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コスモスの花束
コスモスの花束を抱え、龍太は病院の前に佇んでいる。
いよいよ、この日がやって来た。緊張で、体中が痛んでいる。
深く深呼吸をする。隣を次々と人が通り過ぎていく。
一歩、また一歩。足を進めていくと、自動ドアが開いた。
受付を通り越し、案内に添って左に曲がる。
エレベーターの横の階段を、一段ずつ、ゆっくりと上っていく。
動悸が激しくなっていた。心臓の脈打つ音が、他人に聞こえてしまうのではないかと思うほどだ。
テラスの前を右に曲がる。徐々に病室が近付いてきた。
梓が見えた。
白衣姿を、龍太は今、初めて見る。そして梓の優しい眼差しに、ホッとする。
また、深く深呼吸をした。
梓に、ありがとう、と小さく言うと、龍太は深くお辞儀をした。頭をなかなか上げられなかった。
302号室。
『宮本慧』と書かれたプレートが掛かっている。
龍太は入り口の正面に、自分を据え置いた。
少し俯き、目を閉じる。そして顔をあげ、確りとその目を見開いた。
「ごめんください。高村と申します」




