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アビリタ解放 5


「行こう。ジーン、ノア」


「はい。姫様」


「グウウウン!!」


蓮姫は頭を上げると自分の従者達へと声をかける。


ユージーンは胸に手を当てながら、ノアールは咆哮して自分の意思を蓮姫へと伝える。


少し離れた場で「あれ~?姫さん俺は~?」という火狼の言葉を無視し、蓮姫は公爵へと再度向き合った。


「公爵様。アビリタの者達を頼みます」


「その(めい)しかと(うけたまわ)りました。弐の姫様の旅の無事…心よりお祈り申し上げます」


先程の蓮姫よりも深く頭を下げる公爵に別れを告げ、蓮姫達はアビリタを後にした。


蓮姫達が森の奥へと消えていくのを確認した後、公爵は自分が率いた軍の待つアビリタへと向かう。


蓮姫との約束を守るため。


女王陛下への怒りや不信を持つ村人達を鎮めるために。




残された火狼は大げさな程にため息をついた。


その様子を怪訝な顔で見つめる青葉。


「あ~りゃりゃ~。俺ってば姫さんに振られちまった感じ?」


「そもそも弐の姫はお前の標的だろ?ヴェルト公爵の手前、黙ってはいたが…これからどうするつもりだ?朱雀」


「ん~~~?青葉だって知ってんだろ?俺はいつだって好きなように動く。俺のやりたいように、な。今回だってそうだぜ」


「…弐の姫暗殺の件は聞かなかった事にしておく。でもな…四大ギルドの情報網の速さは、お前が一番良く知ってるだろ」


「ま、こんなんでも頭領だしな。バレるのは時間の問題。それも踏まえて好きなようにやるさ。じゃあな!青葉!」


火狼は青葉の肩を軽く叩くと、そのまま森の奥へと走り出す。


向かう先は蓮姫達。


「……何が自分のしたいように、だ。…お前はいつだって…母親や一族……残火のために動いてるだろ…」


火狼に聞こえないのがわかっていながらも、小声で呟く青葉。


当然その声は誰の耳にも届くことはない。


火狼を見送った後、青葉は公爵と同じようにアビリタへと向かった。


青龍である自分の今回の雇い主はヴェルト公爵。


公爵が今回の件でどのような立場となるかはわからないが……製造を基本としたギルドとして、アビリタに対してこれから大仕事が舞い込むのは予想が出来る。


アビリタを囲む柵か、巨大な檻か……アーチと同格とまではいかなくとも能力者達を外に出さない何かを造らなくてはならないだろう、と。



友である火狼が何を目的とし、何を成そうとしているかはわからない。


だが、同じく四大ギルドとして生きる自分も、一族の誇りを守るために動くだけ。


青葉は友への心配を心の隅に追いやり、青龍として公爵の後を追った。







「おーい!待てよ姫さーん!!」


火狼は走りながらブンブン手を高く振り、先を歩く蓮姫へと声をかける。


蓮姫は火狼の声に足を止めると彼の方へと向き直った。


蓮姫が振り向いたため、自然とユージーンとノアールも火狼へと体を向けて立ち止まる。


「何?」


「何?…って、姫さん冷たくねぇ?なんでいきなりツンツンしてんのよ~」


「姫様に馴れ馴れしくしてんじゃねぇよ、犬っころが」


「あ、旦那は通常運転なんね。いっそデレてほしいんだけど」


ニコニコと笑顔を浮かべる火狼とは対照的に、蓮姫もユージーンも硬い表情を崩さない。


それはそうだろう。


もはや火狼……蓮姫の命を狙う者と行動を共にする必要はないのだから。


「キメラは倒した。アーチを壊してアビリタからも出る事が出来た。これ以上、私達が馴れ合う理由は無い」


「え~~~。そんなつれない事ばっか言わねぇでよ、姫さん」


「それとも…目的を果たしてアビリタを出たから、直ぐにでも私を殺す?」


「姫様、俺が殺ります。今度は止めないで下さいね」


「ちょっとちょっと~。姫さんも旦那も酷くね?俺ちゃんと約束守って姫さんの命狙わなかったし、キメラ倒す時一緒に戦ったじゃんかよ」


「それでも貴方が私を殺そうとする暗殺者なのは変わらない。そうでしょう…朱雀の頭領」


蓮姫は火狼に対して全くの無表情で語りかける。


そして今までのように「狼」ではなく「朱雀の頭領」と彼の事を呼んだ。


すなわち、自分達はもう敵対関係に戻ったのだ、と暗に含んでいる。


「……なんか姫さんにそう呼ばれるのってキツイな。アーシェちゃんじゃねぇけど、俺もさ『狼』って姫さんに呼ばれるの…結構気に入ってんだぜ」


「それがどうした?用件だけさっさと言え。言えば楽に殺してやる。言わなきゃ普通に殺す」


「それ言っても言わなくても変わんなくね?ま、いいや。姫さん!俺あんたの事が凄ぇ気に入ったわ!!」


「は?」


「何言ってんだ、お前?」


火狼がニカッ!と爽やかな笑顔で告げた言葉に、蓮姫とユージーンは気の抜けた声を出す。


ノアールも何処か、主2人と同じような表情に見えた。



「だからさ!俺は姫さんに惚れ込んだってわけ!!つまり!俺も姫さんのお供に加えてくれよ!!」



先程以上の問題発言を繰り出す火狼だが、蓮姫とユージーンは呆れたように2人同時にため息をついた。


「ちょっ!?酷くね!?そこでシンクロすんなよ!」


「なんでわざわざ姫様の命狙ってる犬を姫様の近くに置かなきゃなんねぇんだ?馬鹿か?お前」


「だから理由は今言ったじゃんかよ!」


「どうせまた嘘だろうが。騙されるほど俺も姫様も、ついでにノアも馬鹿じゃねぇんだよ」


「嘘じゃねぇっつの!!」


「なら……雇い主の事でも吐くか?」


火狼に問うユージーンの瞳には、殺意が込められている。


蓮姫の命を狙う大元を教えろ、と。


だが火狼は、それを簡単に拒否した。


それも笑顔で。


「それはダメだって。雇い主の事は俺個人の問題じゃねえ。吐いちまったら朱雀の沽券(こけん)に関わるかんな。一族を預かる頭領としてソレばっかりは言えねぇし言わねぇ」


蓮姫の仲間になりたいと言いながら、頑なに『弐の姫の命を狙う雇い主の事は話さない』と言う火狼。


暗殺者として、それを請け負うギルドとして当然の答えだが、それを受けたユージーンは冷えた眼差しを火狼へと送る。


「交渉は決裂だな」


「おいおい、旦那は気が早いって。雇い主の事は言わないけどよ、朱雀の奴等には姫さんの命を狙うなって伝令出せるぜ。表向きは…てか一族には『弐の姫を(だま)して側に仕え、殺す機会を伺ってる』ってな。そうすりゃ朱雀からの追っ手はもう来ねぇよ。俺が本気で姫さんの命をまだ狙ってたら、こんな事わざわざ馬鹿正直に言わなくね?信じてくれよ。俺はマジ、姫さんの人となりに惚れただけなんだって!」


「信じるわけねぇだろ。時間の無駄だったな」


ユージーンはそう吐き捨てると、火狼へと構えた。


まさに火狼へと攻撃を仕掛けようとした瞬間…


「待て、ジーン」


彼の主がそれを止める。


「姫様?まさか……今の犬の戯れ言を信じたわけじゃありませんよね?」


「そんな訳ない」


「なら止めないで下さい。さっさとこの犬片付けますから」


「ジーン。私はお前に『待て』と言った。私の命令が聞けないのか」


「……姫様の命を守るためには聞けない時もあります。先程の戦いで確信しました。こいつは危険です。朱雀の頭領としての魔力、戦闘力は充分高い」


「それでも待て」


「………はい、姫様」


重く告げられた蓮姫の言葉に、ユージーンはスッ…と構えの体勢を改める。


それを見ていた火狼は『旦那の方が姫さんの犬じゃん』と呟いた。


当然、ユージーンからは殺意が込められた…いや殺意しかない目で睨まれるが。


蓮姫はそんな二人の様子を気にもとめず、火狼へと声をかける。


「私はキメラを殺し、その上アーチを壊した。女王陛下から罪に問われるのは目に見えている」


「だよな~。でもさ、姫さんはソレをわかった上で全部やったんだ。後悔してないんだろ」


「………ああ」


「そんな姫さんに惚れたんだよ、俺は。あんたみたいな弐の姫を殺すのは勿体ねぇ。頼むよ姫さん!俺をあんたの仲間にしてくれ!」


両手を合わせて懇願(こんがん)する火狼。


蓮姫が出した答えは……。



「………わかった」


「姫様!?正気ですか!?」


「ぃやったぜー!!」


蓮姫の言葉に驚愕するユージーン。


火狼の方は合わせていた両手を開き、大きくバンザイをしている。


「何を考えてるんです!?ついこの間まで姫様を殺そうとした奴ですよ!わかっているんですか!?」


「ジーン。このまま朱雀の頭領を殺したら…直ぐに陛下や四大ギルドに話がいく。彼を殺すという事の大きさを…お前こそわかっているの?」


蓮姫が問いかけると、ユージーンは言葉に詰まる。


どんなに正当防衛だろうと朱雀の頭領を殺せば、朱雀だけではなく他の四大ギルドが黙っていない。


朱雀の一族、他のギルドの頭領から女王に「弐の姫から王位継承権剥奪」を進言されるだろう。


ただでさえ王都を出た事で蓮姫の評判は最低なもの。


貴族からの反発を女王が抑えてはくれているが、その女王の所有物を許可もなく勝手に、蓮姫は2つも壊した。


今はまだ…これからどうなるかはわからない。


しかしここで女王最初のヴァルの子孫…朱雀の頭領である火狼を、弐の姫の従者たるユージーンが殺してしまえば、悪い方にしか進まない。

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