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間章 2


【忌み子の塔】


ユリウスとチェーザレがいつものように窓辺でティータイムを過ごしていると、コンコン、と扉を叩く音が響く。


「ん?客人とは珍しいね。チェーザレ、出てくれる?」


「あぁ」


兄に促され、チェーザレは立ち上がり扉へと向かう。


扉を開くと、そこには軍の者が立ち敬礼をしながら声を張る。


「チェーザレ様!ユリウス様!陛下よりの密書をお持ち致しました!」


「御苦労」


チェーザレは軍人より手紙を受け取ると、早々に扉を閉めてユリウスの元へと戻り席につく。


「相変わらず素っ気ないね」


「彼等も私達と関わりたくはないだろう。その証拠に、目に恐怖の色が(にじ)んでいた」


「手紙を君に渡した時も手が震えていたしね。今頃肩の荷がおりてホッとしてるんじゃないかな」


「わかっているなら一々文句を言うな」


「文句じゃなくて可愛い弟がこれ以上嫌われないように、っていう兄心なのに。まぁ、能力者である俺達には無理な話だけどね」


ハハハと笑うユリウスにチェーザレはため息を一つつく。


『幸せ逃げるよ』という兄の言葉を無視しながら、チェーザレは女王からの密書の封を開け目を通した。


ソレを見るチェーザレの瞳が徐々に驚きへと染まる。


「母上はなんて?」


「……………」


チェーザレは無言で兄へと手紙を渡した。


その表情に、いつもの飄々とした態度が消えるユリウス。


手を伸ばしチェーザレと同じように中身を見ると、彼もまた弟と同じように驚愕の表情を浮かべた。


「……っ!!?……蓮姫が………禁所を…」


彼等の母親からの手紙には、今回の蓮姫の所業が書かれていた。


禁所へと入った事。


キメラを殺した事。


禁所を解放した事…が。


「キメラに関しては…まだ自己防衛かもしれん。しかし…解放は自分の意志で行った…と考えるべきだろうな」


「…なんてことを。母上の許可なく…それも世界中を敵に回しかねない事を…どうして?」


ユリウスは悲しげに呟く。


蓮姫が行った事に対して…というよりは、今後の彼女の事を考えればこその憂い。


兄と同じ心境のチェーザレだが、彼には一つ気になる事があった。


「それは蓮姫にしかわからん。だがあの使者は『伝書』や『手紙』ではなく『密書』と言っていた。今回の事は極秘事項という意味だろう」


「つまり知っているのは極僅(ごくわず)かに限られる。母上にクラウス殿…母上のヴァルや一部の貴族達…か」


(おおやけ)にされれば民が怒り狂い、私達の立場とて危うい。それを考えた母上の処置だろう。……いずれは公開されるだろうがな」


「……チェーザレ……コレはやっぱり…俺達のせいかな?」


兄の問いかけには答えず、チェーザレはゆっくりと椅子へとかけ直す。


それは彼自身も兄に問いかけたかった言葉が同じだったからだ。


そして欲しい答えもお互い同じだろう。


肯定してほしい。


自分達と関わったからこそ、彼女はアビリタを解放したのだと。


自分達を想っているからこその行動だったのだ、と。


しかしまた否定もしてほしい。


それは蓮姫の独断であり自分達は関係ない。


大切な蓮姫……そんな彼女が今後、窮地(きゅうち)(おちい)るかもしれない。


その原因を作ったのが、自分達と関わったせいだと思いたくない。


自分達の存在が彼女を苦しめる事になるとは、思いたくない。


沈黙が続く中、先に口を開いたのはチェーザレの方だった。


「………蓮姫と…」


「ん?」


「蓮姫と共に過ごした事を後悔した事も、間違いだったと思った事も無い」


「うん。そうだね。それは俺も同じさ」


「だが………蓮姫にとって…私達と関わった事は…弐の姫として間違いだったのかもしれん」


「……チェーザレ…」


自責(じせき)(ねん)にかられるチェーザレ。


顔を下げたまま呟く弟に『そんな事は無い』とユリウスも否定したかった。


しかし双子というものは、どこまでも思考が同じらしい。


いや、双子…というよりは、この二人はだろう。


産まれた時から二人で生きてきた。


この封鎖された塔の中で。


だからこそ、お互いを誰よりも理解している。


そしてそれ故に、先程の自分の問い掛けに対して…弟と同じように、ユリウスはチェーザレの言葉を否定出来なかった。


そう、自分達は否定出来ない。


「……チェーザレ。蓮姫が今、この場にいたとして…なんて言うと思う?」


「???いきなりなんだ?」


先程とは違う意味で答えに困る問いかけをする兄に、チェーザレは頭を上げる。


そこには困ったように笑う兄の姿。


「いいから。なんて言うと思う?」


「…………言葉はともかく…怒るな。確実に」


「場合によっちゃ、泣いちゃうかもね」


フフと笑うユリウスに、チェーザレも口元が軽く、本当に僅かだが緩む。


蓮姫がこの場にいたら、先程のチェーザレの言葉、ユリウスの態度に怒っただろう。


彼女はこの二人を、とても大切に想っているから。


彼女にとって、とても大切な友人だから。


「俺達が蓮姫の事を大事に想っているように、蓮姫もまた俺達を大事に想ってくれてる。『なんでそんな事言うの!?』『私だって後悔なんてしてない!』ってね」


「そうだな。あいつは……蓮姫はそういう奴だ」


「そう。そんな蓮姫だからこそ、俺達は大切で……大好きなんだからさ」


二人の脳内には自分達を正座させて説教する蓮姫の姿が浮かぶ。


あまりにも自然すぎるその光景に…いや想像に二人は笑みを浮かべた。


「ふふ……ははは。あ~…思い出したら蓮姫に会いたくなってきたよ」


「会いに行けばいいだろ。お前の能力なら簡単だ」


ユリウスは他人の夢や脳に直接干渉出来る能力者。


蓮姫の夢に入り込めば簡単に会いに行ける。


しかし蓮姫が王都を出たその日から、ユリウスはただの一度も彼女の夢へと入らなかった。


「前にも言っただろう。彼女は自分の意思で俺達に会わずに出て行ったんだ。それなのに俺から会いに行く、なんてかっこ悪いじゃないか」


「それだけじゃないだろ」


チェーザレは軽く睨みながら兄へと告げる。


ユリウスの今の言葉は本心だろう。


待つ事が自分の…否、自分達の役目であると。


しかし兄には他にも理由がある事を、チェーザレは弟としてとっくに気づいていた。


「私に遠慮などせず、会いたければ会いに行けばいい。蓮姫のことだ。夢に入られた事に怒ろうが()ねようが……最終的には許してくれるだろう」


「君を一人置いて?俺だけ蓮姫との逢引(あいびき)を楽しめと?無理に決まってるだろ」


キッパリ『有り得ない』と言い切るユリウス。


いくら可能でも、難なくこなせる事でも、彼にはそんな選択肢は無い。


「俺が蓮姫と再び会う時。それは夢の中じゃない。現実で…君と俺と、二人で蓮姫と会うんだから。この王都でね」


ニッコリと笑顔を浮かべるユリウス。


チェーザレはハァ~、と大袈裟にため息をつきながら『この頑固者め』と呟いた。


しかし内心は嬉しかった。


この兄はいつだってこうだ。


自分の事よりも弟の事を第一に考える。


だが自分を蔑ろにしている訳ではない。


兄と弟…二人で一緒に、が昔から定番だったし相手の為というよりかは自分の為でもある。


喜びも悲しみも怒りも…共有したい、と。


そしてソレはチェーザレにも言える事だ。


チェーザレがユリウスの立場でも、同じ事を言っただろう。


「はは。誰に似たのかねぇ。あ、優秀な弟に似たのか」


「それは色々とおかしいだろ」


「おかしくないさ。君は優秀だ。自信を持っていい」


「そっちじゃない。…と、そんな事よりも」


「ん?」


ユリウスとの、これまた定番のやりとりが延々と繰り返される前にチェーザレは話題を変えた。


「蓮姫は玉華に滞在するらしい」


「玉華といえば……蒼牙殿の領地だね。当然行った事はないけれど、蒼牙殿から聞く限り良い土地だ」


ユリウスは椅子の背もたれに体重をかけながら、両手を頭の後ろに組む。


ブラブラと足を揺らすその仕草は子供のようだ。


「人口は王都に比べれば全然少ないけど……緑の多い山々に囲まれた和やかな土地、か。そこで蓮姫と3人でまったり昼寝でもしたいな~」


「……私がそんな話をしたいとでも?」


「いいや。違うね。絶対に違う。でも俺が聞きたいような話じゃないんだろ?だからふざけて時間を稼ぐ。ダメ?」


「お前のその回りくどい言い方、どうにかならんのか?…まぁいい。母上は玉華へと使者を(つか)わせるつもりだ」


その者の名前も麗華からの密書には記されていた。


チェーザレが差し出した密書をのぞき込み、その名前を見た瞬間…ユリウスからおどけた表情が消えた。


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