表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/433

アビリタ解放 2



蓮姫から溢れる光にアーチが包まれていくと、ピシッと割れる音がアーチから響く。


それは段々と大きくなり、遂にはアーチが粉々に砕け散った。


「あ、アーチが…」


「壊れた…のか?アーチが…俺達を縛ってきたものが?」


「俺達は…外に…出れるのか?」


アーチが壊れた事でザワザワと村人達が騒ぎ出す。


当然だろう。


生まれた時から自分達を禁所に閉じ込めていた原因が壊された。


つまり彼等は『もう囚われの身ではなくなった』ということ。


しかしあまりにも急な展開で喜びや先程までの蓮姫への怒り等はなく、ただただ彼等は混乱していた。


そんな彼等に、蓮姫は静かに声をかける。


「もうここにいる者達を、アビリタを縛るモノは…何もない」


「ヒヒヒ。ヒィーヒヒヒヒヒヒッ!ようやってくれたわい!さすがは弐の姫というところじゃのう!」


蓮姫の言葉に大婆は一早く反応した。


魔女のようなしゃがれた笑い声を響かせながら、村人達へと語りかける。


蓮姫を酷く罵声した口が、今度は褒めたたえているという都合の良さにユージーン達は嫌悪を感じた。


「見たか!皆の衆よ!儂らはもう自由じゃ!この日をどれだけ待ちわびた事か!!」


「お、大婆様?」


「キメラは死んだ!しかしまだ能力者が全て潰えたわけではないっ!このまま!このまま女王を儂らの手で亡き者とするのじゃあ!!」


「大婆様!?」


大婆の言葉に驚いたのは蓮姫達よりも村人達だった。


大婆の女王への恨みが誰よりも強いのは村人達がよく知っている。


しかしそれでも無茶苦茶だ。


アビリタが解放された途端に女王の元へと乗り込もうなどと。


自殺行為にほかならない。


「し、しかし大婆様!俺達は外の世界など…なにひとつ…」


「女王の元へ辿り着く前に…危険にさらされたら…」


「何を言うておるかっ!儂らが生きている意味はなんじゃ!?何の為に生きていると思うておる!女王に復讐するためじゃろうが!!」


「違う!!」



大婆の言葉に蓮姫は力の限り叫び反論した。



「復讐するためになんか生きてない!皆…ただ生きたいから生きているんだ!アーシェも!アーシェの母親も!キメラの犠牲になった人達も!ただ普通に生きたかっただけだ!」


「弐の姫風情が偉そうにほざくでないわっ!お主ごとき小娘に何がわかるというんじゃ!」


「女王や姫を恨むのも!世界を憎むのも!それなりの理由がある事ぐらいわかってる!それでも!これ以上…これ以上誰一人として犠牲になるなっ!」


「「「っ!!? 」」」



蓮姫の必死な反論が、村人達へと突き刺さる。


彼女は今、世界に疎んじられてきた彼等を必死に守ろうとしているのが…彼等にも伝わりつつあった。


一人を除いて。


「犠牲じゃと!?そんな事は今更じゃ!村人は何人も既に女王の身勝手な命令で!お主の勝手で犠牲となった!自分がした事を棚に上げて何を言うかっ!」



「生きていける命なら!これ以上誰も犠牲になるなっ!命を無駄にするな!能力者である事に引け目を感じるな!能力者だって生きていいんだ!復讐なんかに囚われるな!」



蓮姫の必死な叫び、悲痛な思い。


世界を、女王を、姫を憎んでいた村人達は揺れる。


ここにいる弐の姫は、自分達の仲間を殺した。


しかし、ここにいる弐の姫は、自分達を蔑んではいない。


能力者である自分達に、生きろと言う。


女王の実験の為ではなく、女王や世界への復讐の為ではなく、普通に生きろと。


村人達の瞳が困惑に染まっている中、ユージーンが口を開いた。


「外に出たければ出ればいい。ご勝手にどうぞ。それがどんな理由であれ、覚悟しての事なら俺は…いや、俺も姫様も止めやしない」


「か、覚悟…だと?」


「この禁所が解放されたからといって、世界は能力者を受け入れたりしない。女王のそばには数千数万の軍が、そして女王のヴァルがいる。ソレを全て倒し…もしくは上手くかいくぐって女王を殺せるとでも?能力者は万能じゃない。ほぼほぼ不可能だ」


「そ、そんな…」


「それとも復讐を諦めて、憧れた外の世界で暮らすか?能力者とバレたら迫害されるのは目に見えてるがな。良くてその場から追放、最悪なぶり殺しだ。能力者である事をひた隠しにしてビクビクと怯えながら一生を暮らすか?」


「お、俺達は…」


「弐の姫の犬がほざくなっ!黙れい!村の者を惑わしおって!」


ユージーンの非道だが、正論に怯え出す村人達。


大婆はそんなユージーンに反論し、再度村人達を煽る。


「よいか皆の衆!儂らのこの能力は女王への復讐の為に授かったもの!能力者じゃのうてもここにいる全ての者が女王を憎んでおる!儂らは女王に復讐する為に生まれ!生き!そして死ぬと教えたろう!死など恐れるなっ!復讐する事こそ正義!復讐出来ぬ事こそ恥じゃあ!!」


「し、しかし…大婆様!こいつらの話が本当なら…俺達は…無駄死にしにいくだけなんじゃ!?」


「それがなんだというんじゃ!命を惜しんで女王を殺せると思うておるのか!!」


大婆は女王への復讐しか頭にない。


死を怯える村人、外の世界を怯える村人達とは明らかに大きな差があった。


そんな大婆に従って良いものか…村人は全員、疑念を抱く。


「なぁ…あんた…なんでアーチを壊したんだ?」


村人の一人が蓮姫へと尋ねる。


その一言で、その場は静まり返り全員が全員、蓮姫の言葉を待った。


「このアーチは…先代女王や世界が持つ、能力者への迫害の象徴だった。先代女王が想造力で作った物は、女王か姫しか壊せない。陛下が壊さないのなら…私が壊す」


「そ、それだけか?」


「アビリタの者達…聞いて欲しい事がある」


蓮姫は一瞬、ユージーンが抱えるアルシェンの亡骸を見る。


とても優しく哀しい瞳で。


だが、直後に強い意思を込めた瞳で村人達へと訴えた。


「アビリタが解放された事は直ぐに女王陛下に気づかれる。しかし、能力者は誰一人として村から出ないでくれ。キメラがいない今、実験は中止されるはず」


「アーチが壊れたってのに…まだこの場に囚われろってのか!?囚われるなって言ったのはあんたの方だろう!実験が再開されたらどうするんだ!」


「そんな事にはならない。女王への使いには私が話す。悲しいけど…今の世界じゃ…能力者にはここが一番安全。それが…この世界の現実だから」


「結局あんたも…私達が…能力者が怖いのかい!?」


「少しでいい!辛抱してくれ!私が女王になったその時!この世界を変えてみせる!能力者が(さげす)まれない世界を作ってみせる!!」


「「「っ!!?」」」




「能力者が堂々と生きていける世界を作る!必ず!!だから復讐なんてやめて!今、命を無駄にせず…私の世界で…未来を生きて!」




それは蓮姫の本心……心からの叫びだった。


「ええい!何を偉そうに!そのような事こそ不可能じゃ!ただの理想!楽観的に儂らの事を救えると思い込む!それこそが女王の!姫の(おご)りじゃろうが!儂らにはまやかしの如き希望など必要無い!女王を殺し世界に復讐する事こそが希望じゃあ!!」


「し、しかし…大婆様!弐の姫を信じて…未来を」


「儂らに未来など必要ないわ!弐の姫に!このような汚らわしい小娘なんぞに惑わされおって!アビリタの恥さらしめが!お主もアルシェンのように裏切り者じゃあ!!」


「そ、そんな!?大婆様!?」


「大婆様!私達にも生きる道が…弐の姫の言う復讐に囚われない生き方があるのではないですか!?」


「しかしそんな未来があるなど…弐の姫を信じていいのか!?どうせ女王となったら…俺達はまた利用されるだけじゃないのか!?」


「このまま無駄死にするよりはマシでしょう!村にはまだ小さい子供や、赤ん坊だっているのよ!」


復讐の為だけに命を捨てろ、という大婆。


今は堪えて未来を生きる希望を持て、という弐の姫、蓮姫。



今まさに目の前で生きろと言うのは、幼い頃から憎めと教えこまれた姫。


しかし逆に、自分達に死ねと迷いなく命ずるのは、村を治める大婆。


村人達には、もはやどちらが正しいのか判断は出来なくなってきた。


ガサガサ


ふいに近くで草をかき分けるような音が聞こえ、火狼はユージーンへと視線を送る。


村人達の激しい論争の中、気づいたのは火狼、ユージーン、そしてノアールだけのようだ。


「おい……旦那…」


「あぁ。だが…敵じゃない。お前の方が詳しい奴等だろ」


「まぁ…そうなんすけどね…」


そんな二人の会話など聞こえていない村人達は、変わらず意見をぶつけあっていた。


村人の中でも意見が激しく別れているようだ。


そんな村人達を見て、大婆は蓮姫へ脅威を感じた。


長年村人達へと植え付けてきた女王への復讐心を揺るがせた蓮姫は、今や大婆にとって女王以上に忌々しい存在となっている。


「…おのれ……おのれ弐の姫!貴様のせいじゃ!貴様なんぞ現れなければ!このアビリタは今まで通り何も変わらずにおれたというに!復讐の為だけに皆が生きておれたというに!」


「村人達は貴方の道具じゃない!人を治め導く立場にありながら!何故非道な道ばかりを進もうとする!?」


「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇえええい!!弐の姫なんぞ疫病神が偉そうにほざくなと何度言わせる気じゃ!貴様なぞ今すぐ殺してやるわぁ!!」


「そこまでだ!!」


蓮姫と大婆の口論に、深い重低音が響いた。


その場にいる者が一斉にその場へと振り向く。


そこには初老の男を挟んで若者が二人。


若者達は一人は軍服なため軍人だとわかるが、一人は軽装で右手に包帯を巻いているだけで、どのような人物かはわからない。


そして中心の男は、上等な礼服を身にまとっていたので一見して貴族だとわかった。


中心にいた男はゆっくりとこちらへと歩みを進める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ