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禁域【アビリタ】3


「気にしないで。私の方こそ、弐の姫様を招いたのに、粗末な家でごめんなさい」


「アーシェちゃんって一人暮らし?家族はどしたん?」


「両親は…私が子供の頃に死にました。もうずっと一人暮らしですね」


アルシェンは蓮姫に対してはフランクな口調で話すが、ユージーンや火狼には敬語が抜けない。


それはユージーンの蓮姫以外に対する威圧感や、火狼の朱雀頭領としての余裕や暗殺者特有の空気がそうさせるのかもしれない。


「あ、心配しなくても両親の部屋はそのままにしてあるし、お布団もあるからちゃんと泊まれるわ」


「何から何までごめんね。ありごとう」


「ふふ。私も正直楽しいの。ずっと一人だったから、誰かとご飯とか一緒に寝るのは久しぶりだもの」


そう話すアルシェンは、本当に嬉しそうだった。


同じ禁所の村人というのに、アルシェンは大婆や他の村人と全然違う。


むしろ彼女が普通で、村人達が異常な程に警戒しているが。


弐の姫という存在は世界に忌み嫌われるもの。


それは蓮姫自身良く理解しているが、村人のあの態度はソレとはまた別物のように感じる。


「アーシェ。聞きたい事があるの。いいかな?」


「………私達の村の事?」


アルシェンは眉根を下げて、苦笑しながら蓮姫に問い返した。


想像はしていたが本来なら話したくはない、と顔に書いてある。


蓮姫はアルシェンにそんな顔をさせたくはないし、無理に聞いたりもしたくはない。


だが、弐の姫として知らねばならない。


「うん。どうして先代の女王陛下はここを禁所にしたの?今の陛下だって先代の勅命(ちょくめい)を解いてないのは何故?」


「蓮……能力者について…貴方はどれくらいの事を知ってる?」


「え?女王の子供で……特殊な能力を生まれ持った人達…だよね?その人の人格とか関係なく、能力を危険視されて…軟禁されたり、遠方に飛ばされたりしてる」


ユリウスとチェーザレ、そして藍玉の事を思い出しながら蓮姫は話した。


それを聞いてもアルシェンの顔は変わらない。


むしろ反応したのは火狼の方だった。


「は?それで全部?姫さん能力者について何も知らねぇの?」


「???どういう意味?」


「姫様に無礼な口をきくな。この犬っころ。姫様、俺が補足しますよ」


火狼の言葉に困惑する蓮姫。


そんな主に助け舟を出すよう、ユージーンは語り出す。


「能力者の力は魔力と同じ。必ずしもではありませんが、遺伝するんです。能力そのものではなく、能力者であるという事が。例えば千里眼の能力者を母に持つ娘は、動物と話せる能力者…みたいな。だからアルシェン達の祖先も能力者なんです」


「そうだったんだ。言われてみれば納得かも。村人の半分は能力者なんだもんね」


ユージーンの説明にふむふむ、と納得する蓮姫。


しかしその話が本当なら、世界中に能力者が(あふ)れ、全員がこの禁所やユリウス達のように隔離されている事になる。


しかし蓮姫は現女王の息子達しか能力者を知らない。


「この村にいる人達以外の……他の能力者はどう生活してるの?」


「ホントに姫さん何にも知らねぇんだな。他の能力者なんていないぜ。先代女王が想造力使って、当時いた能力者の力は全部消しちまった。先々代陛下の子供達のね」


呆れたような火狼の言葉に蓮姫は驚く。


確かに想造力ならば、能力者の力を消す事もできるかもしれない。


しかし何故そんな事を?


それに他にも疑問が浮かぶ蓮姫は、更に問いかけた。


「え?でも…それじゃあ先代女王の子供や…ユリウス達より前に産まれた陛下の子供達は?」


先代女王にも勿論、能力者が生まれただろう。


現女王である麗華もそうだ。


500年生きてきた彼女は藍玉よりも更に上の子供達を産んでいるはず。


その中に一人も能力者がいなかった、とは考えにくい。


そんな蓮姫の疑問に答えたのはまたしても彼女の従者。


ユージーンは顔を歪ませながら話した。


「先代女王が即位し最初に出した勅命(ちょくめい)。それが『能力者は子を残す事を禁ずる』というものです」


「え?な、なんで!?」


「理由なんて俺だって知りませんし、あんな女の思考知りたくもありません。しかし事実ですよ」


ユージーンは忌々しげに答えた。


彼を身勝手な思いで不死身にした張本人。


それが先代女王。


彼が先代女王を毛嫌いしているのは蓮姫も知っている。


これ以上ユージーンの口から先代女王の話をさせてはいけない。


そう思った蓮姫は、火狼へと視線で説明を求める。


「理由は俺も知らねぇよ。ただ能力者の力は遺伝する。能力者を恐れていた民衆はこぞってその勅命を喜んだらしいぜ。ちなみに能力者でも結婚は出来る。その場合、現女王に報告が絶対条件。生殖機能は能力者が12歳の時に、女王によって消されるけどね」


『まぁ、アソコ切られる訳じゃねぇし~』…と軽く笑いながら告げる火狼の言葉に、蓮姫は愕然としていた。


能力者というだけで、生物の本能である子孫を残す事すら許されない。


ユリウスもチェーザレも藍玉も、いつかは愛する誰かと結ばれるだろう。


しかし、その最愛の者との愛の証を腕に抱くことは……生涯無い。


「なんで……そんな勅命が…許されるの?おかしいよ…」


「それはあの女が女王だったからですよ。そして民衆が、能力者を必要異常に恐れるから。千年近く経っても人々は変わらない。代替わりしても女王だって変わらない。そういうもんです」


蓮姫は俯き、ギュッとスカートを握った。


激しい怒りや悲しみがこみ上げる。


それでも、この場にいる誰にぶつけるのも見当違い。


彼女は友人達の事をほとんど知らなかった自分に腹が立った。


そんな蓮姫の様子を見かねたノアールは、彼女の膝に飛び乗りペロペロと握り締めている両手を舐める。


(なぐさ)めるように…。


「………ノア?……うん。ありがとう……大丈夫だよ」


蓮姫はノアールを優しく撫でると、再度アルシェンへと顔を向けた。


「陛下が先代女王の勅命を撤回しないのは、能力者に関係する事だから?」


「えぇ。勅命を撤回したくとも、民衆の反対は目に見えている。能力者に関する勅命を撤回する事は、民や貴族達の反感を買う事にもなるの」


恐らくだが、麗華もこのような勅命は気に入らないだろう。


しかし、それを消したくとも、貴族の反対……もしくはサフィール等のヴァルが止めたのかもしれない。


他のヴァルは知らないが、サフィールなら女王の評価を下げる様な事は、彼女の望みでも止めるはず……と蓮姫は思った。


能力者が増える事なんて…誰も望まない。


だから能力者は子孫を残す事は許されない。


原因は(いま)だ解明されていないが、女王からしか能力者は産まれない。


だからこその措置(そち)


「まぁ、産まれて直ぐに殺されないだけ幸せなんじゃね?仮にも女王陛下の子供だし」


火狼は軽い口調で告げた。


しかしその言葉に、蓮姫もアルシェンも顔を歪める。


「そう……なのかな?」


「へ?」


「産まれて来たのに……生きている間…ずっと誰かに…世界中に嫌われてて。幽閉されたり、監視が着いたり…お母さんと離されて。他の人と一緒でも…森の中に隔離されて。本当に……そうやって生きるのは…幸せなの?」


「………蓮。…能力者として産まれたのは、仕方が無い事。私達は能力者であることを誰のせいにも出来ない。…産まれる前から決められた運命(さだめ)だから」


「アーシェはそれでいいの?外に出たいとか、普通に暮らしたいとか思わないの?」


「もう……そういうのは…諦めてるから」


「………アーシェ」


泣きそうな顔で隣に座るアルシェンの手を握る蓮姫。


そんな蓮姫を、アルシェンも苦笑しながら見つめ返す。


自分の発言の軽率さに気づいた火狼だが、時すでに遅い。


ユージーンの方から凄まじい殺気が向けられる。


火狼は気まずさと恐ろしさに、視線を逸らしながらお茶を一口飲む。


とりあえずユージーンは火狼の(すね)を思いっきり蹴っておいた。


悶絶する火狼は放って、ユージーンは暗い雰囲気を(めんどくせぇ)と思いながら話を戻す。


「で、アルシェン。貴女方は先々代女王の産んだ、能力者の子孫でしたよね。何故貴女達…このアビリタの村人は子孫繁栄を許されてるんです?隔離されているとはいえ、他の能力者達との待遇はどう考えても異質ですよ」


「それは……先代女王陛下が唯一、子供を産む事を許した能力者…シスルの子孫だからです。彼女は先代女王が勅命を出した時、既に妊娠していました。子供を産む引き換えに、この禁所へと追いやられたのです」


「………シスル?」


アルシェンの口から出た女の名前に、ユージーンはピク、と眉を動かした。


どうやら彼はその名に聞き覚えがあるらしい。


そもそもユージーンは800年前、それもアルシェン達を禁所に閉じ込めた張本人、先代女王と面識がある。


ならば、先々代女王の娘とも面識があるのだろうか?


蓮姫は探るような目でユージーンを見るが、その視線に気づいた彼はウィンク一つすると、直ぐにアルシェンへと視線を戻す。


その意図を理解した蓮姫も、口は挟まなかった。


「なるほど。貴女方のご先祖様は女王相手に交換条件を出したんですね」


「はい。だからこそ、私達はこうしてこの世に生を受ける事が出来ました。……だからこそ、隔離される運命となった…とも言えますが」


自虐的に薄い笑みを浮かべるアルシェン。


果たしてシスルという能力者の選択は正しかったのか?


間違っていたのか?


それはシスル本人と、その子孫達しかわからないだろう。


「なぁなぁ、アーシェちゃん。俺さ、能力者とか禁所とかよりも、すっげぇ気になる事があんのよ」


「はい。なんですか?火狼殿」


「この禁所の化け物について。知ってんっしょ?」


火狼がいきなり出した話題に、アルシェンは顔が強ばった。


その表情はありありと、あの化け物を知っていると表している。


「……なんで…知っているんです?…っ、まさかっ!?アレに会ったんですかっ!?」


「えぇ。貴女の悲鳴が聞こえ姫様が森中を駆け回っている時に、ね」


アルシェンの問いに答えたのは、姫様がではなくユージーン。


蓮姫はその言葉にバッ!とユージーンの方を向く。


「っ!?ジーン、今なんて?」


「あれ?姫さん気づいてなかったん?あん時の悲鳴とアーシェちゃんの声、まんま一緒じゃん」


視線がアルシェンへと集中する。


蓮姫はあの時の叫び声の女と、アルシェンが同一人物とは気づかなった。


そもそも森の中に響いたとはいえ、甲高い悲鳴と今のアルシェン通常時の声で同一人物だとわかる方が難しい。


だが、暗殺者である火狼やかつて魔王とも呼ばれていたユージーンは、彼女と出会った時から気づいていた。


「……あの時の悲鳴が…アーシェ…?っ、アーシェ!大丈夫だったの!?」


あの悲鳴の主がアルシェンならば、例の化け物に遭遇した可能性は高い。


そう思い、蓮姫はアルシェンへと聞いたのだが、彼女は困惑したように答えた。


「え、えぇ。大丈夫。ビックリしてつい悲鳴をあげてしまったけれど、熊よけの薬草を持っていたから直ぐに逃げられたわ」


「え?熊?」


蓮姫はあの時の様子を思い出す。


確かに、蓮姫が駆け付けた時には熊の死体しかなかった。


「そもそもアーシェちゃん。なんで森なんか彷徨(うろつ)いてたん?」


「薬草を取りに行っていたんです。常備していたのが、もう直ぐ切れそうだったので」


「わざわざ夜に?」


「夜行性の薬草と……あとは月光蓮(げっこうれん)も取りに行ったんです」


「月光蓮?でも……確か月光蓮は毒草…だったよね?ジーン」


「はい。人は勿論、魔獣すら殺す毒です。薬草と毒草は紙一重。共に集める話は良く聞きますが、月光蓮はどう転んでも毒にしかならないはず。何故そのような物を?」


「それは……必要だから…とだけ申しておきます」


ユージーンの問いかけにアルシェンは目を伏せて答えた。


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