出会い
あなたは運命を信じますか?
船越 政弥。大学2年生。
やりたいことも夢もない。
周りのやつらが進学するのに合わせ大学に入った。
キャンパスにいるやつらは何か希望を持っているように輝いて見える。
羨ましいわけではないが打ち込める何かが欲しかった…
何気なく立ち寄ったペットショップで
そんな何かに突然出会った。
満面の笑みで子犬を見つめていた女性。
子犬に心を奪われている彼女のように俺も彼女に心を奪われた。
一目惚れだった。
屈んでいた彼女が立ち上がった。
立ち去るのがわかったが何もできなかった。
それから空いた時間にペットショップへ寄ったが彼女の姿はない。
月日が流れ平凡な日々を送っていた。
いつものように興味のない講義を親友広輝と受けていた。
静まる教室の中に犬の鳴き声が聞こえた。
うとうとしてたから空耳だと思った。
だが、また聞こえた。
確実に教室の中から聞こえた。
後ろを振り返るとあの時の彼女がそこにいた。
運命を感じた。
驚きのあまり声が出てしまった。
「あっ!」
すると彼女が口を開いた。
「先生ごめんなさい。ここへ来る途中に捨てられてたこの子を連れてきてしまいました。」
恥ずかしいのか彼女の顔は赤くなっていた。
周りから野次が飛んでくるのが聞こえた。
真面目に受けているやつらからしたら邪魔なのは当然。
わかってはいたが、腹がたった。
「なにがいけねぇんだ。優しい人じゃん」
なにが言いたかったのか自分でもわからなかった。
俺のせいで教室は気まずい雰囲気になった。
しばらくしてドアが閉まる音が聞こえた。
後ろを振り返ると彼女の姿はなかった。
俺が何も言わなければ彼女は教室に残っていたかもしれない。
そう思うと凹んだ。
隣にいた広輝はずっと笑っていた。
広輝には彼女を見かけた日のことは話してあった。
そのこともあり、かなりからかわれた。
広輝とは中学からの仲だ。
普段から何かする訳でもないがずっと一緒いた。
光輝は勉強はできるが一般常識が全くない。
俺とは真逆だ。
種類の違う馬鹿同士。
一緒にいて笑わない日はなかった。
この馬鹿が後に俺の人生を変える存在になるとは思いもしなかった。
彼女がどこの学部かも名前すら知らない…
でも同じ学校に通っているだけで嬉しかった。
一週間後の同じ授業。
俺は当然のように彼女に会えると思っていた。
彼女は現れなかった。
期待し過ぎた反動は大きかった。
「ふっしー来ないな」と隣で広輝がつぶやいた。
ゆるキャラの名前をつぶやいたかと思い聞き流した。
また言った。しつこいくらいに。
あまりにうるさいから聞いてみた。
答えは彼女のことだった。
「犬連れてきたり、講義に来たり来なかったり不思議な子だからふっしー」。
ドヤ顔で言うこいつはなんなんだ。
聞いて損した。
とりあえず、彼女の名前を知らない俺もふっしーと呼ぶことにした。