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婚約者 2


レオナルドは蓮姫に対してとても厳しく、それは婚約者というよりも教師や上司に近い。


が、この従兄妹に対してはとても甘く蓮姫の目にはレオナルドとソフィアは恋人同士のように見えた。


蓮姫は遠目で、レオナルドが自分には見せない笑顔をソフィアに向けている場面を何度も見ていたから。


自分とは一緒の席で食事を摂る事すら滅多にないというのに、ソフィアとは良く二人で出掛けたり部屋で過ごしたりしているらしい。


蓮姫には思い出したようにドレスやら装飾品やらの高価な贈り物が届くだけ。


それに自分に付いている筈の侍女や使用人たちもソフィアの方を慕っている。


たまたま聞いた噂話だが、二人は幼い頃から共に過ごし結婚の約束までした仲らしい。


いうならば、ソフィアは蓮姫の恋敵のような者だ。


「お姉様!その姿でもお姉様は綺麗ですが、やはり夫の為に美しく着飾ることも妻の勤めです!ソフィアもお兄様とお姉様の為に協力致します!!」


「ありがとね、ソフィ」


それでもソフィアが自分を慕ってくれているのも事実。


彼女がとんでもない性悪ならば嫌う事も出来ただろうが、ソフィアの裏表ない性格が蓮姫はとても好きだった。


「弐の姫様。そろそろお時間です。自室へとお戻り下さい」


「……はい。それじゃあソフィ、またね」


「えぇ!?お姉様!もう行かれるんですか!?ならソフィアは、お姉様のご用事が終わるまでお待ちしています!終わったら、また一緒にお茶をしましょう!いつものように美味しいミルクティーをご用意させますわ!お兄様も呼んで!」


「この後は帝王学と情勢学の講義と刺繍のレッスンがあるから、今日はもう時間取れないんだ。ごめんね。また来てね」


「…ぶぅ。はぁい」


口を尖らせ不満そうなソフィアに別れを告げると蓮姫は与えられた自室へと戻っていく。


そんな蓮姫の後ろ姿を見てソフィアは踵を返し目的地へとズンズン進んでいった。



そして目的地につくと、乱暴にその部屋の扉を開ける。


バタンッ!!


「お兄様っ!!」


「っ!?……ソフィア?来る時は連絡しろと言っただろう。それに淑女たるものノックもせずに入るとは何事だ」


ソフィアの目的地とは屋敷内にあるレオナルドの執務室。


乱暴に開けられたドアに一瞬かなりビビったレオナルドだが、ソフィアを見ると平然とした様子で目を通していた重要書類に再び目を向ける。


「ソフィアはそんな話をしに来たんじゃありません!お姉様の事です!!」


「蓮姫に何かあったのか!?」


蓮姫の事だと知るやいなや、座っていた椅子から大きく立ち上がるレオナルド。


レオナルドにとって手元にある書類に書かれた内容よりも遥かに重要な案件だ。


「『何かあったのか!?』じゃありません!何も無い!無さすぎるから来たんです!!これじゃあお兄様は夫失格です!」


「お、夫失格だと!?一体どうしたと言うんだ?」


「お兄様!一番最近にお姉様とお過ごしになったのはいつです!?」


「………一昨日のダンスマナーの時だな。それがどうしたんだ?」


「~~~~~っ!!もぉっ!そういう意味ではありません!まったく!お姉様に夜這いするどころか、デートの一つもしていないんですか!?」


今14歳の少女からとんでもない一言が聞こえた気がするが、レオナルドは敢えてその部分だけ聞かなかったことにした。


「贈り物なら昨日も届けたぞ。ロゼリアから取り寄せた首飾りだ」


「殿方でしたら物ではなく言葉で!行動で示してください!!」


ソフィアはもう爆発寸前だった。


婚約したというのに一向に進展のないレオナルドと蓮姫に、自分だけが一人ヤキモキして馬鹿みたいだ、と。


「だが、贈り物を薦めたのはお前の方だろう?」


「贈り物だけでは意味がありません!かえって逆効果にもなります!殿方でしたらデートに誘うくらいビシッと決めてください!ビシッと!!」


「で…デートなど……なんて誘えばいいんだ?」


ソフィアはガックリと肩を落とし深く項垂れた。


この従兄妹はこうも恋愛に対して奥手だったのか。


昔から真面目で色恋など興味なし。


恋などせずとも、年頃になれば勝手に父親が結婚相手を決めるだろうと。


身を焦がすほどに誰かを恋い慕う、なんて考えたことも無いはず。


それなのに


レオナルドは蓮姫と出会い恋に落ち、今では彼女の事を考えない日は無い。


「とにかく…もう少しお姉様の為に時間を作って下さい」


「だが、今の蓮姫は弐の姫として、少しでも多くの事を学ばなくてはいけない。そんな彼女の邪魔などしたくはないし、俺自身も公務がある」


「それでお姉様の気持ちが離れても良いのですか!?そんな悠長なことを言っていたら、お姉様はユリウス様とチェーザレ様の元へと帰ってしまうかもしれないのに!それでもいいんですか!?」


「い、いいはずないだろう!!」


ユリウスとチェーザレの名前が出た事で、レオナルドは焦る。


『弐の姫が忌み子の双子と共に暮らしていた』


『弐の姫があの忌み子達を庇い立てしたらしい』


その話は国中に知れ渡り、蓮姫と二人の関係は色々な憶測や噂が渦巻いている。


レオナルドも口には出さないが、内心は三人の関係を疑っていた。


ひと月も一緒にいて、蓮姫に何もなかったのか?


どちらか一方と愛し合う間柄だったのでは?


もしくは両方と?


疎まれ忌み嫌われる運命を持ってしまった者同士、惹かれ合わないはずがない。


だからこそ………蓮姫は絶対に…あの二人の元になど帰したくない。


一度でもそんな関係を考えると、レオナルドの心は嫉妬に染まっていった。


ただでさえ、彼は周囲の人間と同じように彼等をよく思っていなかったから。


「それなら、なんとかお姉様と一緒に何処かへ出掛けたり、毎日食事を一緒にされたり、お茶する時間を作って下さい」


「………はぁ…わかった」


「……お兄様。一つお聞かせ下さい。そんなにお姉様の事が大好きなのに、どうしてお兄様は、お姉様に厳しくあたるんです?」


レオナルドが蓮姫を愛しく思っているのを、誰よりも知るソフィア。


以前、ソフィアが蓮姫を訪ねた際、蓮姫に勉強を教えるレオナルドの姿を偶然見かけた。


蓮姫にベタ惚れしているレオナルドからは想像もつかない程に、眉間には深くシワを寄せ、厳しく指導する姿に驚いたものだ。


初めは、初恋だから上手く接することができないのか、と思ったが違うらしい。


「蓮姫には女王となる素質が充分にある。しかし弐の姫という事や、壱の姫との差が、周囲が彼女を次期女王とは認めないだろう。だからこそ俺は蓮姫に厳しくする。少しでも早く壱の姫に追いつく……いや、追い越すためにも。それが彼女の為になるのだから」


「………出過ぎたことを言いました。お許しください。お兄様」


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