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趣味は料理、とか言ってみる






森で一晩を明かし、ベネデッタとシロガネを連れてアニーヴァルの街へと再度足を踏み入れる。


昨日は疲れていたので見れなかったが、色々な店も見たいし、拠点とする宿だって見つけたい。


昨日は回れなかった街の奥の方まで行けば、見つかるだろう。多分。

服を着替え、シロガネの毛並みもピッカピカ。問題はなかろうと、早速この街で生活するに当たって、まずはギルドに行くことにした。



さすがにポルケインよりも大きな街だけあって、ギルドも大きい。

目の前に聳える建物を見上げ、よし、と一つ気合いを入れて。


扉を開けた。





「──ポルケインからね、ランクはD。へえ、中々ね」


そりゃあ、探し物系でちまちま稼いだからね。

とは言わず、にこりと笑う。


冒険者には、ランクがあって。


一番下は見習いみたいなもんで、Fランク。

そして、依頼をこなす度にE、D、と上に上がっていく。

Aの上にはSランク。

その上もあるらしいが、ポルケインの町にはいてもBランクが最高だった。

Sの上はSSとか、Sが増えていくらしい。

てゆーか、なんでアルファベット?

なんて疑問は置いといて、Sランクくらいになると二つ名が付いてる冒険者もいるらしいので、ちょっぴり興味がある。


受付のお姉さんは、ジェンマと違った美人。

ジェンマが健康美なら、こちらはクールビューティな見た目。

耳が尖っている所を見ると、人間ではなさそうだ。


色白で、長い金髪に思い浮かぶのは、エルフという種族。

日本にいた頃もファンタジーの定番とも言える種族だった。


確認するには不躾すぎるので、お姉さんの種族については胸に置いておこうと思う。


ジェンマに用意してもらった紹介状を確認しながらクールビューティはチラリとこちらを見やった。


「こちらに、探し物クエストが得意、とありますが」


「げ。あ、いや…ちょっと勘が良いだけで、得意じゃないんで!他の依頼でも全然いいんで!危なくなければ!」


余計なことを書いてくれたジェンマに若干の恨み言を内心呟きながら、慌てて否定する。


もう、できるだけ目立つようなことはしたくない。

使い慣れないといけないとわかってはいても、この“ちから”を使えば否応にも迷惑な輩に目をつけられる。


だから、この街ではできるだけ他の依頼を受けようと思う。


ランクもできるならあげたいし。

ランクが上がれば、店や宿での特典もつくようになるらしいので、頑張って上げたいのだ。



「あら、そうですか?と言っても、貴女どう見ても戦闘向きじゃないけど、戦えます?」


「え…いや、」


「探し物や採取系の依頼の上は大体討伐系よ?」


「あー…」


残念そうな視線が痛い。


そりゃね、見るからに戦闘なんてできないでしょ。走っても逃げ切れるか怪しくない?囮とかならいけそう、ていう見た目なのはわかりますよ。

でも、そんな目で見ることないじゃない。


ぐすん、挫けそうな私の耳に、妖精の声が響く。


「主さま、しんぱいいりません!ベネデッタがいますy」

「ヴォフ!」


ベネディの声を遮るかのように、下からも声が。


見れば、こちらを真っ直ぐ見つめる黄金色の瞳。



「シロガネ?」


「あら、すごく強そうな…え、白狼族…?いえ、でも…」


カウンターから身を乗り出したお姉さんは、シロガネを見るなり、感嘆の声を漏らす。

だが、普通の狼とは違うことには気付いても、自分の記憶とは違うシロガネに、何の種族かは解りかねるようだ。


しかし、すぐに座り直して、それなら、と一つの紙を見せてきた。


「この依頼を受けてみてはいかがですか?強さがわからないので、危険度の低い討伐クエストです」


見れば、熊のような生き物の絵と、内容が書かれている。


近くの森にいるこの生き物の討伐。

身体は硬く、核とも言える弱点を狙わなければいけないとある。


これが、危険度の低い依頼?


ひくり、と似顔絵と言うのか、大きく描かれた熊の絵に、顔がひきつるのがわかった。



「これがこなせないなら、諦めて探し物に専念しなさい」


「うぅ…」


冷たく言われ、渋々承諾した。



依頼を受理し、とりあえずはギルドを後にする。




はてさて、どうしたものか。


まだ日も明るいし、早速依頼に向かってもいいのだが、如何せん、道具が少ない。


武器も、何か持っていった方がいいだろうし。


武器屋と防具屋が数件並ぶ通りを見渡して、嘆息が溢れるのは致し方ないと思う。


武器なんて、関わりのない生活から見事に一変してしまったものだと思う。


刃物と言ったら包丁くらいしか握ったことはなかったのに。

包丁は武器じゃないけど。

たまに凶器になったりはするけど。


料理をよくしていたので、あれで人を刺したりできる心境は到底理解できないけど。


と、そこまで考えて、そういえば最近は料理もしてないなぁと溜め息。

ストレス発散にお菓子を作るのも好きだった。


この世界の調味料や食材が未だ見慣れなくて、挑戦したことがないが、時間があったら料理に挑戦したい。

できるなら、スイーツを作りたい。甘いものが食べたい。


頭に浮かんでしまえば、欲求を抑えることが困難で。

この依頼が終わったら、絶対作ろう。その為には、宿ではなくて部屋を借りるのもいいかもしれないな、と今後の期待に胸を膨らます。


「よし、そうと決まれば早速!」


ご飯にしよう。

と拳を握れば、シロガネが呆れた目を向けてきたけれど。

腹が減っては戦はできぬ。て言うじゃない。

気にせずに、食堂らしき建物を見つけ、足を踏み入れた。




この世界で食事をすることにはもう慣れた。

空腹にいつまでも耐えられるほど、強靭な精神力は持っていないので、お腹を鳴らす私に、初めに食べ物を与えてくれたのはベネデッタだった。

森の果実をその小さな体でもぎ取って差し出してくれた時には、勿論彼女が天使に見えたのは言うまでもない。

(見た目はリンゴなのに桃の味がしたときは一瞬固まった。ピーチプルという名前に、どっちだと突っ込んだ私を仕方ないと思ってほしい)


その後は、ポルケインの町で文無しの私に、アマリアがご飯を食べさせてくれ、ギルドで稼ぐようになってからもご飯は大抵宿で済ませるようになった。


この世界には、こんなにも優しい人や妖精がいるんだと、希望を抱いた。


しかし、思い返せば、あんなにもフレッシュな果実があるのに、スイーツらしきものを食べた記憶がない。

たまに、口休めに果物を切ったものが出はしたが、それを加工する、といった発送はないのか、単にあの町にはスイーツの店や食べる習慣がないのか、実のところ私は物足りない日々を過ごしていた。



アニーヴァルの食堂は、適度に混雑していて、席を見つけ、座った私に店員が注文を聞いてきた。

おすすめで、と言った私に、了承の意を示した店員さんに、お肉もお願い、と注文する。

シロガネが何を食べるのか、未だわからないが、肉なら食べれるだろうと思って。


大人しく床に伏せているシロガネに笑みを溢し、店内を見渡す。


思い思いに雑談しながら食事をしている人たち。

冒険者もいれば、そうでない人もいる。

人以外の種族も見える。

味覚に種族の差はないのかな?


見ても、特別なメニューが置いてある訳でもない。

この世界の食事には、甘い、辛い、しょっぱい、がちゃんと存在する。

だから、調味料に日本と違いはないだろうと思う。


ピーチプルのように、見た目と名前に反したものかもしれないが、恐らく大きな違いはないだろうと思いたい。


料理を待つ間、さて、どんなお菓子を作ろうかな、とわくわくしている私に、普段と違う空気を感じたらしいベネデッタとシロガネから、視線を感じたが、その時の私はそれに構う余裕はなかった。





運ばれてきた食事は、ドリアのような感じで、米のような食材もあるのか、と少し感動した。


同時に、和食が恋しくなった。








ピーチプル




リンゴのような見た目に、赤からピンクにグラデーションした色の果実。

味は甘い桃の味。

もぎたてをそのまま食すのが普通。






ガキベアル




熊のような見た目。しかし熊より遥かに巨体。

体は硬く、爪が鋭い、核となる弱点が体のどこかにあり、そこだけは硬質化できない。



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