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禁所で迎えた朝 2


蓮姫がアルシェンから視線を逸らせないでいると、階段からミシミシという足音と呑気(のんき)な声が聞こえた。


「姫様。お呼びですか?」


「ふぁああぁぁぁあ!!よっく寝たな~」


「っ!?あんた達っ!!遅すぎっ!!」


ユージーンが2階から下りてくるのとほぼ同時に、後ろにいた火狼も目を覚まし大きく伸びをする。


あまりにも呑気すぎる男達に、蓮姫は叱りつけるが、二人とも気にもしていない。


「おはようごさいます。ユージーン殿、火狼殿。朝ご飯までもう少し待ってて下さいね」


「気にしないでいいですよ、アーシェ。なるべく早めにお願いしますね」


「んっ……ん~~~~っ!!結局さ~、それどっちなん?旦那」


ユージーンが椅子に座ると、火狼ものそのそと布団から出てテーブルへと向かう。


蓮姫はユージーンにいつもの蹴りをいれてやろうともしたが、アルシェンの手前、ぐっと堪えて朝食作りを手伝った。






「はい。お待たせしました」


「ぅお~っ!!うっまそ~!アーシェちゃんも姫さんも、これならいい嫁さんになれるぜ!!」


「ふふっ。ありがとうございます、火狼殿」


「ジーン、ノアは?まさか置いてきたの?」


「腹が減ったら勝手に起きて……いや、随分良く寝てましたし、後で持って行きます」


蓮姫に睨まれてユージーンは、さっと言い訳をつくと彼女から目線を逸らしてパンを一つ取った。


蓮姫はしばらくそんな彼を睨んでいたが、目も疲れたので自分もサラダを一口かじる。


「うまっ!アーシェちゃん、このスープ美味いぜ!スクランブルエッグも最高!!あ、でもサラダはなんかいびつだな?」


「……サラダは私が作ったからね」


「…あ……マジ?で、でも味はいいぜ!ドレッシングも美味いし!」


「ドレッシングはアーシェが作ったからね」


「あ、あはははは。いやぁ……いい天気だなぁ。あんま空見えねぇけど……っ痛ぁっ!」


気まずくなったのか、何故かいきなり天気(森の中なので鬱蒼(うっそう)としているせいか天気など良くわからないが)の話をする火狼。


当然なんのフォローにもならず、テーブルの下でユージーンに足を踏まれた。


「おかわりもあるので、たくさん食べて下さいね」


アルシェンはテーブルにもつかず、三人に声をかけるとエプロンを外しながら話す。


「あれ?アーシェ、食べないの?」


「実は大婆様に呼ばれているの。夕方には戻るわ。蓮、悪いのだけど片付けお願いできる?」


「それくらい全然いいけど……もしかして、私達の事で?」


蓮姫は不安げに呟いた。


村人全員、それも村を治めている大婆からも滞在を拒否された蓮姫達。


そんな彼女達を、アルシェンは村中の反対をおして家へと招いてくれた。


自分達のせいで(とが)めや罰を受ける為に、アルシェンは大婆の元へと行くのでは?


そう蓮姫は考えたのだ。


「心配しないで。大婆様の元へ行くのは以前から決められていたの。蓮のせいなんかじゃないわ」


「本当に?」


「ふふ。心配症なのね。大丈夫。それに、(とが)められたとしても私は蓮と友達になれた事、後悔なんてしないわ」


「…アーシェ……」


「……蓮…」


バックに花が見える程に見つめ合う二人。


そんな女性達を見ながらもスープをすするユージーンと、何故か目を逸らせない火狼。


ふと火狼はユージーンの方を向いて口を開いた。


それもとびきりの笑顔で。


「俺もどんなに強くて厄介でも、旦那と会えた事、後悔なんてしてないぜ」


「やめろ気色悪ぃ」


「あ、やっぱ?なんで女の子がやるとちょっとえっちぃのに、男がやるとキモイんだろうな?」


「知らねぇよ。さっと飯食ってろ犬」


火狼に対してはことごとく酷いユージーン。


蓮姫へかける言葉遣いと程遠いどころか、素に戻っている。


気を許しているわけではないが、逆に猫をかぶる程の相手ではないと認識しているのかもしれない。


「それじゃ、行ってきます」


「うん。いってらっしゃい!」



バタン



扉が締まっても窓から見えるアルシェンに、蓮姫は立ったまま手を振った。


アルシェンが完全に見えなくなると、蓮姫も再び椅子へと腰掛け、食事を()る。


「やっぱり美味しい。アーシェってホントに料理上手なだなぁ」


「それは認めますよ。何処が悪いのかは知りませんが味覚は正常のようですね」


「っ!さっきの見てたの!?」


「あ、俺も聞いてたぜ」


さっきの、とはアルシェンが胸を押さえ苦しんでいた時の事だ。


「起きてたんならさっさと来なさいよ!つーかいつから起きてたわけ!?」


「姫様が部屋を出るちょっと前ですかね。姫様自らお目覚めのキスをしてくれるかと期待してたんですが、何も無かったんでちょっとだけふて寝してました」


「え?何それ?俺も姫さんにしてほしいんだけど」


「した事ないし、やらないから」


「させるかこの野良犬」


見事にハモる二人に、火狼はガックシと頭が下がった。


暗殺者というのに、ふざけてばかりいる火狼。


そんな彼にぞんざいな扱いをする蓮姫とユージーン。


『弐の姫とそのヴァルは暗殺者の自分よりよっぽど怖いのでは?』と火狼は思った。


「で?狼はいつから起きてたの?」


「ん?姫さん来る前。アーシェちゃんが朝飯作ってくれてるあたりかな?一応人の気配とかには敏感(びんかん)だし、狸寝入りとかも得意だかんね、俺」


「そんな特技はどうでもいいから。なんで普通に起きて来ないわけ?」


「簡単に言えば監視ですよ。俺やこの犬がいない時…邪魔者のいない恰好のタイミングで、アーシェが姫様に対してどう出るかを、ね。勿論姫様が危険にさらされれば直ぐにアーシェを」


ユージーンは持っていたナイフをクルリと手の中で回し、持ち直すと



グサッ!とベーコンに刺し込んだ。



「殺しましたけど」


「っ、ジーン!」


「そんなに怖い顔をしないで下さいよ。俺、姫様の顔は結構好きなんですから、あんまり歪めてしわ作らないでほしいんですけど」


「ジーン!!」


とんでもない爆弾発言の後、全くもって悪びれないユージーン。


蓮姫は怒りのまま、立ち上がるとユージーンの胸ぐらを掴んだ。


しかしユージーンは微動だにせず、慌てようともしない。


ハァ…と、ため息をつくと、ユージーンはいつもの調子で語り出した。


「大丈夫です。事実、何もしなかったでしょう?アーシェだって生きてますからね。それに姫様だってわかっているでしょう?俺が姫様以外どうでもいい主義なのは」


それは彼がいつも口にしていた言葉。


そして謝る気は全く無いという意思表示でもある。


蓮姫は暫くユージーンの胸ぐらを掴んでいたが、ブンッ!と力いっぱい腕を離すと、女性とは思えない程豪快に椅子に座り直し、ガツガツと朝食をかっこんだ。


「姫様?」


ユージーンはそんな蓮姫の様子に、胸元を直しながら声をかける。


元は自分の言った事が原因とはいえ、さすがにこれだけ男らしい蓮姫を見るのは初めてだったからか、少し心配になる。


「むぐ……とりあえず…食べる。……もったいないし。……アーシェが…せっかく…むぐ……作ってくれたし………腹が立ちすぎて…んぐ……マジであんた…殴りそう」


「……ぷっ。さようでございますか」


「な~んか、姫さんってわっかんね~な。急に怒ったと思ったら平然と飯食ってるし」


「俺に言わせればお前の方がわけわからん。何一緒に飯食ってんだよ。しかもテーブルで。犬は地べたって決まってんだろ」


蓮姫に対しては笑顔で対応しても、火狼に対しては人としてすら扱わないユージーン。


火狼も激怒すら忘れてしまう横暴ぶりだ。


「いや…だから俺、犬じゃなくて(おおかみ)ね。つーかさ、俺と姫さんへの態度違い過ぎねぇ?もちっと優しく声かけてくれよ」


その言葉にユージーンは火狼へとニッコリと笑いかける。


初めて向けられたユージーンの満面の笑みに、火狼は相手が男である事を忘れ見惚れそうになった。


ユージーンはそのまま火狼の食器を持ち上げると、そっと床に置く。


「どうぞ。犬らしく、地べたに這ってお召し上がり下さい」


「いや、やってる事さっきより酷くね!?」


「うっさいっての!!ご飯くらい静かに食べなさい!!」


「「………はい」」


フォークを持ったまま男二人に怒鳴りつける蓮姫。


ユージーンと火狼は、あまりの迫力に圧倒され声を揃えてしまう。


「……まったく。…それにしても……これからどうする?」


「………………」


「………………」


「質問したんだから喋ってよし」


「恐れ入ります姫様。俺としては、こんな辛気(しんき)臭い村、さっさと出たいんですが…姫様が出られるかどうかが問題ですね」


蓮姫から許可が出ると、ユージーンは食事を再開しながら答える。


火狼も二人の話を聞きながら、食事を続けた。


「私が出られるかわからない…か。想造力でどうにかならないかな?」


「例のアーチを見ないと何とも言えませんね。強力な魔術がかけられているのなら、今の姫様の想造力では難しいかと。そもそも能力者は姫や女王からしか産まれませんし…能力者は姫、女王とは近い存在です。能力者を通さないのなら姫様も通れないという、あの大婆の言葉は間違ってませんね」


「だとしても…私は出ないと。こんな所でぐずぐずしてる訳にはいかない」

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