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アビリタを探れ 11


それは、弐の姫が現女王から敵視されるのではないか?という疑念。


その表現はいささか大袈裟かもしれない。


だが、敵視……とまではいかなくとも女王の秘密を知った時期女王候補など、普通ならば目の上の(こぶ)でしかない。


「………いてて…。……姫さん…ちゃんと考えてんのね」


「なんだ?もう復活しやがったのか?ちゃんと潰しておきゃ良かったな」


「……それだけはマジで勘弁」


涙目になりながらも蓮姫に対して感心し声をかけた火狼だったが、返したのは怪しげな笑みを浮かべた彼女の従者の方だった。


その言葉に先程の蓮姫以上にブルリと体を震わせた火狼。


「コントはいいから。で?どう思う?」


「そりゃ…権力者…それも女王陛下の秘密を知っちまったらただじゃすまねぇだろ?俺だって朱雀の頭領として…どうなるか」


「お前の話なんざ聞いてねぇよ。犬がトップな時点で朱雀のお先なんざ真っ暗だろ。で、姫様の質問の答えですが……大した事じゃないですよ」


ユージーンは火狼に悪態をつくのも忘れずに、蓮姫にニッコリと笑顔を向けながら答えた。


「どういう意味?」


蓮姫は自分が問いかけた時にユージーンが返した言葉をそのまま返した。


ユージーンの言葉は呑気そうに聞こえるが、蓮姫に対しては適当な発言や無責任な事は言わない男だ。


青龍達に対する交渉の話も、今はまだ考えてはいないが、彼の事だ。


蓮姫の為に口八丁でも実力行使でもして切り抜けるだろう。


それは蓮姫だけではなく、火狼も気づいている。


だからこそ、ユージーンの言葉を待つように火狼も口を挟まずに二人を見守っていた。


「姫様にとって能力者が特別なのはわかります。王都の友人方を思えば姫様の性格上当然ですからね。しかし、能力者は世間から忌み嫌われる厄介者です。どんなに非道な行為を行おうとも女王が責められる事はありません。むしろ民衆のほとんどは能力者の能力が消える方がいい…とか考えるでしょうしね」


「……それが…今の世界の現実だっての?」


「そうです。いずれ姫様が統べるであろう、この世界の現実。贔屓(ひいき)や差別なんてのは何処の世界でもありますよ。世界規模じゃなくても街とか仲間内でも些細な事は常にあります」


「ま、それが人の世の常…ってヤツだもんな」


「それでも…納得できない。陛下に咎められなくて、恨まれなくて良かった…なんて思えない」


「えぇ。姫様はそうでしょう。だからこそ、姫様は変わらないで下さいね。…俺との約束を守る為にも」


そのユージーンの言葉に火狼はぴくりと眉を動かした。


ほんの僅かな、微かな動作だった為に二人は気づかなかったが。


(約束……ね。なるほど……この二人の関係…なんとなく読めてきたな)


火狼は力の無い弐の姫に、何故不死身で強大な力を持つヴァルがついているのかずっと疑問に思っていたからだ。


「あぁ。あと追加しておきますけど、あのブスなら禁所の秘密を知られた事より、昔から自分が欲しがっていた男を取られたって事の方が恨むと思いますよ。」


「………もしホントにそうなったら、ジーンがさっき狼にしたのと全く同じ事してやるからね」


蓮姫のとんでもない発言に顔を青くしながらも、ユージーンはヒクヒクと小刻みに震える口で続けた。


というか話を戻した。


「姫様がアビリタの能力者達を解放したり、あのキメラに手を出さなければ問題は無いでしょう。もしまたキメラに会ったら一直線で逃げるか俺が魔術で足止めします。殺したりはしない程度にね」


「ほぇ~……旦那は魔術も使えんのねぇ。凄ぇじゃん」


「他人事みたいに言ってんな。お前も死なない程度にキメラ燃やすなりしろ」


「キメラは勝手に手出ししない。青龍が来る事は決定事項だから正々堂々と交渉する。で、いいね。で、私からの報告……というかジーンには記憶を覗いてもらった方が早いかも」


蓮姫はちょいちょい、とユージーンに軽く手招きする。


ユージーンも彼女の意図がわかり、蓮姫へと近づくと彼女の額と自分のソレを合わせ目を閉じた。


額を合わせ互いに目を閉じる男女。


何も知らない者からすれば恋人同士がイチャついてるだけだろう。


現に何も知らない火狼にはそう映った。


だが、これはユージーンが蓮姫の記憶を見ているだけでそんな甘い雰囲気とは全くの無縁なものだ。


スッ…とユージーンは蓮姫から額を離すと表情をしかめた。


忌々しい…そう顔で語っている。


「どう?あのアーチの声、聞き覚えない?」


「………ありまくりですね。二度と聞きたくなかった声ですよ」


ユージーンの言葉を聞き、蓮姫も『やっぱり…』と納得している。


「ちょっとちょっと、お二人さ~ん。俺を放置しないでくれません~?俺だけおいてけぼりとか悲しいんですけど~」


「うるせぇ、吠えんな犬」


はぁ…と深くため息をつきながら、ユージーンは火狼へと言い放ち自分の椅子へと座り直した。


言葉こそいつも通りだが、その声にはいつもの覇気や威圧感が感じられない。


「???姫さん、説明してくんね?」


「今、ジーンに私の記憶を見せたの」


「あぁ、んなこと言ってたけど…マジだったんだ。で?何を見せたん?」


「多分見たのは今日1日の出来事だけど……私が1番確認したかった事が、ジーンにとっては1番見たくない……ううん、聞きたくないモノだったみたいで」


「みたいで、って…姫様。確信してましたよね?悪趣味ですよ」


ユージーンは首だけを彼女に向け、珍しく蓮姫を恨めしそうに見る。


「確信はしてないけど……可能性は高かったからね。……狼、アーチで私が不思議な声を聞いた事は覚えてる?」


「覚えてんぜ。でも俺にはな~んにも聞こえねぇし、猫も反応しなかったじゃん?だから俺、てっきり姫さんがボケたんかと思ったぜ」


「ボケてないし。で、ジーンに確認してもらって今はハッキリと言える」


蓮姫はユージーンの方をチラリと見た後に言葉を続けた。



「私が聞いたのは先代女王の声だった」



「…………は?先代女王の声って…どゆことよ?」


「姫様が聞いたのは恐らく先代女王の残留思念。アーチに込められていたんだろうな。お前に聞こえねぇで姫様だけに聞こえたのは、姫様だけが先代女王と同じ想造力を扱えるからだろう。姫様にしか聞こえない、それに声だけなら気配なんざ到底感じねぇ。だからノアだって今みたいに危機感ゼロだったんだよ。わかったか、犬」


不機嫌極まりない、という風に片手に(あご)を乗せながらユージーンは火狼へと説明する。


語尾に深いため息のおまけ付きで。


先代女王の声を聞いたのが余程嫌だったのだろう。


「想造力に残留思念まで込めるなんて…それにあの言い方…よっぽど能力者を嫌ってた。ううん。拒んでいたんだね。でもなんで?」


「ですから俺にはあんな女の考えなんざ理解できませんししたくもありませんそしてマジで二度と聞きたくないんで今後は同じ様な事あっても勘弁して下さい姫様」


「うわ~、旦那息継ぎなしじゃん。先代女王が能力者拒否ってんのと同じぐらい拒否ってんじゃね?」


「うるせぇんだよ犬。黙ってろ」


たった二、三言聞いただけでこの態度。


蓮姫はユージーンと先代女王との確執を知っていたつもりでいたが、この様子だと自分が知る以上の事があったのだろう…と感じた。


だが気にはなっても、相手がたとえユージーンでも人の訳あり過去を掘り下げるような真似は躊躇われる。


何より今はそのような事をしている場合ではない。


蓮姫はハイハイ、と手を叩きながら話を戻そうとする。


「アーチには先代女王の残留思念が込められてる。つまりは間違いなく想造力で作られた物で、同じ想造力じゃなきゃどうもできないのね。で、もう一つ気になる事がある。大婆様に嘘が見抜かれた事なんだけど…」


「あの大婆の口調、話の流れからしてキメラはアビリタの者達に牙をむく事はない。もしくはキメラを御する事の出来る者がいる…と考えるのが妥当でしょう」


「んでも、それが当たりかどうかはわかんねぇって?なんか今のとこ確実なのとそうじゃねぇのと半々だな~。そういや、旦那の方の成果はどうだったん?」


火狼に話を振られたユージーンは不敵な笑みを浮かべた。


悪い顔をする自分の従者に蓮姫は嫌な予感がする。


「……ジーン」


「そんな話す前から嫌な顔しないでくれます?確かに……姫様にとっては嫌な話でしょうが…」


「どういう意味よ?」


「まぁ話すより先に見てもらいましょう。コレを」


そう言うと、ユージーンはズボンのポケットから小さな紙の包みを取り出しテーブルの上へと出した。


ソレはあの鍵のかかった部屋にあった物であり、昨日の朝アルシェンが飲んだ物。


だが、それを知らない蓮姫はひょいと包を持ち上げる。


「なにこれ?」


「あ、姫様は持たないで下さい。犬、お前が(つつみ)をあけろ」


「俺?まぁいいけど。姫さんちょーだい」


「ん」


蓮姫から手渡された包を、火狼は迷いなくガサガサと開いていく。


包の中には白い粉が入っていた。


包に入っていた事から、蓮姫も火狼も薬だと考える。


「薬……だよなぁ。アーシェちゃんが飲んでたやつ?なんの薬だ?」


火狼は鼻に包みを近づけて臭いを嗅ぐが、全くといっていい程無臭。


火狼が指を舐めてから薬をつけ口元に運ぼうとした瞬間、ユージーンが口を開いた。


「おっと。そこまでだ。死にたくなきゃそれ以上はやめとけ」


「は?死にたくなきゃってどゆことよ?」


「ジーン?コレって薬じゃないの?もしかして…毒?」


ユージーンは口角を上げたまま二人へと告げる。


その粉の驚く正体を。


「薬なんかじゃありません。ソレは毒の中の毒。月光蓮(げっこうれん)ですよ」


「「っ!!?」」


ユージーンの言葉に二人の顔は驚愕に染まった。


次の瞬間、火狼は洗面所まで駆け必死に手を洗う。


指を喉へと突っ込み胃の中のモノを全てぶちまけると、何度も何度も口をゆすいだ。


火狼の行動からもよくわかる。


月光蓮とは朱雀の頭領すら恐れる程の猛毒だと。


「月光…蓮?なんで…そんなものが…」


震える声で話す蓮姫だが、ユージーンは至極落ち着いた様子で答える。


「初めて会った時、アーシェは月光蓮を集めに行っていたと言いましたね。この家に月光蓮があるのは不思議じゃありません。しかし1番不思議なのは……」


ユージーンはチラリと洗面所の方を向いた。


ちょうど火狼が戻ってくるところだが、その顔は青ざめている。


火狼が席に戻ったのを確認するとユージーンは続きの言葉を告げた。


「ソレは昨日の朝にアーシェが飲んでいたものです」


「っ!?あ、アーシェが!?」


「んな!?ありえねぇだろ!月光蓮を飲んで無事な奴なんているはずねぇよ!!」


「俺だってそう思う。(俺は死なないから例外)だけどな…今日この家をあさりまくった結果、昨日の薬と同じモノはコレしかなかった」


ユージーンとて見つけたその時から、アルシェンがコレを飲んでいたとは想っていない。


だからこそ必要以上に他の薬を探したりもした。


アルシェンの疑いを晴らす為ではなく、アルシェンを友と慕う蓮姫の為に。


だが、白紙に包まれ常備薬のようにされていたのは月光蓮だけだった。


「でも……もしホントに…そうなら…どうしてアーシェは…月光蓮なんて」


「姫様。問題は飲んだ理由より、何故飲んでも今も平然と生きているのか、です。昨日の様子からして…アーシェが月光蓮を飲むのは日常的な事でしょうから」


「一回でも飲みゃ確実に死ぬだろ。量からして1本や2本じゃねぇ。花弁(はなびら)1枚でも生き物を殺す毒だぜ」



「アーシェ………貴女は…一体…」



蓮姫が不安げにそう口にした瞬間、激しい轟音と共に家の壁が吹き飛んだ。

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