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疎まれる存在 1


翌日


急に貰った休日を持て余していた蓮姫は、女王のいる城の庭園に居た。


庭園には色とりどりの花が咲き乱れており、陽の光に照らされキラキラと光って、とても美しい。


美しい花を見ながらも蓮姫の心は全然晴れはしなかった。


いきなり休日が出来ても蓮姫にはする事などない。


ソフィアと過ごそうかとも思っていたが、昨日のレオナルドの言葉でソレも躊躇われた。


考えた蓮姫は、この世界の友人である彼女の息子達に会う許しを得ようと女王へ謁見に来たが、今日は客人が来るらしく、女王には会えないまま追い返された。


「貴女が暇だからって他の人が暇とは限らないんですよ。今度からは前もって連絡の一つもして下さいね。それとユリウス様は勿論、チェーザレ様とも簡単に会おうとか思わないで下さい。陛下にわざわざ心労をかけさせるだけです」


と、サフィールの嫌味付きで。


なんで久々に友達に会おうとしただけで、そこまで言われなくちゃいけないんだ、と思ったが空気に耐えられず出てきた。


公爵邸もそうだが、城の中も蓮姫に対する人々の目は冷めたものだから。


しかも、休みだというのに蓮姫には見張りの人間が数人、城まで付いてきていた。


これじゃ休めるものも休めない。


やはり邸に戻って部屋でジッとしてる方が良いのかもしれない。


使用人たちも部屋の中までは、命じれば入って来ない。


そう思い庭園を出ようとしたら、見知った人間が声をかけてきた。


「弐の姫様?城に何か御用ですか」


「飛龍大将軍…さん」


「大将軍さん?……ぶっ!ハハハハハッ!!大将軍にさん付けって!クッ…クククッ……俺…いや、私には気を使わないで下さい。ハハハッ!蒼牙で構いません」


「は、はぁ」


物凄く豪快に笑われて、蓮姫は呆気にとられる。


初対面は固いイメージだったが、どうやらこっちが彼の素らしい。


「じゃあ、蒼牙さんも私に気を使わないで下さい。一人称って私じゃなくて、俺ですよね?普通に話して下さい」


「そうですか?敬語は抜けませんが……まぁ少しは砕けた話し方のほうがいいのなら」


「はい。お願いします」


蓮姫は正直嬉しかった。


この人は自分を変な目で見ないし、ユリウスやチェーザレの師匠だった事から、二人への偏見もない。


好意を持ってお互い接することが出来る。


そんな人物は、蓮姫にとってとても希少だ。


「わかりました。ではもう一度聞きますが、何故城に?陛下へ謁見ですか?」


「はい。ダメでしたけど。蒼牙さんは、どうしてここに?」


「ハハッ!俺に花なんぞ似合いませんからね。俺は天馬舎に行く所ですよ。ここを通るのが近道ですからな」


「天馬舎?」


「はい。天馬舎とは」


「これはこれは。飛龍大将軍じゃないか」


蒼牙の言葉に被せるように聞こえた言葉。


声の方を見ると、そこには長身の男が立っていた。


余裕のある端正な顔立ちには威厳が見られ、腰には豪華な剣がさしてある。


後ろには、自分よりも多くの人間……おそらくは使用人が控えている。


蒼牙にも気安く声をかけてきたことからも、高貴な人間であることはすぐにわかった。


「これは………アンドリュー殿下」


そう言うと蒼牙は仰々しく頭を垂れる。


殿下と呼ばれた男は、そう畏まるな、と笑っているが……殿下という事は王族だ。


しかし、ユリウスとチェーザレでわかるように、女王の息子達は殿下などという呼び方はされていない。


この男は他国の王族だと、蓮姫は覚った。


「殿下。この方は」


「弐の姫……だろう?城内で簡素な軽装をして、何も言われぬ女……それも俺が知らないのは一人しかいない。そうだろ?弐の姫」


「………はい。貴方は……壱の姫の婚約者ですね」


蓮姫の言葉に、アンドリューは一瞬驚いていたが、直ぐにニヤリと口角を上げる。


「ほぉ。何故わかった?俺の話でも聞いたか?」


「いえ。壱の姫が隣国の王子と婚約したとしか聞いてません」


「その割には迷いなく聞いたな。確信していただろ」


「今この国に滞在している他国の王族に、他に心当たりありませんでしたから。ついでに、さっきの話から壱の姫と面識があるようでしたし。王族とはいえ、他国の人間は簡単に姫に会えないはずですから」


姫はいずれ、世界を束ねる女王となる。


その為、姫である間は不必要に女王がいる王都以外、他国の要人たちとの接触は控えなくてはならない。


それは無知な姫を守る為、他国が姫を利用し取り入るのを防ぐ為等………理由は色々とある。


アンドリューが壱の姫の婚約者となったのには理由がある。


彼の曾祖母は女王の娘の一人だ。


当時隣国の皇太子だったアンドリューの曾祖父に嫁ぎ、そこから王都とは数々の協定を結んでいる。


その縁で壱の姫の後見となるよう、結ばれた婚約だ。


「………ふむ。噂よりまともそうだな。まぁ、このような場で花を愛でる程度なら、それほどの興味はないが」


「???どういう意味ですか?」


何か引っ掛かる言い方をしてくるアンドリューに、眉根を伏せて聞くが、彼は答える気が無いらしく蒼牙へと向き合う。


「討伐の件、有り難く思う。貴殿なら健闘を祈るまでもなく任せられるからな」


「勿体無い御言葉です」


「では、な」


それだけ話すと、アンドリューはさっさと庭園を出て行った。



あの人、何しに来たんだ?



と、思いながらも、蓮姫はアンドリューが来る前の話を蒼牙に聞くことにした。


自分のならともかく、壱の姫の婚約者についてアレコレ聞くのもどうかと思ったからだ。


「蒼牙さん。さっきの話なんですけど、天馬舎って何ですか?」


「……は?………あぁ。天馬舎ですか。そうですね……もしお時間があるなら、一緒に行きますか?」


いきなり話を戻されて戸惑っていた蒼牙だが、蓮姫の考えを読み取り、話を合わせる。


「いいんですか?」


「弐の姫様さえ良ければ、案内しますよ」


この後の予定なんて部屋でジッとしてるだけです、なんて言える訳もない。


それに予定が出来たのは嬉しかったので、蓮姫はそのまま蒼牙に付いて行く事にした。


飛龍大将軍が一緒ならば安心……という理由で、使用人達からも開放され、蓮姫は軽い足取りで天馬舎へと向かう。




「うわぁっ!?凄い!ペガサス!!」


蒼牙に連れられて辿り着いたのは、純白の翼がついた白馬の馬舎だった。


初めて見る空想上のみの生物に蓮姫は驚きを隠せない。


「ペガ…サス?想造世界ではそう呼ぶのですか?」


「はい。あ、でも存在しない生物ですけど。この目で見れるなんて夢みたいです!もっと近づいてもいいですか?」


「ハハッ!お気に召したのなら良かった。どうぞどうぞ」


蓮姫が近づいても、天馬は怯える様子も警戒もしない。


天馬に付けられた豪華な鞍や兜に鎧から、軍事用に訓練されているらしい。


「うわ……近くで見ると大きいですね。触っても………というか、乗ってみたいんですけど…


「は?弐の姫様が、ですか?」


「…………ダメ…ですかね?やっぱり」


「いえ!ダメというわけではないのですが、女性で…しかも高貴な方が天馬に乗りたいというのは、あまり聞きませんから」


「蒼牙さん。私は、たまたま姫になった普通の小娘ですよ。高貴でも何でもない。あ、動物は好きですけど」


自分は姫なんて呼ばれる人間じゃない。


高貴でもなければ、公爵家の一人息子と釣り合う身分でもなく、帝王学なんて学べば学ぶ程に意味がわからなくなる。


ただ、この世界に来てしまっただけ。


皮肉を込めて蓮姫は言った。


蒼牙は何かを言おうと口を開くが、その言葉を出すのをやめた。


確かに彼女はただの娘だ。


周りがどう接しているか、どう思っているか知っているからこそ、自分くらいは彼女に普通に接してあげるべきだ。



自分の弟子たちがそうだったように。



「…では、俺が指南致しましょう。どの天馬にしますか?」


その言葉は嬉しかったが……どの天馬、と言われても……蓮姫にはペガサスどころか普通の馬の善し悪しもわからない。


奥を見ると1頭だけ漆黒の天馬がいる。


近くで見ると体躯だけでなく、羽の一つ一つまで綺麗に真っ黒く染まっていた。


「蒼牙さん、この子は?」


「あぁ。黒天(こくてん)ですよ。俺の天馬です」


「蒼牙さんの?」


「えぇ。師から譲り受けた黒い天馬の子供です。俺が取り上げたので、師から譲り受け、それから40年の付き合いですよ。こいつとは。ヨシヨシ」


「黒天……毛並みも翼も綺麗ですね。黒天に乗ってもいいですか?」


その蓮姫の言葉に、蒼牙は今日何度目かわからない程に驚いていた。


黒い天馬は気性が激しく、力も他の天馬より強い。


が、一度懐いた人間にはとても従順だ。


女達からはその姿の為に嫌われる事も多いが、彼女は本当に気に入ったらしい。


嬉しそうに頭を撫でる蓮姫に、黒天も顔を擦り寄せている。


(黒い天馬に乗りたいという女性も珍しいが…黒天がこうも他人に懐いているとは…)


黒天は他の黒い天馬よりも、その特性が強く、蒼牙やその家族以外に懐くのは初めてだった。


「黒天も弐の姫様を気に入ったようですね。では、手綱をしっかりと握って、片足をかけながら勢いをつけて跨いで下さい。俺も身体を持ち上げますから」


「はい!………よっ!!…と。うわぁっ!?思ったより高い!」


「よっ!ご満足頂けたなら良かった。このまま少し歩かせましょうか」


「お願いします!」


蒼牙は蓮姫の後ろに飛び乗ると、手綱を握り黒天を歩かせた。


こんなに樂しいのは、この世界に来てから初めてかもしれない。


蓮姫は素直に嬉しかった。


「姿勢はしっかりと。手綱は離さずに。そうです。初めてにしては上手いじゃないですか」


「ありがとうございます。なんか、蒼牙さんってお父さんみたいですよね」


「ハハハッ!実際に三人の息子を持つ親父ですからな!次男は姫様と同じ年ですから、本当に親父みたいなもんでしょう。故郷に居るので、弐の姫様が会う事は無いでしょうが」


「息子さんがいるんですか?でも、故郷って……今は離れて暮らしてるんですか?やっぱり陛下のヴァルだから、蒼牙さんだけ王都に?」


「いえ、俺は陛下のヴァルではありませんよ」


女王やサフィールからの信頼も厚い蒼牙。


てっきり女王のヴァルかと思っていたが、それは蒼牙によって否定された。


「ヴァルとは自分の全てを捨てて、主にのみ仕える存在です。俺は………家族や故郷を捨てて、陛下にのみ仕えることは出来ない。陛下からの温情で、ヴァルにはなっていないんです」


「自分の……全てを捨てて…」


顔を伏せて考え込む蓮姫。


いずれ自分もヴァルを持たなくてはいけなくなるだろう。



だが、そんな存在が果たして現れるだろうか?



「弐の姫様。今は深く考えなくとも大丈夫です。焦らず、じっくりと、貴女のペースでいいんです。………っと、話し込んでいるうちに、訓練所まで来ちまったか」


蒼牙の言葉に蓮姫が顔を上げると、前方には剣や槍を構えて、訓練している兵士達が居た。


その中に見知った顔があるが、向こうも気づき、こちらに近づいてきた。


「おう!久遠殿!!」


「飛龍大将軍。何をなさっているのですか?」

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