表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/433

序章

この世界は想造世界によって造られた。


想造世界とは女王や姫が生まれ育った世界。


この世界の女王となれるのは想造世界から来た女性のみ。


この世界の人間が王となる事は…今は無い。


想造世界からの女性は数百年ごとに現れる。


時の女王の力が衰える前に。


そして今また


想造世界からこの世界へと


導かれた者がいた。








「ここ……何処?…私は……一体?」



娘は1人、見慣れぬ夜の街を歩いている。


自分が何故ここにいるのか?


ここに来る前は何をしていたのか?


頭の中にもやがかかっているように、ハッキリとは思い出せない。


自分の事もわからず、何故ここにいるのかもわからない。


彼女はキョロキョロと周りを見渡す。


薄暗くランプで照らされた建物は、煉瓦作りが殆ど…奥に見えるのは城だろう。


しかしいくら思い出せないとはいえ、こんな街並みを彼女は知らない。


例えるならファンタジー洋画のセット。


「誰も…いない。今は夜中なのかな…どうしよう」


歩いているのは自分だけ。


他には誰一人として姿が見えない。


しかし、ジッとしているのも何処かの家に入るのも怖い彼女は歩き続けるしかなかった。



コツコツ



「っ!?誰!」


響く足音に振り返るが、そこには誰もいない。


目を凝らし先を見るが、そこには猫一匹すら見えない。


それでも聞き間違いではない。


今の今まで静寂に包まれていた夜の街で、ふいに聞こえた足音。


だが、ハッキリと耳に残った音の先を見続けても何も変わらない。


自分の希望が幻聴として現れたのか?と彼女が諦めたその時。



「っ!!?むぐっ!!むぐぐっ!」



彼女は後ろから何者かに口を塞がれる。


首をうまく動かす事も出来ず、相手が誰かもわからない。


自分よりも大きくガッシリとした腕や手の感覚で男だろう、という事のみ理解した。



「むぐぐぐっ!!むぐぅっ!!」


「やっと見つけた。やっと会えた。俺の姫」


「っ、…………」



男が娘の耳元でそう囁いた直後、彼女は気を失い、体から力が抜ける。


そんな彼女を愛おしそうに抱きかかえると、男は夜の闇へと消えていった。







「っ!!?………ここは…?」



目覚めると彼女は天蓋付きのベットで横たわっていた。


ゆっくりと起き上がると自分のいる部屋を見回す。


豪華なベッド、シャンデリア、アンティークのような机にランプ。


町と同じように映画のセットのようで、広く大きく作られた部屋。


自分は大金持ちにでも保護されたのか?という彼女の安易な予想は、鉄格子の嵌められた窓を見た瞬間打ち砕かれる。



「な、なにこれ?監禁?私………私は…」



監禁されるような身に覚えは無い。


そう思い最近の自分の行動力を振り返ろうとしたが、何故自分があのような場にいたのか?いつから居たのか?町にいた時と同じく思い出せない。



それでも、ここにいるのは危険。



そう判断すると彼女はベッドから降り、扉へと足を進めた。



ガチャ



「……あ」



彼女が扉へと辿り着く前に、それは開かれ美しい青年が部屋へと足を踏み入れた。


失礼とは思いながらも彼女は青年を凝視してしまう。


日本人…いや普通の人ではありえない髪と瞳の色。


彼の瞳は濃い藍色をしており、髪は瞳よりも薄い藍色。


長い髪を蘇芳色の髪結い紐で一つに纏めており、彼が羽織る白いコートにそれはよく映える。


自分の目の前にいる女性をその瞳に映すと彼は(とろ)けるような笑顔を浮かべた。


「お目覚めですか?手荒な事をして申し訳ありませんでした」


青年は彼女へと近づくとスッ…と跪き自然に彼女の右手をとると、その甲に自らの唇を落とす。


青年の突然の行動に彼女は頬を赤らめる。


しかし青年の言葉を頭の中で反復すると、その顔からは血の気が引き、赤みを帯びた頬は一気に青くなっていった。


「て、手荒な真似って…じ、じゃあ…貴方が?」


「はい。俺が貴女を此処へお連れしました」


「っ!!?は、離して下さい!!」


彼女は咄嗟に右手を引くが、勢いを付け過ぎた為にバランスを崩す。


「っ!?」


後ろへと倒れ込みそうになる彼女の体を、彼女に拒絶された青年は優しく抱きとめた。


「っ!おっと…。危ないですよ。目覚めたばかりなんですから、無茶をしないで下さい。姫」


「…………ひ…め?…あの……人違いです。私はお姫様なんかじゃありません。普通の高校生ですから」



そう言い否定する彼女だが、母親は女優であり父親は作家をしている。


収入の高い両親のいる彼女の家庭は、一般家庭より生活水準は高い。


それでも彼女自身はお嬢様でもなんでもなく、普通に学校に通う女子高生だ。



「いいえ、貴女は姫です。俺が待ち望んだ……俺だけの姫」



女性ならば誰しも、美しい男に言い寄られれば気分が良くなるものかもしれない。


しかし彼女は得体の知れない男に好かれ、この部屋へと連れ込まれた事。


そして何より、自分を見る男の瞳に恐怖を感じた。


愛おしいと……自分を見つめる瞳から、抱きしめる腕から、全身から怖い程に伝わってくる。


ゾワリと寒気が全身を包む中、彼女は腕を精一杯伸ばして青年から距離をとろうとしたり、バンバンと胸や腕を叩きながら抵抗する。


「は、離して!離して下さい!!」


「姫?暴れないで下さい。大丈夫です。俺は愛しい貴女を傷つけたりしません」


「やめて下さい!私を帰して!!誰かっ!」


「この屋敷には誰もいませんよ。そのうち貴女の世話をする人間を置くつもりでいますが…今は俺と姫の二人きりです」


「そんなっ!?お願いです!離して!私を此処から出してっ!!」


「いいえ。貴女は俺の姫だ。決して逃がしはしない。一生を俺と添い遂げて下さい」


「ふ…ふざけないでっ!」


ガンッ!!


彼女は青年の言葉に逆上すると、右手で力いっぱい男の頬を殴りつけた。


危ない男とはいえ、人に手を上げた事に罪悪感がわくが、青年の腕が緩んだすきに彼女は拘束から逃れ一目散に扉へと駆け出す。


しかし


ガチャ!ガチャガチャガチャ!!


扉は鍵がかかっており開く事は無い。


鍵を開けようにも鍵穴すら見当たらない扉。


彼女は力任せにドアノブをガチャガチャと回したり、ドンドンと扉を叩くも全ては無意味。


その間にも青年は彼女へと近づき


バンッ!!


彼女の頭よりも高く手を振り上げ、扉を叩く。


乱暴的に響く音に彼女はビク!と体を震わせ手を止めた。


恐ろしさで後ろを振り向けないでいると、男の方が先に行動を起こす。


彼女の耳元に口を近づけると囁くように言葉をかけた。


「……何処にいくつもりです?俺から逃げる気ですか?」


「……お…お願い……私を…出して…」


「いいえ。貴女は決して此処からは出しません。決して逃がさない。言ったでしょう?俺と生涯共に添い遂げて…と。俺と二人…この屋敷で暮らしましょう。深く愛し合いながら」


「きゃあっ!!」


青年は彼女を抱き抱えると、ベッドへと歩み出す。


ベッドに彼女を横たわらせると、彼女が逃げる間も与えずに上から覆いかぶさった。


「や、やめてっ!!」


「もう少し貴女が落ち着いてからにしようと思いましたが……早かれ遅かれ、俺達は結ばれる」


「やめてっ!!やめ…っ!」


これから何が起こるのか、自分はこの男に何をされるのか?


わからない程、彼女は子供ではない。


必死に抵抗しようとするも、男に力で叶うはずもなかった。


ビクビクと怯え涙を流す彼女に、男はゆっくりと顔を近づける。



「姫…愛しています。俺の姫。貴女も俺を…愛して下さい」







どうして








どうして








私がこんな目に合うの?





お願い





誰か








助けて










助けて


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 姫として呼ばれても姫にならなきゃいけないなんて事無いんだから好きにすればいいのにね(笑)
2021/09/13 08:00 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ