに、ユージーンは先程の行動を無意識に行った。


自分もこの青年を……何もわからない幼い子供のようだと、悲しい存在なのだと感じているのかもしれない。


(長く姫様と一緒に居たからか……俺も姫様に似てきたかな)


ユージーンは13の頭から手を離すと、振り返り再度告げる。


「大丈夫です。問題ありません。直ぐに参りましょう」


その言葉に、蒼牙達は頷き部屋を出ていく。


火狼はユージーンへと近づくとジロジロと彼を眺めた。


「………言いたい事があるなら言え」


「いや~。旦那らしくねぇってか、あんな顔した旦那初めて見たからさ。本物かな~?もしかして反乱軍が化けてんかな~?、と思ってさ」


「決めた。お前だけ置いてく」


「あ、やっぱ本物の旦那だ」


目の前で行われる漫才も気にせず、13はもう一度自分の手を見つめると、彼等の後を追って最後に部屋を出た。






その頃、蓮姫は手枷(てかせ)を付けられオースティン達反乱軍とアジトへ辿り着いていた。


「こんな近くにアジトを構えていたなんて…」


「まさに目と鼻の先。結界も張ってあり他者の目からはただの狭い洞窟だ。まぁ、弐の姫様にわざわざ説明する程のアジトではないがな」


そう話すオースティンの口元には笑みが浮かんでいる。


弐の姫とはいえ長年反乱軍が滅ぼそうとする者を堂々と捕らえ、アジトへ連れ帰ったのだから。


反乱軍は女王を滅ぼす為に結成された者達だが、女王どころか姫でさえ、それが実行された事は無い。


しかし、今まさに弐の姫は彼等の手中にある。


喜びを(おさ)えるな、という方が無理だろう。


「ふっ、うぅ……」


「ソフィ……巻き込んでしまって…ごめんなさい」


既にオースティンから部下へと引き渡されたソフィアは、蓮姫同様に手枷(てかせ)を付けられている。


何をされるかわからない……いや、最悪殺されるかもしれない。


貴族であるソフィアは今まで自分が想像すらしなかった出来事に直面し、蓮姫の言葉に答えることも出来ず、ただ泣く事しかできなかった。


蓮姫達が奥へと進むと、そこには数人の反乱軍達が(たたず)む。


そして彼等の影に小さな(おり)が隠れていた。


そこには人質として連れてこられた、あの桃花(とうか)という幼い少女が膝に顔を埋めて泣いている。


桃花(とうか)っ!!」


「っ!?母ちゃん!母ちゃん!!」


桃花(とうか)の母親は蓮姫達の列から飛び出すと、檻へと駆け寄った。


反乱軍達がソレを止めようとするが、オースティンが手で制する。


「構わん。弐の姫はこの通り捕らえたのでな」


誇らしげに告げるオースティンに反乱軍達は歓声を上げる。


親子は(おり)(はば)まれながらも、深くお互いを抱きしめあい涙していた。


そんな親子の姿をみて蓮姫の心は激しく痛む。


これは全て自分のせいなのだ、と。


「首領さん。私は約束通り、こうして貴方についてきた。もういいでしょう。あの親子とソフィを解放して」


「それは出来ん相談だ」


「っ!?話が違う!」


「はて?話が違うとはどういう事だ?俺はお前の首が落ちたその時に人質を解放する、と約束したのだ。お前が生きているのなら、まだ約束は果たされていない」


自分の都合の良い方に解釈していたオースティンに、蓮姫は腹が立ち自らの手を握りしめる。


この事態は蓮姫も予測はしていた。


だからこそ、この男に怒りが沸沸(ふつふつ)()き上がる。


「安心しろ。貴様が大人しく殺されれば人質は解放してやる。約束だからな」


「……それを…貴方の言葉を信じろと?」


「信じるしかあるまい?愚かな弐の姫よ。逃げ出そうとしても構わんぞ。直ぐに部下がお前を捕らえ、見せしめに人質を一人殺すだけだからな」


その言葉にソフィアはビクンッ!と体を震わせる。


もはや恐ろしくて言葉も出ないのだろう。


彼女は蓮姫の方へ向くとフルフルと首を振った。


そして今の言葉が、ただの脅しではないことを蓮姫も理解している。


「……わかってる。逃げ出したりなんかしない。だから…三人に危害は加えないで」


「ハハハッ!13を殺しておいて随分とお優しい弐の姫様だ!無論!お前が無事に処刑されるのであれば他の者など用はない!危害?加える理由すらない!」


大声で笑うオースティンにつられ、他の反乱軍もクスクスと笑っている。


だが、蓮姫は敵に囲まれた中でも冷静だった。


(やっぱり…あの人が死んだと思い込んでる。バレていない。ジーン達が来るまで……私がする事は一つ)


蓮姫はコクリと(うなず)(おり)とソフィアの方を見る。


「おい!皆を石台の前へ集めよ!これから弐の姫を処刑する」


「ちょっと待って」


オースティンが高らかに告げるが、それを蓮姫が止めた。


当然、眉を(ひそ)めオースティンは彼女へと問う。


「なんだ弐の姫。まだ我等に命令でもするつもりか?それとも……命乞いか」


「そんなつもりは無い。ここまで来たのだから覚悟も出来ている」


「ならばなんだ?」


「少し……ソフィアとあの親子と話をさせてほしい」


ユージーン達が来るまでに蓮姫がしなければならないこと。


それは彼等が辿り着くための時間を稼ぐことだ。

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