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2.舞踏会の夜 1

「気もそぞろだね」


その声に物思いから醒めて、ユジィは目の前の美しい生き物をしげしげと眺める。


今日は暇だから講義をしてあげようとアレックスが言い出したのは、午後を少し回った頃のことだった。

暇も何も、彼の部屋で飼われている状態のユジィは、

彼が何か仕事めいたことをしている様を見たことがないので、若干冷やかな眼差しにもなるものだ。


(…………そうか。人外の王様は働かなくてもいいのか。

 それとも、人間の思うような王としての役割とは、根本的に違う存在なのかしら?)


彼等の統治において実務はほぼない。

来訪者の教官をしていたフリードリヒの行いですら、暇潰しの一環なのだ。

何とも厄介な生き物なのである。

あくせく働く人間代表としては、ささやかな反逆心を抱いても仕方ない。


「そうそう、主柱の説明の続きだったね。

 暗い灰紫の髪に瑠璃色の瞳が、スヴェイン。氷色の髪に銀色の瞳がラスティア、

 髪に翡翠の瞳をしているのが、ロードだよ」


(今更感が山盛りの安価な対価で、情報を引き出そうとされている!)


代わりにお前の話をしなさいと言われていたので、今更の教授に顔が激しく曇る。


城内で見かけただけの頃は、単純に惚けるくらいに美しいとしか理解出来なかった相手が、

アレックスに見慣れたお陰で詳細まで識別出来るようになった。

そんな恩寵に気付けば、人外者の常識外れな美しさにも種類があることがわかる。


巻き髪のロードは、元々小柄で少年の姿なだけではなく、言動にも小悪魔的な幼さがあるし、


腰までの髪を一本に結んだラスティアは、貴族めいた典雅で柔らかい趣味人。


アレックスと同じぐらいの、首筋の中程までの短髪のスヴェインは、

硬質な表情を崩さず、酷薄で無感情な軍人のよう。


城内に上がれる人外者の中では、まだ女性は見たことがない。



(確か、この季節を司る者にはほとんど女性はいないって)


秋の終わりの鮮やかさや、清らかな雪景色など、

書の国の人間的な感覚では女性的なものもある季節なので、その配分は感覚的に掴み難い。


「高位であればある程、綺麗なんですね」

「そう?」

 アレックスは総王だから、興味なさ気に薄く微笑む。


「造作的にはロードの方が華やかだけれど、スヴェインが一番綺麗です。

 殆ど変わらずに見えるラスティアが、スヴェイン様……スヴェインの僅かに下位だとか」


「敬称を付ける必要はないよ。私達の名前とはそういうものだ」


 私のことは呼び捨てにするくせに慣れないね、と、アレックスはひらりと手を振ってそう教えてくれた。名前自体に力があるものを身内が呼ぶ場合、敬称は省くのだそうだ。


「特にお前は、私達側のものなのだからね」


(収める領地の名前を取って、アシュレイ領を治めるスヴェインは、

 アシュレイ公と言うような呼ぶこともある。

 個人的には、そういう名前の方が呼び易いけれど、私には適応外)



外部からの来客が名前に敬称をつけるのは、線引きの向い合せなので構わない。

それは、賓客扱いの嗜好品も相当する。

ユジィの立場は、アレックスの石炭だ。

アレックスという最高位の系譜として、他の人外者達を敬称抜きで呼ばねばならないが、

肩書そのものが名として成り立つような特殊例の場合はまた変わってくる。かなりややこしい。



(この国にいる高位の人外者は、全部で二十四人)


その中でもアレックスと同じ卓について議論が出来るのは、

前述の三人に合わせてフリードリヒと、

今はこの場にいない、白髪交じりの淡い金髪で、壮年の容姿を持つシュタイル伯だ。

彼らは、アグライアの城を中心としたリベルフィリアの中にそれぞれの領地を持ち、

各々の趣味でその土地を王として統治している。


(スヴェインが忠誠と支配で、ラスティアが敬愛と制圧、

 シュタイル伯が庇護と節制で、ロードは執着と慈愛、フリードリヒは使役と育成)


ちなみにシュタイル伯は第三位で、ロードが四位。五柱の中ではフリードリヒが最下階位となる。

高位の人外者の核たる、彼らが何を司る代行者なのかまではわからない。


(伯爵位を名前に持つシュタイル伯は、元々“伯爵”という名前で呼ばれていたひと)


彼は、二百年程前に経典として普及した書物を書き記し教会を治め、聖伯爵として名を馳せた。

この世界の人外者には、光と影の区分はない。

経典の主とされたシュタイル伯も、規律を外れた者は厳しく断罪したし、

無垢なるものの象徴として慈愛を以て領土を治めるロードは、最も残虐な人外者の一人だ。



「それで、お前の続きは?」


甘い声に思考を中断されて、ユジィはぎりぎりと眉間の皺を深くする。

掬い上げられて同じ線の側に立たされた途端、感情が戻っても声も出ないような恐怖心は消えた。


(多分、アレックスの所有物になったことで、何かの耐性が出来たんだわ)


 アレックス当人には、最初の衝撃以降は支障が出るほどの影響は出ない。


(人違いとは言え、どこが違うのかわからないぐらいに同じ人だから)

こんなにもよく似ているから運命も錯覚するのか、間違えた場所にいる同じものなのか。


(何だとしても、この世界にいるアレックスは嫌い)


クリスマスの王様に似ているというそれだけで、このアレックスが嫌いだった。

でもそう念じ続けていないと、僅かに重なる容姿や声だけのものに、飲み込まれそうで怖くなる。

誰でもいいわけではないのだ。

あの、アレックスだったからこそ、彼は特別に大切なひとだった。


「ユージィニア?」


考え込みそうになったところで、名前を呼ばれて目をしばたいた。


「あなたは、どうして私の本当の名前を知っているの?」

「フリードリヒには知らせずに済ませるなんて、豪胆なことだ」


それを教えてくれたのはカタルゴ伯だった。

高位の人外者には、完全な隷属を避ける為に、魂に繋がる本物の名前を与えてはならない。

誰にも不可能なその逃げ道を、戸籍表から外れた来訪者だけは持っているのだと。


「誰にも言わなかった筈なのに」

「さて、私は目がいいのかもしれないね」

(それって、真名を奪えるくらいにってこと?)


実は、彼の存在圧に支配されていない隙に、危険を覚悟の上で逃げ出すことも考えた。

ユジィは別に破滅願望があるわけではない。人違いで厄介な場所に留まれる筈もない。

(そう思って、こっそり地図をくすねたりして、準備だってしてみたのに…………)

それなのに身動き出来なくなったのは、名前を握られてしまったから。

この世界では、真名は魂に触れる音。彼はそれで、いとも容易くユジィを拘束している。



「可哀想に」


 アレックスは時々そう言って微笑む。

武器にもなれない石炭は所詮消耗品なので、彼等らしい気紛れで不憫にもなるようだ。



「お前とて、私の名前を呼んでいるのだから公平だろう?」

「名前も同じなのに」


いつもユジィがそのことで不機嫌になるのを、アレックスは面白がっているようだった。

どこかにいる自分と同じ名前の男が、ユジィの運命を狂わせたことが愉快らしい。


「ユージィニア、それで?」


(……ぐっ、わざと名前で強要してきた)


こうやって縛られると、言い逃れも出来ない。

出来うる限り最大限に頭を働かせて、追及を受けそうな言葉を逃がす努力はしても、

ほとんどの真実を掘り返されてしまう。


(そもそも、武器来訪者という存在を知っているのに、更に詳細が知りたいの?)


この恐ろしい生き物たちは、時折子供のようになる。


「乗り換えは、魔術の理に乗っ取って、錬成の運賃が賭けものになっています。

 選択にかけた願い事が叶えばこちらの勝ちで、

 願い事を失えば、対価として心と痛覚の大部分を欠け落とされる。

 私の読んだ本には、道具になると書かれていましたけど」


「お前は、戻るべきところに戻りたかったんだろう?

 強い召喚があれば、来訪者になることは出来る。

 望まれなかったとわかっていて、どうして自分で交通費を支払ったのかい?」


その疑問を自分に向けなかったわけじゃない。

けれど、その意地悪な問いかけに屈しないだけの理由は持っているつもりだ。


「私を呼び落とすだけの思いをもう持たれなかったとしても、

 せめてその人に返したいものがあるんです」

「何か借り物でも?」


クリスマスの王様の本に記されていたのは、

自分の養い子が、書の国に連れ去られることを阻めなかった彼の最後の場面だった。

彼は最後に、養い子への庇護として己の心の半分を持たせた。

そうしてクリスマスの王様は、心を半分にしたまま今も暮らしているのだという。

お伽噺にありがちな、けれど異様な不安感を記す結びの言葉を読んでぞっとした。


「実害は不明だけど、魂や記憶に結びつくような、目に見えないものを一つ預かっています。

 預かりっぱなしという状態は芳しくないでしょう?」


(半分になったままってどういうこと?体に影響とかないといいけど……)


「預かり物とはまた古風だね。道具にされる危険を負ってもかい?」

「放っておけません。私にとっては重要な問題でしたから」

「道具ね…………。壊れるのなら、あまり興味が湧かないのだけどね」

「………………だからですか?」

「うん?」

「あの書架の部屋で、私の言葉に一度、とても不愉快そうにしていたでしょう?」

「ああ。それに気付いたのはお前ぐらいだろう。

 何の取り柄もないお前の価値は、そういうところだと思うよ」

「玩具としての価値?」

「そうだね。石炭として手元に置くからには、いつか石炭として使うかもしれないが」

「元々、太陽ほどのアールを持っている人が、石炭を燃やした灯が欲しくなるでしょうか?」

「必要性ではないだろうね。けれども、炎に焼べてみたくはなるかもしれない」


この世界ではアールと呼ばれる魔術の補い手として、石炭は存在する。

来訪者が魔術的な迷子の顛末である以上、どんな屑来訪者にも魔術的な価値があり、

早い話が命数と引き換えの生贄的な動力として活用出来るのだ。



(つまりのところ、これだけ高位の人外者に恵まれたこの国で、

 石炭がいるということ自体が、悪意そのものなんだ)


アレックス一人だけで、国の守護も維持も事足りるのだから、

石炭の一つだって、意味のない動力に過ぎない。

ただの暇潰しだと、子供でもわかる。


そんなアレックスが、自室で石炭を飼っているという噂はあっという間に城内を駆け巡った。

真っ先に、眦を吊り上げて真相を確かめに来たのはロードで、

その他の面々は、執務室で遠慮もなく膝の上にユジィを乗せたアレックスに、

ある意味厄介な結論を見出したらしかった。


あまりの辱めに当初は暴れたユジィも、今は大人しく心を無にして座っている。

人外者は天邪鬼で、嫌がる方が逆効果だと知ったのだ。

いつかこの屈辱を晴らして見せようとユジィが幾つもの復讐計画を立てているが、

果たしてこの老獪な人外者をぎゃふんと言わせられるかどうか不安だ。


(対価で心を失くせば、無そのものだけど、触れられるせいでそれも叶わない)


同室とは言え、さすがにアレックスの領域というものは近づかずにいるが、

毎日同じ空間のどこに彼がいるのかわからないことも、多大なストレスになっている。


室内は、暗めの色で統一した緻密な織りの絨毯に、天井は事象を結晶化させた夜空の石。

見上げた天窓には繊細なステンドグラスの薔薇窓があり、

林檎の木に似た紅玉を実らせたロスシアーナの樹や、

天蓋のように生い茂る薔薇が、奇妙な空間に仕立てている。

この上なく美しい夜の庭園をそのまま部屋にしたような場所だ。


「エレノアのように、望み落とされていれば、お前も対価など払わずに済んだだろうに」


嫌味ですらない心を抉る一言には、疑問を一つ持ち出して気持ちを切り替えた。


「前から不思議だったんですが、エレノアの守護者はどうしてシュタイル伯なんですか」


淡い金髪の人外者は、孫娘を愛でるように絶世の美少女を愛でている。

けれども、当のエレノアが清廉潔白な心根とは裏腹に、

残酷なアグライア王に恋をしているのは、誰が見えも明らかだった。

石炭で喜ぶなら、稀なる嗜好品も手元に置きそうなものなのに。


(だって、嗜好品は予言のアールを持つ。

 エレノアのその力は、当代随一とも謳われている程で、

 彼女はただの綺麗なだけの女の子じゃない、特別な力も持っているのだから)


「私では維持が出来ないだろう?」

「それは、維持もままならないくらいに生活力がないということですか?」

「あれは充分に美しく、手元に置く価値はあるものだよ」


アレックスがそう微笑むのは、

どこかで特別なものを持たない彼に安堵してしまってユジィを傷付ける為だ。

だから艶然と、微かな悪意を隠しもせずに、そんな風に言う。


(難しいのだと、どうしてわかってくれないのかしら?)


「私を傷付けようとしなくても、エレノアが特別な嗜好品だということはわかっています。

 少しくらい依存が見られても、あなた達は特別製なのだからご容赦下さいと言った筈ですが」


 隠しても何でもない顔をしても、どうせアレックスに見透かされる。


(だから、いっそのこと、自分の弱さも迷いも晒け出してみたけれど、

 果たしてこれで良かったのかしら?弱点を晒してしまっただけ?)


「確かにお前達人間は、美や力、権力に弱いものだ」


「代行者特有の魅縛作用に加えて、ここまで日々の視界を占拠されれば、慣れも出ます。

 それに私は本当に欲しかったものが手に入らなかったと知ったばかりの傷心中なので、

 これだけ向かない方もいませんが、保護者役に執着が出るのも当然じゃないでしょうか」


「それは言い訳ではないのかい?煩わしくなれば、お前の価値は無に等しくなる。捨ててしまおうか」


首を傾げて微笑む様は、稀代の悪女か聖女のよう。


「あなたの場合、私の願い事に酷似しているし」


「だとすれば諦めた方がいい。私を模倣する者など、この世界にはいないからね」


最高位の人外者はそれぞれのものを代行する、人間がいうところの神という存在だ。

同じものが二柱いる筈もないのだとか。


「どうして私は、こんなアレックスがいる世界に来てしまったのだろう」


「お前のそういう不遜さは悪くない」

「アレックス!」


膝の上で強く抱き締められて、ユジィは頬に血色を昇らせて抵抗する。

こんなことをされても心が躍らないのは、アレックスの目の中に、悪意のしたたりが見えるから。

妙な甘さが深刻になる前に、周囲を見回して会話の切り替えを図る。


「…………そういえば、この花はどうしたの?」


窓際の飾り棚の上に、今朝から硝子細工の花束のようなものがある。

時折硬質な花弁の触れ合う音を立て、何とも耳に心地よい。

(見る角度によって色が変わって綺麗。鈍く発光するオパールみたい)


「エレノアのご所望でね。お前も欲しいかい?」

弄う調子で訊かれて、また厄介なことをする人外者に遠い目になる。


“あなたが羨ましいです、ユジィ。彼の方は私の前では優しい顔ばかり。

 公の場で作られていないアグライア公と過ごせるなんて、幸福なことですわ”


腰までのストロベリーブロンドにアイスミントの瞳。

夢見るような美少女のエレノアは、

その手の趣味の男性が見れば、目を覆って昏倒しそうなくらいの美少女だ。

朗らかで高潔で、この城の厄介な人外者達でさえも、彼女には頭が上がらない。


(それはね、エレノア。私がただの備品扱いの所有物だからだよ)


 羨ましいのはユジィの方なのに、エレノアはそんなことを言うのだ。


(おまけに、ちょっと頬を染めて悔しそうに言うところが益々可愛くて、

 少し離れたところで待たされていた、シュタイル伯の顔が緩みっぱなしだったし)


エレノア的には、アレックスに惹かれているのは不本意らしい。

自分の心を認めながら、酷薄な彼の本質を憂いえている。


(エレノア、喜ぶだろうな)


クリスマスの王様に一目惚れした過去を持つユジィは、綺麗なものは大好きだ。

実は、遠くから見たことしかなかった頃から、エレノアは何て可憐なのだろう思っていた上に、

言葉を交わす機会が出来た今は、一層の好感を持っている。


この城にある、唯一つの清らかなもの。日々ささくれ立つ心を嘆くユジィにとっては、

特別に貴重なものなのだ。昔から可愛いものと、犬科の獣には抵抗力が極端に低い。


(ここが間違えた乗り換え先である以上、大切なものはとても少ない。

 でも、心がある限り私は心を動かすものに憧れるし、それに癒されたり満たされたりするわ)


エレノアも、…………そしてアレックスも。


カーテンの織りの複雑な美しさや、宝石の花の澄明な輝き。

この世界には、触れてみたいものがとても多い。


(変に画策されても嫌だし、誰にも知られないようにしなければだ。

 この気紛れな取り立ては、いつまで続くかわからないから)


傷付けられるのは自分でも、エレノアが心を痛めるような目に遭うのは避けたいので、

対人間ともなれば、好意を向けるのにもひどく慎重にならざるを得ない。

彼等はユジィを傷付けるその為だけに、エレノアを巻き込みかねない。

だからユジィはいつも、憧れのエレノアを少しだけ倦厭している素振りを見せている。


(でも、心を傾けるものはこの手の中にもある)


「その花もとても綺麗だけれど、私はノアだけで充分です」


記憶の中の殺人的に愛らしい生き物の姿を思い浮かべて、ユジィは口元を綻ばせる。

ノアは、手のひらサイズの小さな子供竜だ。

とは言え、姿を竜とし生成している妖精のようなもので、実際の竜とは別物らしい。

小鳥のような真っ白な羽毛で、花の蜜と牛乳を好み、

子猫みたいに甘えて鳴く、極上に可愛らしい生き物。



「やれやれ、お前の好みは不可解だ。あんなもの国内の森林に幾らでもいるだろうに」


蝶々並みには珍しくない生き物だと聞くが、ユジィが目にしたのは初めてで、

思わず抱っこしたまま中庭で固まっているところを、間が悪くアレックスに見つかったのだった。



(これもまた、気紛れなんだろうけど、飼わせてくれるとは思わなかった)


さすがにこの部屋には入れてくれなくて、城の厨房や回路に放し飼いにはなっているものの、

ノアは奇跡的にアレックスの石炭の所有物という庇護を貰い、

誰からも大事にされるという恩恵に預かっている。

餌の時間くらいしか触れ合えないけれど、ノア自身も餌係のユジィにはべたべたに懐いており、

時々アレックスをうんざりさせては、首根っこを掴まれて廊下にリリースされている姿がまた可愛い。


執着を知られるのは避けたかったけれど、

最悪の場合、ノアはユジィが消えてもまた野良子竜に戻ればいいから。



「私はあの子がいいんです」

「お前の執着は、妙に不愉快だと感じる時があるのはなぜだろう」

「それは、あなたが我が儘だからではないでしょうか」


しれっと言ったユジィの額を指で弾くと、アレックスは伏せ目がちに深く微笑んだ。


(困るのに…………)


その鮮やかさに胸が潰れそうになって、ユジィはいつも恐ろしくなる。

いつか、偽物だった失望や怒りを埋め尽くすくらいにアレックスに魅せられてしまって、

それから無残にも見捨てられたとしたら。


(私の心は、特別に高潔でもなければ、特別に強かったり、

 優しかったり綺麗だったりするわけでもない。

 本物のアレックスにだって、ただの一目惚れだったし…………)


 影響を受けやすくて、痛みにも恐怖にも、耐性なんてない。


(だから、私はあなたが怖いんだ)


 子供のように残酷で気紛れなひと。



「お前はしたたかだね」


ユジィの不躾な言葉が、彼から自分を守る盾だと、気付いている恐ろしいひと。


「あなたがむやみに手を出さなければ、そういう俗世とは無縁になれたんです」


またぶつくさ言いながら、ユジィもきっともう手遅れなのだとどこかではわかっていた。




この生活が始まって、早くも三月。


(このアレックスの仕草や表情、気配にも慣れてしまった)


「いいさ、したたかでいるといい。私を退屈させなければ、ずっと傍に置いてあげるよ」



そんな言葉を吐くくらいに、アレックスが飽き始めていると知っているのに。


物語の皮を被った登場人物紹介です・・・

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