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禁域【アビリタ】5


蓮姫はユージーンの言葉にキョトン、とした表情を向ける。


そんな顔を向けられユージーンは『はぁ~~~』と、あからさまに大きく溜め息をついた。


「あのですね。恐らくはアーシェも能力者です。彼女の能力がどんな物か?それもわからないんですよ。大体月光蓮なんて集めて、理由が秘密とか怪しすぎるじゃありませんか」


「人に話したくない秘密なんていくらでもあるでしょ?それにアーシェが能力者とは限らないじゃない」


「…………アーシェは能力者ですよ。姫様を見るかぎり俺はそう思いました」


「私?」


アルシェンが能力者か否かという話に、何故か自分を見て判断したというユージーン。


蓮姫には能力者を見分ける能力など無い。


そもそも能力者が能力を使わなければ、能力者かどうかなど他人にはわからないのだ。


一見しただけでは普通の人間と何ら変わりはない。


蓮姫の友人である現女王の息子達は、能力が周囲に知られている為に(藍玉は間違った能力として知られているが)世界中に認知されている。


しかしこのアビリタの者達は違う。


存在そのものが女王によって隠蔽されているし、大婆とアルシェン以外は蓮姫達に近づきもしなかった。


能力などわかる訳もない。


それなのに、何故ユージーンはアルシェンを能力者だと思ったのか?


「初めてアーシェに会った時に姫様が言っていたじゃないですか。『理由は無いがアーシェは信頼できる』と」


「言ったけど…それが?」


「俺としては凄く不本意極まりないんですが、姫様がこの世界で一番信頼しているのは、あの双子の友人でしょう。………俺じゃなくて…」


ユージーンはそっぽを向いて拗ねたように呟いた。


最後の一言はあまりに小声で呟いたので、蓮姫には届かなかった。


「ジーン?」


「………姫様がアーシェに不信感を抱かないのは…俺が思うに、あの双子達と近いものを姫様は彼女に感じているからだと思います」


先程の拗ねた表情など微塵も見せず、ユージーンは蓮姫へと向き直って告げた。


「そんな曖昧(あいまい)な…」


「じゃあなんでアーシェを信用出来るんです?説明出来ますか?」


「それは…………女の勘とか」


「俺が言ったのと大して変わんないじゃないですか」


ユージーンは呆れたように答えた。


だが、蓮姫にも明確な理由がある訳でもない。


漠然(ばくぜん)とした…それこそ勘や直感に近いものだ。


ふと頭の中に、ユリウスとチェーザレが浮かぶ。


確かに……やはり漠然とだが、二人とアーシェの雰囲気は似ているような気もする。


同じ能力者の大婆にはさすがに何も感じなかったが………というか、あそこまで嫌悪感をむき出しにされては友人達と同じように感じるのは無理な話だ。


「逆に……なんでそんなにアーシェを警戒するわけ?」


「彼女を特別警戒しているわけじゃありません。姫様以外…ついでにノアも入れときますけど、誰も信用する必要なんて無いでしょう」


「聞いた私がバカだったね。……にしても…さっきジーンが言った通り、アーシェは恩人だから。そこは忘れないで」


「寝床を提供してくれたのには感謝してますよ。ですが、いつまでここに閉じ込められるのか?…出てもあの化け物がいますし…厄介極まりないですね。」


「ジーン。そう言えば…私の記憶を見た時に、何か知ってるみたいな事言ってたよね」


ユージーンはあの化け物ど対峙した訳ではない。


蓮姫の記憶を介して見ただけ。


その時、ユージーンは何か意味深な発言をしていた。


「それこそ勘ですけどね。俺も話に聞いただけで、見たことなんてありませんけど………恐らくは合成獣【キメラ】かと」


「キメラ?……キメラって、あの色んな動物が混ざってるっていう?」





合成獣【キメラ】

複数の動物を組み合わせて出来た獣。想造世界にも神話で語られているが、この世界では実験や魔術等で人為的に創り出された人工の魔獣。戦闘力や寿命には個体差が激しい。記録ではサタナガットに匹敵する凶暴な生物が創られた事もある。数日で死ぬ物もあれば、100年生きた物もいるという。製造する際には女王の許可が絶対であり、それを破れば当人は勿論、関わった者、家族も厳しく罰せられる。




確かにあの化け物は(わに)のような獣のような姿をしており、尻尾は二匹の蛇。


そして頭部には人間の女の顔までついていた。


「もし本当にあれがキメラだとして…誰が、何の為に造ったっての?」


「それこそ知りませんよ。キメラは生物兵器だったり、新薬や魔術に対しての実験台として造られる事があったようですが…それこそ数代前の女王や傾城(けいせい)の時代の話ですからね。禁所にいる理由なんざ考えてもわかりません」


「禁所の番人とか…かなぁ?村人は出れなくても外から来る人達への牽制(けんせい)?…私達みたいにさ」


「実際俺達入っちゃってますし、女王がよこした白虎や青龍の連中も襲ってますからね。番人としては向いてないんじゃないですか?そもそもここでうだうだ考えても時間の無駄です」


キメラという可能性は高い。


しかし誰が造ったのか?


何の為に禁所にいるのか?


それらは今考えても、全てがただの憶測に過ぎない。


「とりあえず、今日はもう休みましょう。姫様は少し休まれるべきです」


「ジーンは?」


「ご心配なく。俺もちゃんと寝ますよ。今のところ殺気はありませんし。下の犬も部屋から動いてません。何かあれば直ぐに俺もノアも起きますから大丈夫です」


「そっか。たまにはジーンもちゃんと寝ないとね。いつも見張りさせてるし」


「それが俺の役目ですからね。今日は久々のベッドなので、誘惑には勝てませんから寝かせてもらいますけど。勿論、姫様が寝てから休みますからご安心を」


ユージーンが胸に手を当てて腰を折りながら蓮姫へと告げる。


紳士的でまるで良家の執事のような仕草だ。


「わかった。おやすみ」


しかし蓮姫は何も感じず、さっさとベッドへと入り込む。


そんな蓮姫の様子にユージーンは小さく微笑んだ。


(姫様ってホントに俺に興味無しってカンジだよなぁ。それに無防備だし。安心しきっちゃって。……前なら喜んでたとこだけど…ちょっと…ちょっとだけ、男としては悲しいとこもあんだよなぁ)


だが、そんな蓮姫だからこそ仕えたのだと、ユージーンは楽しそに微笑みながら隣のベッドへと入った。

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