リーズン Ⅰ
「お疲れ」
声を掛けてきたのは、国定洋平だった。俺はスポーツバッグを肩から掛け、椅子から立ち上がった。一緒に帰ろうぜ、と彼が言ってきたので、いいよ、と返事をした。
「しかしあの権藤、オニ監督だよな。三年が引退したからって、なんか張り切ってね?」
そうだなー、とのんびり返事をする。
「まあお前はいいよ。余裕で一年からレギュラー入りしてんだから。しかも4番でキャプテンだろ。女子にも人気あるし、ほんと苦労ないよな」
軽く笑って返しておいた。苦労がないわけじゃない。それなりに結構努力してんだぞ、と心で呟いた。
夏が過ぎたというのに、気温はまだ三十度近く、昼間はじりじりと照りつける太陽が暑く眩しい。今日は朝から外練でへとへとだ。体育館はバレー部が使っていて、追い出されたから仕方がない。まだ手のひらにバスケットボールの感触が残っていて、もう少し触りたくなる。
洋平とは中学に入って仲良くなった。元々違う小学校でミニバスをしていたから交流試合なんかで顔を合わせることはあったけれど、同じ部活で過ごすうち妙に馬が合うというか、一緒にいて心地いい仲になった。お互い競り合いながら成長しているような気がする。
「それはそうと、お前、いつ鈴ちゃん紹介してくれるんだよ」
そう言って洋平は肩を組んできた。
「紹介も何も、お前ら一緒のクラスじゃないか」
「あんなにかわいい子、なかなか話しかけれたもんじゃないよ。いいよな、お前は。一緒にお風呂入れてさ」
「バカか。幼稚園の頃の話だっつってんだろ」
洋平の腹を一発殴る。うっ、と呻いた後、またヘラヘラ笑い始める。図太いやつだなあ。
「それでも、南中の男子全員がお前を羨んでるぜ。いいな~」
「あんなに性格のキツい女、俺は知らん」
「またまた。鈴ちゃんを盗られたくないから、そうやってはぐらかすんだからぁ」
「きもちわり」
「悪かったってぇ、紹介してくれよぉ」
走って逃げると、洋平が追いかけて来た。鈴のどこがいいんだか。