見間違うはずがない
ケイは男の眼差しに、見覚えがあった。間違いない。白かった肌は浅黒くなり、しなやかだった指はゴツくなっているが、見間違うはずがなかった。
「初春兄――」
あたふたしていたモグラはようやく戦車を整備し、再び潜り込む。そして高笑いして、怒鳴った。
「まさか木偶の坊の初春まで見付かるなんて、ラッキーじゃのう。さてと、二人纏めて、地獄を見るがいい!」
車体から、長い銃が姿を現した。その先は、ケイをしっかりと狙っている。初春は鋭い視線でモグラの動きを追いながら、ケイの肩をしっかりと抱いた。
「僕はもう、戻れない。リーズンと再会したが、心を取り戻すことは出来なかった。期限切れでは肉体にも戻れない。彗星、お前はまだ間に合う。兄者達や、未練を残す者達が、みんなお前に希望を託している。さあ、行け! お前の行くべき場所へ!」
初春が拳銃で威嚇し、モグラの注意を引いた。ウイン、と戦車の向きが変わる。
ケイは流れる涙を拭うと、後ろを振り向くことなく、森の中へ全力疾走した。迷うことなく駆け抜ける。
――必ず辿り着いてみせる。
体はどんどん軽くなり、まるで風になったように、木々の間をすり抜けていく。
ケイの心の中には、沢山の記憶が渦巻いていた。
双子の姉妹の優しさや、宮殿での暮らし。兄者達の長い睫毛。バラックで出会った人々の笑顔。小人達の歌。
思い出が層を為し、ケイの背中を包む。
ブンブンと、後方から聞き覚えのある嫌な音が追いかけてきた。振り返ると、蜂の大群がケイに襲い掛かろうとしている。
ここで捕まる訳にはいかない。しかし、蜂もかなりのスピードを出して、もうすぐ追い付きそうだ。
ケイは恐ろしくて、必死に走る。ブンブンと羽音が迫る。
「お願いだ! 誰か、誰か、誰か助けて!」
手をこれでもかと言うほど、空に向かってぐいと伸ばした。




