愛してる
「そっか……。やっと出せたのね」
梓は、安堵と不安の入り雑じった複雑な表情を浮かべている。龍太は静かに頷くと、両手で顔を覆った。そしてか細い声で呻くように言った。
「受け入れて貰えなくて当たり前だと思ってる。だけど、やっと、自分の目で物を見ているような気がする」
うん、と、梓が優しく相槌を打つ。
事故を起こしてから、もうすぐ三年経つ。龍太にとっても、宮本祐治にとっても、恐ろしく長い時間だった。慧の容態が突然に悪化し、事態は悲しい結末に突き進んでいる。もう少し早くこの一歩を踏み出せていたら、と、誰もが思っていた。
梅雨の影響で、雨が降り続いている。まるで涙のように。龍太と再開したのも、こんな大雨の日だったと、梓は龍太の部屋のカーテンを見詰めながら思い出していた。
思わぬ再会が、胸を締め付けた。張り裂けそうな思いが溢れ出して、どうしようもなくなったことを、鮮明に、体中が覚えている。今目の前で踞る龍太を、本当の意味で支えて来れたのだろうか。これで、良かったのだろうかと、様々な考えが目の前を掠めていく。項垂れた彼しか見ることが出来なかった。いつだって笑顔は冴えなくて、何だかかえって不幸にしてしまっているようにさえ思える日もあった。
俯く梓を、龍太が包んだ。
「ごめんな……」
その一言には、溢れそうな沢山の思いが詰まっていて、梓は涙を隠せなかった。
「必ず、俺、宮本さんのとこに頭を下げに行く。慧君が生きてる間に。少しずつだけど、立ち直れてると思う。全部入江のお陰 だ。ありがとう」
ポロポロと、梓の目から涙が零れ落ちる。
「今までさ、どうしても言えなかった事がある」
龍太は梓をきつく抱き締めた。
「愛してる」
梓の胸を甘い痛みが貫いた。この言葉を、何年待っていたことだろう。愛しさが込み上げ、嗚咽が止まらない。
「俺、本当に、お前のお陰で今生きていられるよ。何度も死のうとして、死に損ねた。遺書を書く相手さえ見付からず、孤独で、寂しかった。だけどあの日、偶然出会えて、こんな俺の傍にいてくれて、どれだけ嬉しいか、お前、知らないだろ」
そう言って、龍太も堪えきれずに泣き出した。
「なあ、これからも一緒にいてくれよ。独りじゃ生きてけないよ。入江かいてくれなきゃ、俺――」
二人とも子供のように声を上げた。
再会は、偶然なんかじゃない。きっとこうなることは決まっていて、仕組まれていたのだと梓は思う。だってそうじゃなければ、こんなにも強くいられなかった。これほどに龍太の重みを感じられなかった。
「大丈夫だよ、龍太くん。私はどこにも行かない。いつも傍にいるから。一緒に生きようよ」
ザアザアと雨音が響いている。




