07 サヨナラ(2)
悠介視点。
……意外にも告別式に出席した人は多かった。
悠介は告別式会場の入り口で"田中家告別式"という看板が立てかけられているのを眺める。なんだか実感が湧かない。変な気分だ。自分の告別式に参列するなど。
俺が立ち尽くしている間にも制服を来た生徒が建物を出入りする。清水が呆然と立ち尽くしている俺に向かって早く中に入れと言う。
無駄に気を遣われないのが逆に心地よかった。
一歩。
建物の中へ。俺の告別式は幸いなことに雨は降らないでくれた。晴れでもないところがいかにも俺っぽい。
そして。
……やっぱりいた。
会場の隅で祭壇上の俺の写真をみてる千秋が。ブレザーを自分の腕に抱えて無表情にただ立っていた。これでは到底声も掛けられる雰囲気ではない。
俺はどこかでまだこの出来事を他人事のように感じている。どうしても自分のこととして考えられない。清水に向かって宣言したものの、宣言したままに留まっている。俺は感情をどこかに置き忘れたのだろうか?
「ううう、ゆうちゃん……ごめんねぇごめんねぇ」
我に返って声のする方を見て動揺する。久しぶりに母親の姿を目にした。そこにはスーツに身を包み、いつも誰かと電話していたり、PCに向かい合っている母はどこにもいなかった。
蓋を既にされた棺桶に覆い被さるようにして取り乱していた。隣でクマを目元に作って母の背中を撫でる父親もいた。
「ちょっとこっち来い」
「……え」
眉間に皺を作った清水が俺を無理やりトイレに連れて行く。
鏡に映った青年は涙を流していた。涙を流しているのは、俺か。俺は、泣いているのか。
「何があった」
「……ただ、自分の親が泣くの見て……気が付いたら」
「そうか」
清水は腕を組んでトイレの壁に寄りかかった。男子トイレは閑談するのには不向きだ。出るぞ、と清水が顎で指示する。俺は出かけた涙を拭いた。
トイレから出て清水が話すのを黙って聞く。
「……しっかりとケジメを付けろ。酷なことだが、俺たちは今警察関係者としてここにいる。表情は出来るだけ消すように」
「清水さんって医者じゃないんですか?どうして……」
「話が長くなる。それは後で話そう。君は黙って俺の後をついてくれば大丈夫。くれぐれも名乗るなよ」
「………はい」
もう一度祭壇の方を眺める。その光景をしっかりと目に焼き付ける。空っぽの棺桶にすがりつく母。それを憔悴した顔で眺める父。俺はここにいても、やはり確かに”田中悠介”という存在は今日という日を境にいなくなるのだ。
これが清水がけじめをつけろと言っていた理由なのかもしれない。
そうだ。俺はけじめをつけなければならない。けじめをつけて田中悠介にお別れをしなければならない。それは親しい者たちとの別れをも意味する。
これが最後だ。これが最後なんだ。
「……清水さん1人最後に話したい人がいるんですが話してきてはいけないでしょうか」
「……許可しよう。5分だ」
「ありがとうございます」
俺は清水にお辞儀をするとある人物への元へと向かった。