表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/433

女王の元へ 3


女王に声を掛けられ、蓮姫は萎縮する。


その蓮姫の姿に女王はニコリと微笑む。


「ふふっ。緊張しておるのか?なに、取って食う訳でもない。気を楽におし。して……蓮姫よ。蓮姫という名は本名か?」


「………違います。コレは…ユリウスが付けてくれた名前です」


「ほぉ。我が息子は良い名を考えるの。しかし、何故それを名乗る?」


「私の名前……いえ、私の事を知る人はこの世界にはいません。だから、この世界の大切な友人に貰った名前を使っています」


「……………そなたは、我が息子が与えた名が好きか?」


「はい。名前だけでなく、ユリウスもチェーザレも大好きです」


蓮姫の発言に周りに居た人間達がざわざわと騒ぎ出す。


蓮姫には分かっていた。


久遠の態度、生まれてから塔に居た事から二人が良く思われていないことに。


だからこそ、あえてこの場で二人の名を出した。


周りがどう思おうと、蓮姫には大切な存在であると知らしめる為に。


「ふふっ…はははっ!弐の姫にそうまで想われるとはっ!母として嬉しく思うぞ。あれらは妾の子供の中でも、自慢の息子達だからの」


蓮姫の言葉に大笑いする女王。


母親まで彼等を疎んでいると思っていたが、どうやら杞憂だったらしい。


「では改めて、妾が女王の麗華(れいか)じゃ。妾の名も本名ではない。この世界の女王に相応しい名を名乗っておる。麗しき華など、妾にピッタリであろう」


女王の言葉に蓮姫は自然と頷いた。


それ程の美しさ、納得せざるを得ない威厳と貫禄が彼女にはある。


だが蓮姫には、彼女に会った時から疑問に思っていた事があった。


「ふむ。妾に何か言いたげじゃのぅ。妾の姿か?」


「っ!?………はい」


蓮姫は図星を当てられて驚いたが、隠したところでバレると思い素直に頷く。


自分と同じ想造世界の人間でありながら、女王の容姿は、想造世界の人間とは違う。


その喋り方も気になっていた。


「妾はこの世界の女王。故にこの世界の誰よりも強い力…想造力を持つ。その力でこの姿をとっておるのだ。妾が望めば…」


「か、髪がっ!?」


蓮姫の目の前で、女王の髪は赤から金へと変わっていった。


「妾にとって髪の色を変えるなど造作もない。今日の気分は赤だったゆえ、そうしただけのこと。妾もこの世界に来た時は、そなたのように黒目黒髪であった。妾はこの世界の女王。それが、そなたの問の答えじゃ」


彼女は想造世界から来た女王。


それがすべての答え。


それ故に彼女は誰よりも美しい。


喋り方も彼女が考える女王像なのだろう。


「そなたはそのままでも充分美しいが……自在に想造力を使えるようになったら、やってみるが良い。なかなか楽しいぞ」


「は、はぁ」


確かに気さくな方だ。


蓮姫は飛龍大将軍の言葉を思い出していた。


軽やかに笑う彼女に、ふとユリウスの笑顔が重なる。


「女王陛下。恐れながら…女王陛下に」


「堅苦しい言葉など不要じゃ。蓮姫、そなたの言葉でよい」


「……わかりました。陛下にお聞きしたい事があります」


「申すが良い」


彼女はこの世界の女王。


そして、ユリウスとチェーザレの母親。


「ユリウスとチェーザレの事です。私を今迄守ってくれた彼等を罰するんですか?自分の息子を?」


「陛下に対して言葉が過ぎるのでは?弐の姫」


蓮姫の言葉に答えたのは女王ではなく、久遠だった。


蓮姫の後ろで控えていた久遠は、一度立ち上がり蓮姫の横へと移動すると、跪き再び女王へ頭を垂れる。


「恐れながら陛下。ユリウス様、チェーザレ様の両名は弐の姫を手元に置き、陛下にその存在を隠しておりました。我等が尋ねても『 知らぬ』と申され、しらを切る始末。陛下の実子とは言え厳罰に処するべきです」


「そんなっ!?」


「天馬将軍。君の方こそ、陛下に対して口が過ぎるのでは?」


久遠の発言に反論を唱えようとした蓮姫だが、女王の隣に控えていた…眼鏡をかけた金髪の男が久遠を諌める。


女王の傍に居るくらいだ。


彼は恐らく女王の側近だろう。


「飛龍大将軍。貴方はどう思いますか?彼等と深い関わりを持つ貴方なら、彼等の人となりを知っているでしょう。まぁ、天馬将軍も…ユリウス様との関わりは深いでしょうが」


その言葉に天馬将軍はグッと奥歯を噛み締めた。


眼鏡の男に問われ、飛龍大将軍も蓮姫の隣に移動し跪く。


「サフィール様。私の報告も私情が混じるかもしれませんが……御二人は私欲の為に弐の姫様を利用するような方ではありません」


「御二人の師である貴方が言うのなら…真実味はあります。弐の姫を隠していた事も間違いないでしょうが」


サフィールと呼ばれた男の言葉に、蓮姫はユリウス達に対する大将軍の態度に合点がいった。


師匠だったからこそ、彼だけは二人を見る目が自分と同じだったのだと。


二人は自分を隠していたわけではない、と蓮姫が告げようとしたが先に久遠が口を開く。


「サフィール様。私の報告は信じず、飛龍大将軍の御言葉ならば信ずるに値するのですか?」


「どうやら、君のユリウス様への恨みは相当らしいね」


「何をっ!」


サフィールの言葉に噛み付く勢いの久遠。


久遠とユリウスの間には、何やら怨恨があるらしい。


「やめよ。蓮姫が驚いておるではないか。サフィ、あまり久遠を虐めてやるでない」


「申し訳ありません。陛下」


女王の言葉でその場の口論は直ぐに収まった。


まさに鶴の一声、ならぬ女王の一声。


「陛下…。あの……」


「心配するでない。ユリウスもチェーザレも愛しい我が子。厳罰など与えるつもりは最初からない。後で二人を呼び事の次第を確かめるつもりじゃ。蓮姫よ。……ユリウスとチェーザレは、そなたにとってどういう者じゃ?」


「ユリウスは……いつもふざけてばかりで、勝手に人の夢に入って、人に家事を押し付けたりもするけど……いつも優しくて、私が暗い顔をしていると笑わせてくれました」


蓮姫はそっと目を閉じながら語る。


まぶたの裏にはユリウスとチェーザレの笑顔が浮かんでいた。


「チェーザレはいつも無愛想で、滅多に笑わないし、言葉もぶっきらぼうで。怒りっぽいけど顔に似合わず甘党で……でも、いつも真剣に私と向き合ってこの世界の事を教えてくれました。二人共大切な……私の友達です」


「……そうか。嬉しい事を言ってくれる」


そう言って笑う女王は、今までの余裕や色気ある女王ではなく、母親の顔をしていた。


「先程も言ったが…妾はユリウスもチェーザレも愛しておる。二人だけではない。妾の子供達……藍玉(らんぎょく)もリュンクスも……亡くなった子らも愛しくて仕方がない」


本当に愛おしそうに、慈愛の満ちた顔で話す女王を見て蓮姫は安心した。


この人は本当に息子たちを愛しているのだと。


「だから安心おし蓮姫。そなたの言葉を信じ、あの二人は悪いようにはせん」


「はい!ありがとうございます!陛下」


「ふふっ。まるで自分の事のように嬉しそうじゃのぅ。そなたも(りん)もほんに可愛らしい。どちらが女王となるか…妾には楽しみで仕方ない」


「凛?」


「壱の姫の事じゃ。ここに来るように申し付けておる。本来、姫同士の面会は禁止だが妾の命なら構わぬ。お互い争う相手がわからぬのは不安であろう。まぁ、知らぬ仲ではないだろうが」


意味深な言葉を告げる女王だったが、蓮姫はソレを問う事は出来無かった。


「来たようじゃの。凛、蘇芳。入るがよい」


「失礼します」


「失礼致します。陛下」


「っ!!?」


扉から入ってきた二人の人物。


その姿を見て蓮姫は息を飲む。


その二人を蓮姫は知っていた。


壱の姫の正体よりも、蓮姫の目はその後ろの男に釘付けだった。


「お初にお目にかかります、弐の姫様。私は蘇芳と申します」


にこやかに笑うその男を見て、蓮姫の頭にはあの忌まわしい日々が蘇る。



その男は




蓮姫を監禁し、陵辱した…あの男だった。



「っ!?…かっ………………ひゅっ…………………はっ……」


蘇芳を見て蓮姫は呼吸が出来なくなる。


それ程まで、身体は蘇芳を拒絶していた。


「っ!?弐の姫様!?」


酸欠状態になり、倒れ込む蓮姫。


慌てて飛龍大将軍が駆け寄るが、蓮姫が倒れる前に別の腕が蓮姫を支えた。



「…大丈夫だよ、蓮姫。大丈夫だから」



蓮姫は自分を包む暖かい腕と、友人の優しい声を感じながら意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ