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玉華の領主 11


柔らかい笑みを浮かべながら自分へ礼を告げる蓮姫に、火狼は顔に熱が集まるのを感じた。


アビリタの一件から、蓮姫は笑う事が少なくなった。


玉華に入ってからは復讐心もあり、常にピリピリとした空気をまとい、お決まりの猫かぶり用笑顔以外は笑う事はなかった。


そんな蓮姫が、自分だけに向けた笑顔。


火狼は不覚にもときめく。


(やっべ~……最近は仏頂面(ぶっちょうづら)ばっかだから忘れてたわ…。姫さんて……やっぱ滅茶苦茶いい女じゃん)


「……?どうした?狼」


「……………へ?……ぁ、ああ!大丈夫!なんでもないぜ!姫さんは物分りが良くて助かるな~、って思ってただけだから!」


「……???そうなの?」


火狼の心中など知る(よし)もない蓮姫は、ただキョトンとするばかり。


(……若干、天然要素ありのにぶチン、か。ある意味凶悪だぜ、姫さん)


「まぁ、分かってくれて本当に助かるんだけどさ~。反乱軍が襲って来るのはともかく……不意をついてきたりとかもあんじゃね?もしくは奴等が普通に玉華の街に(まぎ)れ込んでる可能性もあるしな。まぁ……領主様の館にはいないだろうけど」


火狼の言葉はもっともだ。


これだけ大々的に玉華の民を呪詛へと苦しめている反乱軍。


それも呪詛だとバレないように。


玉華に紛れ込んでだ反乱軍が呪詛を直接施し、また毒だと噂を流した可能性は充分にある。


そして領主、大牙の館に紛れ込んでるのならばこんなに面倒な事にはなっていない。


そもそも蓮姫の存在を知っている者がいる館の使用人達に紛れていれば、蓮姫は既に襲われているだろう。


「ジーンが戻って来たら、なるべく離れない方がいいね。固まって行動した方がいい。何処に反乱軍がいるかわからない」


「姫さんは反乱軍に面識あるみたいだけど…そいつが来るとは思えねぇしな。…反乱軍は何百人もいるし」


「そういう狼は反乱軍に面識はないの?」


「ん?俺?」


火狼はこの世界随一の暗殺ギルド、朱雀の頭領だ。


反乱軍から依頼を受けた事もあるのでは?と蓮姫は考えたが火狼は大げさに首を振りながら否定する。


「無い!ナイナイ!姫さん、俺が反乱軍から仕事を受けたかも?って思ってるとしたらソレは有り得ないぜ」


「有り得ない?何故?」


「俺が朱雀で、相手が反乱軍だから」


「…………わかるように説明して」


端的過ぎる火狼の説明に、蓮姫はため息を吐きながら尋ねる。


そして少なくとも意外だった。


暗殺ギルドとして名だたる暗殺者を抱える朱雀が、反乱軍の依頼を受けていない事に。


反乱軍ならば殺したい、邪魔な相手などこの世界にいくらでもいるだろう。


彼等の依頼を受ければ朱雀にとっても仕事が絶えず有益なのでは?と。


「まぁ、朱雀に関わらず…四大ギルド全部に言えるんだけどな。反乱軍の依頼は一切受けない。それが四大ギルドの掟なんだわ」


「反乱軍の依頼を受けない事が……掟?それも四大ギルド全てに共通してる?」


ガチャ


「四大ギルドは現女王の最初のヴァルの血族だから、ですよ」


「ジーン。聞いていたの?」


二人の話に入ってきたのは、今まで部屋の外へと出ていたユージーン。


蓮姫の問いかけに火狼は軽く冷や汗をかく。


「はい。姫様の仰せの通り、今後はなるべく二人以上で行動した方が良いでしょう」


「…?……あぁ、『固まって動いた方がいい』って言った事。それはともかく…今のはどういう意味?」


「犬。姫様に説明を」


自分の考え……蓮姫へと吐いた暴言を聞かれていたのでは?という火狼の考えは杞憂に終わったらしい。


ホッと肩を撫で下ろすと火狼は蓮姫へと説明し始めた。



四大ギルドには共通して掟がある。



女王陛下のヴァルでもあった初代と同じく、陛下へと忠誠を尽くす。


朱雀は勿論、他の四大ギルドも反乱軍の依頼は一切受けない。


反乱軍は反女王派。


反乱軍の依頼を受ける事は女王への反逆を意味する。


四大ギルドは依頼を受ける際、必ず依頼主の身元や身辺を調査する。


万が一、依頼主が反乱軍(または反乱軍の関係者)の場合は、速やかに軍へと報告する。


「俺らも今の四大ギルドの功績(こうせき)は自分達の実力は勿論だけど、陛下の最初のヴァルが御先祖様って理由が一番デカいってのはわかってるしな」


火狼の説明に、蓮姫は理解したように頷く。


そして先程の火狼の態度にも納得がいった。


「だからこそ陛下を裏切るような真似は出来ない。反乱軍とは面識なんてない、って事か」


「あのブスを敵に回す厄介さも、知っているでしょうしね」


以前ならば、ユージーンのこの物言いに蓮姫は一言も二言も返していただろう。


失礼だ、やめろ、と。


しかしアビリタでの悲劇を知ってしまった蓮姫は、同時に女王の恐ろしさも知った為、口を挟む事はなかった。


彼女の代わりに火狼が再び口を開く。


「つまり、街に反乱軍が紛れ込んでても誰も見抜けないってわけね~。街には絶対呪詛を撒き散らした奴が潜り込んでるってのに。……面倒だぜ」


「いや、そう考えると姫様の今回の無知無謀(むちむぼう)な策がいい方へ転がったな。こっちから探さずに向こうから出向いてくれる」


無知無謀(むちむぼう)は余計。それよりジーン。領主様からの言伝とは何だったの?」


蓮姫にギロリと睨まれながらも、ユージーンは悪びれる様子もなくニッコリと微笑みながら答えた。


「飛龍元帥が客人を連れて玉華に到着した、とのことです」


「……?…飛龍大将軍……蒼牙殿が?」


蓮姫の言葉に一瞬、ほんの一瞬だけユージーンの眉がピクリと動く。


何故か『元帥』ではなく『大将軍』と告げる蓮姫は…まるで蒼牙の出世など知らなかったように。


だがそんな蓮姫へと(こうべ)を垂れたユージーンは、あえてそれには触れずに、しかし蒼牙への呼称は変えずに話を進めた。


「……はい。元帥は既に領主様の館へと向かわれたとのこと。いかが致しますか?」


「私達も館へ戻る。支度をしろ」


そう言い立ち上がる蓮姫。


ふらつきも見られず、想造力で疲弊していた体は既に回復しているのがわかる。


そんな蓮姫を横目に見ながら火狼は伸びをしながら答えた。


「へ~い。まぁ支度なんて無いんだけどね~」


「飛龍大将軍がわざわざ陛下の元を離れて故郷(くに)に戻るなんて…余程の事態。それだけ反乱軍は陛下にとっても驚異という事ね」


「……そうですね。その上、元帥の末の御子息まで病にかかっている。父親として心配するのは当然でしょう。」


「御子息が…病?」


蓮姫は初めて聞くように目を見開く。


その様子にユージーンだけでなく火狼も眉をひそめた。


「おいおい姫さん。ここに着いた時に元帥の奥さんが言ってたじゃん。忘れちまったのかよ」


「……そうだった。奥方様も大層心配されていた」


「ええ。人情深く義に厚いと噂の飛龍元帥が、息子の病を聞いて黙って遠く離れた王都でジッとしてる、とはいられないでしょう。それが父親というものですから。…...まぁ、父親になった事ないんでわかりませんけど」


「そのままふざけてるならジーンは置いていくから。行こう、ノア」


宣言通り部屋に男二人を残したまま蓮姫はノアールを抱きかかえ、行ってしまった。


「え?俺まで置いてかれんの?俺関係なくね?……しかしよぉ…なんか姫さん………おかしくね?らしくねぇっつーか…」


「あぁ……らしくない。いつもの聡い姫様らしくないな」


「やっぱ想造力使い過ぎて疲れてんのかね~」


火狼の問いかけに答えられる者はここにはいない。


いや、蓮姫がこの場にいたとて答える事は出来ないだろう。


ユージーンも口にはしないが、蓮姫の身に自分達の知らない何かが起こっているのでは?と考える。


しかしいくら考えても答えが簡単に出る物ではない。


そんな沈黙に耐えられなくなった火狼は、口を開き気になっていたもう一つの件を尋ねる。


「そういやさ…客人って誰なん?」


「さてな。俺も聞いたが使いの兵も詳しくは知らないらしい。…が、わざわざ反乱軍がいて、その上『弐の姫』である俺の姫様が滞在している玉華に来る奴だ。あのブスの命令であれ自発的であれ……面倒な事になりそうだ」


「うわ~……旦那の勘って当たりそうだから嫌だわ~」


「安心しろ。俺もお前が大っ嫌いだ」


ニッコリと最高の笑顔で酷い事を告げると、ユージーンは蓮姫を追って部屋を出ていった。



「…だから……俺の扱い酷くね?」



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