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LAST-ZERO-  作者: 新門JACK
01 田中悠介
8/10

08 サヨナラ(3)

千秋視点。このページはもう何回か更新する予定。


「……少しお話よろしいですか」


 ぼーっとしていた千秋に声を掛ける人物がいた。その青年は少し困ったような微笑みを浮かべていた。無言で頷く。何を聞きたいのだろう。自分に話せることなんて大してないのに。

「僕は警察の者です。今回はご愁傷様でした」

「………いえ」

「彼は親友でしたか」

「……はい。幼なじみで親友でした」

 そうでしたか、と呟く彼はよく見るととんでもなく整った容姿をしていた。会場にいる女性たちがチラチラと彼を見ているのがわかる。

 ……イラつく。他人は呑気でいいものだ。人が1人亡くなっているというのに。所詮こんなものか。


「悠介がいなくなって、みんなが悠介を忘れても俺だけは忘れない」


 俺だけは忘れない。悠介がここにいたこと。一緒に馬鹿笑いした毎日。最後にラーメンを食ったこと。

 ハッと相手が息を飲んだ。

「……彼もそんな貴方が親友で良かったと思ってますきっと」

「………はい。だといいです」

「では、失礼します」

 目を見張るほど美しい青年は丁寧なお辞儀をすると、くるりときびすを返して去っていった。その後ろ姿がなぜか悠介と重なる。

 ………そんなわけない。似てる要素なんてどこにもないじゃないか。

 どうしてだろうと考えてみるものの原因はわからなかった。しばらく彼を注視していると、もう1人の男と一緒に行動しているようだった。その男を見て不快な気持ちにさせられる。なぜ……。

 棺桶を火葬場に運ぶ段階で千秋は彼らと別れた。


 なぜ病院で見かけたあの医者がこの場にいるんだろうか……。





____________

______

___時は少し遡る。


「……失礼します」

  冷やされ簡素な部屋に入る。中にはもうすでに何人かいた。

「……千秋くん?」

「どうもこの度は………」

 と悠介の母”香織(かおり)”に言いかけたところで、銀色の大きな箱に目を奪われる。

「悠介?」思わず近寄る。

「開かない……」

 その大きな金属の箱は蓋が開かないように鍵がかかっていた。

「遺体の損傷が激しいため、ご対面はできません」

 そばにいた医師が千秋に静止をかける。名札を見ると”清水”と記載されていた。その医師に思わず掴みかかる。

「なんでですか?俺、悠介の親友です。なんで会っちゃいけないんですか!?」

「衛生上の問題です」

「そういう問題じゃねえだろ!!?」

「……ご理解下さい」

 無表情にその医師は言い切った。こういうことは慣れているのだろう。千秋の掴む手が緩むと医師はその手を振り払う。そして内ポケットから一枚の書類を取り出した。


「死亡診断書です。ご確認下さい」

 それを母親である香織に差し出す。目を真っ赤に腫らした彼女は震える手でそれを受け取り、嗚咽を漏らし始めた。

 千秋は小さい頃から香織のことも知っている。クールビューティーのイメージがあった彼女がこんなに取り乱す姿は初めてだった。

 

「あああああアアアア…………なんでなんでぇ早すぎるわよぉ……」


 無機質な棺桶にすがりついて号泣する香織は見ていられないほど痛々しく、千秋は目を反らしてしまった。

 あそこに本当に悠介はいるんだろうか……。想像ができない。悠介が元気に馬鹿笑いしてる顔しか思い浮かばない。死んだ……………?

 よく、わからない。全然悲しみが湧き上がってこない。泣けない。自分をどこか客観視している自分がいる。

「おかしいな……」


 おかしいな………。


 結局その日は最後まで悲しみで取り乱したり、泣くことはなかった。



















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