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女王の元へ 4




蓮姫が目を覚ますと、ソコは見知らぬ部屋だった。


「………こ…こは………私…一体………っ!!?」


倒れる前の事を思い出そうとすると、蓮姫の頭には真っ先に蘇芳の顔が浮かんだ。


ほんの少し顔が浮かんだだけで、あの日々も鮮明に記憶から蘇って来る。


蓮姫はガタガタと震える身体をギュッと強く握りしめた。


すると、頭の中に倒れる前に聞いた声が響く。


『…大丈夫だよ、蓮姫。大丈夫だから』


あの声を蓮姫が間違えるわけはない。


蓮姫はまた、彼に助けられたのだ。


「……ユリウス?…でも…どうして?」


コンコン


扉を叩く音に蓮姫はビクリと身体を震わせる。


また、あの男が来たのでは?と。


返事を返すことも出来ずにいると扉は開かれ、始めて見る初老の男が入ってきた。


「お目覚めでしたか?大変無礼を致しました」


「い、いえ。私の方こそすみませんでした。返事もしなくて」


ベッドから上体を起こした蓮姫を見て、男は頭を下げ詫びたが、蓮姫は自分の態度に謝る。


そんな蓮姫を見て、男は笑顔を浮かべると蓮姫のそばまで来た。


「急にお倒れになったと聞きましたが、大丈夫ですか?」


「は、はい。ありがとうございます。……あの…私はどうして?ここは一体?……えっと…」


そういえば自分は、この人を知らない。


そもそも蓮姫にはこの世界の人間に、殆ど知り合いなどいないが。


「私の名はクラウス=フォン=ヴェルト。我が始祖、女王陛下より公爵の位を賜っております。今、弐の姫様がおられるここは私の邸です」


「陛下が始祖って事は……女王陛下の子孫なんですか?」


女王は500年以上生きている。


子や孫どころか、何代か続く子孫がいても不思議はない。


「はい。女王陛下の長子が私の先祖に当たります。改めまして、お会いできて光栄に思います。弐の姫様」


「あ、いえ。私の方こそ公爵様に会えるなんて恐縮です。……あの…なんで私は公爵様のお邸にいるんでしょうか?それに……ユリウスは?」


蓮姫の言葉を聞き、公爵はゆっくりと口を開く。




女王達の目の前に現れたユリウスに、一番最初に抗議をあげたのは当然のように久遠だった。


「~~~っ!!?貴方という方はっ!」


「久遠殿。申し訳ないね。君の頭を移動に使わせてもらったよ。なにせ君の夢なら子供の頃から何度も入ってるから、出入りは自由自在。慣れたものだね」


頭を片手で押さえる久遠に何食わぬ顔で告げるユリウス。


久遠は怒りで体を震わせながら、頭を押さえていない方の手で腰にさした剣の柄を握り締める。


そんな久遠を見てもユリウスは余裕の表情を崩さなかったが、自分へ向ける女王の視線に気づくと、蓮姫を抱えたまま女王へ跪く。


「お久しぶりです、母上」


「……ユリウス。何故ここに来たのじゃ?」


「蓮……弐の姫が心配でしたので。彼女は今日、あまり体調が良くありませんでしたから。案の定、話の途中で倒れましたし」


蓮姫の動揺がバレないように平然と母親、ソレを取り巻く人々に嘘をつくユリウス。


「妾が言いたいのは、左様な意味ではない。何故、妾の許しもなく能力を使ってこの場に来たか?という事じゃ。そなたも分かっておろう?」


能力者は女王の許しなく自分の能力を乱用し、女王に近づく事は禁じられている。


女王を危険に晒す可能性があるからだ。


「俺に悪意がなく、母上が俺達を信頼して下さっても、女王の許しなく、女王の傍で能力を使う事は法で禁じられている。女王が定めた法を破るは禁忌。それを承知の上でここへ参りました。母上、弁明の機会をお与え頂きたい」


ユリウスの言葉に女王は大きくため息を吐くと、諦めたように告げた。


「まったく…そなたは昔から勝手じゃのぅ」


「母上に似たのでしょう。有難いことですね」


「ふっ。……確かに一理あるかもしれんな。…ユリウス。弁明を許す。申してみよ」


「有難き幸せ。では。俺とチェーザレは確かに、ひと月もの間、この弐の姫を匿っていました」


「それは何故じゃ?」


「母上に知らせるのは、姫としての知識、教養を身につけてからでも遅くはないと判断したからです。なにより……既に壱の姫も降臨していましたしね」


ユリウスはチラリと壱の姫を横目で見た。


女王はその仕草で確信した。


息子達は弐の姫を、壱の姫と対等に扱われる程の姫となれるよう守り、育てていたのだと。


「蓮姫とは何処で会ったのじゃ?」


「夢の中で。無意識のうちに俺の夢へと入り込んだらしく……出会い自体は偶然です」


「ふむ。それが真実ならば、そなたたちの罪は軽いもので済む。……しかしの…この場に来た事は過ちじゃった。法を破った者を、愛しい息子という理由だけで無罪放免はできぬ」


「覚悟の上です」


「では……ユリウス。そなたを『罪人の間』へ幽閉する」


「母上の御心のままに。……ですが…一つだけお教え願いたい。今後、弐の姫をどうなさるおつもりですか?」


「蓮姫にはクラウスを後見に付ける。……蒼牙、ユリウスを連れてお行き」


女王に呼ばれた公爵に蓮姫を預けると、ユリウスは飛龍大将軍に連れられ『罪人の間』へと向かった。



途中で壱の姫と蘇芳を、一瞬殺気で満ちた瞳で睨みながら。



公爵の話を、蓮姫は黙って聞いていた。


が、話が終盤になるにつれその顔色は悪くなっていく。


「ユリウスが……幽閉…」


「『罪人の間』とは能力者の力を封じ込む特殊な術がかけられた牢です。ユリウス様はそこで鎖で繋がれ、陛下の許しなくては出られません。面会も禁じられています」


23年間、塔に閉じ込められていたとはいえユリウスもチェーザレも塔の中では悠々自適に暮らしていた。


たまにだが、食材や必要物資を買いに外出もしていたし…。


そんな今までの緩い生活とは全然違う。


鎖や牢といった言葉で、ユリウスはかなり危うい立場に立たされていると悟った。


「恐れながら弐の姫様。今はユリウス様よりも、ご自分の事のみ御考え下さい」


公爵は厳しい顔つきで蓮姫に向き合う。


「壱の姫様の元には数多くの貴族や軍人が忠誠を近い、先日友好国でもある隣国の皇太子と婚約した事でその地位も盤石になっています」


「…壱の…姫…」


蓮姫は蘇芳と共にいた壱の姫を思い出す。


蓮姫は壱の姫を知っていた。


栗色のボブショートヘア。


水色を基調としたシンプルにも可愛らしいワンピース。


自分と同じ黒い瞳。



自分が王位を争う相手との初顔合わせは、蓮姫にとって幼馴染との再会となった。



何故彼女がここに?


自分と同じようにあの男に?


だが、彼女は蘇芳に対して自分の様な嫌悪を微塵も感じさせなかった。


「だからこそ陛下は、公爵である私を貴女の後見に、息子を婚約者にしたのです」


壱の姫について物思いにふける蓮姫だったが、構わず告げられた公爵の言葉は蓮姫にとってとんでもない内容だった。


「こ、婚約者って!?だ、誰のですか!?」


「勿論弐の姫様のです。弐の姫様には後ろ盾もなく壱の姫様のように貴族たちの支持もありません。女王陛下の直系である息子と婚約して頂くことで、その地位を確かなものにしようと陛下のお考えです」


「で、でも私!この世界に来たばかりですし、17歳ですから公爵様の息子さんとは歳が離れているかもっ!」


「私は晩年で息子に恵まれましてね。息子は今年16になりました。弐の姫様とは歳も近い。この世界の事を息子に尋ねれば親睦も深まりましょう」


公爵の言い方は蓮姫の意見など求めていなかった。


公爵が後見、婚約者………全ては決定事項として受け止めなくてはならないと。


「ユリウス様とチェーザレ様の事もあまり他言なさらないで下さい。あの二人は『忌み子』として陛下や陛下のヴァル、飛龍大将軍以外には良く思われておりません。今後会うことも控えて頂かなくては、貴女への不審も高まります」


「そんなっ!?この世界でたった二人の友達なんです!それに二人は!!」


「コレも貴女の為です。寂しいでしょうがご了承下さい。少なからず私も力となります。ですから弐の姫様、どうぞ弐の姫として日々を励んで過ごして下さい」


「………………………はい」


「…………お辛いですね…弐の姫様。今日はもうお休み下さい」


パタン


公爵が下がり部屋に誰も居なくなると、蓮姫はベッドにドサリと倒れこんだ。



なんでこんなことになったのか?



両親や友に会いたいと、帰りたいと思う。


だが、この世界に来てから元の世界の事は霧がかかったように朧気にしか思い出せなかった。


この世界に来る前、何をしていたのか?


気づけば蘇芳に監禁され、無理やり抱かれる毎日。


ユリウスに助けられ、チェーザレにこの世界での自分の役目を教えられた。


そのまま三人で楽しく日々を送っていたのに……。


二人とは引き裂かれ、蓮姫はまた一人になった。


壱の姫は元の世界での幼馴染。


壱の姫には蘇芳が傍に控えている。


明日からは公爵の元、この公爵の邸で婚約者と暮らす日々が始まる。


公爵の言葉、周りの様子から何故か自分は姫として受け入れられていない。



この世界で自分はこれからどう生きていけばいい?



蓮姫はユリウスとチェーザレに会いたかった。


会って相談したい。


不安


焦燥


恐怖


戸惑い


その全てをさらけ出して二人に聞いて欲しい。


泣きついて甘えたかった。


だが、自分のせいでユリウスは幽閉。


チェーザレはお咎めがなかったようだが、彼もこれからは一人で塔で過ごすことになる。


これから自分一人でどう生きていけばいいのか?


そればかり頭の中を巡り、蓮姫は泣きながら眠った。


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