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1.リベルフィリア 3.5

優しい手の温度に心が震える。



薄闇に滲む菫色の瞳の鮮やかさと、唇に浮かんだ穏やかで寂しげな微笑み。


“そうだ。こっちにおいで”


「どうか、ずっと私の傍にいておくれ」


静かな慟哭にも似たその願いを、叶えてあげたいと思った。

(どうしてあなたは、何もかもを手に入れられるのに、そんなに寂しいの?)


初めて出会ったのは、生誕祭を祝う朝のことだった。


飾り木を家々に立て、オーナメントと熱のない炎を纏う結晶石で装飾する、心躍る特別な日。

焼き林檎とスパイスの香る馥郁たる朝を楽しんでいた小さな子供は、

森で出会った祝祭の王様に一目で心を奪われた。


その王の姿を見ることは、祝祭日の特別な吉兆とされていた。

遭遇したのであれば、ひとつのどんな願い事でも叶えることが出来ると言われている。


けれど、彼を一目見てそんなことはどうでもよくなってしまった。

初めて見た、ひどく恐ろしいけれど特別に美しいもの。



“大事な、大事な、私の小さなユージィニア”



優しい手が、頭を撫でる。彼は、ひどく孤独で優しいとても大切なひと。


(私の大好きなアレックス)


彼は願い事の王様だけれど、書の世界に連れ去られた者には手出しが出来ない。

異なる世界は異なる理で、境界を超えるものはほとんどないのだと、書の中で知った。


自分から剥ぎ取られた物語が、本となって奪われてゆくのをぼんやり見ていた、あの日。

一人ぼっちで雪の中に取り残された彼は、どんな目をしていただろう?

伸ばされた手が、最後の祝福と守護を与えてくれた。


雪と柊、やどりぎに林檎。

馥郁たる冬の森の、クリスマスの匂いを覚えている。



(アレックス、どこにいるの?)


あの寂しいひとを、決して一人にしないと誓ったのに。


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