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東方未来祈祷伝  作者: 名無しの烏@幻草子
1/5

part00 BAD END

よろしくお願いします、名無しの烏です。次の話は思いっきり時間がかかります。ご了承ください。

 暁の朝日が顔をほんの少し見せる頃、

暗青色の夜の闇がまだほんのりと残る博麗神社の境内に箒で石畳を擦りつける音が広がっては消え、広がっては消える。

規則的ではあるものの丁寧に細砂を掃き分ける一人の巫女は懸命に神社の掃除に専念しているようで、めんどくさがる様子を見せることも重いため息を吐くこともない。


 そんな巫女とは別に鳥居に人影が現れる。

高身長なその人影は神社に続く長い長い階段をその足で昇ってきたようで肩で息をしながらも、ゆっくりゆっくりと巫女に歩み寄る。


「やあ、朝から掃除かい?元気がいいね」


「霖之助さん!おはようございます!今日も元気いっぱい、異常なしです!!」


 巫女は霖之助と呼ばれる白髪で眼鏡をかける青年に気付くと、タタタッと小走り気味に迎え、エネルギッシュな笑顔を彼に向ける。


霖之助

「そうかい、それはよかったよ」


 対する霖之助はクールで穏やかな態度で彼女に接し、思慮深そうな彼の瞳からはポーカーフェイスを感じ取れる。


「霖之助さんこそ心配しましたよ、途中で襲われたんじゃないかって」


霖之助

「ハハハ、そうだね。最近はこの辺りの妖怪も狂暴化してきてしまっているからね」


「ッ......」


 霖之助の何気ない一言が巫女に突き刺さり、彼女の表情が明らかに悲で覆われていく。


「すいません...、私の力が不甲斐ないばかりに」


霖之助

「あ、いや。君が悪いわけじゃないよ。それに君には大事な使命があったろ?博麗大結界はどうなったんだい?」


「...。はい、もう充分安定しています。これなら私がいなくても長時間持つと思います」


 この巫女は気持ちの切り替えが相当早いのか、

深呼吸をして肺の中の空気と共に罪悪感やマイナスな感情を大気に放り出し、責任感を強く感じられる表情で結界のことについて答える。


霖之助

「よし、こちらも例のあれを準備することができたよ。作戦はいつでも決行可能だ」


「ついに、ですか」


霖之助

「ああ、すまないね。こんなことを君に頼んでしまって」


博麗神社、

幻想郷の東の端に位置し、外の世界との境界を守護する神社であり、そこには巫女である博麗霊夢が1人で住んでいる。


......が、それも今は昔の話であった。


霖之助

「ああ、すまないね。こんなことを君に頼んでしまって、永夢」


永夢

「いえ、それこそが私の使命であり宿命です。

この、霊夢さんの次の代の博麗の巫女、博麗 永夢の為すべきことです」


 この幻想郷にはもう博麗霊夢は存在しない。


霖之助

「もうこの幻想郷には力があり、そして"理性"の残っている者は誰もいない。君しか、君にしかこれは託せない」


 この幻想郷にはもうレミリア・スカーレットはいない。

 この幻想郷にはもう西行寺幽々子はいない。

 この幻想郷にはもう蓬莱山輝夜はいない。

 この幻想郷にはもう八坂神奈子、洩矢諏訪子はいない。

 この幻想郷にはもう古明地さとりはいない。

風見幽香も星熊勇儀も八雲紫も八意永琳も聖白蓮もいない。


霖之助

「みんな、皆闇に呑み込まれてしまった...、だからこそもう君しかいないんだ永夢」


 霖之助は懐からある箱を取り出す。

その箱は正八角形の形をしており、底部には細い脚のようなものが四本生えている。


永夢

「それが、八卦炉ですか?」


霖之助

「ああ、しかもタダの八卦炉じゃあない。理論だけで考えればこの八卦炉には時を越える能力を有していることになる」


永夢

「時を越えるだなんて、本当に可能なんでしょうか?」


霖之助

「研究の結果が正しければ、だ。......魔理沙の遺した研究結果が」


霖之助の表情が重くなるのにつられて永夢も重く黙り込んでしまう。

そんな彼女を察したのか、眼鏡をクイッと掛け直し改めて霖之助はその口を開く。


霖之助

「さ、時間が惜しい。これから過去に戻ってからどうするかを整理するよ」


永夢

「はい、よろしくお願いします」


霖之助

「過去に渡ることに成功すれば恐らくここ、博麗神社に着くはずだからそこにいるはずの博麗 霊夢に会って事情を全て話すんだ。彼女は人の嘘を見分ける勘がとてもするどい」


永夢

「逆に言えば、本当に真実を話せば信じてくれる。そういうことですよね」


霖之助

「ああ、そうだね。

そして次は妖怪の賢者,八雲 紫と接触して"あいつ"が異変を起こしても単独で排除しにいかないことを伝えるんだ。そして最後に幻想郷各地で起こる異変を各個撃破し解決すること、いいね」


永夢

「はい、分かりました!!」


 永夢は八卦炉を受け取る。

八卦炉の重さは決して重くはないはず、しかし彼女にはその八卦炉がまるで鉄球でも握っているかのように感じた。


永夢

「......、これが重圧、プレッシャーという奴ですか。とても、重いですね」


永夢は背筋に冷や汗が伝っていることに気付く。手先が痺れるような、そんな感覚が彼女を襲う。

しかし彼女は痺れる手に確かな温もりを感じる。


永夢

「霖之助さん.....」


霖之助は、彼女の両手を優しく包み込んでいた。


霖之助

「永夢、もしも時を越えることができてもこちらに帰ってこれるとは限らない。云わばその八卦炉は片道切符だ。それでも、君は行くのかい?」


痺れは引いた、代わりに確かな想いが手から胸に、心に染み込んでくるのが分かる。

彼女は確かな意思を、決意を感じた想いを言葉に込める。


永夢

「......ええ、行きます」


霖之助

「......」


永夢

「私は霖之助さんに昔の幻想郷のことをたくさん聞きました。

昔は色んな人が集まってここで宴会をしていたこと、人、妖怪、神でさえも一緒になって盃を交わしていたこと、笑顔という笑顔がこの幻想郷に溢れていたということ」


霖之助

「ああ、あの時は本当にこの世界は輝いていた、虹色よりも多彩で金色よりも眩しい色の笑顔に輝いていた」


永夢

「私は、そんな幻想郷をこの目で見てみたい。今の幻想郷では叶うことのないその輝きを見てみたい...。そして、そんな幻想郷を命を懸けてまで守ろうとした霊夢さんを守りたい」


もう迷いも、怯えも、重圧も感じ取れない。


永夢

「だから私は行きます」


声からも瞳からもぶれることのない意志が秘められ、それを受けた霖之助は安心したような小さな笑みを向ける。


霖之助

「そうかい、それじゃあ時を渡ろ


その時だった。突如、博麗神社を轟音が襲い、グラグラと大地を震撼する。


永夢

「ッ!?」


永夢は反射的に轟音の元となる方向、鳥居の方へ目線を向ける。

すると彼女の目に飛び込んできたのは何か強い力で薙ぎ倒された神社の鳥居であった。


霖之助

「しまった、ここを守る結界が!!!」


永夢がここに来るより先に張られていた敵意がある者の攻撃を全て拒絶する結界。

それのお陰でここまで永夢は狂暴化した妖怪に襲われることはなかった。しかしその結界が媒介にしていた鳥居ごと倒されることは結界の消滅を意味する。


霖之助

「まずいぞ、これは!!!」


消えていく結界の隙間からワラワラと魑魅魍魎が神社に流れ込む。

数は数百、とても二人だけで何とかなる戦力差ではなかった。


気味の悪い妖怪

「うひゃひゃっひゃっひゃひゃ!!!!ついに結界が破れたぜ!!!野郎ども、男はどうでもいい、博麗の巫女と巫女が持っている箱を奪え!!!」


霖之助

「くそ!!"あいつ"の手下か、まだ狂暴化した妖怪の方がマシだった!!永夢、奴らの狙いは君と八卦炉だ、それに霊力を込めるだけでいい、早く八卦炉を使うんだ!!」


永夢

「でもッ!!!霖之助さんは!?」


永夢に困惑に満ちた悲痛の叫びが甲高く響く。

野太く、下種な魍魎の雄叫びと不協和音するそれは嫌に耳に突き刺さる。


霖之助

「僕のことはどうでもいい!いいから早く時を渡るんだ!!!」


永夢

「そんなことできるわけないじゃないですか!!」


永夢は頑固として霖之助の指示を拒否し、ここを切り抜けるための算段に脳をフル回転させる。

しかし、その為に妖怪達から目を離したのが命取りであった。


巨躯な妖怪

「博麗の命、もらったぁぁあぁあああ!!!!」


大柄な牛型の妖怪が永夢の目の前まで迫っていたことに彼女は寸前まで気付かなかった。

彼女は気負けして、その場から動くことができず、ただゆっくりとこれから訪れる死を見つめることしかできない。


永夢

「ッ......!!!」


筋肉と筋肉がぶつかり合うような鈍い音が響く。

永夢に襲い掛かった妖怪の両爪が永夢を庇った霖之助の肩に深々と突き刺さる。


霖之助

「くッぅぅぅ....!!!」


永夢

「霖之助さん!!」


霖之助

「早く行けって言ってんだろ!!!」


永夢の叫びを塗りつぶすかの如き猛々しい霖之助の一声。

その一声で永夢の心に染み込んだ彼の想いが再び湧き上がる。


霖之助

「行けッ!!!そして救ってくれ!!!

この幻想郷をッ!闇に染まる前の皆をッ!魔理沙を救ってやってくれ!!!」


妖怪に組み伏せられた霖之助の最後の叫び、

そしてそれに乗せられた願い、永夢は最後に託されたそれを確かに受け取った。


永夢

「はいッ!!!」


永夢は後方へ大きく跳躍、神社の屋根瓦へと降り立ち、八卦炉を足元へ向ける。


永夢

「霊力を...込めるッ!!」


永夢が霊力を解放すると同時に彼女の身体は神々しい白の輝きに包まれる。

見ると彼女の足元には複雑難解そうな魔方陣が浮かび上がっており、彼女一人だけを取り囲む。


妖怪

「クソがぁぁぁ!!逃がしてたまるかよ!!!」


永夢

「ッ...!!!」


ダメ元で遠方から放たれた魍魎達の光弾が八卦炉に直撃し、ブスブスと黒の煙が八卦炉から昇る。


霖之助

「構うな、さらに霊力を解放だ!!!行ってこい、永夢!!!」


永夢

「はい!!!!!」


彼女はさらに霊力を八卦炉に込める。

それと同時に魔方陣の光の大きさは何倍にも膨れ上がり、やがて神社を覆い尽くした。


.

.

.

.

.


光が収まるとそこに永夢の姿はなく、霖之助と魍魎達のみが残されているのみ。

それを確認した霖之助はふっと力抜けたように妖怪達に抵抗することを止める。


妖怪

「くそが、逃げられちまったじゃあねえかよ!!!」


「逃げられたのですか?」


妖怪

「ッ!?」


獲物を逃がしたことによる怒りを暴言で散らしていた妖怪の態度が一変し、彼は鳥居の方に向き直し頭を垂れる。

そしてそれは他の妖怪や魍魎達も同様で皆一斉に鳥居の方へ頭を垂れ、忠誠を表す。


少女の人影。それが霖之助同様に階段を昇って神社へ足を踏み入れる。


霖之助

「やあ、調子はどうだい?」


「ええ、すこぶる良いですね。なんせ反乱分子の貴方を捕まえることができたんですから」


少女は腰に差していた刀を抜き、組み伏せられている霖之助の首筋に添える。


「早速で悪いですが、何か最後に言い残すことありますか?」


霖之助

「こんな宴会も何もない幻想郷なら死んだ方がマシだね、さっさとやればいいじゃないか」


「あら、生への欲はないのかしら」


霖之助

「それこそ君の思惑通りだろう?人の欲を操る君なら」



「そうね...私は欲を統べる者、私の前では欲が存在する限りどんな欲でも満たされるし、削ぐこともできますね。

生きる欲さえも無い貴方は私にとってはただの邪魔に過ぎない...死んでもらいます」


少女は手にした刀を大きく振り上げる。その刀身は淡く朝日を反射し、霖之助の顔を軽く照らす。


霖之助

「......」


霖之助は照らされて眩しかったのか、それとも助かる術は無いと判断したのか、

少し傷の付いた眼鏡の奥の瞳をゆっくりと閉じた。


霖之助

「永夢...もう一度だけ願わせてくれ...

幻想郷を、霊夢達を、魔理沙を...救ってやってくれ...」


.

.

.

.

.

.

.


妖怪

「逃げた巫女はどういたしますか?」


「放っておきなさい、あの巫女に何かできるとは思えないわ」


妖怪

「御意で御座います」


「私の力は欲の力、他人が何かを望めば望む程私の力も跳ね上がる、そんな私に勝てるなどありえないわ、フフフフ....」


朝日が昇った幻想郷にBAD ENDを告げる冷たい笑い声が響き渡った。


.

.

.

.

.

.

.


博麗神社、幻想郷の東の端に位置し、外の世界との境界を守護する神社であり、そこには巫女である博麗霊夢が1人で住んでいる。


彼女、博麗霊夢の朝は早い。

日課である神社の掃除から始まり、外が明るくなるまでに朝食の準備を済ます。


そんな毎日の繰り返しである彼女の日課にとある異変が起きる。


霊夢

「長いこと神社の掃除してきたけど......」


箒を持つ霊夢の目の前には博麗の巫女服を着た少女が石畳の上で気を失っていた。


霊夢

「こんなに大きなゴミは初めてね」


お疲れ様でした、またよろしくお願いします!!!

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