主人公は眼鏡っこ
新連載、はじめます。
突然だが、私は眼鏡っこである。
と言っても、萌え要素なんて一つもない──むしろ、どっちかというと外してた方が可愛いよと気休めを言われるくらいの平凡顔が普通の眼鏡をかけている。
と、話が逸れた。
要するに、学生時代にゲームしすぎたとか、暗いところで本を読んだだとか、有りがちな理由で視力ががた落ちした私は、眼鏡をかけるようになった。
だが、これでも昔は視力が良いことが自慢で、よく遠くまで見えることを誇らしく口にしていたものだ。
だからか、たまに、ごくたまにだが、視力が良いままだったら、なんて思うときがあった。
あった、が。
「これはない」
えー、わたくし、藤代 光は、ごくごく平凡なOLでございました。
ん?何で過去形かって?
それはね、私が今現在、そんな普通のOLではなくなってしまったからですよ。
「──あそこ。棚の後ろに」
「え?そんなところ、まさか…」
「あった!あったぞ!」
「ほんとに?よかった…!ありがとうございます!」
「いえ」
「お礼金はこのくらいで…」
「ええ、大丈夫です」
「本当にありがとうございました!」
涙を浮かべて喜ぶのを見ていると、この“ちから”もいいものかも、と思える。
依頼人の家を出て、すぐに愛用の眼鏡を装着すれば、ホッと息を吐いた。
「あ!いたいたヒカリさーん」
「?…アマリアさん、どうかしました?」
「もう!探したんですよ?ギルドに聞いたらまた新しい依頼受けたって言うから」
「ああ、ごめんなさい」
「ほんとに働き者なんですね、異界の方は」
「……ははは」
目の前の美人に苦笑で返すしかない。
だって、何かしてないと、このわけのわからない世界で、自分を見失わずにはいられないから。
(そう。この、“異界”で、生きていくために)
…あの日。
私は確か、仕事帰りに寄り道もせずに家路についていたはず。
(寄り道することなんてほとんどない寂しいOLですが何か)
それが、気付いたらこの、“異界”の地に立っていた。
緑繁る森で。
一心不乱に歩いた挙げ句、着いたのがこの町、ポルケイン。
町の名も、見る人も。
自分のいた所とは違う。
それでも、異世界だなんて思えなくて。
しかし、目に写るものがそれを否定した。
夢だと、思いたかった。
この、へんな“ちから”も。
「──あ、またぼーっとして。えいっ」
「あ!!返してください、アマリアさん!」
「異界の方って、本当に不思議なものをお持ちですね」
じーっと観察するそれは、私の目にあったはずのもの。
眼鏡を取られて、視界がぼやけるからなんて理由で焦っていたのは過去の話で。
いまは。
むしろ、見えすぎるから返してほしい。
(あああ…)
見たくないのに。
目に写るのは、建物の中の様子や、人々の鞄の中身。宙を浮く、小さな者達。
そして、服の下の…
(無理ぃぃぃ!)
「あ!」
バッと取り上げた眼鏡を慌ててかける。
顔を赤くし息の荒い私は、ただの不審者だ。
「もう、照れ屋さんなんですから」
ほんとのことがバレたら、絶対ヤバイ。
焦る私を露知らず、アマリアは照れ屋で顔を隠したがってると思い込んでいる。
助かるが、眼鏡を取るのはやめてくれ。
そう、この異世界らしい場所を受け入れたのも、夢だと思いたい現実も、すべてこの嬉しくない“ちから”のせい。
眼鏡を外せば、全てを見透かすこの瞳。
眼鏡をした方が見えなくなるなんて、笑えない現実。
ほんと、
目が良すぎるのも困ったものです。
ポルケインの町。
小さな町です。王都の南東に位置し、町の入り口の近くには森があり、そこで採れる木の実や獣を加工、売買し生活しています。
ギルドもあって、冒険者も少数いますが、とても簡単な依頼しかないので、低ランクの冒険者にはいい町かもしれません。
最近は、異界からの迷い人がギルドの探し物クエストを全てこなしてくれています。
宿屋の看板娘、アマリアがご紹介しました!
ポルケイン一の宿、三匹の小鹿亭へ是非お越しください!