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東方未来祈祷伝  作者: 名無しの烏@幻草子
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part04 我欲零落の異変

どうも、名無しの烏です。今回は異変説明回です。

恐らく全編の中で唯一の非戦闘回です。

動きが無くて退屈するやもしれませんが、どうぞお付き合いの方よろしくお願いします!!


霊夢

「さて、ほうじ茶でいいわよね」


永夢

「あ、はい。ありがとうございます!」


霊夢はちゃぶ台の上に熱々のお茶を二杯用意し、永夢に対するように腰をゆっくりと下ろす。


霊夢

「それじゃあ聞かせてもらえないかしら?あんたのいう未来で何が起こったのか、これから幻想郷で何が起こるのか?」


そんな霊夢の問いに、

永夢は少し困惑したような表情をみせる。


永夢

「霊夢さん、本当にいいんでしょうか?」


霊夢

「なにがよ?」


永夢

「魔理沙さんのことです」


その部屋にいたのは霊夢と永夢の二人しかいない。彼女が心配していたのは魔理沙がこの場に同席していないことであった。彼女がどうしてこの場に居ないのか、魔理沙を闇から救い出してすぐの頃まで遡らなければならない。


.

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魔理沙

『悪いが、私は用があるから永夢の話を聞くことはできないぜ』


事情を説明するために一度神社に戻ろうとした霊夢と永夢の二人を前に魔理沙は箒に跨り神社を去ろうとしていた。


永夢

『え、ちょッ、魔理沙さん!?』


霊夢

『何なのよ、いったいあんたの用事って?』


魔理沙

『これだよ、これ!』


魔理沙は懐に手を突っ込み、中からあるものを取り出し霊夢の前に見せる。


霊夢

『あー......なるほど、そういうこと』


彼女の手に握られていたのは、

霊夢に蹴りを入れられ落とした衝撃で、色々な部品が無様に飛び散った八卦炉であった。


魔理沙

『とにもかくにも、まずはこれを直さないといけないからな』


霊夢

『だけど八卦炉を直すくらいならこの子の話を聞いてからでも遅くないんじゃない?』


一瞬の沈黙、それには少なからず魔理沙の躊躇いが見えた。


魔理沙

『私は一度向こうの手玉に取られた。身体に何をされたのかも分からない。盗聴器みたいなのが付けられていないって保証もない。だから少しの間は単独行動させてもらうぜ』


彼女が跨っていた箒がふわりと宙に浮き、

首だけを霊夢の方を向かせて、いつもの明るくて陽気な笑顔を霊夢に見せる。


魔理沙

『安心してくれ、霊夢のピンチには飛んで駆けつけるからさ!』


魔理沙が箒の出力を上げようとした時、永夢はふと思い出し声を上げる。


永夢

『魔理沙さん!これをッ!!!』


永夢は懐からあるものを取り出し魔理沙に投げ渡す。

彼女が投げたものは綺麗な放物線を描き、何事かと思いふり返った魔理沙の手元へと渡る。


魔理沙

『これは......、八卦炉?』


それは永夢が霖之助に手渡された未来の魔理沙の遺品である時渡りの八卦炉であった。


永夢

『もう壊れて今は使うことが出来ませんが、それは本来魔理沙さんが持っておくものです!受け取ってください!!!』


魔理沙

『......確か、永夢とか言ったな?お前は私とは違って才能がある。霊夢の力になってやってくれ。あ、でも霊夢の真の相棒はこの私ってことだけは忘れんじゃねえぜ!?』


出会って半刻、しかし魔理沙は永夢を信じることができた。

永夢の瞳には確かな正義が見える。そんな不明瞭な理由ではあったが、魔理沙にとっては充分だった。


魔理沙

『それじゃあそろそろお暇させてもら、痛ァッ!!』


颯爽と飛び去ろうとする彼女の額に勢いよくお札が貼り付く。霊力こそ込められていないものの、お札を剥がし取ると彼女の額は真っ赤に腫れている。


魔理沙

『なにすんだ、霊夢ゥッ!?』


無論、お札を放ったのは永夢ではない。

理由なしにお札を撃った霊夢に魔理沙の怒号が飛ぶ。しかし彼女は悪びれる様子も見せず、


霊夢

『さっさと帰ってきなさいよ』


いつもと変わらない言葉、

しかしそれがかえって魔理沙にとって大きな意味を持つ。

ほのかな温もりを感じることを再確認した魔理沙は敢えて霊夢の言葉を返さず、背中を向け、ひらひらと手だけを振ってその場を飛び去った。

.

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永夢

「確かにあの時は私も見送る感じになっちゃいましたけど、やっぱり魔理沙さんにも話を聞いてもらうべきだったんじゃないでしょうか?」


霊夢

「いいのよ、あれで。

言ってたことに間違いはないし、なにしろ魔理沙がああ言ったんだから、そうするのがベストなのよ」


"ずいぶん楽観的ですね"と思うものの、

永夢はこの信頼関係こそが幻想郷の異変解決者と呼ばれる霊夢と魔理沙の絆であると一人で得心した。


霊夢

「さあもういいでしょう、そろそろ聞かせてくれないかしら。今幻想郷に何が起こっているの?」


永夢

「そうですね。ではお話いたしましょう、今幻想郷で何が起こっているのか」


ほうじ茶を口に含み、のどを潤した永夢は神妙な面持ちを見せる。


永夢

「まず今この幻想郷で起こっている異変。

未来では我欲零落の異変と呼んでいます」


霊夢

「我欲零落の異変?」


永夢

「はい、これから幻想郷に魔理沙さんを操ったように、人の欲を増長させる闇が六つ出現します」


霊夢

「六つ、結構な数ね」


永夢

「そしてその闇に憑りつかれた者は魔理沙さんのように今までにない強大な力を得ます。魔理沙さんですらあれほどの力を得ました。他の五人も恐るべき力を得るでしょう」


霊夢

「本当今回のは今までより一層めんどくさそうね。けれど、あんな強大な力を得るのに何の条件も無いとは考えられないわ。何か条件はあるのかしら?」


永夢

「条件はあります。欲を持っていることです」


霊夢

「欲?そんなの仙人じゃなければ誰だって持ってるじゃないの?」


永夢

「いいえ、闇がその人を操る為に必要なのは、

食欲、財欲、色欲などの基礎的な欲以外の欲です」


霊夢

「それが魔理沙の場合は私より強くなりたいっていう力への欲だった、というわけね」


永夢

「はい、そして闇に憑りつかれた者の叶えたかった欲を叶えてしまった場合、その者の人格は完全に闇に乗っ取られてしまうんです」


霊夢

「どういうこと?」


永夢

「闇に操られていた魔理沙さんのことを、

半分操られ、半分は自分の意志だと説明したのを覚えていますか?闇に操られている間はあくまでも自分の叶えたい欲のために行動します。しかしその欲を叶えてしまった場合、その人は闇に完全に操られるようになってしまうんです」


霊夢

「つまりそいつらの欲を阻むのが一番の優先事項ってわけなのね」


永夢

「そういうことです」


霊夢

「一つ思ったんだけど紫は?

こんな状況であいつが出てこないわけないでしょ?」


永夢

「紫さんは、黒幕を止めにいって封印されたと聞きました」


霊夢

「紫が?」


永夢

「はい、私には紫さんが封印される前にあの人を止めるという目的もあったんですが、少々時間に狂いが生じてきたのでしょう。魔理沙さんが操られていた以上、紫さんも既に封印された可能性が高いと思われます」


霊夢

「紫のやつが封印されたなんて信じられないけどあんたの話を聞く限り、本当みたいね。それじゃあ次はあんたの能力について教えなさい」



永夢

「えっと......能力、能力ですか」


それまで流暢に話を続けていた永夢が口ごもる。

目は宙を泳ぎ、手は不自然に弄られ、口は何か慎重に言葉を選んでいるようにみえる。


霊夢

「なに?話せない理由でもあるの?」


ずいっと、霊夢は永夢の顔を覗き、さっさと喋るように催促する。そんな霊夢の眼力に負けた永夢は申し訳なさそうに視線をちゃぶ台に映して俯く。


永夢

「いや、あの、えっと......実は、私、自分の能力を使えないんです」


パチクリと、覗き込んでいた霊夢の瞳が意外そうな色を帯びる。霊夢ほどではないが、彼女の結界術と霊術は目を見張るモノであった。恐らく天性的に身体に貯蓄できる霊力のキャパシティが優れているのであろう。それだけに永夢が能力を使えないことに霊夢は驚きを隠すことができない。


霊夢

「あんた、能力使えないの?魔理沙のダークスパークを迎撃したときのあれは能力じゃないの?」


永夢は魔理沙のスペルを迎撃する時、同じくスペルを使用した。しかしそれは単なるスペルではなかった。それは魔力を帯びたスペル。元来、種が持つことのできる力は、霊力、妖力、魔力、神力、気力、神気のいずれか一つのみである。それにも関わらず、霊術を操っていた永夢のスペルからは明らかに魔力を感じた。例外も存在するがそう都合よく現れるものではない。


永夢

「あれも私の能力ではありません。むしろ霊夢さんの力ですよ」


霊夢

「はぁ?」


予想もできない返答。

眉が引き寄ったままの険しい顔の霊夢。

それでも永夢は話を続ける。


永夢

「未来の霊夢さんは強者の力を一部お札に封印し保管していたらしいんですが、この時代の霊夢さんはお作りになっていないのですか?」


霊夢

「知らないわよ、そんなお札」


過去に戻る際、八卦炉に強い衝撃を与えたせいか、時間軸だけでなく平行線も少し超えてしまったのだろうか、紫のことといい過去に変化が生じていると一人推測した永夢はほんの少し黙っていたが、霊夢に再び催促されることで話を続ける。


永夢

「えっと、それで私は未来からそのお札を持ってきたというわけで、あれは私の力ではないのです」


霊夢

「へぇ、それじゃあんた、本当に無能力なのね」


永夢

「あるにはあるらしいんですが、いまいちパッとしないんですよね。能力を発動させようとしても、うんともすんとも云わないんです」


霊夢

「能力名は知ってるの?」


永夢

「祈る程度の能力です」


霊夢

「へぇ、祈る程度の能力ねぇ......。なんか何ができるのかパッとしないわね。まあいいわ、能力は使えなくてもあの霊術と結界術があれば足を引っ張ることにはならないでしょ」


永夢

「そしてこれが最後、この異変の首謀者の話です。

単刀直入に言いますね、今回の一連の異変の首謀者、それは......」


詰まる息、妙な感覚を空けられたことで霊夢の緊張は徐々に張りつめる。


永夢

「豊聡耳 神子です」


霊夢は聞いたことのあるその名に驚きを隠せず、ちゃぶ台をその両手で強く叩く。


霊夢

「はあッ!?嘘でしょ?

だってあいつに人の欲を強くして、それに見合った力を与えるなんてことできないわ!精々、人の欲を読み取る程度までよ!」


永夢

「ですが、これは事実なんです。霊夢さんは未来であいつに殺され、私が見た世界は既にあいつに支配されていたんです!!」


永夢の言っていることは信じがたいことである。

確かに、豊聡耳 神子は欲を読み取る程度しかできない。


しかし彼女、博麗霊夢にとって最も信頼すべきは己の感覚。

その感覚が彼女に"こいつは嘘を言っていない"と確信をもって囁くのだ。


霊夢

「分かったわ」


ふぅと小さく息を吐き、霊夢はちゃぶ台に乗り出していた身を後ろに戻した。


永夢

「霊夢さん!!」


霊夢

「勘違いしないでね、私は気が変わりやすいの。

それこそあんたが異変の首謀者だと疑いでもしたら、次の瞬間にあんたの首が吹っ飛んでるから」


一瞬、本気の目をした霊夢は湯呑に残っていたお茶を一気に胃へ流し込み、よっこらせと重い腰を上げた。


霊夢

「じゃあ、首謀者が分かったところでさっさと退治しに行くわよ?こんな一銭にもならない異変、さっさと止めさせるわよ」


永夢

「あ、待ってください!首謀者を倒しに行くのはまだです!」


縁側に出て空に飛び立とうとした霊夢を止める。

せっかくその気になっていたのに、行く手を阻まれたことで少し不機嫌になった彼女は眉間にしわを寄せて永夢に睨みをきかせる。


霊夢

「なんでよ?」


永夢

「今の豊聡耳 神子は幻想郷中の欲を闇を使って吸収しています。その力は霊夢さんでも及ばない程です!ですので今はとにかく各地に現れるはずの闇を各個撃破、そして操られているはずのお仲間を救いだして皆さんに助力を願うべきです!!」


本来異変解決は首謀者の元へ行く間に手下などを倒してしまう霊夢にとって今回の手順はめんどくさいと感じる他になかったが、仮にも未来から来たという永夢がそう言うのだ、ここは従った方が賢いと霊夢は判断し、とても大きなため息を溢す。


霊夢

「まったく面倒な異変になりそうね」


霊夢は大きく体を伸びして、天に広がる空を見上げる。

その時であった。遠い方角の空に巨大な火柱が天に突き抜けたのは。

そして次の瞬間に火柱から赤黒い霧が吹き出し、その濃霧が幻想郷の空を覆い隠す。


霊夢

「これは、紅霧?

......いや、違う。レミリアの魔力じゃない」


永夢

「早速ですね、霊夢さんッ!行きましょう!!!」


霊夢

「え?あッ、分かってるわよッ!!」


既に宙へ浮かんでいた永夢を追うように霊夢は慌てて空へ飛び立ち、火柱の方角へと向かう。永夢に追いつくため、グングンとスピードを上げて急ぐ霊夢は濃霧から感じる魔力からある人物が思い浮かぶ。


霊夢

「この魔力は......フランッ!!」


part04 我欲零落の異変 END...


お読みいただきありがとうございました。

次回から、血に濡れる紅魔館~臆病な姉、罪深き妹~編です。

次回もどうぞよろしくお願いします!!

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