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東方未来祈祷伝  作者: 名無しの烏@幻草子
4/5

part03 差し出された手

part03です。

あなたの周りに友達と呼べる人はいますか?

その人はあなたにとってどんな存在ですか?

その人はあなたが一人になってしまった時、手を差し伸べてくれる人ですか?

あなたはその手を素直に取ることができますか?

友達っていったいなんなんでしょうかね?

今回はすれ違ってしまった一組の少女たちのお話です。よろしくお願いします。


魔理沙は強風でなびく金髪をうっとおしそうに掻き上げ、再び縁側を見下ろす。


魔理沙

「見ない顔だな、誰だお前は?」


縁側に立つ少女、博麗 永夢は両手に一枚ずつお札を、さらに彼女は口にお札を咥えており、計三枚のお札が彼女の手中に収まっている。


魔理沙は警戒を緩めず、挙動を1つも見逃すことなく注視する。恐らくこの状態の魔理沙を出し抜く術はないであろう。


永夢

「..........」


永夢はそんな状態の魔理沙を察したのか、彼女を出し抜くことを諦め、仕方なく不敵な笑みを作り名乗り始める。


永夢

「わらひのはあえははうれいえいふ!」


なんともマヌケな声。

永夢はお札を咥えている為まともに喋ることができない。

刹那の沈黙。魔理沙は唖然として何も口にすることができない。


永夢

「......ふぁ!?」


彼女はしばらくしてから顔を紅潮させる。

自分がまともに喋れていないことに今更気付いたのであろう。


魔理沙は"何だ、あいつ"といった表情を見せる。

だがこの瞬間、確かに彼女の警戒心は緩まった。


魔理沙

「...ッ!!!」


魔理沙の視界から一瞬で永夢の姿が失せる。

彼女は魔理沙との距離を一瞬で詰めて超速で迫っていた。


永夢

「......!!」


彼女の両手に持ったお札にブゥンと霊力が流される。

双刀を連想させるような動き、流麗で無駄のない攻めが魔理沙に襲い掛かる。


魔理沙

「チィッ!!!」


魔理沙は永夢の連続攻撃を避け続ける。

いくら彼女の反射神経が良くなったとはいえ、永夢の動きには隙がなく反撃の隙間を見つけることができない。


魔理沙

「ッ...!!!」


双札がついに魔理沙の腕を軽くを掠る。

永夢はこれを好機だと思い一気に畳みかけようとする、がしかし、


魔理沙

「あまり調子に乗るなよ」


永夢

「っ!!」


魔理沙の背後に淡い蒼の魔方陣が出現する。

彼女の指は魔方陣と同じ色をしたインクのようなもので濡れていた。どうやら恐らく、彼女は永夢の攻撃を躱しながら背後にこの魔方陣を描いていたようだった。


魔理沙

「ちょいと手間取ったがこれで完成だ。

お前も上げろよ、悲鳴という名の歓声をな」


魔方陣が見上げられるサイズまで巨大化し、その隅々には果実が木に実を付けるように光弾が無数に浮かび上がる。


星宴「スターライト・パレード」


瞬間、魔理沙の背後に浮かんでいる光弾が彼女だけを避けるようにして永夢に放たれ、隕石の如く神社に降り注ぐそれは神社の屋根や倉庫を崩落させる。


永夢もそれを避けるのが手一杯であり、反撃に移る余裕は微塵もない。次から次へと襲い掛かる流星は確実に彼女を苦しめる。


永夢

「......!!」


魔理沙

「おいおい、いいのか?そんなに避けて」


魔理沙の顔に冷たい悪を感じさせる笑みが浮かぶ。


永夢が避けた数発の流星。

それらが未だに動くことが叶わず膝をつく霊夢に降り注ぐ。


永夢

「ッ......!!!」


永夢は左手のお札を勢いよく霊夢に投げつける。

流星よりも確実に弾速の速いお札はあちらよりも先に霊夢に届き、そのお札は人一人庇えるほどの大きさの結界になり流星から霊夢を守る。


しかしそれが彼女のリズムを崩す。

霊夢を守ったことにより乱れた彼女の動きは散漫なものになり、肩に一つ被弾してしまう。


一瞬、ほんの一瞬だけ肩に気をやってしまった永夢の目の前に流星が迫る。回避はもう間に合わない。


永夢

「ッ!!!」


直撃する寸前、危機一髪、ギリギリのところで彼女は右手のお札を放ち、己の目の前にも結界を張る。その時点で既に残されていた流星は数少なくなっており、無事、彼女の結界は全ての流星を受け止める。


しかし、安心もしていられない。

流星を全て受け止められた魔理沙の跨る箒が物凄い勢いでこちらへと突っ込んでくる。


箒星「ジェットストリーム・スター」


彼女の箒の尾からマスタースパークのようなレーザが噴出され、スピードが倍化される。その突進力はとても高いもので永夢の結界すらも破る。


彼女の手の八卦炉には既に魔力が込められていた。魔理沙は八卦炉を永夢へ向ける。しかし永夢もただ黙ってみているわけではない。彼女は結界が破られると同時に咥えていたお札をぷっと吹いて魔理沙に放つ。


魔理沙

「当たるかよ、今さらそんなもんがッ!!」


魔理沙は重心を傾け、螺旋状に回転しお札を避ける。

しかし、魔理沙に躱されたお札は魔理沙の背後で輝きだし、次の瞬間にお札はもう一人の永夢に変化し背後から魔理沙を襲う。


変化したもう一人の彼女の右拳には霊力が込められている。分身は振りかぶった拳を魔理沙に叩き付ける。


魔理沙

「ハッ!!」


魔理沙は寸前で分身に気付き、魔力を込めていた八卦炉をそちらへ向ける。


魔弾「ドレッド・バレット」


マスタースパークでは背後の奇襲に対する迎撃として間に合わないと判断した彼女は、魔力が凝縮され弾丸サイズまで縮んだ初速の速い魔弾をピストルの如く分身の胸元に撃つ。


分身の胸元は見事に貫かれ、ぽっかりと小さな穴が開き、分身は一枚のお札へと姿を戻す。これでもう背後の脅威はない。一瞬ではあるが気を取られた魔理沙は再び永夢を視界に戻す。


魔理沙

「ッッッ!!!」


まるで時間を少し巻き戻されたような感覚。

オリジナルの永夢は右拳に霊力を込め、八卦炉の魔力を消費してしまった魔理沙に右拳を叩き込む。


魔理沙

「ちッ!!」


魔理沙は慌てて空いている片手に魔力を溜め、永夢の目の前で小爆発を起こす。殺傷能力はないにも等しい爆発ではあるが、人を吹き飛ばすには充分のエネルギーを持ったそれは寸前まで迫っていた永夢を神社の境内へ吹き飛ばす。


永夢は霊夢と同じように神社の境内に勢いよく墜落するが空中でバランスを取り、なんとか神社の境内に両脚で着地する。


永夢

「やっぱり今の魔理沙さんに勝つのは私だけじゃ無理そうですね」


霊夢は自分の目の前に立つ永夢を不思議そうな眼で見つめる。


霊夢

「あんた、やっぱり外来人じゃないわね。いったい何者なの?」


永夢は魔理沙に背後を見せることは危険と判断し霊夢に背を見せたまま彼女と話し始める。


永夢「はじめまして、霊夢さん。

私の名前は博麗 永夢。あなたの次の代の博麗の巫女です」


霊夢

「はぁ?何わけの分からないこと言ってんの、あんた?」


霊夢の永夢を見る不思議そうな眼は一転し、胡散臭そうなものを見る眼になる。


永夢「そういう反応も無理はないです。

とにかく私は未来から霊夢さんを、幻想郷を救う為にやってきました」









魔理沙

「すー......、はぁ......」


魔理沙は大きく静かに深呼吸し、彼女の体内の魔力を循環させる。それはこれからやろうとしていることの取り返しのつかなさに覚悟を決めるためのものであった。


魔理沙の体から禍々しく輝く紫色の魔力が溢れる。

その溢れ出る魔力はポタポタと血が流れ落ちるように彼女の体内から滲むように体外へ溢れだす。


彼女は八卦炉を両手で構えて霊夢の前に立ちはだかる永夢に向ける。身体から溢れる紫色の輝きがより一層強まり、悪寒を覚えるほどの魔力が八卦炉から感じられる。


魔理沙

「誰だか知らないが最後の忠告だ。

そこから逃げないとお前まで消し炭になるぞ」


魔理沙は永夢に文字通り最後の忠告をする。

恐らく、永夢がそこから逃げなくても彼女はありったけの魔力を放つのであろう。


霊夢

「魔理沙のやつ、神社ごと私達を吹き飛ばすつもりッ!?

ちょっと、馬鹿なこと言ってる暇あるならここから離れなさい!あんたまで死ぬことになるわよ!」


霊夢も永夢に逃げるように促す。

しかし彼女の脚が逃走に転じることは決してない。


永夢

「.......」


霊夢

「あんたッ!!!聞こえてるのッ!!!」


永夢は今にも莫大な魔力砲を撃ちそうな魔理沙をキッと鋭い目つきで見上げる。


永夢

「まだ魔理沙さんには名乗っていませんでしたね!

私の名前は博麗 永夢ッ!!!」


魔理沙

「時間稼ぎのつもりか?だとしたらナンセンスだ」


妖器「ダークスパーク」


八卦炉から今までのマスタースパークとは比べ物にならない程の威力のレーザーが永夢と霊夢に放たれる。高濃度の魔力を込められたそれは空気をビリビリと切り裂き、地響きが神社全体を、震撼が空間そのものを揺らす。


霊夢

「くッ!!!」


霊夢はお札を用いて結界を作ろうとするが、

先程の魔理沙にやられたダメージがぶり返し、上手く結界を作ることができない。


そんな状況でも彼女の希望を含む真っ直ぐな瞳が絶望に曇ることはなかった。


刻一刻と永夢達に迫るダークスパークに永夢は、

恐れを見せることなく、冷静に目を瞑り両手を大きく広げ、詠唱を始める。


永夢

「祈るは魔法ッ!願うはパワーッ!

汝、我が祈りと願いに応え混沌の闇を退ける力を放てッ!!!」


彼女が懐から取り出した白と黒のコントラストが目立つ一枚のお札が強い輝きを放つ。それは明らかに今まで使用していた博麗のお札とは異質なものであった。



永夢

「使役します!第一のお札ッ!!!」




願砲「デザイアースパーク」




永夢が取り出したお札から巨大な魔方陣が浮かび上がる。

魔方陣からは当然、霊力ではなく魔力が感じられる。それはその技が永夢自身のものではないことを語る。


お札に封印されていた魔方陣の中心から、

魔理沙のダークスパークに劣らない程の力を帯びた白銀の極太のレーザーが放出され、あと数メートルまで迫っていたダークスパークと衝突する。


永夢のデザイアースパーク、

魔理沙のダークスパークは互いに相殺し合い、押すことも引くこともなく、衝突した場所で大爆発を起こし神社の境内を砂埃で覆い隠す。


魔理沙

「なんだ今のは、私のマスタースパークか?

今もう一度ダークスパークを撃ってもいいが少し様子見した方が得策か」


魔理沙は砂埃で覆い隠された神社の境内を注視する。

砂埃が濃いせいか二人の影は未だに見ることができない


しばらくして砂埃から霊夢が飛び出し、

魔理沙との距離を潰そうと猛スピードで魔理沙に迫る。


魔理沙

「奇襲のつもりかッ!?

そんなもんで私をどうにかできると思ってんのかッ!?」


魔理沙は霊夢の策の感じられない突進に激昂し、

向かってくる霊夢に再びダークスパークを撃つ。


霊夢は四枚のお札を使い正方形の結界を自分の目の前に作り、魔理沙のダークスパークと激突する。


しかし魔理沙のダークスパークの威力はやはり凄まじく、力負けした結界は霊夢を大きく後ろに吹っ飛ばし彼女を再び砂埃の中に放り投げる。


魔理沙

「ハハハッ!!!どうだ、思い知ったかよ霊夢?

私はお前より強くなった!!」


霊夢を倒したことで上機嫌になっている魔理沙の背後に永夢が現れる。彼女は左手に霊力を込め、背を見せる魔理沙に打ち込む。


魔理沙

「見え見えなんだよッ!!!」


魔理沙は永夢の気配をいち早く感じ、彼女の拳を避ける。

しかしそれで攻撃は止まることはない。永夢は魔理沙の顔に蹴りを入れる。


魔理沙

「おいおい、いい加減にしろよ?

今の私にはそんな蹴り止まって見えるんだよ」


永夢の蹴りを魔理沙は片手で受け流す。

反射神経が超人並になった今の彼女に接近戦を仕掛けることは悪手、永夢は後ろに飛び退いて距離を取ろうとする。


魔理沙

「逃がすかよ」


魔理沙の手がグイッと伸びる。

初動と殆ど同時に伸びた手はいとも容易く永夢の首を締め上げる。


永夢

「ぐぅッ、ぁッ......!!」


彼女の手を振り払おうとするが、もがけばもがくほど力は強くなり彼女の表情が少しずつ苦しみの色で染まる。


魔理沙

「いい加減にしろよ?

せっかく霊夢を倒して勝利の余韻ってのに浸っているんだ。

邪魔してくれるなよ、霊夢より先に息の根を止めてほしいのか?」


永夢の首が更に強く絞め上げられる。

しかし、永夢の表情には苦しみといっしょに笑みが浮かび上がっていた。


魔理沙

「何がおかしい?これから殺されるってのによ」


魔理沙は永夢の頬に八卦炉を押し付ける。

それはいつでもお前の顔を焼き切ることができるぞ、という意思表示でもあった。しかしそれでも彼女は微笑むことを止めない。


永夢

「ホント、笑っちゃうわね」


魔理沙

「......なッ」


永夢の頬に八卦炉が押し付けられたことが原因か、

彼女の頬の皮膚が日に焼けた皮の如くずるりと剥がれ落ちる。


彼女の剥がれた頬の皮が薄らと輝く。

するとその皮は博麗のお札へと姿を変えた。


いや、姿を"戻した"

そう言い直した方が正しい。


魔理沙

「なんだ、これはッ!?」


永夢?

「本当に私を倒したと思ってるの、"魔理沙"?」


魔理沙

「その声、まさかッ」


永夢の顔、腕、脚の皮膚が、

永夢の巫女服の黒い布の部分が、

次々と連鎖的に剥がれ落ち、それはお札へと姿を戻す。


やがて身体から全てのお札が剥がれ落ち、魔理沙が"永夢"だと思っていた者が姿を現す。


魔理沙

「霊夢ッ!!!」


霊夢

「そのマヌケ面、ようやくあんたらしくなってきたんじゃないの?」


そう、魔理沙が首を絞めていたのは永夢ではなく霊夢であった。

だとすると次の疑問が浮かぶ。そう、先程吹き飛ばした霊夢は?という疑問だ。


魔理沙は反射的に神社の境内方面をふり返る。

なんのことはない、彼女の視界に映るのは崩落寸前の神社とそれを覆う砂煙。


そしてその砂煙は次の瞬間には一蹴され、中から永夢がこちらへと猛突進してくるのであった。


彼女の右拳には霊力が込められている。

しかしそれは以前のものと微妙な差異を感じる。


不規則に瞬く彼女の右手の霊力、

緻密にコントロールされた莫大な霊力、

そしてそれは以前にどこかで見たことのある類の霊力、


魔理沙

「くそッ...!!!何のつもりかは知らないけどな!

そう簡単に私に近づけると思うなよッ!」


魔理沙は霊夢に押し付けていた八卦炉を永夢に向ける。

魔力は既に充分装填されている。今度は結界すらも貫いて神社諸共消し炭にできるほどのダークスパークを撃てる。


彼女はありったけの魔力を込めたダークスパークを迫り来る永夢に放とうとするが、


魔理沙

「なッ!?」


何が起きたのか分からない。突然、彼女の腕に衝撃が走った。


霊夢

「確か、【見ることさえできれば何をされようと対処することができる】って言ったわね。私にこれだけ接近を許しているんだもの、死角を探すのは簡単よ」


完全なる死角。

そこから霊夢に蹴りを入れられた魔理沙は八卦炉を地上に落っことしてしまう。


魔理沙

「しまっ...!!!」


永夢のスピードは段違いに速い。

先程のように八卦炉を用いない魔法も間に合わない。

つまり、魔理沙は今完全に無防備であった。


永夢

「.........」








永夢のデザイアースパーク、

魔理沙のダークスパーク、両者が激突したことによって生じた濃い砂埃の中で霊夢と永夢は身を隠していた。


霊夢

『なるほどね。それなら魔理沙の虚を突くことはできるかもしれないわ。身体は動くようになったけど、私の霊力もギリギリだからそれがラストチャンスね』


永夢

『はい、ここで確実に決めます』


霊夢

『けど、それからどうするつもりなの?

今の魔理沙には何を言っても無駄な気がするけど?』


永夢

『はい、詳しく教える時間はありませんが、

今の魔理沙さんは"半分操られ、半分は自分の意志"という状態です』


霊夢

『......続けて、私はどうすればいいの?』


永夢

『今の魔理沙さんから闇を引き剥がすには、

瀕死の状態にまで追い込むしかありません』


霊夢

『......』


永夢

『が、それは霊夢さんしかいない時代の対処法です。私の力を使えば魔理沙さん自身の意志で闇を追い出すことができます』


霊夢

『あんたの力?』



永夢

『はい、博麗の究極奥義、私の"無想天生"を使います』









魔理沙

「しまっ...!!!」


永夢のスピードは段違いに速い。

先程のように八卦炉を用いない魔法も間に合わない。

つまり、魔理沙は今完全に無防備であった。



永夢は光り輝く右手を魔理沙に向かって伸ばす。

魔理沙はせめてもの抵抗と、片手で永夢の右手からガードしようとする。


永夢

「無想天生を右手だけに集中......。

魔理沙さんの腕を、血を、骨を、闇をすり抜けて、魔理沙さんの心を包み込むように結界を、作るッ!!!」


永夢の右手が魔理沙の腕をすり抜けて心臓部分にまで届く。


永夢

「行きますッ!!!」


博永「夢想天生」


永夢の右手の光が激しく瞬き、

その場にいた三人を優しく、力強く包み込んだ。

















闇、少女を覆う闇。

光は届かない。声も届かない。想いも願いも届かない。

あらゆるものを拒絶する、そんな闇。


まるでホルマリン漬けにでもされているような感覚。

もがくことも、足掻くこともできず、ズブズブと闇の底へと沈んでいく彼女、霧雨 魔理沙は深い、深い後悔をしていた。


魔理沙

「いつからだろう、

霊夢の背中を見るようになったのは」


軽い悔しさから始まった。


魔理沙

「いつからだろう、

霊夢を追いかけるようになったのは」


それは少しずつ焦りになっていき、


魔理沙

「いつからだろう、

霊夢の才能に妬むようになったのは」


そして自分では消化することのできない闇になった。


魔理沙

「私は努力した、

霊夢に追いつけるように、

霊夢に並べるように、

霊夢を追い越せるように」


闇に囚われていたものの、

彼女が今、霊夢に何をしているか、ハッキリと知覚することができていた。


魔理沙

「大切な仲間である霊夢を殺そうとするなんて自分でも馬鹿げてると思う。それも自分の力じゃない誰かの力を使ってまで」


キュッと力の入らない手を握り締める。

この闇のせいか感覚は痺れ、冷たいと感じることしかできない。


魔理沙

「それでも、そんな最低で最悪な手段を使ってでも私は霊夢に追いつきたかった」


再び後悔。もう二度と取り返しのつかない。

罪悪感の輪廻に囚われる彼女の苦痛が薄らぐことはない。


魔理沙

「分かってる、分かってるよ。

私のやっていることは間違っている」


握っていた手がゆっくりと広げられる。

それは諦めであり絶望、手の中に残っていた僅かな光が闇に消えていく。


魔理沙

「......けれど、

今さら霊夢になんて謝ればいいんだよ。私はあいつにヒドイことをたくさんしたんだ。今さら、"ゴメン"なんて言えない」


彼女の手から離れた光が完全に消え失せたと同時に、

ぽぉっと手の平くらいの大きさの弱光が闇の中に浮かび上がる。


魔理沙

「なんだ、この光は?」


消えた光が外から他の光を連れてきたとでも云うのだろうか。

柔らかく、暖かい光はじんわりと彼女の肌に染み込んでいく。

彼女は無意識的に、光に手を伸ばした。


魔理沙

「ッ......」


彼女の手が触れる瞬間、

光は強く瞬き、扉のような形に姿を変える。


光の奥から小さな影が浮かぶ。

それはこちらに近づいているようであった。


影が目の前まで迫る。

その時だった、魔理沙が影の顔を見ることができたのは。


魔理沙

「霊夢ッ!?どうしてここにッ!?」


霊夢

「......」


光の中から現れたのは霊夢だった。

彼女は魔理沙を前にしても何も言わず、ただじぃっと睨みつけるだけであった。


魔理沙

「な、なんだよ、れい、痛えッ!!!」


突然の平手打ち。

感動の再会とは程遠い乾いた音が闇に響き渡る。


魔理沙

「いきなりビンタするとか何考えてんだよ!

......けどまあ仕方ないよな、それで霊夢の気が済むなら私は何発でも受ける覚悟があ、痛いッ!?」


続いてもう一度平手打ち。

霊夢はまだ何も言わない。ただ黙々と魔理沙の頬を引っ叩くのみ。


魔理沙

「いやまだ私喋り切ってないぞ!?

確かに何発でも受けるって言おうとしたけど、いきなり2発とか酷、3発目ぇぇぇッ!!!」


再三、乾いた音が響く。

真っ赤に腫れた頬を摩りながらも、魔理沙は覚悟を決める。


魔理沙

「......そうだよな。それだけ私の犯した罪は重いんだよな。分かった、霊夢の気が済むまで私を殴ってくれ」


魔理沙は目を瞑り頬を差し出す。

これがせめてもの罪償いになるのならば、と自分のしたことにケジメをつける。





しかし、もう二度と闇に乾いた音が響くことはなかった。いつまで経ってもこない痛みに耐えきれなくなったのか、魔理沙は恐る恐る目を開く。


魔理沙

「......?」


そこにいたのは先程までのこちらを睨む霊夢ではない。

心配そうな眼差しでこちらを見つめる"友"としての霊夢であった。


霊夢

「3発だけよ」


魔理沙

「......はぁ?」


意味が分からない、

そういった表情の魔理沙を無視し、霊夢は続ける。


霊夢

「肘打ち、お腹へのパンチ、零距離で撃ってきた魔法、

これで......おあいこよ」


鼓動がバクンと大きくポンプする。

霊夢の言葉に嘘偽りはない、だからこそ彼女は納得ができなかった。


魔理沙

「それでも私は!!!

霊夢を追い越す為に闇の力まで借りてッ!しかも、まんまと闇に操られて......そんな私を、霊夢を殺そうとした私を、霊夢は許すことができるのかッ!?」


悲鳴とも取れる心の叫び。

霊夢の言葉に嘘偽りはない、だからこそ彼女も本心からそう叫ぶ。


霊夢

「あのねえ、魔理沙。

その小さな耳かっぽじってよく聞きなさい」


魔理沙

「......なんだよ?」


霊夢

「勘違いも甚だしいわ。私はあんたの前になんていない」


魔理沙

「......何を言い出すかと思えば、憐れみを感じて同情かよ?

いらないんだよッ!そういうものは!!!私はもう既に追い越してるとでもいうのか!?」


霊夢

「違うわよ」


魔理沙

「じゃあなんなんだよッ!!!」


霊夢

「私はあんたがずっと隣にいると思ってるわ。

あんたが歩みを進めようが、止めようが、

わたしが歩みを進めようが、止めようが、

どんなときでも私の隣で笑っていっしょに歩んでくれる、それがともだ.....あんたじゃないの?」


魔理沙

「ッ...!!!」


彼女の心に言葉にしがたい気持ちが滲む。

しかしそれでも彼女の罪悪感が全て消え去るわけではない。


魔理沙

「霊夢は、私を許してくれるのか?

霊夢を殺そうとした私を許せるのかッ!?」


霊夢

「......それが"友達"ってもんでしょ?」


魔理沙

「ッ!!!」


彼女の罪悪感が消えていくのが分かる。


霊夢

「ほら、帰るわよ。たぶんこの光の中進んでいけば戻れるでしょ」


差し出された手。

暗くてもハッキリと見える。霊夢の暖かい手。


魔理沙

「あぁ......そうだな」


握る。今度は見失わないように。

握る。今度は失くさないように。

握る。今度こそ離さないように。


二人は並んで立つ。

闇に背を向け、光の中を進む。





霊夢

「行くわよ、友達(魔理沙)

魔理沙

「行くぜ、友達(霊夢)








霊夢、魔理沙、永夢、三人を包んでいた光が納まる。

そこには大粒の涙を流しながら霊夢を抱きしめる魔理沙の姿があった。


魔理沙

「ごめんッ!!霊夢ッ!!!」


霊夢は何も言わずに魔理沙を抱きしめ返す

心なしか、彼女の頬が紅く染まり緩んでいるように思える。


事が起きたのは一瞬であった。

魔理沙の体から黒々とした瘴気が大気中に流れ出る。


霊夢

「これはッ!?」


永夢

「魔理沙さんを操っていた闇です!!!ここで潰すことができればッ!!!」


永夢は瘴気にお札を数枚投げつける。

しかしお札は瘴気を滅することなく、するりと瘴気をすり抜ける。


永夢

「そんなッ!!!」


魔理沙

「私に任せな、よくも好き勝手操ってくれたなッ!!!吹き飛ばしてやるぜッ!!!」


魔理沙は瘴気にマスタースパークを撃つために、

八卦炉を懐から取り出そうとする。


魔理沙

「あ、八卦炉......!」


そう、八卦炉は霊夢に蹴りを入れられたときに地上に落としてしまっていて、今魔理沙の手元にはない。


???

「無駄なことはしない方がいいぜ?

今の俺は欲望が可視化しただけにすぎないんだからな」


魔理沙から流れ出た瘴気が喋りだし始める。

魔理沙は驚きつつも霊夢だけは瘴気に対して冷静に話し始める。


霊夢

「どうすればあんたをぶっ飛ばせるのかしらね?」


???

「俺の本体のところまで来ればそのうち戦えるんじゃないか?主のところまで来ることが出来ればな」


魔理沙

「誰なんだぜ、お前の主ってのはよッ!!!」


???

「お前らに教える必要もなければ、義務もない」


瘴気の濃度が薄くなり始め、少しずつ吹きすさぶ風に同化していく。


???

「どうやら時間切れみたいだぜ。じゃあな、我が元宿主よ」


瘴気は大気に消え去り、霊夢達3人だけがそこに取り残される。


魔理沙

「くそ!結局黒幕ってのは誰なんだよッ!?」


魔理沙は自分が操られていたこともあり、

黒幕を聞き出せなかったことに悔しさを露わにする。


永夢

「......霊夢さん」


霊夢

「なにかしら?」


永夢

「私が未来から来たって話、信じてくれますか?」


霊夢

「残念ながら、私はまだ貴女の言うことを信じることはできないわ」


永夢

「そう、ですよね。

いきなり未来から来たって話なんかを信じる方が難しいですよね」


霊夢

「勘違いしないで。信じることはまだできないけど話をちゃんと聞く価値はあると思うわ。信じるかどうかは貴女の話を最後まで聞いてからよ」


永夢

「霊夢さん......!!」


霊夢

「さあ聞かせてくれないかしら?あんたのいう未来で、何が起こったのか」


part03 差し出された手 END...

お読みいただきありがとうございました。

今回で魔理沙編は終了となります、次回は短いですが今回の異変の説明回となります。次回もよろしくお願いします!!

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