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アビリタを探れ 7



蓮姫が大婆の家にいる頃。


彼女のヴァル、ユージーンはアルシェンの家を探っていた。


家の中の様子は、家探し、というよりも泥棒が入った…と表現した方が納得出来る程の状態。


つまり、ユージーンは自分の主が居ないのをいいことに、すき放題荒らしまくっていたのだ。


普通はその家の主人を気にするところだが、そこはユージーン。


今ここで蓮姫が帰って来たら流石の彼も焦るだろうが、家主であるアルシェンが戻って来ても、彼は謝るどころか彼女に片付けをさせるだろう。


そういう男だ。


しかし、この有り様を見たら、さすがにあの温厚なアルシェンもブチ切れるかもしれない。


それ程までに家中が物で散乱していた。


タンスの中の服、本棚にある本は勿論、食器に布団、下着までそこかしこに落ちているのだから。


ゴソゴソとアルシェンの下着が入った棚を漁るその姿は不審者……いや変質者にしか見えない。


ユージーンの見た目がいいから、かえって不気味にも映る。


「………ここは下着だけだな。ったく……こんだけ漁って何にも出ないとか…」


ユージーンは、ハァ…とため息をつくと、椅子にドカッ!と乱暴に座る。


本当ならソファに思いっきり腰を下ろすなり、ダイブするなりしたいが、この寂れた村の一軒家にはそんな上等な物は存在しない。


木製の椅子に力いっぱい座ったせいか、軽く痛むお尻をさすりながら、ユージーンは近くに落ちている本を拾い上げてパラパラとめくる。


「子供用の教科書…か。あっちのは童話集。アソコに落ちてんのは料理本。……日記とかあれば、簡単にあの女の正体や能力わかんだけどな…」


ユージーンは呟くと、興味なさげに持っていた本を落とした。


ハッキリ言って、ここまで荒らし、散らかしたが……アルシェンの家から怪しいモノは全然出てこない。


が、ユージーンはソレがかえって怪しいと思っていた。


「人間誰しも、他人にバレちゃ困る秘密が一つや二つ、三つか四つに五つに六つ、七つ八つ九つ十……は行き過ぎか……。……はぁ~…つっこむ姫様いないとただの馬鹿かっつの俺」


ユージーンは自分の言葉に深いため息をつく。


どうやら、蓮姫がいないといつもの調子が出ないらしい。


(まぁ、アホな話は置いといて。……一人暮らしで親も他界。そんな家に暮らしてんなら、好きな事、変な事、やりたい放題だよな。変な物やいかがわしいモノ隠したりとか。でも何にも出てこねぇ。おかしい物や怪しい物が一切……というか…無駄に整理されてんだよな…。……やっぱ…怪しいのはあの部屋か)


ユージーンはチラリと二階のある部屋を見つめる。


この家で唯一鍵のかかっている部屋。


しかし、これだけ漁った中でそれらしい鍵も見つからない。


つまり、ただの予想だが…その鍵はアルシェンが持ち歩いてるのだろう。


(そこまでして隠されると気になるだけだっつの。あの女バカか?……鍵壊したら流石に姫様がキレんだろうし……時間かかるけど…しゃあねぇか)


ユージーンは再度深いため息をつくと、針金を片手に二階へと続く階段を登った。


ユージーンは、以前にアルシェンが物置と言っていた部屋の前につく。


鍵穴に針金を差し込むとカチャカチャと動かした。


「ピッキングなんざ何年ぶり………八百年ぶりだな。にしても…寝室の間にあって鍵のかかった物置…か。怪しいよな、ぜってぇ」


普通、鍵のかかる物置は直ぐに開けられるように側に鍵がかけてあったり、タンスの分かり易い場所にしまわれたりする。


しかし家中をあさっても、そんな鍵は見つからなかった。


見つかったのは、家のドアと金庫の鍵のみ。


そんな重要な鍵があって、物置の鍵が無いのは不自然だろう。


だが、たまたまなくしたのかもしれないし、元々使ってない物置だから鍵もないのかもしれない。


だが、ユージーンの勘が、ここが怪しい、と訴えていた。


ガチャ


「お、開いたな」


ユージーンが扉を開くと、中は物置……ではなかった。


「お~お~。こりゃまた、随分とお綺麗で使い込んでる物置だな」


誰が聞いているわけでもないが、ユージーンはあえて『物置』と嫌味を込めて呟く。


部屋の中に入り、まず目に付くのは左側に干された大量の草。


おそらく彼女が集めていた薬草だろう。


対して右側にはテーブルと椅子、その隣に本棚がある。


本棚には上半分の棚には瓶が、下半分には本が丁寧に並べられていた。


窓はカーテンが片方だけ開けてあり、今の時間ならば外からの光が差し込む。


森に囲まれている村のため、それほど明るくはないが室内は見渡せた。


「これが物置ねぇ~。それにチリ一つ落ちてねぇし……なんなんだ?この部屋?つーかこんだけ掃除してあんなら、確実に鍵はあんな。それもアーシェが持ち歩いてるか、隠してあるか。そんなに頻繁に入って何してんだ?」


ユージーンがテーブルにあがっている本をとり、ページ捲ると……そのまま手を止めた。


「家系図か?一番上がシスル……最後が…アルシェン。シスル嬢の娘は随分とたくさん産んだな。旦那との夜の成果か…もしくは能力か。多分後者だろうな。……成程…この家系図を見る限り、アーシェはシスル嬢の娘の長女の家系って事だな。長女以外は名前しか書かれてねぇし……多分他の家だからだろうけど。次のページからは、シスル嬢から代々フィーネ家の主達が名前と一緒に能力とか、詳しく書かれてんな」


ユージーンは一人一人のページを読み込んだ。


そこには名前の下に生年月日、性別、能力、伴侶、子供、死んだ日まで事細かく記されていた。


「ん~~………あんまり役に立ちそうもねぇが、一応記憶して姫様に報告するか。で、後はこの草と本棚だな。つーかこの部屋、ホントに何するためにあるんだ?」


ユージーンは本から干し草へと目を向ける。


草の種類は様々で、花がついているモノ、既に枯れているモノ…。


「普通に考えりゃ、前に本人が言ってた通り薬草なんだろうな。見た感じソレっぽいのばっかだし」


普段自分の記憶の隅に追いやられていた薬草の知識をフルに思い出し、一つ一つ触ったり、匂いを嗅いだりする。


中には猛毒になる草もあるが、元々薬と毒は紙一重。


リスクの一族もそうだったが、人を治すモノは、人を殺すモノにもなる。


「う~~ん。コレも毒あるけど……火傷にもめっちゃ効くんだよな。……こうして見ると…ただの作業部屋なのか?全然不審な物が無ぇ」


本棚には薬関係の本がこれでもか、と並んでいる。


瓶は中に粉やジャムのような物が入っているが、おそらくは全て薬なのだろう。


ユージーンは本棚の瓶も一つ一つ手に取ると、蓋を開けて、中身を舐めていった。


「ん……こりゃ確か…紅桔梗(べにききょう)だな。こっちは……頭痛薬だな…確か軽い眠気が副作用で出るヤツ。… ……そ~いや、姫様って薬の知識そんなに無ぇな。今度は薬のお勉強も追加するか」


言ってユージーン本人が驚いた。


彼女はいなくても、嫌味を言うわけでもなく、極々自然に蓮姫の話題を自分が出したこと。


その声が妙に楽しそうで、手で触れると口角が上がっているのがしっかりわかること。


「……く…くく。ハハハッ!…あ~…どうやら俺の生活は…マジで姫様中心になってきてんな。 ハハッ…思ったより悪くねぇ自分が凄ぇや」


ニヤニヤと笑いながら瓶を片手にもち、もう片方の手の人差し指を瓶の中に入れて、中身を舐める。


その姿は他人が見たら、ヤクでイっちゃってると思うだろう。


「そういや姫様と一緒にいた時に、アーシェが飲んでたのって何処だ?下に無かったし…こんだけ薬草あるんなら、ここだよな」


ユージーンはふと昨日の朝、アルシェンが苦しみだし薬を飲んだシーンを思い出した。


そういえば何の病なのか?何の薬なのかも聞いていなかった。


机の引き出しを開けると、目的のモノは直ぐに見つかる。


「お、あったあった。この白い包みだな。中身も……見た感じ合ってんだろ」


包の一つを開いて、ユージーンは中身をひと舐めする。


舌に薬が触れた瞬間、ユージーンはブッ!!と中身を吹き出した。


「っ!!?ブッブッ!ペッ!…………なんで…こんなもんが混ざってんだよ!?………まてよ…」


ユージーンはガサガサと、他の包みを全て広げ再度舐めた。


だが、反応は最初と全く同じ。


「ぶっ!………マジかよ…全部。……コレを飲むとか……あの女…一体何者なんだ?」




ユージーンが驚愕の事実に直面している頃、火狼は(おおかみ)の姿で例のアーチ をくぐると森の中を駆けていた。


(随分と簡単に出れたな。しばらくしても村には戻らねぇし…やっぱ問題あんのは歴代女王の血族や姫だけってことか)


颯爽(さっそう)と駆けるその姿はまさに狼。


しばらく森を駆けていると、火狼の前方に数人の黒づくめの男が見えた。


火狼は男達までたどり着くと人型へと戻り手を軽く振る。


男達は火狼の前で膝まづいた。


「頭領。禁所に入られたと聞き、我ら参じましたが無事で何よりです」


「おぉ~。ご苦労さん。悪ぃな、ドジ踏んじまったぜ。まぁ、女王陛下からお咎めはあるだろうけどよ、明らか事故だしな。心配いらねぇだろ」


ケラケラと笑いながら男達に告げる火狼。


火狼を頭領と呼ぶ男達。


つまり彼等は朱雀の人間のようだ。


「して……頭領。首尾は?」


その内の一人が顔を上げ神妙な顔で火狼に問いかける。


他の者も真剣な、だが何処か期待めいた眼差しを火狼へと向けた。


しかしそんな朱雀の頭領は、表情の読めない笑みを絶やさずに答える。


「ん?まだだぜ」


あっけらかんと『当然』とでも言いたげに呑気に返す頭領に、その場にいた全員がギョッとした。


「ま、まだとは?どういう意味ですか」


「は?まんまの意味だろ?弐の姫はピンピンしてる。弐の姫の側にいたあの不死身の男もな」


『何言ってんだよ~』と軽く手を振りながら答える火狼だが、朱雀達は内心焦り始めた。



「頭領。雇い主から急かすように日々連絡がきます。弐の姫暗殺はどうなかったか、と」


「まだだっつっとけよ。めんどくせぇな」


「し、しかし…弐の姫とはいえ…小娘一人殺められぬとは、朱雀の沽券に関わる問題です」


「あ~~~……そりゃそうだわな。泣く子も黙る暗殺ギルド朱雀としては、依頼はきっちりこなしたいとこだぜ。でもな~~……今回はかなりヘビーだぜ。仮に女王陛下にバレちまったら、それこそ朱雀が取り潰される可能性もあっからなぁ」


「だからこそ、この禁所にて早々に事を成し遂げねばならぬのです。この先は玉華(ぎょくか)。弐の姫が玉華へと進めば、かの飛龍大将軍の一族が弐の姫護衛に名乗り出る可能性もあるのですから」


焦るような部下の言葉にも、う~ん、と呑気に(うな)るような仕草で返す火狼。


「頭領!何を迷われます!早急に弐の姫の首をおとり下さい!」


「あの男が邪魔ならば我らが囮となりましょう!朱雀は任務遂行の為ならば命など惜しみません!」


「その隙に頭領が弐の姫を!」


「頭領!」


熱く語る部下の言葉を聞きながら、火狼は真逆の事を考えていた。


(はぁ~~……これだから嫌なんだよなぁ。体育会系っつーの?俺そーいうのパスしてぇのに。なんで仕事、それも人殺しごときでこうも熱くなれんのかね?こいつらは)

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