どの世界にもいる嫌なやつ
ギルドに足を踏み入れると、受付から日に焼けた顔の人懐っこい笑みが向けられた。
「よっ!ごくろーさん!またスピード解決だねぇ」
ニヤリと笑うと八重歯が覗く、愛嬌のある顔で声をかけたのは、このギルドの看板娘とも言える(実は実年齢は見た目より遥かに上で娘とは言い難い)受付嬢、ジェンマ。
私の“ちから”に目をつけて、探し物依頼を請けまくり、こちらに押し付けてくる困った人だ。
だけど、なぜか憎めないんだよなぁ。
「お疲れ様です、ジェンマ。依頼は完了です」
「おーおつかれ!で、早速だけど、アマリアから話聞いた?」
「はい、私に依頼ですか」
「そーなんだよ。でさ、奥にいんだけど…ちょい面倒臭そうだから、なんかあったら言いな」
こそっと耳元で小声で告げられた忠告に、嫌そうに顔をしかめた。
そう言うなら断っておいてくれればいいのに。
ギルドの顔とも言える人物に面倒と言われるような相手、私だって嫌だ。
めちゃくちゃ顔に出したら、苦笑して頭を軽く叩かれた。
「ま、仕事だからな。話だけでも聞いてみな」
はあ、と溜め息を吐きつつ、示された通り、奥へと向かう。
いざとなったらジェンマを呼ぶより前にベネデッタが威嚇しそうだが、どう面倒なのか、想像するだけでげんなりした。
「…失礼します」
ギルドの奥、応接室に入ると、そこには横柄な態度で椅子に座る小男の姿。
後ろに控えるボディーガードみたいな男の存在が、一層小男を横柄に見せる。
決定。面倒なタイプだ。
「おお、あなたが探し物のプロですかな」
脂ぎってそうな手を左右に広げ、ハグでもしそうににこやかな笑みを向けてくる。
反射的に後ずさってしまった。
「は、はあ…プロかは知りませんが、私がヒカリです」
「異界人特有のとても優秀な“ちから”を持っているとか」
優秀な、の部分がつかえる、に聞こえたのは気のせいだろうか。
て言うか、やっぱり目立ってんじゃん。この“ちから”。
その内、お金が貯まったらこの町を出ようと思う。
「金はいくらでも出します。あなたに見つけていただきたいものがあるのです」
何だか、腹立つ。
典型的な金持ちってやつか。
訂正。面倒な上に嫌いなタイプだ。
「なにを探しているかを話していただいてから、依頼をお請けするか決めます」
はっきりと告げれば、ぴくりと表情が動いた。
空気がすこし、冷えた気がした。
「それは困ります。請けていただけると約束していただけなければ、話せません」
「は?」
依頼をしてきているのはそちらのはずだが、と胡乱気に見やれば、拒否は始めから許されていないのだと、言外に告げられた。
笑みを浮かべつつも笑っていない瞳と、後ろに立つ男からの刺すような瞳で。
ぴり、と傍らから電気が走りそうになるが、それをさせる前に、諦めたように息を吐いた。
「話を伺いましょう」
どっちみち、私が選ぶ道はこちらしかないようだ。
周りを危険に晒さないためにも。
この世界の常識に未だ疎い私が、この危険な男達に逆らう術はない。
睨み付けるように見据えた先、嫌な笑みを浮かべる男。
こうなったら、とれるだけとってやる。
ビジネスだと言うのなら、この町を出るための資金くらい、出してもらおうか。
内心で毒づく私は、しかしこの危険な香りのする依頼人達が、終わったあとに私をどうするだろうかと、頭の片隅で嫌な予感を抱いていた。
「あなたに見つけていただきたいのは──魔獣の住処です」
また聞きなれない単語だ、と嫌な響きの言葉に、気が遠くなりそうだった。
ポルケインの町のギルド
よっ!あたいはジェンマ。この町のギルドを営んでる。っても、ギルドオーナーはあたいの旦那で、あたいはその手伝いだけどな。
あたいが看板娘!?よしてくれよ!あたいはこう見えてドワーフの血を引いてんだ。人間さんより見た目十倍の年齢だよ!あっはっは!
うちのギルドは小さいが完遂率は高いんだ。まあレベルの高いクエストばかりじゃ誰も遂行できないからな。小さい依頼でも依頼は依頼。うちは依頼を選ばない!
依頼人は選ぶけどな。人を見る目はあんだよ、ギルドは冒険者をまもんのも仕事だ!
最近じゃうちに残りまくってた探し物関係を全部片付けてくれるやつがいるから助かってるぜ!
じゃ、あたいは仕事に戻るけど、なんかあったらうちに来な!